【折りたたみ自転車で行く東京を感じるサイクリングコース】神宮前から定番スポットめぐり

目次

model 東城咲耶子

誰もが一度は訪れたい観光名所、歴史を動かしてきた旧街道の数々、自然を感じられるたくさんの公園、水面と橋が爽やかに共演する河川沿い、街の日常に出会える商店街、そして東京には洋上の離島もある。そこで、折りたたみ自転車で行くサイクリングに魅力的な東京のコースを提案。今回は、皇居を軸にして、同心円に広がる都心の人気スポットを一周するルート。気ままで欲張りな観光ライドに出発!

 

国立競技場

2019年に竣工した国立競技場(新宿区霞ヶ丘町)。東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場という大任を果たした。大屋根を構成する軒庇(のきびさし)は、全国から調達した木材が使用され、47都道府県それぞれの方向へ配置している

 

東城咲耶子さん

東城咲耶子(とうじょうさやこ)さん
愛知県豊橋市出身。アトミックモンキー所属。アニメ、ゲームの声優として活躍中。サイクリングがテーマのTVアニメ「ろんぐらいだぁす!」にも出演。各地のサイクリングイベントでゲストライダーとしても活躍

 

東京の今と昔を感じる都心周遊ルート

神宮外苑から時計回りで都心を一周するコース。スタート地点の標高が30~40mあるため、序盤の坂は下りで楽々。秋葉原~芝公園は平坦で標高はゼロに近い。後半は道が入り組むとともに上り坂が多めになるので、焦らずのんびりと。

 

コース情報

神宮前から皇居を経由して、北は秋葉原、南は芝公園の東京タワーまで足を延ばす周回コース。さっと走ればあっという間だが、見どころが無数にあるので丸一日楽しめる。西高東低という都心の地形も実感できる

神宮前から定番スポットめぐりのマップ

コースデータはこちら

 

今回使用したバイク Brompton C Line

Cライン

価格:26万150円~
問・ブロンプトンジャパン

 

折りたたみ状態

折りたたむと3辺合計140cm弱の小ささになってくれる。転がし移動も楽々

 

誕生から50年 選ばれ続ける名作

ロンドンで生まれ、今も同地でハンドメイドされているブロンプトン。造園やコンピュータに関する技師だったアンドリュー・リッチー氏がブロンプトンの原型を作ったのは1975年。それ以来、基本構造を変えずに作り続けられている。折りたたみ構造の完成度と、たたんだ際の小ささ・収まりのよさは、他のどんな折りたたみ自転車も及ばない。ホイールベースが長いため、走りの実力も高い。現在のブロンプトンは、伝統のスチールフレームを採用したCライン、一部にチタン合金を用いた軽量なPライン、そしてフレーム全体がチタン製で超軽量なTラインという3シリーズで構成される。それぞれに変速段数などの仕様を変えたモデルが用意されている。そして、2025年10月、グラベルライドも視野に入れた新型モデル、Gラインがラインナップに加わった。

 

バラウォータープルーフバッグS

ヘッドチューブにセットしたアダプターブロックを介して、多様なバッグを装着できるのがブロンプトンの魅力。ここで使用したバッグは容量9LのBorough Waterproof Bag S(価格2万2000円)

リヤラック

リアラックを取り付けることもでき、積載力は抜群

後輪をたたんだ状態

後輪をたためば安定して駐輪できるのもブロンプトンの特徴

 

個性が際立つ街を自転車で結んでいく

都心は街と街が近い。半径5kmの範囲に見どころが詰まっている。山手線の内側からスタートすれば、どの街も自転車なら至近距離だ。ここでは、英国生まれの折りたたみ自転車「ブロンプトン」の旗艦店が誕生した神宮前をスタート地点とする。同店ではブロンプトンのレンタルサービスも行っているので、試乗がてら都心をめぐるのも楽しいだろう。

 

ブロンプトン東京

外苑西通りに面した「ブロンプトン東京」がスタート&ゴール。都心めぐりに便利な好立地だ

 

走り出すとすぐに国立競技場が姿を見せる。2020東京五輪のメインスタジアムだ。斬新ながら和の雰囲気を感じさせる大屋根は、都心の新たなランドマークになっている。競技場の周囲を進んでいくと、明治神宮外苑に入って絵画館の正面に出る。重厚な石造建築がシンボリックだが、現在は休館して修理工事中。秋はイチョウ並木が美しい。

