ツール・ド・フランス2020で優勝したポガチャルって、どんな選手?!

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)の影響で、8月に延期して開催された第107回ツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)は、スロベニア出身のタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)が劇的な総合初優勝を果たした。21歳11ヶ月29日で、史上2番目に若いツール勝者となったポガチャルは、どんな選手なのだろう。

ツール・ド・フランス2020

21歳11ヶ月29日で、史上2番目に若いツール勝者となったポガチャル


ツール初参加で初優勝

昨年UCIワールドツアーのUAEチーム・エミレーツに移籍したポガチャルは、2年目の今年、ツール・ド・フランスに初挑戦し、参加176人中、3番目に若い選手として、南仏ニースのスタートラインに並んだ。

今年最初の頂上ゴールだった第4ステージで、スロベニアチャンピオンのプリモシュ・ログリッチ(チームユンボ・ヴィスマ)が区間優勝した時、ポガチャルは区間2位に入り、ボーナスタイムも獲得していた。ところが、平坦区間の第7ステージでは、彼はレース終盤の集団分裂で1分21秒のタイムを失うという、ルーキーらしいミスを犯してしまった。

しかし、ポガチャルは決して諦めなかった。ピレネー山岳2日目の第9ステージでは、ゴールスプリントで競り勝ってツール区間初優勝を果たした。彼はジュラ山脈のグラン・コロンビエール(カテゴリー超級)にゴールした第15ステージでもログリッチを打ち負かし、総合でのタイム差を40秒にまで縮めた。

ツール・ド・フランス2020

第9ステージでツール初区間優勝を果たしたポガチャル(©Bettiniphoto)

 

ツール・ド・フランス2020

第14ステージのグラン・コロンビエール頂上ゴールを制したポガチャル(©Bettiniphoto)

今年のツールで最強のチームを持っていたログリッチとは対照的に、ポガチャルのチームはグランツールの優勝経験があるベテランのファビオ・アール(イタリア)が第9ステージでリタイアし、その翌日には山岳アシストとしての活躍が期待されていたダヴィデ・フォルモロ(イタリア)が落車で鎖骨を骨折し、レースを続けられなくなってしまった。

ツール中盤でUAEチーム・エミレーツは6人になり、山でなんとかポガチャルを助ける事ができたのは、親友のヤン・ポランツェ(スロベニア)とダビ・デラクルス(スペイン)だけだった。それでも厳しい山岳では、ポガチャルは常に孤軍奮闘を強いられていた。

ツール・ド・フランス2020

UAEチーム・エミレーツは後半戦を6人で闘った

最終週に入ると、弱冠21歳のポガチャルの走りから勢いが消えた。アルプスでは、誰もが彼に期待していたような爆発的なアタックは見られなかった。今大会でクイーンステージと呼ばれたカテゴリー超級のローズ山にゴールした第17ステージでは、逆にマイヨ・ジョーヌを着たログリッチに15秒差を付けられてしまい、総合でのタイム差は57秒に開いてしまった。それが初出場の若者の限界なのだろうと、誰もが疑わなかった。

強いチームに守られていたとは言え、開幕から盤石の走りをしてきたログリッチが、ヴォージュ山脈のラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山頂にゴールする最終日前日の個人タイムトライアルで、1分近いタイム差を覆される事はないだろうと誰もが思っていた。しかし、その山ではマイヨ・ジョーヌが変わるという、不吉なジンクスがあった。

ツール・ド・フランス2020

最終日前日の個人タイムトライアルまで、マイヨ・ジョーヌのログリッチはポガチャルの攻撃を難なく鎮圧していた(©Bettiniphoto)


最終日前日の個人TTでまさかの大逆転

ポガチャルは、チームでラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユを下見して、コースを熟知していたとレース後に話していたが、それはログリッチも同じだったに違いない。しかし、マイヨ・ジョーヌはその山で失速した。最後の最後に爆発的な走りを見せて区間3勝目を上げたボガチャルとは対照的に、ログリッチは1分56秒を失い、最終日前日の逆転劇を許してしまった。

ツール・ド・フランス2020

ポガチャルはラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユの個人TTで全力を出し切った

 

