CYCLE SPORTS.jpが選ぶ 2020年10大ニュース・海外ロードレース編

目次

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ツールでサプライズな逆転優勝を果たしたポガチャル

2020年シーズン海外ロードレース界のニュースを振り返る『2020年10大ニュース・海外ロードレース編』。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)に翻弄されながらも、ロードレースには今年も様々なドラマがあり、新しいヒーローたちが誕生した。

 

新型コロナウイルスの影響でシーズンは中断し、UCIカレンダーは大幅に変更した

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ゴールエリア無観客で開催された3月のパリ〜ニース(©Bettiniphoto)

世界中の全てのスポーツと同様に、ロードレースも新型コロナウイルス感染症のパンデミックで大打撃を受けた1年になった。2月下旬に中東のアラブ首長国連邦で開催されていたUAE・ツアー(UCIワールドツアー)で最初の感染者が出た後、レースの延期や中止が続出。国際自転車競技連合(UCI)は、3月15日に感染拡大危険地域でのレースの中止を主催者に要請した。

2020年シーズンが再開したのは7月からだった。UCIはカレンダーを再編成し、UCIワールドツアーは8月からほぼ3カ月に集中して開催される事になった。この改訂により、今年のツール・ド・フランスは8月29日から9月20日、ジロ・デ・イタリアは10月3日から25日、ブエルタ・ア・エスパーニャは10月20日から11月8日に開催された。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年シーズンにはモニュメントレースの1つであるパリ〜ルーベ(フランス)や、アムステル・ゴールド・レース(オランダ)は開催されなかった。UCIワールドツアーは最終的に15レースが中止になり、開催されたのは21レースだった。

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

スタート前に検温を受ける選手(©Bettiniphoto)

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

メディアはソーシャル・ディスタンスを守って取材を行った(©Bettiniphoto)

 
新型コロナウイルスはロードレースの日常も大きく変えた。多くのレースが無観客や観客入場制限をして開催され、ファンは選手に近づく事ができなくなった。メディアもマスクを着用し、ソーシャル・ディスタンスを保って取材をするのがニュースタンダードになった。選手たちはレース中はマスクなしだが、ゴール後はすぐにマスクを付け、表彰台の上でもマスク姿は当たり前になった。
 

新型コロナウイルス感染症のパンデミックでシーズンが中断されていた期間には、本当にシーズンが再開できるのかも分からず、ツール・ド・フランスが開催できなければ、シーズンの終わりには多くのチームが消滅してしまうかもしれないとまで噂されていた。しかし、UCIや主催者の努力により、予想以上に多くのレースが新型コロナウイルスと闘いながら開催された事で、ロードレースというスポーツは救われた。

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

感染防止対策で握手の代わりに肘をぶつける選手たち(©Bettiniphoto)

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

感染防止対策で拳をぶつけて挨拶する選手たち (©Bettiniphoto)

 
 
 

ツール・ド・フランスでスロベニアのポガチャルが最終日前日に逆転優勝

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ツールでサプライズな逆転優勝を果たしたポガチャル

新型コロナウイルス流行の第2波の真っ只中で開催されたツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)は、最終日前日に行われたラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ頂上ゴールの個人タイムトライアルで、スロベニアのタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)が、同郷のプリモシュ・ログリッチ(チームユンボ・ヴィスマ)を逆転し、サプライズな総合優勝を果たした。彼はまだ21歳でツール初参加だった。 

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ログリッチは最終日前日の個人TTでマイヨ・ジョーヌを失った(©Bettiniphoto)

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ツール総合優勝のポガチャル(右)と総合2位のログリッチ

 
 
第107回ツール・ド・フランス 個人総合最終成績(マイヨ・ジョーヌ)
 