神宮外苑から赤坂御用地に沿って北の丸公園をめざす。このあたりの地形は複雑で、坂がとても多い。ただ、今回のルートでは心配無用。標高がある西の武蔵野台地から東の低地へと進んでいくので、下り坂が多くなるのがポイント。なだらかな安鎮(あんちん)坂を下っていくと、きらびやかな迎賓館が現れる。有名な紀尾井坂も下りで体験することができる。

 

紀尾井坂

清水谷を抜ける紀尾井坂。坂の両側に紀伊徳川家、尾張徳川家、井伊家の屋敷があったことが名前の由来

 

半蔵門で皇居・江戸城のお堀に行き当たる。南に広がる桜田濠が開放的だ。武蔵野台地の縁にあたるので、高低差を実感できる。半蔵門からは進路を北向きにして、千鳥ヶ淵へ向かう。途中、英国大使館があるので、ブロンプトン乗りなら表敬訪問しておこう(前を通るだけ)。都心の道はどこも交通量が多いけれど、自転車レーンの整備が進んでいるので、全体として非常に走りやすい。

 

駐日英国大使館

千鳥ヶ淵に面した千代田区一番町に建つ駐日英国大使館。昭和初期に建てられ、大使館としては現存最古

 

皇居の外周は、ロードバイクでトレーニングするサイクリストがとても多いが、のんびりライドも楽しめる。代官町通りに入ると、北側に「千鳥ヶ淵さんぽ道」が整備されている。千鳥ヶ淵を見下ろす見晴らしがいい小公園があるので、自転車を降りて登ってみよう。点々とある丸いコンクリートブロックは、一見するとベンチのようだけれど、大戦中に皇居防衛のために設置された高射機関砲の台座の跡だという。

代官町通りの中ほどに建つ美しい洋館は、旧近衛師団(このえしだん)の司令部庁舎だ。2020年までは東京国立近代美術館工芸館として活用されていたが、今は史跡として保存されている。その脇から北の丸公園に入ることができる。すると、都心であることを忘れるような深緑と渓谷が迎えてくれる。思わず深呼吸したくなる開放的な芝生広場もある。一画にある科学技術館も、一度は訪れてみたい。ミュージアムショップが充実しており、レストランもあるのでサイクリングの休憩にも最適だ。年に一度「ハンドメイドバイシクル展」が開催されることでも知られ、東京の(マニアックな)サイクリストにとって聖地のようでもある。

 

旧近衛師団の司令部庁舎

代官町通りから歩行者自転車用の陸橋で首都高速をまたぐ。その先に旧近衛師団の司令部庁舎が現れる

桜田濠

桜田濠の広い眺め

千鳥ヶ淵さんぽ道

千鳥ヶ淵さんぽ道

田安門

1620年に建築された田安門。江戸城で現存する最古の城門

 

北の丸公園を進んでいくと、日本武道館が現れる。すると、一転して周囲はにぎやかになる。わずかな距離を進むだけで、景色がコロコロ変わっていくのが都心サイクリングの醍醐味だ。

壮大な城門が残る田安門から北の丸公園を出て、九段の坂を下っていく。靖国通りだ。古書店街で知られる神田神保町を抜け、そのまま道なりに進めば秋葉原に出る。せっかくなのでお茶の水を経由して、江戸総鎮守の神田明神にお参りしよう。楽器店が連なる明大通りで駿河台へ少し上り、神田川をまたぐ聖(ひじり)橋から秋葉原方面を眺めると、何層にも入り組んだ鉄道の高架橋と築堤、そしてトンネルが圧巻だ。中央線、総武線、そして地下鉄丸ノ内線の列車が次々と走っていく。

神宮前と秋葉原では、街の様子や訪れる人の雰囲気がまるで異なるけれど、距離にして10kmも離れていない。東京は「都」全体で見ると非常に広いが、いったん都心に出てしまえば、街と街が近い。どこへ行くにも自転車ならスグといった距離感だ。

 

神田神保町

本なら何でもそろう神田神保町。「書泉グランデ」は趣味に関する書籍が充実

聖橋から望む鉄道風景

神田川に架かる聖橋から望む鉄道風景。上下左右に路線が交錯する

 

神田明神の門前を通るのは国道17号。かつての中山道(なかせんどう)だ。これを下ると一瞬で秋葉原に出る。裏道に入ると、神田明神と秋葉原を結ぶ男坂を見上げることができる。このあたりまで来ると、上野や浅草といった下町を代表する街も目と鼻の距離となるが、そのあたりは別のコースに譲ることとして、ここでは山手線の内側を進んでいこう。

