“大人の”四国一周サイクリング完全ガイド Vol.4:やっぱりサイクリストの聖地は外せない。

目次

大人の四国一周サイクリング 第4回

 

いつかは走りたい憧れの四国一周サイクリング。人生に何度もない貴重なチャンスに恵まれるなら、ぜひ最高のサイクリング体験にしてほしい。そこで、四国一周基本ルートの設計者であり、台湾一周ツアーを日本人最多の5周回完走した筆者が、四国一周基本ルートをベースに細部をアレンジした11日間/約1,100kmのソロ1周ライドを通じて、これから四国を目指すサイクリストに「大人の四国一周」の実践的ノウハウから裏話まで包み隠さず大公開。連載第4回目となる今回は、初日の午後の今治からリスタートする。

 

大人なら「しまなみ海道」ステイから四国一周を始めたい。

前回Vol.3は、四国一周初日に松山をスタートしてJR今治駅まで45km走り、ランチを食べたところで終了したが、これには訳がある。このあとの「今治市街〜しまなみ海道ループ」が一周ルート計画の第1検討箇所となり、今治市街がその分岐点になるからだ。

前回までにも触れたが、四国一周の基本ルート(1,000km)は四国のアウトラインを大まかにトレースしており、半島や岬は概ねカットされている。そのため、松山から東予地方(とうよ=愛媛県を東予・中予・南予の3地方に大別した東側)に向かって走る場合には、今治(松山から45km)は本来通過するだけで、西条(同75km)か新居浜(同90km)、健脚なら四国中央(同120km)まで進むのが、距離的にはリーズナブルとなる。

しかし筆者は新居浜や四国中央ステイをあまりオススメしない。この2市は関東でいえば川崎や市原に相当するような一大沿岸工業地帯のため、大型車両の往来が特に多く、四国一周おもてなしサポーター登録の宿泊施設もないため、県外からのソロサイクリストが愛車と共にステイするにはややハードルが高いからだ。もちろん地縁や人脈があれば別だし、歴史的に豊かな街ゆえに良い飲食店には事欠かないのでお目当てのある左党ならハードルなどものともしないだろう。あくまでも四国一周ソロライドの1泊目という限定的な視点からの評価と理解いただきたい。

ということで、現実的な選択肢は以下の3パターンになり、筆者のオススメは3番目というわけだ。

1、今治市街地ステイ:造船で栄える港町。ホテルも飲食店も選択肢が多い。もし連泊できるなら、しまなみ海道への日帰りライドも追加できる。
2、西条市ステイ:西日本最高峰「石鎚山」北麓。温泉と日本酒を楽しめる良い宿が点在するので、しまなみ経験者にはこちらもオススメできる。
3、しまなみ海道ステイ:いわずとしれた世界有数のサイクリングパラダイス。ぜひ。

 

■しまなみ海道のクライマックスは愛媛県側にある。

10/16(土)の13時過ぎに「ジャイアントストア今治」を出発。今治駅からしまなみ海道まではブルーラインに沿って走ればマップもGPSも不要だ。以下に再掲した筆者オススメのルートでは、今治港周辺の風情ある街並みから景観の良い海沿いを通るのだが、平日は造船所の通勤や漁業従事者などの車両やオートバイが多いのでブルーライン通りに走るのが無難ではある。いずれも6km強、20〜30分ほどで「サンライズ糸山」に到達する。こちらは公共レンタサイクル最大の拠点なので週末の朝夕とランチタイムは混雑するが、清潔なトイレと飲料の自販機があるので橋を渡る前に必ず立ち寄りたい。写真の文字オブジェもベタ過ぎるきらいはあるものの、1枚撮っておいても損はないはずだ。

 

 

しまなみ海道の南端を構成する「来島(くるしま)海峡大橋」は、来島海峡第一大橋、来島海峡第二大橋、来島海峡第三大橋の総称。世界初の3連吊橋として1998年に完成し、翌1999年に供用開始された。広島側から愛媛側に向かって第1、第2、第3となるが、それぞれの全長は960m、1515m、1570mと逆転し、第三大橋が単体でしまなみ海道10橋で最長、3橋の全長はつなぎ目も足して4105mとなる。つまり、愛媛・今治側からしまなみ海道に入ればいきなりメインディッシュが大盛り。その是非はともあれ、しまなみ未体験者なら四国一周でここをスルーする選択肢はないだろう。 