ツール・ド・フランス2020

ポガチャルは最終日前日の個人TTを制し、マイヨ・ジョーヌに初めて袖を通した

昨年、エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアズ)が総合初優勝を果たし、南米コロンビアに初めてマイヨ・ジョーヌを持ち帰った時、ツールでは当分、コロンビア出身の選手たちが総合を争う時代が続くのだろうと思われていた。しかし、実際にはスロベニアという東欧の小国からやってきた選手たちが、自転車競技の歴史に新たな1ページを残す事になった。

ツール・ド・フランス2020

最終ステージでは、今年のツールに参加した5人のスロベニア選手が記念撮影を行った(©Bettiniphoto)


ツール・ド・ラブニールで優勝

タデイ・ポガチャル(Tadej Pogačar)は1998年9月21日、スロベニア共和国のコメンダで生まれた。祖国スロベニアは旧ユーゴスラビアの国の1つであり、人口約200万人の小国でイタリアと国境を接している。ポガチャルは9歳で自転車レースを始め、デビュー戦はグループの中で最年少だったにもかかわらず優勝したという。

2017年にUCIコンチネンタルチームのROG・リュブリャナでデビュー。2019年にUCIワールドツアーのUAEチーム・エミレーツに移籍し、同チームとは2024年まで契約している。ガールフレンドはUCIウイメンズ・ワールドツアーチームのアレ・BTC・リュブリャナに所属しているウルスカ・ジガルト(スロベニア)で、彼女はツール最終日の表彰式に同席していた。

ツール・ド・フランス2020

表彰式にはガールフレンドでプロ選手のウルスカ・ジカルトも駆け付けた(©Bettiniphoto)

ポガチャルは2018年にフランスでアマチュア選手の登竜門として知られるツール・ド・ラブニール(UCIネーションズカップ・アンダー23)で総合優勝し、にわかに脚光を浴びるようになった。彼はその年のジャパンカップサイクルロードレース(アジアツアー1.HC)に、リュブリャナ・グスト・ザウラム(UCIコンチネンタルチーム)の一員で来日し、前哨戦のクリテリウムでスプリント賞を受賞。UCIレースの本戦は11位になった。

ポガチャル

ツール・ド・ラブニールで優勝した2018年に来日したポガチャル

 

ポガチャル

ポガチャルは2018年のジャパンカップクリテリウムでスプリント賞を獲得した

スロベニア出身で元プロ選手のアンドレイ・ハウプトマンの勧めで、ポガチャルは昨年20歳でUCIワールドツアーのUAEチーム・エミレーツへ移籍した。そして、5月に開催されたUCIワールドツアーのアムゲン・ツアー・オブ・カリフォルニア(米国)でクイーンステージを制して総合優勝し、早くも頭角を現した。

ツール・ド・フランス2020

昨年のツアー・オブ・カリフォルニアでUCIワールドツアー初優勝を果たしたポガチャル(©Bettiniphoto)


ブエルタで総合3位

昨秋ポガチャルは、スペインのブエルタ・ア・エスパーニャでグランツールデビューを果たし、山岳ステージで3区間優勝し、総合3位になった。彼は初参加だったこのグランツールで新人賞も受賞した。この時、総合初優勝したのはスロベニアの先輩、プリモシュ・ログリッチ(チームユンボ・ヴィスマ)だった。

ツール・ド・フランス2020

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは山岳ステージで区間3勝した(©Bettiniphoto)

 

ツール・ド・フランス2020

ログリッチが初優勝した昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでポガチャルは3位になってマドリードの表彰台へ上がった(©Bettiniphoto)

 

ツール・ド・フランス2020

ブエルタ・ア・エスパーニャの表彰台で祖国スロベニアの旗を掲げたポガチャル(©Bettiniphoto)

 

UAE・ツアーで長期の自主隔離

今シーズンは2月上旬に開催されたUCIプロシリーズのボルタ・ア・バレンシアで、頂上ゴールの2区間を制して総合優勝した。ポガチャルが次に挑んだのは、チームのメインスポンサーであるアラブ首長国連邦で開催されたUCIワールドツアーのUAE・ツアーだった。彼はそこで区間1勝して総合2位に付けていたが、レースは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の影響で最後の2ステージが中止になってしまった。