1. TADEJ POGACAR (UAE TEAM EMIRATES / SLO) 87h 20’ 05’’
2. RIMOŽ ROGLIC (TEAM JUMBO – VISMA / SLO)  + 59’’
3. RICHIE PORTE (TREK – SEGAFREDO / AUS) + 03’ 30’’
4. MIKEL LANDA (BAHRAIN – MCLAREN / ESP) + 05’ 58’’
5. ENRIC MAS (MOVISTAR TEAM / ESP) + 06’ 07’’
6. MIGUEL ANGEL LOPEZ (ASTANA PRO TEAM / COL) + 06’ 47’’
7. TOM DUMOULIN (TEAM JUMBO – VISMA / NED) + 07’ 48’’
8. RIGOBERTO URAN (EF PRO CYCLING / COL) + 08’ 02’’
9. ADAM YATES (MITCHELTON – SCOTT / GBR) + 09’ 25’’
10. DAMIANO CARUSO (BAHRAIN – MCLAREN / ITA) + 14’ 03’’
 
[各賞]
■ポイント賞(マイヨ・ベール):SAM BENNETT (DECEUNINCK – QUICK – STEP / IRL) 
■山岳賞(マイヨ・アポワ):TADEJ POGACAR (UAE TEAM EMIRATES / SLO)
■新人賞(マイヨ・ブラン):TADEJ POGACAR (UAE TEAM EMIRATES / SLO) 
■チーム成績:MOVISTAR TEAM (ESP)

■敢闘賞:MARC HIRSCHI (TEAM SUNWEB / SUI)

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

 
 
 
 
 

ジロ・デ・イタリアはグランツール史上初めて総合1位と2位の選手がタイム差なしで最終日を迎えた

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ジロで総合優勝した英国のゲーガンハート

ツール・ド・フランスの後に開催されたジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)は、ツールのメンバーに選ばれなかった英国のゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアズ)が総合優勝の最有力候補だったが、彼は序盤の落車で負傷し、早々と総合争いから姿を消してしまった。
 

オープンになったジロの総合優勝争いは、総合首位のジャイ・ヒンドリー(チームサンウェブ/オーストラリア)と、2位のテイオ・ゲーガンハート(イネオス・グレナディアズ/英国)がタイム差なしで最終日の個人タイムトライアルを迎える珍しい展開になった。そのグランツール史上初めての闘いを制したのは、25歳のゲーガンハートだった。

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ゲーガンハートは最終日の個人TTで逆転優勝した(©Bettiniphoto)

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ジロの総合を争ったゲーガンハート(左)とヒンドリー

 
 
第103回ジロ・デ・イタリア 個人総合最終成績(マリア・ローザ)
 
1. GEOGHEGAN HART Tao (INEOS GRENADIERS / GBR) 85:40:21
2. HINDLEY Jai (TEAM SUNWEB / AUS) +39
3. KELDERMAN Wilco (TEAM SUNWEB / NED) +1:29
4. ALMEIDA Joao (DECEUNINCK – QUICK – STEP / POR) +2:57
5. BILBAO Pello (BAHRAIN – MCLAREN / ESP) +3:09
6. FUGLSANG Jakob (ASTANA PRO TEAM / DEN) +7:02
7. NIBALI Vincenzo (TREK – SEGAFREDO / ITA) +8:15
8. KONRAD Patrick (BORA – HANSGROHE / AUT) +8:42
9. MASNADA Fausto (DECEUNINCK – QUICK – STEP / ITA) +9:57
10. PERNSTEINER Hermann (BAHRAIN – MCLAREN / AUT) +11:05
 
[各賞]
■ポイント賞(マリア・チクラミーノ):DEMARE Arnaud (GROUPAMA – FDJ / FRA)
■山岳賞(マリア・アッズーラ):GUERREIRO Ruben (EF PRO CYCLING / POR)
■新人賞(マリア・ビアンカ):GEOGHEGAN HART Tao
■チーム成績 : INEOS GRENADIERS  (GBR)
 
 
 
 
2020年10大ニュース・海外ロードレース編

(©Bettiniphoto)

 

