CYCLE SPORTS.jpが選ぶ10大ニュース2022・海外ロードレース編

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(©SprintCycling)

  • photo ©SprintCycling / LaPresse

2022年の海外ロードレースは新型コロナの影響が続くなか、ほとんどのレースが開催され、大勢の若いチャンピオンが誕生した。その一方で、惜しまれながら現役に別れを告げた名選手たちもいた。CYCLE SPORTS.jpが厳選した10大ニュースで2022年シーズンを振り返ってみよう。
 

ボルタ・ア・カタルーニャでイタリアのコルブレッリが心停止

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■ 昨年パリ~ルーベを初制覇したコルブレッリ。これが現役最後の勇姿になった (©SprintCycling)

 
3月21日に開催されたスペインのボルタ・ア・カタルーニャ(UCIワールドツアー)第1ステージの集団ゴールスプリントで、ヨーロッパチャンピオンのソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス/イタリア)が2位でゴールした直後に倒れるアクシデントが発生した。

コルブレッリはその場で心臓マッサージを受け、一命は取り止めたが、除細動器を必要とする不整脈を患っていたことが判明した。後日彼は、皮下除細動器を埋め込む手術を受けた。コルブレッリは現役続行を願っていたが、イタリアでは皮下除細動器を付けて走ることは禁じられているため、彼は10月末に引退を発表している。
 

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■ カタルーニャ第1ステージでフォトグラファーにポーズを取るコルブレッリ。彼はこの日のゴールで心肺停止になった (©SprintCycling)

 
現在32歳のコルブレッリは、2012年にイタリアのコルナゴ・CSF・バルディアーニでプロデビュー。2017年に始動したバーレーンのバーレーン・メリダへ移籍し、UCIワールドチームの一員になった。昨年は彼にとってキャリアのピークで、イタリアチャンピオンとヨーロッパチャンピオンになった後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響で10月に開催されたフランスのパリ~ルーベ(UCIワールドツアー)で初優勝していた。

選手としては引退したが、コルブレッリは2024年までバーレーン・ヴィクトリアスと契約を継続した。彼はチームのアンバサダーとして活動し、豊富な経験をチームメイトたちに共有していくだろう。
 

ヘント~ウェヴェルヘムでエリトリアのギルマイが初優勝

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■ ヘント~ウェヴェルヘム2022で優勝し、アフリカ大陸初の北のクラシック勝者になったエリトリアのギルマイ (©SprintCycling)

 
3月27日に開催されたベルギーのヘント~ウェヴェルヘム・イン・フランダース・フィールズ(UCIワールドツアー)で、アフリカの小国エリトリア出身のビニアム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオー)が初優勝し、アフリカ大陸初の北のクラシック優勝者になった。

ギルマイの活躍はそれで終わりではなかった。彼は5月のジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)でも、第10ステージのゴールスプリントでオランダのマテュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)を下し、グランツール区間初優勝を果たした。
 

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■ ギルマイはジロの区間でもファンデルプールを打ち負かして初優勝した (©SprintCycling)

 
アフリカ出身の選手がジロで区間優勝したのは、1979年のアラン・ファンヘールデン(南アフリカ)に続いて2人目で、エリトリア人としては勿論史上初の快挙だった。ギルマイは2000年生まれの22歳で、今年のジロは初めて参加したグランツールだった。
 

ツール・ド・フランスでデンマークのヴィンゲゴーが総合初優勝

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■ ヴィンゲゴーは故郷デンマークで開幕したツールで初優勝した (©SprintCycling)

 
タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)の3連覇が期待されていた7月のツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)は、北欧デンマークの首都コペンハーゲンで開幕し、デンマーク出身のヨーナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)の総合初優勝で幕を閉じた。

オランダのユンボ・ヴィスマ(UCIワールドチーム)にとっても、ツールの総合優勝は初めての快挙だった。1984年にヤン・ラースが立ち上げたこのチームは、長年ラボバンクとして活動し、ジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝した事はあったが、ツールで総合優勝はできなかった。
 

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■ オランダのユンボ・ヴィスマにとっても初めてのツール総合優勝だった (©SprintCycling)

 
ユンボ・ビスマは、6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネ(UCIワールドツアー)で総合初優勝したスロベニアのプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)が今年もツールでエースだったが、彼は序盤の石畳ステージで落車して脊椎を痛め、初優勝の夢が絶たれてしまった。

