キャニオンの新型グラベルロード「グリズル」をインプレッション

目次

Presented by CANYON Japan 撮影協力:御殿場MTB&RUNパークFUTAGO

いま最もホットなカテゴリーの一つがグラベルバイクだ。その人気の高まりに伴って楽しみ方も多様化し、バイクメーカーはラインナップの拡充を急いでいるのだが、ドイツのキャニオン(CANYON)もグラベルでの走破性を重視した「グリズル(GRIZL)」を新たに投入してきた。同社既存のグラベルロード「グレイル(GRAIL)」「エンデュレース(ENDURACE)」との乗り比べも行いグリズルの性能に迫ろう。

キャニオンの新型グラベルロード「グリズル」をインプレッション

動画で見たい人はこちら

キャニオンの新型グラベルロード「グリズル(GRIZL)」

キャニオン・グリズルCF SL8 IBY

キャニオン・グリズルCF SL8 1BY 価格:29万9000円(送料別・税抜 ※詳しくは本記事の最下部も参照) カラー:抹茶スプラッシュ 試乗車サイズ:M

キャニオンは2018年に初の本格的なグラベルロード「グレイル」を発表した。「ホバーバー」と呼ばれる独創的な二階建て構造のハンドル形状は当時大きな話題をさらったが、今回発表されたグリズルは、トラデイショナルなハンドル周りとしてきた。それは、より積極的なグラベルライドとアドベンチャーライドを目指して熟考されたものだ。

700Cホイール専用設計(2XS・XSは最適なフィット性とハンドリングのために650B仕様)のジオメトリーは、兄貴分となるグレイルを踏襲したものだ。グリズルはこれを元に、装備できるタイヤ幅を最大50mmに設定(市販時は45mm幅を装着)。さらに下側のヘッドベアリング径を1-1/2インチに拡幅して、大ボリュームのクラウンを持つフロントフォークを装備し、そこに短い突き出しのステムと幅広なハンドルバー(Mサイズでステム長=80mm、ハンドル幅=440mm)を組み合わせることで、グラベルにおけるハンドリングの反応性が高められている。

ちなみにカーボン製のフレーム単体重量は950g(上位グレードのSLXシリーズ)で、ロードレースバイク並みの軽量性は、走破性の向上にも大きく貢献するはずだ。

グリズルのハンドルまわり

ハンドル部はステムとハンドルバーが別体の一般的な仕様(ステアリングコラム径は1-1/4インチ)。ハンドルバーはグラベルライドに適したフレア形状の製品をセットする

グリズルのタイヤ

グリズルの全グレードには、シュワルベ・Gワン ビット エボリューションのチューブレスレディ仕様、45mm幅が装着されている(出荷時はインナーチューブを入れた状態)

グリズルのフォーククラウン

下側のヘッドベアリング径を1-1/2インチに拡幅すると同時に、フォーククラウンもかなり肩幅が広く大きなボリュームとなり、フロントセクションの剛性アップが図られる

グリズルのチェーンステー

最大50mmという太幅タイヤを装着するために、右側のチェーンステーは大きく下方にオフセットさせ、なおかつその横幅は薄く成形して必要なタイヤクリアランスを確保する

次にグリズルでもう一つの大きなポイントになるのが大きな積載力だ。フロントフォークには片側3kgまで積載可能なキャリマウントを左右に装備する他、トップチューブ、ダウンチューブ下側(CF SLのみ)にもマウントが設けられる。また、一般的なステムとハンドルバーを装備した仕様は、グレイルのようにハンドルバーバッグのー形状に制約を受けず、何一つ不足のない積載量の実現に至っている。

グリズルのアイレット

本格的なバイクパッキングに対応してマウント部は多彩だ。①トップチューブ ②ダウンチューブ ③フォークレッグにバッグやラック類を装着できる。フェンダーマウントもある

キャニオンオリジナルバイクパッキング用バッグ

グリズルの発売に併せて、キャニオンではバイクパッキング用バッグのパイオニア、アピデュラ(APIDURA)とコラボしたバッグ類も用意している(写真以外にシートバッグもラインナップ)

その他、乗り心地を高めるカーボン製のS15 VCLS2.0シートポスト(グリズルCF SL8以上のモデル)を装備し、ドロッパーシートポストの後付けやフロント“2X”変速への拡張も可能にするなど、そのスペックを見る限り、グリズルにはアグレッシブなグラベルライドとヘビーデューティなバイクパッキングを楽しむための仕掛けが抜け目なく盛り込まれている。ハード系グラベルロードの台風の目となるのは必死と言えるだろう。

キャニオン独自のS15 VCLS2.0シートポスト

キャニオン独自のS15 VCLS2.0シートポストを装備する。カーボン素材と二股に分かれた独創的な構造によって、ポスト部がしなり余分な振動をカットして乗り心地を高める

グリズルのシートピン

シートポストの固定は、シートステーとシートチューブの接合部後方から小さなイモネジで行なう。軽量にしてスマートなシルエット、なおかつ確実な固定力を持つ独自の手法だ

グリズルのブレーキローター

高速グラベルや大きな積載量の走りに対応すべく、標準装備のディスクローターは、前後ともに制動力の高い160mm径(140mm径は装着不可)。前側は180mm径への交換も可能

キャニオン既存モデル「グレイル(GRAIL)」との棲み分けは?