改訂カレンダーの変則シーズンで若手が大活躍

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ツールで区間初優勝したヒルシ(©Bettiniphoto)

2020年のツールは21歳のタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)が初優勝し、ジロも25歳のテイオ・ゲーガンハート(イネオス・グレナディアズ)が初優勝したが、8月からの3カ月間に集中したUCIワールドツアーのレースでは、ベテランのトップ選手よりも、まだあまり名前を知られていなかった若手選手の活躍が際立った。

 
ツールでは連日果敢な逃げを続け、第12ステージでプロ初勝利となる区間初優勝を果たした22歳のマルク・ヒルシ(チームサンウェブ/スイス)が注目され、最終日にはスーパー敢闘賞も獲得した。彼はツールの後、アルデンヌ・クラシックのフレッシュ・ワロンヌ(UCIワールドツアー)でも優勝した。
 

ジロでは第3ステージのエトナ山ステージで総合首位に立った22歳のジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ/ポルトガル)が善戦し、15日間マリア・ローザを守って注目を浴びた。アルメイダが遅れたラーギ・ディ・カンカノの頂上ゴールで区間優勝した24歳のジャイ・ヒンドリー(チームサンウェブ)は、ウィルコ・ケルデルマン(チームサンウェブ)の山岳アシストだったが、最後はゲーガンハートと総合を争う活躍を見せた。

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ジロでマリア・ローザを15日間着用したアルメイダ(©Bettiniphoto)

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ジロで総合争いをしたヒンドリー(©Bettiniphoto)

ツール・ド・フランス2020 第12ステージはヒルシが逃げ切りプロ初優勝

UCIワールドツアーのフレッシュ・ワロンヌ2020でスイスのヒルシが初優勝

エトナ山頂上ゴールのジロ・デ・イタリア2020 第3ステージはカイセドが区間初優勝/アルメイダが総合首位

 

世界チャンピオンになったアラフィリップの不運

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独走でイモラ世界選を制したフランスのアラフィリップ(©Bettiniphoto)

イタリア北部イモラで開催された2020年のUCIロード世界選手権大会は、フランスのジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイッステップ)が独走で逃げ切り、初優勝を果たした。しかし、世界チャンピオンになったアラフィリップには、信じられないような不運が待ち受けていた。

アルカンシエルを着て参加したリエージュ~バストーニュ~リエージュ(UCIワールドツアー)で、アラフィリップは小集団でのゴールスプリントで勝利を確信して両手を上げたが、車体を投げ出してゴールしたスロベニアのプリモシュ・ログリッチ(チームユンボ・ヴィスマ)が先にフィニッシュラインを通過していた。しかも、アラフィリップは斜行で降格処分になってしまった。

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

リエージュのゴールで両手を上げたアラフィリップだったが…

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ロンドで審判のバイクにぶつかって転倒したアラフィリップ(©Bettiniphoto)

 
その2週間後に開催されたロンド・バン・ブラーンデレン(ツール・デ・フランドル/UCIワールドツアー)では、アラフィリップは審判のバイクにぶつかって転倒し、勝機を失ってしまった。それがアルカンシエルの呪いなのかどうかは、2021年シーズンに分かるだろう。
 
 
 
 

ツール・ド・ポローニュの落車事故でヤコブセンが重傷を負った

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ツール・ド・ポローニュ第1ステージのゴールスプリントでフェンスに激突したヤコブセン

8月に開催されたツール・ド・ポローニュ(UCIワールドツアー)第1ステージのゴールスプリントで大落車事故が発生し、オランダチャンピオンのファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)が頭部と顔面に重傷を負った。この事故の原因を作ったオランダのディラン・フルーネウェーヘン(チームユンボ・ヴィスマ)には、UCIの懲罰委員会から9カ月の活動停止処分が課された。

ツール・ド・ポローニュ初日のゴールスプリントで大落車事故があり、ヤコブセンが重傷

 