 

サンライズ糸山の文字オブジェ

今治市サイクリングターミナル「サンライズ糸山」の“映える“文字オブジェ。背後は「来島海峡第三大橋」。ちなみに、ゆるキャラグランプリ2012の王者に輝いた今治の「バリィさん」の頭に載るクラウン(王冠)は来島海峡大橋がモチーフだ

亀老山展望公園から来島海峡大橋を望む

「亀老山展望公園」から来島海峡大橋を望む ※写真提供:愛媛県

 

サンライズ糸山から来島海峡第三大橋の中間点まではずっと上り坂になる。橋の高さは前後の地形ではなく下を通る船の大きさに応じて決められるため、1日で1000隻もの船が往来する国際航路に架けられた来島海峡大橋は、海面から橋桁までの高さを65mとすることで国際標準「パナマックス」の最大高57.91mに対応する。ちなみに設計の古い東京湾のレインボーブリッジや横浜ベイブリッジはいずれも55m以下のため、2000年代以降はパナマックス級の豪華客船が通過できないという問題が生じている。

話を戻すと、橋桁上面にある自転車道の標高は60mほどになるため、一般的な自転車でも無理なく橋にアプローチできるよう、来島海峡大橋の両端いずれにも大きなループ橋が設けられている。ここは無理せずマイペースで上るのが大人だ。数百m進むと斜度が緩やかになり海峡の上側に達する。ここからの4kmほどがしまなみ海道のクライマックス。テレビの特番などで国内外のサイクリストが「まるで空の上を走っているよう」と称賛するのもここだ。3連吊橋という構造から必然的に緩やかなピークが3回ある。それがまた良い。上りは軽いギヤを気持ちよく回し、下りはペダリングせずに惰性で快走する。なお、幅の狭い自歩道的な通路での対面通行になるためスピードには注意が必要だ。特に同じ方向に向かう歩行者に対しては背後から追い抜くことになるため、何があっても安全に停止できるようにしっかり徐行し、できれば「こんにちは〜」などと軽やかに声をかけつつ爽やかに通過してほしい。残念ながら徐行の意味を理解できない暴走族マインドの自称上級者も少なくないが、ここはゆっくりと時間を掛けて楽しむべき場所であり、歩くことこそ最高の贅沢と心得るべきだ。先を急ぐ気持ちはわかるが、仮に歩行者との行き交いで10回ほど大減速してもトータルで2分と変わらないので、大人のサイクリストとして粋にふるまいたい。

 

しまなみ海道を彩る上質な立ち寄りポイント。

来島海峡大橋をおりると「大島(おおしま)」となる。ここは右折して海岸沿いを北に向かうのが定石なのだが、サイクリングコース開設当初はここを左折して島の中心部を南北に縦断する主要道だけにブルーラインが敷設されていた。近年になってからサイクリストの声に応じるかたちで島の外周部にもブルーラインが追加され、現在は橋を下りたら左右どちらに行っても迷わず尾道方面に向かうことができる。こうしたサイクリスト目線の行政対応もしまなみ海道の人気を後押ししている。なお、左折方向には「道の駅よしうみいきいき館」や、しまなみ海道随一の眺望を誇る標高307.8mの「亀老山展望公園」がある。海沿いルートよりアップダウンは増えるものの、特に亀老山からの景色は理屈抜きに素晴らしいので、体力と時間に余裕があれば是非トライいただきたい。

 

大島の海沿いルート

大島の海沿いルートは平坦で走りやすく、穏やかな景色を楽しみながら快走できる

亀老山

亀老山は展望台のみならず道路からの眺望も素晴らしいのでサイクリングのPR撮影などで多用される。※写真は2枚とも筆者の本業から転用

 

大島の海沿いを時計回りに5.5kmほど走ると「よしうみバラ公園」に達する。400種3500株を誇るバラ園は四国一周の時期なら概ね何か咲いているので上品なバラの香りを楽しめる。トイレと飲食もしっかり整備されているので、多くのサイクリストが立ち寄る定番の休憩ポイントとなっている。もっとも、筆者は過去に何十回も訪れているので、今回はガイド仲間のインスタで知った近くのカフェに立ち寄ることにした。

 

