“大人の”四国一周サイクリング完全ガイド Vol.2:入念なアプローチ計画から四国松山に上陸。

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飛行機

 

いつかは走りたい憧れの四国一周サイクリング。人生に何度もない貴重なチャンスに恵まれるなら、ぜひ最高のサイクリング体験にしてほしい。そこで、四国一周基本ルートの設計者であり、台湾一周ツアーを日本人最多の5周回完走した筆者が、四国一周基本ルートをベースに細部をアレンジした11日間/約1,100kmのソロ1周ライドを通じて、これから四国を目指すサイクリストに「大人の四国一周」の実践的なノウハウから裏話まで包み隠さず大公開する連載企画。連載2回目の今回は、綿密なアプローチ計画を経ていよいよ四国に上陸する。

>>「Vol.1:プロローグ」はこちら

 

東京圏から四国へ。大人はアプローチにもこだわる。

CHALLENGE 1,000kmプロジェクト」の登録者は、2021年11月時点で延べ3426人いる。“延べ”というのは1人で2回目、3回目という猛者がいるという意味だ。そのうちの最多はやはり言い出しっぺの愛媛県で約20%、それに香川、徳島、高知を合わせた四国4県で約32%となる。あとは関西の2府4県で約20%、関東の1都3県で約18.0%と続く。一周ライドの時間距離を考えれば四国へのアクセス順というのはわかるが、それにしても、四国4県の総人口366万人に対して、例えば横浜市ひとつで約378万人という人口バランスからすれば、もっと多くの東京圏サイクリストに四国を目指してもらいたいと東京人の筆者は無邪気に思うのだ。そこで、今回はもうバチーンと割り切って東京圏からのアプローチに的を絞り、四国へのリーズナブルな移動手段である飛行機、新幹線、徳島行フェリーについて解説する。なお、ここでいうリーズナブルとは、大人のソロサイクリングという本稿の趣旨に対して「合理的」という意味であり、決して「お値打ち」という意味ではない。したがって、マイカーやレンタカー、在来線特急などは割愛する。

 

■輪行しないならフェリーしかない。

サイクリング遠征にあたって最初に考えるべき条件は「輪行」だ。もし、自分一人では輪行ができない、あるいは、フルバッグ仕様のツーリング車やカーボンスポークホイール仕様の高級車といった機材の特殊性から、輪行はできるけど敢えてやらない、ということであれば、もう選択肢はひとつしかない。フェリーで東京から徳島に向かうアプローチだ。

オーシャン東九フェリー
・旅客運賃:1万3390円(2等洋室。個室は3000円プラス)+特殊手荷物運賃(自転車):2950円
・運行時刻:東京(有明)港19:30発(日祝は18:00発)➡ 徳島(沖洲)港に翌日 13:20着

フェリーは良い。そもそも「船旅」自体が一種のアクティビティであり、価値を感じられる人にとっては理屈抜きに楽しい時間になるだろう。筆者も毎年5月の「佐渡ロングライド210」で新潟-佐渡間のフェリーに乗るのを楽しみにしていた。いつも一級船室の布団で爆睡しては下船放送で飛び起きていただけなので船内施設や景色をことさらに楽しんだというわけではないが、大型船独特の「ゆっくりとした時間」には良い印象しかない。

反面、1日1便で片道18時間という絶対条件がデメリットになるサイクリストは多いはずだ。全体日程に少なくとも2泊プラスされるのは大きい。さらに自宅から有明港までの時間距離次第でさらなるインパクトもあるだろう。ただし、徳島港は市街地までほど近く、そもそも港からすなわち四国一周ルートなので全く問題はないと申し添えておく。ともあれ、筆者が今回の大前提としている“大人の”四国一周という観点では、どうせ2泊するなら四国のどこかで前泊なり延泊なり後泊なりして四国濃度を高めるべきだと思うので、今回は敢えてオススメしない。

 

■好みの経路を選ぶために輪行が必須

ということで、現時点での得意不得意を問わず、やはり四国一周を目指すならこの機会に輪行を完璧にマスターすべきだ。正しい輪行ノウハウは、この先のサイクリング人生にとって1ミリも損にならない。