キャニオン・グレイルCF SLX

キャニオン・グレイルCF SLX

グリズルとグレイルは同様のフレームジオメトリーだが、装着可能な最大タイヤ幅は前者が50mmであるのに対して後者は42mm。さらにフレームワークに目を向けると、特にフロントまわりが顕著なのだが、グリズルの方が全体的に筋肉質な作りだ。これらの違いが両者の走りの性格を分けている。

キャニオンが想定する路面状況は、グレイルの場合、舗装路と未舗装路ともに50%。未舗装路の内訳はライトグラベル(土・砂地)=40%、ラフグラベル(砂利)=10%、シングルトラック=0%になるという。

対するグリズルは舗装路10%。未舗装路はライトグラベル=40%、ラフグラベル=30%、シングルトラック=20%となり、未舗装路にほぼ全振りした内容だ。

そしてこれらをイベントに想定すると、グレイルはラファ・プレステージ、グリズルはグラインデューロだという。また、グリズルは大きな積載力を確保しているので、キャンプ道具を持つような本格的なバイクパッキングにも適しているという訳だ。

グレイルのホバーバー

グレイルのアイコンでもある二階建て構造のハンドル、ホバーバー。ドロップ部を握る際、サブバーに親指を引っかけることで、グラベル走行におけるハンドル操作が安定する

グレイルのフォーククラウン

グレイルのフォーククラウンは、オンロードモデルよりもボリュームの大きな作りだが、グリズルと比べるとその度合いはかなり抑えられ、重量も軽く仕上がっている

キャニオン・グリズル インプレッション

インプレッションライダー/自転車ジャーナリスト・吉本 司

インプレッションライダー/自転車ジャーナリスト・吉本 司 サイクルスポーツ誌の編集長を経て、現在は再びフリーの自転車ライターとして活躍する。グラベルバイクはこれまで2台所有し、ツーリングやバイクパッキングを楽しんでいる

攻めのグラベルライドが楽しめる

グリズルのラインナップにはベースグレードとなる“SL”と、カーボン素材と積層が異なる上位グレードの“SLX”があり、今回試乗するのはSLでも最上位となる「グリズルCF SL8 1BY」だ。

コンポはシマノ・GRX800のフロント1×仕様。カーボン製のS15 VCLS2.0シートポストとシュワルベのチューブレスレディタイヤも付いて、Mサイズの完成車重量は9.1㎏だ。ストック状態でグラインデューロを走っても存分に楽しめそうな充実のパッケージだ。しかもそれが30万円足らずの価格とは、さすが“コスパ王”の異名を持つキャニオンである。

さて、本題のインプレに移ろう。グリズルは最大50mm幅のタイヤを履けるわけだが、その幅をインチに換算すると約2.0。これは昔のXC-MTBのタイヤサイズである。試乗車のタイヤは45mm幅に抑えられているとはいえ、10mmほど細いタイヤ幅のグレイルと比べると、グラベルでの走りはグリズルが一枚上手だ。やはりオフロードはタイヤ幅が走破性の高さに直結する。

グリズルでグラベルを走る

グリズルでグラベルを走る

特に荒れたグラベルの勾配のきつい上りでは大きなトラクションを発揮して、ペダリングパワーが推進力へと結び付きやすい。一方、下りに入るとグリズルの高い安定性は直線から強く感じられ、そのアドバンテージはコーナーを始めとする横の動きでさらに大きくなる。グレイルだと減速したくなるようなコーナーやギャップでも、グリズルだと“行けるかな”という気持ちにさせてくれる。もちろんMTB程の安心感はもちろんないのだが、グレイルよりも上り下りともに走りに余裕が生まれ、グラベルをより積極的に楽しみたくなるような気分にさせてくれる。グラベル9割というこのバイクのコンセプトは納得だ。