■「大島」には大人がいくべきカフェがある。

Café Shozan(ショーザン)」。バラ公園と小さな湾を挟んで北側に位置し、木造の別荘のようにみえる道路側ではなく海側のウッドデッキから入る構造。その海に向いたウッドデッキ上の特等席にバイクラックがある。バイク愛の強い大人のサイクリストはもうこれだけで目がハートになる。天井の高い店内はそれほど席数もなくゆったりとした雰囲気。海向きのカウンター席は埋まっていたので、フロアのテーブル席にひとりで座る。正面の書棚には色とりどりの本がほどよく雑然と収まっていて、右手前にはガラスケースに囲われた焙煎機が鎮座する。果たしてコーヒーは期待以上の美味さだった。残念ながらケーキは売り切れだったが、クッキー的なものをおすすめいただいた。会計時にフロア担当の女性(奥さまだった)に伺ったところ、神奈川県でお勤め仕事だったご夫婦が大島に移住され、内外装から設備まですべてをお二人で手作りされたとのこと。2020年5月の緊急事態宣言解除を待ってオープンされたそうなのでコロナ禍に翻弄され続けていたはずだが、結果として素晴らしく居心地の良いお店に仕上げられ、立派に繁盛されているのは凄いセンスだと思う。一度伺ったらもう絶対にファンになる、そんな空間。それがサイクリストに優しいことで、またしまなみ海道の魅力が増す。まさにグッドサイクル。好循環が嬉しい。

 

カフェショーザンの店内

控えめのBGMが流れる居心地の良い店内から穏やかな瀬戸内の海を望む

カフェショーザンのバイクラック

バイクラックに掛かる愛車も景観のひとつ。子供を褒められた親のような嬉しさ

 

天気が崩れ始めたので名残惜しいが再訪を約束してShozanを出た。そこからも島の外周を走るルートを予定していたが、想定以上に長居してしまったため、島内を縦断するブルーライン本線に転舵して次の伯方島を目指す。ちなみに、後でマップデータをみたら距離600m/獲得高60mしか差がないので結果的には5分も変わらなかった。案の定、伯方島に渡ったところで太陽が雲に隠れて肌寒くなり始めたので、撮影に立ち止まることもなくそのまま大三島まで達した。

なお、伯方島にはソロライドにオススメの定番サブルートがあるので触れておく。伯方島におりたらほどなく「道の駅 伯方S・Cパーク」があるので、用件がなくても駐車場に入って海側の道まで通り抜け、北上して港をまわりこんだら「ドラッグストア・ザグザグ」の前で小川沿いの脇道に入り、道なりに進むとしまなみ自動車道の高架下でブルーラインと合流する。正しくは前述のRIDEwithGPSルートを確認いただきたいが、これで伯方島IC入口の交差点とちょっとした坂をひとつパスできる上、「しまなみ造船」のすぐ脇を通過できる。運が良ければしまなみ海道ならではの造船工場の入口から巨大なタンカーの船尾を仰ぎ見ることもできる。もちろん本来は見せ物ではないので、各方面に迷惑を掛けない大人の配慮は当然ながら必須だ。

 

しまなみ造船

造船の島ならではの景観は海外のサイクリストからも好評だ

 

■「大三島」では上質なレモン製品を買わずにいられない。

大島のShozanから大三島の外周路まで約17km。ゆっくり走っても1時間ほどだが、少し肌寒かったので頑張ったら45分で「果輪弥(かりんや)」に着いた。こちらはレモンコーディアル(生フルーツのシロップ漬け・ノンアルコール)を手作りしている専門店なのだが、2021年の夏にオープンしたばかりということで、実は筆者も事前には知らなかった。次に紹介する店に向かう路地の途中にいきなり出現したという感じだ。天気もまだ少しはもちそうだし、喉も渇いていたので、店頭で炭酸割りをいただくと味も香りも非常に上質。これは看過できず、数種類を買い求めた。もちろん全て配送してもらうので問題はない。これも気ままな大人のソロライドの醍醐味だ。なお、やはりというべきか、こちらも大阪から移住されたご夫婦が経営されていて、商品作りから店舗のリフォームまですべて自前だそうだ。

 

果輪弥

みかん畑の小路にこんな店があったら止まらざるを得ない

果輪弥のレモンコーディアル

すべてレモンシロップがベースで、ハーブやスパイスを加えている。筆者はエルダーフラワーとシナモンジンジャーをチョイス

 