 

男坂

神田明神と秋葉原を結ぶ男坂。表参道ではないが、参拝者に人気のスポット

神田神社

正式名称は神田神社。「明神さま」と親しまれる江戸東京を代表する名刹

秋葉原のメインストリート

万世橋から望む秋葉原のメインストリート

マーチエキュート

かつてあった万世橋駅は、交通博物館を経て、現在はマーチエキュートという商業施設に

 

秋葉原から東京タワーがある港区の芝公園までは、皇居外苑を挟んで真っ平らと感じる平地と直線的な街路が続く。淡々と走ればあっという間だが、見どころは無数にある。にぎやかな電気街、飲食店が多い神田かいわい、一転してオフィス街となる大手町など、変化に富んだ街並みが迎えてくれる。東京駅と皇居を真っすぐ結ぶ行幸通りは何度走っても爽快だ。

こうした都心のサイクリングは、あらかじめ考えたルートに沿って走るのもいいが、アドリブで右左折を繰り返すのが楽しい。気になったお店があれば足を止める。そんなサイクリングには、車輪が小さな折りたたみ自転車がよく似合う。疲れたら、さっとたたんで喫茶店に入るもよし、最寄りの駅から輪行でワープするもよし。走行距離や平均速度といった数値の追求はロードバイクに任せて、折りたたみ自転車でのサイクリングは、どこまでも自由気ままに楽しみたい。

 

将門塚

大手町の将門塚。2021年に再整備され、厚く崇敬されている

行幸通り

皇室行事と外国大使の信任状捧呈式の際は、厳かな馬車が進む行幸通り

日比谷公園

内堀通りから日比谷公園に入れば、車を気にせずに走れる時間が増える

 

変わり続ける東京をサドルの上で実感

東京タワーを過ぎると、地形は再び凹凸を見せる。麻布台、赤坂、乃木坂など、アップダウンに由来する地名ばかりだ。このあたりは近年の再開発で街並みが一変した。ヒルズ、タワー、ミッドタウンが点在し、現在進行形で変わりつつある東京の姿が実感できる。無数の高層ビルに囲まれて、空が狭く見える。

モダンな街並みにも、江戸や明治の時代から続く景色が隠れている。もともとは武家屋敷が多かった地域なので、それらを再整備した公園や庭園がオアシスだ。広大な青山霊園も、その一つだろう。

青山霊園を抜けると、外苑西通りに出る。青山通りを渡ると、スタートしたブロンプトン東京がすぐに見えてくる。外苑西通り沿いには、ブロンプトン以外にも有名な自転車ショップが多い。山手線の原宿駅、中央本線の千駄ヶ谷駅、そして東京メトロの各駅など、各方面への鉄道路線に囲まれているエリアだ。いずれの鉄道も、通常の自転車では輪行をためらう混雑路線なので、折りたたみ自転車であっても、通勤時間帯などは避けて輪行しよう。

 

檜町公園

毛利家の庭園跡を整備した檜町公園。庭園と東京ミッドタウンが共演する

 

Brompton Tokyo

ブロンプトン東京

ブロンプトン東京

2025年4月、神宮前にブロンプトンのフラッグシップストアがオープンした。ブロンプトンの理念である「都市生活を自由で幸せにする」を発信し、東京で暮らす・訪れる多くの人と共有するためのスペースだ。ガラス張りのビルに入ると、広いメンテナンススペースが迎えてくれる。ブロンプトンのクラフトマンシップと、よい物を長く使うという英国の伝統を感じさせる。吹き抜けの階段で2階に上がると、ブロンプトンの全モデルがそろう展示フロアだ。壁には折りたたまれた状態のブロンプトンが行儀よく並んでおり、そのコンパクトで端正な姿こそブロンプトンの正装だと実感させる。単なる試乗に留まらない、一定期間のレンタルサービスも実施。

info
東京都渋谷区神宮前2-5-10
TEL:03-6459-2012
営業時間:12〜20時(月、水〜金)、11〜19時(土日、祝日)
定休日:火曜

 

神宮前から定番スポットをめぐる今回のコースを紹介しているサイクルスポーツ特別編集「折りたたみ自転車で行く東京サイクリング」は好評発売中です。ほかにも、サイクリングのテーマ別に合計23コースを掲載しています。

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