ロンド・バン・ブラーンデレンでオランダのファンデルプールがヴァンアールトを打ち負かして初優勝

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ロンドはファンデルプールとヴァンアールトのライバル対決になった(©Bettiniphoto)

オランダのマテュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)とベルギーのウァウト・ヴァンアールト(チームユンボ・ヴィスマ)は、長年シクロクロスでライバルとして競い合っていたが、それは2人がロードレースに転向してからも変わらない。

10月に開催されたロンド・バン・ブラーンデレン(ツール・デ・フランドル/UCIワールドツアー)では、初優勝をかけた一騎打ちのゴール勝負が競われ、栄光を手にしたのはファンデルプールだった。ヴァンアールトは8月にイタリアのストラーデ・ビアンケ(UCIワールドツアー)とミラノ~サンレモ(UCIワールドツアー)で優勝していたが、母国最大のタイトルは永遠のライバルに奪われてしまった。

ロンド・バン・ブラーンデレン2020でオランダチャンピオンのファンデルプールが初優勝

ストラーデ・ビアンケ2020でヴァンアールトが初優勝

ミラノ~サンレモ2020でヴァンアールトが初優勝

 

エヴェネプールがイル・ロンバルディアで骨盤を骨折

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

ロンバルディアで崖下に転落し、骨盤を骨折してしまったエヴェネプール(©Bettiniphoto)

ベルギーのレムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ)は、2020年で最も輝く若手選手の1人になるだろうと期待されていたが、8月に開催されたイル・ロンバルディア(UCIワールドツアー)で事故に遭い、骨盤を骨折してしまった。

エヴェネプールはソルマーノ峠の下り坂で石橋の壁に激突し、谷底へ落下。不幸中の幸いで最悪の事態にはならなかったが、再開した2020年シーズンはこの怪我で棒に振ってしまった。彼は今年、ジロ・デ・イタリアでグランツール・デビューする予定だった。

イル・ロンバルディア2020でフルサンが初優勝/エヴェネプールがイル・ロンバルディア2020で落車し、骨盤を骨折

 

CCCチームが活動終了

2020年10大ニュース・海外ロードレース編

CCCチームは今季で消滅する(©Bettiniphoto)

ポーランド登録のCCCチーム(UCIワールドチーム)は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックでタイトルスポンサーであるCCC社が経済的に大きな打撃を受け、2020年シーズンで契約を終了した。米国人のジム・オコビッツ会長はCCC社に代わる新しいスポンサーを見つけられず、チームの運営母体であるコンティニュアム・スポーツをベルギーのシルキュス・ワンティゴベール(UCIプロチーム)に売却し、チームは実質活動終了となった。

 
CCCチームは、2007年に米国登録のBMCレーシングチームとして活動をスタートし、2011年にはオーストラリアのカデル・エヴァンスがツール・ド・フランス総合初優勝をチームにもたらした。しかし、2018年4月に自転車メーカーのBMCのオーナーでもあったスイス人オーナーのアンディ・リース氏が他界した後、ポーランド登録のCCCチームに生まれ変わっていた。
 
CCCチームのエースだったベルギーのグレッグ・ヴァンアーヴェルマートは、AG2R・シトロエン チームに移籍する。
 
 
 
 

フルームがイネオスを去り、イスラエル・スタートアップネーションへ移籍

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イネオス・グレナディアズで走った最後のブエルタは総合98位で終わったフルーム(©Bettiniphoto)

英国のクリストファー・フルームは、2020年シーズンで英国のイネオス・グレナディアズ(UCIワールドチーム)を去り、イスラエルのイスラエル・スタートアップネーション(UCIワールドチーム)へ移籍する。

フルームはイネオス・グレナディアズの前身であるチームスカイが活動を開始した2010年からのメンバーで、チームにツール・ド・フランスの総合優勝を4回もらたしていた。しかし、今年はツールの参加メンバーには選ばれなかった。
 
 
 
2020年10大ニュース・海外ロードレース編

…See you in the next season!