さて、輪行といえば鉄道だ。そもそも「輪行」という語は、1970年に日本サイクリング協会の働きかけで当時の国鉄が自転車持込を許可したときに誕生した語であり、ましてやSDGsに向かう現代となれば、エコな公共交通機関である鉄道と自転車との親和性は最高と言う以外にない。筆者も今回の四国アプローチでは最寄り駅から羽田空港まで輪行し、山手線の全車両に設けられたフリースペースや各駅のホームエレベーターを利用してみた。いずれも車椅子とベビーカーが最優先なのは言うまでもないが、空いていれば大型荷物の乗客も利用できるので、ちょっと混んできても肩身の狭い思いはしないし、ホームの狭いエスカレーターには載せられない大型バイクケースを階段で持ち上げずに済んだ。

 

JR山手線のフリースペース

JR山手線の「フリースペース」。優先すべき乗客には速やかに場所を空けるのが鉄則。ここの手すりに輪行袋を結んで自分は離れた椅子で座りスマホなど、最低最悪の愚行と心得るべし

JR浜松町駅のホームエレベーター

JR浜松町駅のホームエレベーター。モノレールの玄関口だけにかなり広かった

 

鉄道のみならず、ジェットフォイルなどの旅客専用船でも、飛行機でも、最近は一部の高速バスでも、輪行さえできれば愛車と共にどこまでも移動できる。筆者は立場上、「輪行しないと鉄道に乗れない日本など先進国とはいえない」などと主張することも多いのだが、実は個人的には輪行も嫌いじゃない。チェーンやタイヤで他者を汚さないという気遣いは日本人らしいし、スペース単価の高い飛行機や新幹線でも自転車を分解するだけで割安になると言うのはとてもリーズナブルだとも思う。ただし、空気しか運んでいない時間帯や田舎の赤字路線なら、明日からでも自転車を乗せられるはずなので、そこはぜひ推し進めてほしい。

 

自転車がそのまま列車に乗り込める台湾

台湾でも自転車はそのまま列車に乗り込める。貸し切り車両ではなく一般の乗客も混在している(写真は2018年のFORMOSA900日本團)

 

■新幹線利用の輪行

さて、東京圏のサイクリストが鉄道輪行で四国を目指すなら、必然的に新幹線で岡山、そこで四国行のJR在来線に乗り換え、香川県内のどこかでサイクリングをスタートすることになる。香川といえば高松まで行きたくなるが、筆者のオススメは「宇多津」だ。瀬戸大橋線は四国上陸直後に分岐するので、高知行と松山行では四国最初の駅は「宇多津」になり、徳島行だと「坂出」になるが、行先の多い「宇多津」の方が往復ともに若干利便性が高い。また、続編で登場する讃岐うどんの名店や四国一周スタンプポイントへのアプローチにも勝り、さらには未確認情報ながら「良いバーや居酒屋が多い」という宇多津町役場職員の証言から、最終日の後泊地としても「宇多津」を推したい。そう、スタート地点はすなわちフィニッシュ地点でもあるので一周完走の祝杯まで考慮して計画するとよいだろう。ちなみに、乗り換えがスムーズだと「新横浜-宇多津」で3時間40分を切るのは、新幹線で新神戸を越える機会が少ない筆者には「意外に近いなぁ」という印象。東京の城南エリアや神奈川在住者なら、平日朝の通勤ラッシュを避けて新横浜から乗るのもよい選択だろう。

「JR新幹線+在来線で四国に直行」
・運賃(例):新横浜〜宇多津= 1万8440円
・運行時刻(例):新横浜7:29「のぞみ博多行」〜岡山10:22着/10:35発「特急しおかぜ松山行」〜宇多津11:07

 

新幹線の「特大荷物スペースつき座席

新幹線は「特大荷物スペースつき座席」しか自転車を持ち込めない。予約無しでも空きがあれば座れるが1000円を追加徴収される

 

なお、蛇足ながら、しまなみ海道サイクリングで四国にアプローチする欲張りプランなら、「福山」から在来線で「尾道」を目指すか、新幹線の乗り継ぎで「新尾道」を目指すとよい。詳細は割愛するが、尾道へのアプローチでは、所要時間、乗り換えの煩雑さ、コスト、すべてについて、羽田-広島便ではなく新幹線の方に軍配が上がる。

「JR新幹線+在来線でしまなみ海道尾道へ」
・運賃:新横浜〜尾道= 1万7990円
・運行時刻(例):新横浜7:29「のぞみ博多行」〜福山10:39着/10:52発「山陽本線三原行」〜尾道11:11