UAE2020

今年のUAE・ツアーでルツェンコを打ち負かして区間優勝したポガチャル(左)

中止の原因は、参加チーム(未公表)のイタリア人スタッフ2名が新型コロナウイルスに感染していたことが判明したためだった。主催者は選手を含めた大会関係者全員にPCR検査を行い、陰性者だけが帰国を許された。しかし、開催国のチームであるUAEチーム・エミレーツは、自主的に滞在を延長し、ポガチャルもチームと一緒に3月中旬までアブダビで自主隔離を続けていた。この時、チームメートのフェルナンド・ガビリア(コロンビア)とマクシミリアーノ・リチェセ(アルゼンチン)は新型コロナウイルスに感染していた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)により、2020年シーズンのサイクリングカレンダーは3月中旬から中断し、7月にやっと再開することができた。その先駆けとして国際自転車競技連合(UCI)から6月下旬に開催する許可が降りたスロベニア選手権で、ポガチャルは個人タイムトライアルで優勝し、ロードレースは優勝したログリッチと頂上ゴールで競って2位になった。

UAE2020

今年のUAE・ツアーでポガチャルは、チームのエースとして大会前の記者会見に臨んだ

8月に入ってUCIワールドツアーも再開し、ポガチャルはイタリアでストラーデ・ビアンケとミラノ~サンレモに参加した後、ツール・ド・フランスの調整で、フランスのクリテリウム・デュ・ドーフィネに参加し、総合優勝したコロンビアのダニエル・マルティネス(EFプロサイクリング)に56秒遅れの総合4位でレースを終えていた。再開シーズンでは、彼はツール前に1勝も上げてはいなかった。

ツールでは、ポガチャルは総合優勝の証であるマイヨ・ジョーヌだけでなく、山岳賞のマイヨ・アポワと新人賞のマイヨ・ブランも受賞した。ツールで3つのマイヨを獲得して総合優勝したのは、彼が初めてだった。山岳賞では、ポガチャルは最年少受賞者になった。そしてツール初参加で初優勝を果たしたのは、故ローラン・フィニョン(フランス)が1983年に22歳で成し遂げて以来の快挙だった。

ツール・ド・フランス2020

ポガチャルは山岳賞と新人賞も受賞したので、4賞ジャージの記念撮影はポイント賞を受賞したサム・ベネットと2人きりだった

 

ツール・ド・フランス2020

シャンゼリゼの表彰式を見守るチームUAE・エミレーツのチームメートたち(©Bettiniphoto)


第107回ツール・ド・フランス 個人総合最終成績

1. TADEJ POGACAR (UAE TEAM EMIRATES / SLO) 87h 20’ 05’’
2. PRIMOŽ ROGLIČ (TEAM JUMBO – VISMA / SLO) + 59’’
3. RICHIE PORTE (TREK – SEGAFREDO / AUS) + 03’ 30’’
4. MIKEL LANDA (BAHRAIN – MCLAREN / ESP) + 05’ 58’’
5. ENRIC MAS (MOVISTAR TEAM / ESP) + 06’ 07’’
6. MIGUEL ANGEL LOPEZ (ASTANA PRO TEAM / COL) + 06’ 47’’
7. TOM DUMOULIN (TEAM JUMBO – VISMA / NED) + 07’ 48’’
8. RIGOBERTO URAN (EF PRO CYCLING / COL) + 08’ 02’’
9. ADAM YATES (MITCHELTON – SCOTT / GBR) + 09’ 25’’
10. DAMIANO CARUSO (BAHRAIN – MCLAREN / ITA) + 14’ 03’’

 
ツール推移表2020

 

ツール・ド・フランス2020

新型コロナウイルスの影響で、観客が5000人に限定されたシャンゼリゼの周回コースには、わずかだがスロベニアから駆けつけたファンもいた(©Bettiniphoto)

ツール・ド・フランス公式サイト

UAEチーム・エミレーツ公式サイト