果輪弥からもう少し奥に集落を進むと、筆者お目当ての「Limone(リモーネ)」に着く。こちらは2014年ごろのツアーイベント視察で見つけたリモンチェッロ(イタリア由来のレモンリキュール)の生産者。最初の一滴でイタリアン好き筆者のツボにどハマりし、以来ずっとこちらの瓶が冷凍庫で冷えている。有機無農薬というポリシーはもとより、とにかく香りが素晴らしく、本場イタリアからの輸入品がニセモノに思えてしまうほどの圧倒的なクオリティにただただ平伏す。筆者のイチオシは「ライムチェッロ」。口に含んだ瞬間に濃厚なライムの香りが脳内まで瞬間的に達する衝撃的なクオリティだ。他にもブラッドオレンジの「アランチェッロ」や、ノンアルコールの「季節のレモネードMIX」、「レモンケーキ」、「リモーネのドレッシング」など、枚挙にいとまがない。まずは騙されたと思って公式サイトから購入いただきたい。間違いなくリピートするハメになるはずだ。
お店で接客をされていた山崎知子さんに話を伺うと、こちらも東京から移住されたご夫婦による経営で、なんとレモンやライムなどの栽培まですべて自前とのこと。こぢんまりとした店内にはWEBでは購入できない店頭商品などもあり、筆者の食い道楽魂も大沸騰。結果として初日からかなりの荷物を東京に送ることになった。その間、製品づくりからレストラン情報、島暮らしの悲喜交々まで話が尽きず、気づけば時刻は日没まで30分を切っていた。

 

リモーネのリモンチェッロ

名代の「リモンチェッロ」は大三島で有機無農薬栽培される極上レモンからの手作り。美味しくないはずがない ©️大三島Limone

リモーネ

古民家を改装したこぢんまりとした店舗内に宝物のような商品が詰まっている

 

そこから3.5kmほど、10分も掛からずに「道の駅 多々羅(たたら)しまなみ公園」へ移動した。この場所は、70kmあるしまなみ海道サイクリングコースのほぼ中間地点のため元々サイクリストが多かったが、2014年に「サイクリストの聖地」碑が設置されたことで、ほぼ全てのサイクリストが立ち寄る要所としての地位を得た。この日も雨天予報の日没直前にも関わらず数名のサイクリストが写真撮影をしていたので、邪魔になるのを嫌って長居せず宿に向かった。

 

サイクリストの聖地碑

「サイクリストの聖地」碑は背後の「多々羅大橋」とセットで撮るのがお約束。橋の対岸は広島県尾道市の生口島だ

 

■しまなみ海道のホテルはサイクリストファーストの理想形。

この日に泊まる「WAKKA(わっか)」は、多々羅しまなみ公園から1.5kmほど北上したR317沿いにある。こちらは「最高のサイクリングの思い出を作っていただくお手伝い」を第1の目的に掲げて2020年3月にオープンした総合サイクリング施設だ。宿泊のみならず、カフェレストラン、シャワー施設、サイクルタクシーなどを展開し、日帰りから長期滞在までサイクリストのニーズに幅広く応えてくれる。本来は2019年末のグランドオープンを目指して準備されていたため足掛け2年以上も厳しい状況が続いていると思われるが、それでも熱いその理念は国内のサイクリストに深く刺さり、週末のカフェレストラン営業などはそれなりに賑わっていたそうだ。冒頭に掲出したボートの写真もこちらの「海上サイクルタクシー」の船着場で、そのようなサービスが日本国内で成立するのはしまなみ海道ぐらいだろう。筆者もオープン情報を得て以来ずっと訪れたかったので、ようやく実現したのは素直に嬉しい。ちなみにこちらも経営者夫婦を含む主要メンバーがIターン移住組だ。

今回はソロ旅なのでドミトリーを指定した。ドミトリーはカプセルホテルのようなベッドスペースが1部屋に4ブースあるタイプで、部屋の中にバイクハンガーも4台分ある。ただし、まだコロナの影響からは脱せずドミトリー1部屋を1グループで占有する利用形態なので、ソロの筆者はかなり心苦しかった。早く本来の利用形態になればと思う。入浴は共用シャワーのみだが、徒歩10分ほどの場所に公共温泉施設があるので散歩がてらに行くのは悪くないだろう。もちろんクルマで送迎もしてくれる。セルフランドリーは有料なので大人にはむしろありがたい。