昨年のツールで総合2位だったヴィンゲゴーは単独エースになり、アルプス超級頂上ゴールの第11ステージでポガチャルを打ち負かし、総合首位に立ってマイヨ・ジョーヌに初めて袖を通した。ツールで北欧デンマーク出身の選手がマイヨ・ジョーヌを着たのは、2007年のミカエル・ラスムセン以来、15年ぶりだった。ヴィンゲゴーは一度手に入れたマイヨ・ジョーヌを手放す事なく、パリのシャンゼリゼ大通りに凱旋した。
 

コロンビアのキンタナがトラマドール陽性でツール失格

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■ 今年のツールで総合6位になったコロンビアのキンタナは、トラマドール陽性で失格になった (©SprintCycling)

 
7月に開催されたツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)で総合6位になったコロンビアのナイロ・キンナタ(チームアルケア・サムシック)は、大会期間中に行われたアンチ・ドーピング検査でトラマドールの陽性になり、8月に国際自転車競技連合(UCI)は彼の失格を発表した。

鎮痛剤の一種であるトラマドールは、現時点でまだ世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の禁止薬物リストには載っていないが、その副作用を考慮し、選手の健康と安全を守る目的で2019年3月1日からUCIの使用禁止薬物になっている。

キンタナはUCIを決定を不服とし、8月のブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー)の参加を取りやめてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に上訴した。しかし、その訴えは11月に却下され、彼のツール失格は確定した。
 

ロード世界選でベルギーのエヴェネプールが初優勝

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■ 22歳で世界チャンピオンになったベルギーのエヴェネプール (©SprintCycling)

 
オーストラリアのウロンゴンで9月25日に開催された2022年UCIロード世界選手権は、ベルギーのレムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル チーム)が独走で逃げ切って初優勝し、22歳で世界チャンピオンになった。

今季エヴェネプールは4月にもモニュメント・クラシックの1つであるリエージュ~バストーニュ~リエージュ(UCIワールドツアー)を独走で初制覇していた。さらに世界選の2週間前には、彼はブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー)で総合初優勝を果たし、ベルギーに44年ぶりでグランツールの優勝をもたらしたばかりだった。
 

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■ エヴェネプールは今季ブエルタでも総合初優勝し、ベルギーに44年ぶりのグランツール優勝をもたらした (©SprintCycling)

 
2023年シーズンは世界チャンピオンの証であるアルカンシエルを着て走るエヴェネプールは、1月にアルゼンチンで開催されるブエルタ・ア・サンフアン(UCIプロシリーズ)でシーズンインし、グランツールはジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)への参加を予定している。
 

イタリアのガンナがアワーレコード更新

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■ イタリアのガンナがアワーレコードを更新した (©SprintCycling)

 
元TT世界チャンピオンのフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアズ/イタリア)が、10月8日にスイスのグレンヒェンにあるティソ・ヴェロドロームでUCIアワーレコードに挑戦し、60分で56.792kmを走破して、チームのパフォーマンス・エンジニアであるダニエル・ビガム(英国)が8月19日に出した世界記録を1.244km更新した。
 

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■ ガンナはボードマンの記録も抜いてしまった (©SprintCycling)

 
ガンナはUCIアワーレコードの現行ルールが施行される以前の1996年に、英国のクリス・ボードマンが出した56.375kmの非公認記録も抜いてしまった。
 

ニバリ、バルベルデ、ジルベールが現役を引退

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■ 引退レースになったイル・ロンバルディアで記念撮影をしたニバリ(左)とバルベルデ (©SprintCycling)

 
2022年シーズンは多くのビッグネームが現役を引退した。3大ツール全てで総合優勝したイタリアのヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ カザクスタン チーム/38歳)は、今年のジロ・デ・イタリアが故郷のメッシーナにゴールした第5ステージで、今シーズンを最後に現役を引退すると発表した。彼は最後のジロを、総合初優勝したオーストラリアのジャイ・ヒンドリー(ボーラ・ハンスグローエ)に9分2秒遅れの総合4位で完走した。

若い頃は”無敵”と呼ばれ、数々のレースで活躍したスペインのアレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム)も今年4月で42歳になり、遂に引退を決意した。バルベルデとニバリは、10月に開催されたイタリアのイル・ロンバルディア(UCIワールドツアー)が引退レースとなり、スタート前にはステージ上で2人揃って記念撮影に収まっていた。
 

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■ ジルベールは引退イベント後にモナコで開催されたチャリティーイベントで優勝した (©SprintCycling)

 
ベルギーでは、2012年のリンブルフ世界選(オランダ)でロード世界チャンピオンになったフィリップ・ジルベール(ロット・スーダル)が40歳で引退した。彼の引退イベントは故郷ベルギーではなく、アムステル・ゴールド・レース(UCIワールドツアー)で4回勝ち、世界チャンピオンにもなった思い出の地であるオランダのカウベルフで開催された。
 