ところで、この連載記事で四国一周に興味を感じられた方は、カラー50ページで四国一周を大特集した「サイクルスポーツ2021年5月号」をお手元に置いて読み進めていただきたい。PRのようで恐縮だが、ちょうどこの連載と重なる2022年2月12日までの期間中、雑誌販売サイトのfujisan.co.jpで「じてんしゃ旅 応援キャンペーン!」と銘打ち、サイクリングエリアを特集したバックナンバーを30%オフ(紙版)で入手できる。ぜひともWEBと誌面からのダブル入力で、四国一周ノウハウをガッツリと詰め込んでいただきたい。

 

サイクルスポーツ2021年5月号

 

■飛行機輪行でダイレクトに四国へ

飛行機

 

飛行機なら、羽田からANAかJALの直行便で四国4県のいずれかに飛ぶのが定石だろう。4空港のどこを選ぶかは人それぞれだが、「行程・日程」の検討時には往路便のみならず復路便も確認すべきだ。

以下、参考として現時点(※)のANA便を例示し、フライト毎に軽くコメントする。
※2021/12/16にANAのWEBサイトで2022/1/14(金)〜1/26(水)往復便を検索した。

「ANA東京〜松山」=6便(実質は4.5便)
・参考運賃= 1万8240円(株主優待割引・予約変更可能)
羽田07:15発 – 松山08:50着 >松山前泊とほぼ同等の行程を設定可能。同時間帯のJAL便は7:40発
羽田09:25発 – 松山11:00着 >今治市中心部またはしまなみ海道大島ぐらいまでなら程よい感じ
羽田12:05発 – 松山13:40着 >松山市周辺なら観光の余裕あり。頑張れば今治市中心部にも行ける
羽田14:50発 – 松山16:25着 >松山市中心部(空港から約7km)に余裕をもって入れる
羽田17:15発 – 松山18:50着 >松山市中心部到着は早くても20時をまわるのでやや余裕なし
羽田19:25発 – 松山21:00着 >いろんな意味でおすすめできない
<復路最終便>松山19:35発 – 羽田21:00着

「ANA東京〜高松」=6便(実質は4便)
・参考運賃=1万7090円(株主優待割引・予約変更可能)+株主優待券
羽田07:35発 – 高松08:55着 >県内うどん巡りからの高松泊がオススメ。徳島市中心部直行も可能
羽田09:40発 – 高松11:05着 >うどん人気店は閉店が早いのでギリギリだが、県内ライドには充分
羽田11:25発 – 高松12:50着 >高松市中心部(空港から約15km)に余裕をもって入れる。山越えで吉野川流域の町に泊まるのも良い
羽田13:45発 – 高松15:05着 >高松市中心部に余裕をもって入れる
羽田17:25発 – 高松18:45着 >高松市中心部到着は早くても20時半をまわるのでやや余裕なし
羽田20:05発 – 高松21:25着 >いろんな意味でおすすめできない
<復路最終便>高松19:30発 – 羽田20:45着

「ANA東京〜徳島」=4便(実質は2便)
・参考運賃= 1万6990円(株主優待割引・予約変更可能)+株主優待券
羽田08:55発 – 徳島10:15着 >日和佐(美波町)までなら程よい感じ
羽田13:25発 – 徳島14:45着 >徳島市中心部(空港から約12km)に余裕をもって入れる。
羽田17:20発 – 徳島18:40着 >徳島市中心部到着は早くても20時半をまわるのでやや余裕なし
羽田19:15発 – 徳島20:35着 >いろんな意味でおすすめできない
<復路最終便>徳島19:20発 – 羽田20:35着

「ANA東京〜高知」=5便(実質は4便)
・参考運賃=18,390円(株主優待割引・予約変更可能)+株主優待券
羽田07:55発 – 高知09:25着 >土佐久礼までなら程よい感じ
羽田11:25発 – 高知12:55着 >高知市中心部(空港から約16km)なら観光の余裕もある
羽田13:50発 – 高知15:15着 >高知市中心部に余裕をもって入れる
羽田16:05発 – 高知17:30着 >夏季なら薄暮時間帯に高知市中心部までいけるかも
羽田18:55発 – 高知20:25着 >>いろんな意味でおすすめできない
<復路最終便>高知18:15発 – 羽田19:30着

以上、筆者が常用するANA便だけ例示した。ここまでで、四国便はどこも1日4〜6便、羽田から1時間半程度、コストは新幹線と大差なく、到着時刻が遅いとその日の宿泊地の選択肢が減るといった概況を把握いただいたところで、それぞれの検証に移る。