 

ワッカ

ドミトリーもコテージ同様に独立した部屋を木道でつなぐレイアウト

ワッカのドミトリー

建物は全て木製。上質な木の香りに包まれて心地よくグッスリと眠ることができた

 

宿での食事は朝食のみだったので、今回はWAKKA予約時にスタッフさんにオススメいただいた島内の創作居酒屋「きつねのぼたん」に初訪した。事前に食べログなどもチェックしていたのだが、実際は、お通しから最後の皿まですべてが期待を上回るクオリティだった。地の食材を多用したメニューは品揃えも手仕事も素晴らしく、大食いの筆者ですら追加オーダーを断念するぐらいのボリュームもある。ドリンクも適切な品揃えで、特に日本酒と焼酎はメニューに銘柄が明記されず、オススメを訊きながらオーダーする酒好きのためのスタイル。こちらも再訪は間違いない。自分でソロ旅を薦めておきながら何だが、次回は2〜3人で伺って2倍オーダーしたいと思う。ただし、コロナのせいもあるのか席数をかなり絞って厨房とフロアのお二人だけでやられていたので、営業時間のど真ん中に電話をかけるような野暮は控えていただきたい。なお、しつこいようだがこちらも2016年に広島から移住されたご夫婦で、奥さまが大三島へのUターンだそうだ。

 

ぶどうとかんきつのサラダ

ぶどうとかんきつのサラダ。あまりの美味さに秒殺だったので山盛りで食べたい

塩とゴマ油で味付けされたハマチ

塩とゴマ油で味付けされたハマチ。美味すぎてメニューを撮り忘れたので正否は不明

小エビのバジルソース、生ハムとナス、島ダコときゅうり、なめろう

小エビのバジルソース、生ハムとナス、島ダコときゅうり、なめろう。すべて美味い

 

さて、もうお気づきと思うが、この日にしまなみ海道で立ち寄ったところは全て移住者による店だ。しまなみ海道に限らず日本の田舎は全般的に同様なのだろうが、地域のポテンシャルに対する思いはむしろ部外者の方が強い。先住者に配慮するなら、なんとなくの愛着ではなく、価値を明確に言語化できているというニュアンスだろうか。そしてその強い思いに人生を賭し、ピュアなコンセプトを掲げたチャレンジに成功し、家族と幸せに暮らす。そんな人々に出会うのは、54歳の筆者にとっても強い刺激になり、己の生き様を見直す機会になる。こうした人生の糧になる気付きこそ四国ソロ旅の真価だと信じている。

部屋に戻ると、サイクリングの程よい疲労感に幸せな晩餐の余韻と夕方から降り出した雨の音が重なり、枕元のスマホに触れることすらできずに一瞬で寝落ちした。充実した四国一周初日だったということだろう。

翌朝から再び四国本土に戻って四国一周のメインルートを走り始める。ソロライドならではの裏ワザやサブルートなども紹介するので、次回もぜひご高覧いただければと思う。

 

>>「Vol.1:プロローグ」はこちら
>>「Vol.2:入念なアプローチ計画から四国松山に上陸。」はこちら
>>「Vol.3:いよいよ四国一周に走り出す。」はこちら

 

渋井さん

 

<筆者プロフィール>
渋井亮太郎(しぶいりょうたろう)
ジャイアントの広報・宣伝・イベント業務を主軸に、スポーツサイクル振興事業全般に関わるサイクルビジネスプロデューサー。2012年に開催したしまなみ海道での大型イベントを契機に「愛媛県自転車新文化推進事業総合アドバイザー」となり、以来、台湾と日本におけるサイクルツーリズム振興に携わっている。四国一周については、2014年にジャイアント側でツアー計画に着手し、その実績から2016年に自治体側の基本ルート設計も受任。以後も各施策にアドバイスしている。また、国際的なサイクリングツアーでの現場経験からサイクリングガイドの必要性を痛感し、「一般社団法人日本サイクリングガイド協会」を2014年に設立。スポーツサイクル業界の立場から、サイクルツーリズムの根幹を支える専門技術の標準化と専門人材の育成・組織化に心血を注いでいる。185cm/100kgの体躯を維持すべく日々の美食を欠かさないバブル世代最終組の54歳。