グリズルで舗装路を走る

グリズルで舗装路を走る

舗装路にフィールドを移すと、やはりタイヤを主とした外周部の重量の重さ、またその低い空気圧によるパワーロスは否めない。しかし筆者が想像する悪いものでなく、むしろこのタイヤ幅を考えれば、走りはかなり軽い。もちろん過減速の大きな走りは苦手だが、軽めのギヤを選んで、タイヤの上下運動を抑えて等速で走れば、上りもスルスルと進んでくれるので、グラベルへのアプローチの舗装路も絶望的な気持ちになることはないだろう。

改めて知るグレイルの高バランス

グレイルでオフロードを走る

グレイルでオフロードを走る

ひとしきりグリズルの走りを体感した後にグレイルを乗ると、車重や外周部の軽さに起因する、加速の軽やかさ、俊敏な横の動きを強く感じる。舗装路での走りは、タイヤさえオンロード用に履き替えれば、ピュアロードに追随できるはずだ。未舗装路でもフラットダートが多く、急な上り下り、テクニカルなコーナーが少ないルートを走るのなら、装備可能な最大幅のタイヤを履いたグレイルの方が軽快に走り抜けることができるだろう。

グレイルで舗装路を走る

グレイルで舗装路を走る

今回はグリズルとグレイルに加えて、10%ほどのライトグラベルにも対応できるというエンデュランスロードの「エンデュレース」にも試乗したが、はやりこちらはピュアロードの極めて軽い走行感だ。

キャニオン・エンデュレースCF SLX

キャニオン・エンデュレースCF SLX

エンデュレースで砂利道を走る

エンデュレースで砂利道を走る

最大で30Cのロードタイヤを履いた個体だが、やはりグラベルのコーナーではスピードを相当に落として慎重に抜ける必要があり、緊張感は高い。あくまでロングライドや日々のグループライドで不意に現れた軽度なグラベルを回避することなく、慎重に走り抜けるという程度のライディングが守備範囲だろう。

それからすると、やはりグレイルのグラベル性能は比較にならないほどで数倍上手だ。改めてグレイルは、ピュアロードの軽快感とグラベル性能を上手く折り合いを付けたモデルだということがよく分かる。ハードな路面状況でなければ積極的にグラベルを取り入れたルートを設定したくなる。とはいえ、その走りはステディさを失わないことが大切だ。

実は幅広く使えるグリズル

先にも述べたが、グリズルはよりグレイルに比べてよりハードな路面のグラベルライドを楽しむことができる。10㎞以上続くような林道や時にシングルトラックのようなトレイルにも入って行ける。里山遊びなどもグレイルよりは楽しめるだろう。とはいえグラベル全振りに近い性能は、MTBのハードテールとわずかにかぶる部分もあるし、気になるのは日本でグリズルの性能を満喫できるライドフィールドがあるかだ。

試乗の前にメーカー資料を読んだ時はその点が大いに疑問だったが、改めてグリズルの走りを体感してみると、その走行性能は懐が深く、タイヤの幅やホイールの選択によって遊び方を調整できる。45mmクラスの太幅のグラベルタイヤを履けばハードグラベルで速さの快感を楽しむことができるし、35mm幅クラスを履けばグレイルには及ばないとはいえ、グラベル&ターマック(舗装路)のミックスライドも不足無くこなせるだろう。

グリズルのコーディネート例

グリズルをバイクパッキングスタイルにした例

そして充実した積載力は、スリックタイヤを履けばオンロードでネオ・ランドナーとしてのバイクパッキングを楽しむ事ができる。舗装路での速さを必要としなければ、グリズルはサイクリングやツーリングを楽しむサイクリストの相棒としても最適だろう。個人的にはレースバイクを所有しているので、グラベルライドを含めたツーリング用にこのバイクを手に入れるというのが理想的な形だ。

 

GRIZL CF SL8 1BY

価格:29万9000円
フレーム&フォーク:カーボン
メインコンポーネント:シマノ・GRX800
ホイール:DTスイス・G1800スプラインDB25
タイヤ:シュワルベ・GワンバイトTLEエヴォ
サドル:フィジーク・アルゴテラR5 150mm
シートポスト:キャニオン・S15 VCLS 2.0
ハンドル&ステム:キャニオンオリジナル
カラー:抹茶スプラッシュ、アールグレー
サイズ:2XS、SX、S、M、L、XL、2XL
参考重量:9.1kg

※送料と表示価格について
ドイツから日本への配送料2万3000円が別途かかります。また、キャニオンの購入は購入者がドイツのキャニオン社から直接購入し、個人輸入する形態となります。日本の消費税をキャニオン社は領収しないため、表示価格には日本の消費税は含まれません。消費税額は輸入通関時に税関にて決定されるため、事前に税額を案内することはできません。消費税は購入者が注文品を受け取る際、配達員へ現金にて支払います。