なお、上記のいずれについても「株主優待券」による割引運賃を例示している。株主優待割引は株主本人以外も利用できるので、金券ショップで1枚2000〜4000円で購入すれば、搭乗直前まで便変更できるメリットを正規運賃の半額で享受できる。予定変更の多い多忙な大人にはぜひオススメしたい裏技だ。もちろん、便変更が不要なら「早得」などのさらに割安なフィックス航空券を入手すればよい。

 

ANA株主優待番号ご案内書

「ANA株主優待番号ご案内書」いわゆる株主優待券。コロナ禍で底値だったが徐々に需要が伸びてきている

 

■「香川・高松」なら鉄道の方がオススメ。

こちらは鉄道と良い勝負になる。2便目の「羽田09:40発 – 高松11:05着」が、前述した「新横浜7:29〜宇多津11:07」とドアtoドアの実質時間でほぼ重なってくるので、居住地と香川県内での走行ルート次第だろう。もし時間が同等なら、四国一周ブルーライン上に直接アプローチできる鉄道の方がリーズナブルだろうし、香川県南部を山越えして吉野川に抜けるつもりなら空港スタートの方が早い。ただし、一般的には鉄道の方が欠航や遅延などのリスクが低いので、香川に入るだけなら鉄道がオススメだ。

 

■「徳島」への鉄道移動は無意味。

詳細は割愛するが、所要時間だけでいえば飛行機一択だ。鉄道だと岡山〜高松〜徳島と乗り継ぐほぼ半日コースになり、コストも飛行機の割引運賃より高くなってしまう。しかも、四国一周ルートの香川〜徳島間を鉄道で同方向にダブって移動してしまうという無駄が許せない。したがって、特別な事情でもない限り、徳島への鉄道移動は無意味だ。また、フェリーは輪行フリー&時間度外視という前提なので、同じテーブルに載せる意味はない。

 

■「高知」も飛行機の方が圧倒的に早い。

こちらもアプローチ時間では圧倒的に飛行機だ。鉄道だとほぼ6時間を要するのは徳島行と変わらないが、岡山で1回乗り換えるだけなので幾分マシではある。また、香川から南下して四国を縦貫する路線のため、徳島行のようなサイクリングルートとの嫌な被りはない。

 

■「愛媛・松山」は絶対的に飛行機一択だ。

こちらもアプローチ時間では圧倒的に飛行機に分がある。また、鉄道だと香川〜東予〜今治〜松山まで、ご丁寧にも右回りのブルーラインにほぼ沿うようにして150km以上も逆行してくれるのが、血液型AA型の筆者には耐え難く、飛行機一択と断言しておく。

 

■飛行機輪行の行き先も「輪行」次第。

ここまでをざっくりまとめると「香川スタート以外は原則的に飛行機」ということになる。では、4県中のどこに飛ぶのがリーズナブルなのだろうか?その答えは、「輪行袋の携行」と「飛行機輪行特有の難しさ」という2つの要素の組み合わせで自ずと決まってくるのだ。

 

スーパーライトバイクバッグ

軽量タイプ例:「GIANT SUPER LIGHT BIKE BAG」。携行性を考慮してバイク全体を覆うだけの薄く丈夫な生地で軽量につくられている。保護機能は必要最低限

OS-500

保護タイプ例:「オーストリッチ OS-500」。緩衝材などで保護機能に優れる。容積・重量ともに大きいため、ライド中の携行には適さない

 

一般的な輪行袋を大別すると写真の2種になるが、その大多数は「軽量タイプ」だ。軽量タイプは生地の厚さによって150gから500g程度まで幅があるものの、緩衝材などはなく、コンパクトに折り畳んで専用ポーチなどに収納して携行できるのが特徴だ。輪行袋をライド中に携行すれば、鉄道などで任意の地点まで移動して走り出し、別の任意の地点でフィニッシュして再び輪行できる。また、天候急変や体調悪化など不測の事態には、ルートの途中から予定外の輪行も可能だ。つまるところ、これが輪行本来の用法なのだが、携行性と保護機能とは必然的に相反するため、軽く携行しやすい輪行袋ほど、より精度の高いパッキング技術や慎重な取り回しなど、一定水準以上のノウハウを要求される。とはいえ、一般的な輪行なら、梱包したバイクを運ぶのも持ち主であるサイクリスト自身なのでまあまあ慎重にはやるだろうし、中のバイクについての知識もあるので、例えばリヤディレーラーに負荷が掛かるような置き方もしないはずだ。

 

■「機内預け」が輪行を難しくする

つまり、もうお察しだと思うが、「飛行機輪行特有の難しさ」とは、空港カウンターで預けてから到着空港で再び受け取るまで、自分以外の第三者に愛車を委ねなければならないという一点によるものである。もちろん、航空会社は預かった荷物に対して最大限の配慮をしてくれるのだが、その日の担当者全員に自転車取り扱いの正しいノウハウを求めるのは酷だし、当然ながらうっかり倒したり軽く落下させたりするリスクは常にある。やはり、輸送中のミスごときで貴重な四国一周をスポイルされるのは絶対に嫌なので、預ける側も相応の準備をすべきだろう。そこで確実なのは、「保護タイプの輪行袋」などで損傷のリスクを軽減させることだ。特にカーボンスポークホイールや高級バイクなどの場合は、パッド入りの輪行袋でも心許ないので、保護材や緩衝材を追加するか、さらにリスクを軽減できる「バイクケース」や「輪行箱」、「段ボール箱」などを選ぶことになる。実際、筆者も新型カーボンホイール「CADEX 36 DISC TUBELESS」を保護するために今回は大型のバイクケース「シーコン」で万全を期した。

 

ANAのカウンターとシーコンのバイクケース

ANA国内線では大型の「シーコンバイクケース」もサイズ超過は不問だ。ただし、規定は変更されることもあるため事前確認は必須

自作のスポークカバー

CADEX購入時の外箱を丸く切り抜いて傘型に加工した自作のスポークカバー。ホイールの左右に配し、養生テープでズレないよう固定した

ツールボトル

飛行機に預ける場合は様々な注意が必要。ガイド仕様のツールボトルにうっかり「発煙筒」を入れたまま来てしまい空港で放棄するハメになった

飛行機輪行方法一覧表

飛行機輪行方法一覧:難易度、リスク、価格、それぞれ一長一短がある

 

ただし、後述する「分割一周」などのために輪行袋を携行しなければならない場合は、軽量タイプの輪行袋によるリスクをできる限り軽減させる「上級の飛行機輪行技術」が必要になる。その一例が以下のYouTube動画だ。これは発着空港とも丁寧にハンドキャリーしてくれる日本国内便が前提となるが、実情に沿ったリーズナブルなメソッドであり、重量のかさむ「エンド金具」が不要な横置き型の輪行袋を使った最小限のパッキングで携行性に貢献してくれる上級技術だ。とはいえ、キチンと手順を踏んで練習すれば出来ないことでもないので、ぜひこの機会に習得してほしい。

 

「スマートコーチングの安藤氏による実践的飛行機輪行術(※本人許諾済)」

 

結論:一気通貫の四国一周なら「松山空港」しか選べない。

飛行機

 

とはいえ、飛行機輪行に耐えうる輪行袋となれば、いくら軽量でも300gはあるので、T-シャツ1枚でも荷物を減らしたいスポーツサイクリストにとっては携行せずに済むならそれの方がありがたい。また、四国を一周して同じ場所に戻ってくる「一気通貫」なら、保護機能の高い輪行でリスクを抑え、かさばるバイクケースや段ボール箱は到着地に預けていくのが大人の四国一周における最善手といえるだろう。そう考えると、実はもう「松山空港」しか選択肢はないのだ。

松山空港の到着ロビーに出て右方向に30mほど進んだ出入り口の脇にある「インフォメーションカウンター」が松山空港を選ぶ理由だ。こちらはなんと、このかさばるバイクケースを、四国一周している期間中ずっと、無料で預かってくれる。まさにサイクリングパラダイスを自称する愛媛県ならではの「神サービス」と言ってよいだろう。なお、本来は「 1週間まで無料で預かる」のが原則なのだが、四国一周サイクリング であれば、帰着日の明示を条件に、1週間を超えても無料で預かってくれる。このサービスがあったからこそ、緩衝材を潤沢に詰め込んだフルサイズのバイクケースで不安なく愛車を運ぶことができたし、長時間の電車移動や、空港からホテルに輪行バッグごとワゴンタクシーで移動するといった無駄な行程も一切不要になった。ということで、松山空港は、「機材の安全性×所用時間×快適性×コスト」という総合的な評価基準で他のアプローチをおさえ、最もリーズナブルな出発地となるのである。

 

松山空港のインフォメーションカウンター

松山空港到着ロビーの中央やや南寄りにあるインフォメーションカウンター

松山空港のサイクルステーション

松山空港ビルのレンタカー出口にある「サイクルステーション」

 

さて、松山空港到着後のリアルなタイムラインとしては、まずはインフォメーションカウンターを横目に通り過ぎ、レンタカーデスクの奥から屋外に出て、「サイクルステーション」でバイクを組み立てる。それからカウンターに戻って空のバイクケースを預けたら、晴れてサイクリングスタート!という流れだ。到着からバイクケースを預けるまで、スムーズにいけば約1時間だろうか。※このあたりについては次回以降で詳報する予定……

まさにサイクリストファーストというべき松山空港だが、筆者が松山を推す理由はこれだけではない。

まず、空港から市街中心部までの距離が四国4県中で最も近いという立地だ。空港から県庁そばの「大街道」まで約7kmしかない。他県は徳島=12km、高松=15km、高知=16kmであり、市街までの自転車移動が夜間や雨天になった場合、あるいは輪行バッグごとタクシーで移動する可能性まで考慮すると、松山の空港アクセスは大きなアドバンテージになる。ちなみに松山は、全国の県庁の空港アクセスランキングでも、福岡、沖縄、宮崎に続く4位であり、四国どころか全国レベルで恵まれているのだ。

さらに、羽田〜松山便の航路そのものも推しの理由だ。羽田から四国の4空港に向かうフライトで松山便だけ、着陸前の10数分間に翌日以降のサイクリングルートを上空から俯瞰できるのだ。それはもはや四国一周にチャレンジするサイクリストへのサービスとしか思えないほどに嬉しい景色だ。天気さえ良ければ自分が走る道や建物まで見えるので、松山着陸前に気分は超アゲアゲ状態。自信を持って、最高のアプローチだと断言できる。

 

「ANA機上から(香川ほか)」※筆者によるYouTube映像

 

「ANA機上から(しまなみ-今治)」※筆者によるYouTube映像

 

■「分割一周」について

さて、「一気通貫なら松山空港一択」とする理由については共感いただけたと思うが、とはいえ「一気通貫」する日程を確保するのはハードルが高いので、現実的には四国一周を分割して完走を目指すひとも多いだろう。ならば、飛行機で分割完走を目指すひとには、まず2分割をオススメしたい。
・第1区間=松山空港〜高知空港=約510km
・第2区間=高知空港〜松山空港=約460km
この分け方だと、獲得標高が増える第2区間の方が約50km短くなるので、距離と強度の均衡がとれる。

ただし、日程確保の面では3分割の方がさらに現実的ではある。
・第1区間=松山空港〜徳島空港=約300km
・第2区間=徳島空港〜高知空港=約210km
・第3区間=高知空港〜松山空港=約460km
3連休や飛び石4連休などで第1区間と第2区間を走り、第3区間は夏休みや勤続休暇などを利用すればそれぞれじっくり楽しむことができるだろう。

ところで余談ながら、千葉や茨城在住の人なら成田空港からジェットスターで四国3県に飛ぶ選択肢もありそうだ。筆者自身に利用経験がないので是非の判断はしづらいが、タイミング次第ではバイク受託料込みでも大手の半額以下に抑えることもできそうなので今更ながら驚いた。ただし、WEBサイトをみる限りでは、バイクの機内預けについての規則が大手2社より厳格っぽく感じられるので、まずは飛行機輪行に慣れた上級者向けとしておきたい。

 

 

ということで、連載2回目にしてようやく松山空港に達し、辛くも四国上陸を果たしたものの、走り出すどころかまだ自転車を組んですらいない。いささかノンビリ過ぎる気もするが、2022年の春以降に四国を目指すサイクリストに向けてじっくりと書き進めていこうと考えているので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いである。次回こそは四国の道を走り出す予定なので、ぜひ今後もご高覧いただきたい。

 

 

 

渋井さん

<筆者プロフィール>
渋井亮太郎(しぶいりょうたろう)
ジャイアントの広報・宣伝・イベント業務を主軸に、スポーツサイクル振興事業全般に関わるサイクルビジネスプロデューサー。2012年に開催したしまなみ海道での大型イベントを契機に「愛媛県自転車新文化推進事業総合アドバイザー」となり、以来、台湾と日本におけるサイクルツーリズム振興に携わっている。四国一周については、2014年にジャイアント側でツアー計画に着手し、その実績から2016年に自治体側の基本ルート設計も受任。以後も各施策にアドバイスしている。また、国際的なサイクリングツアーでの現場経験からサイクリングガイドの必要性を痛感し、「一般社団法人日本サイクリングガイド協会」を2014年に設立。スポーツサイクル業界の立場から、サイクルツーリズムの根幹を支える専門技術の標準化と専門人材の育成・組織化に心血を注いでいる。1967年東京生まれの54歳。