イタリアのヴェネト州でグラベル世界選初開催

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■ 今年初開催したグラベル世界選はロードのトップ選手たちが支配した (©SprintCycling)

 
UCIワールドツアーが10月8日のイル・ロンバルディアで閉幕した翌日に、イタリア北東部のヴェネト州ではUCIグラベル世界選手権大会が初開催された。未舗装路を走るグラベルレースは、近年人気が高まっている自転車競技の種別(discipline)で、世界選開催後には国際自転車競技連合(UCI)の公式サイトにも、ロード、トラック、MTBなどの種別にグラベルが追加された。

初開催となったグラベル世界選には、グラベルの選手だけでなく、ロードのトップ選手たちも大勢参加し、元シクロクロス世界チャンピオンのマテュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)とズデニェック・シュティバル(クイックステップ アルファヴィニル チーム)、元ロード世界チャンピオンのペテル・サガン(トタルエナジーズ)、オリンビック金メダリストのグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(AG2R・シトロエン チーム)がスタートラインに並んだ。

ヴィチェンツァからチッタデッラまでの全長194kmで、約73%が未舗装路というコースで行われたグラベル世界選は、ファンデルプールが優勝候補の筆頭だったが、彼のチームメートであるベルギーのジャンニ・ヴェルメールシュ(アルペシン・ドゥクーニンク)が独走で逃げ切るサプライズで幕を閉じた。ヴェルメールシュもファンデルプール同様、冬場はシクロクロスを走る選手だった。
 

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■ グラベル世界選の初代チャンピオンになったベルギーのヴェルメールシュ (©SprintCycling)

 
自転車競技の様々な種別の選手たちが集ったグラベル世界選は、結局トップ10が全員ロードの一流選手で占められるという結果に終わった。
 

イタリアのレベッリンが交通事故死

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■ 2009年にフレッシュ・ワロンヌで3度目の勝利を収めたレベッリン (©SprintCycling)

 
2022年はシーズン終了後の11月30日に、信じられないような悲報が飛び込んできた。51歳まで現役選手として走り続け、今シーズンを最後に引退したイタリアのダヴィデ・レベッリン(ワークサービス・マルキオル・ディナテック)が、交通事故で命を奪われてしまったのだ。

イタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙によれば、レベッリンはイタリア北部ヴェネト州のモンテベッロ・ヴィチェンティーノの州道をグラベルバイクで走行中、トラックにはねられて即死した。警察の捜査で、ひき逃げ事故を起こしたのは、ドイツ人ドライバーが運転していた大型トラックだった事が判明している。

レベッリンは1992年のバルセロナ五輪後に、イタリアの名門GB・MGマリフィチオでプロデビューし、今年10月16日に開催されたヴェネト・クラシック(ヨーロッパツアー1.1)を最後に引退するまで、30年以上プロ選手として走り続けた。
 

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■ 引退レースになったヴェネト・クラシックを最前列からスタートしたレベッリン (©SprintCycling)

 
レベッリンはクラシックに強く、2004年にベルギーのフレッシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュ、オランダのアムステル・ゴールド・レースで3連勝した。

2008年には北京五輪のロードレースで2位になったが、アンチ・ドーピング検査でCERA(第3世代EPO)の陽性になり、銀メダルを剥奪され、2年間の資格停止処分を受けた。

最後のシーズンはイタリアのUCIコンチネンタルチームで活動を続け、10月には地元ヴェネト州で開催されたUCIグラベル世界選にも参加していた。レベッリンの葬儀は12月23日にヴィチェンツァ県ロニーゴの大聖堂で行われ、ジルベルト・シモーニ、フィリッポ・ポッツァート、パオロ・ベッティーニといった旧友たちが別れを告げに来ていた。
 

ロードレースからロシア国旗が消えた

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■ 2月に開催されたUCIワールドツアー開幕戦のUAE・ツアーに参加していたガスプロム・ルスヴェロ。その後はウクライナ侵攻の影響で活動できなくなってしまった (©SprintCycling)

 
2022年は、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻が世界全体に大きな影を落とし、スポーツ界にも影響を与え、ロシアは様々な競技で国際大会から締め出された。国際自転車競技連合(UCI)も連帯の証として本部前にウクライナの旗を掲げ、今年はロシアとベラルーシでUCIのイベントは開催しないと宣言した。

その後、国際オリンピック委員会(IOC)からロシアとベラルーシの選手を競技から除外するようにとの勧告を受けたUCIは、この2カ国のナショナルチームがUCI国際カレンダーのレースに参加する事を許可せず、UCIチームのステータスも撤回した。

この決定で思わぬ被害を被ったのは、ロシア登録のUCIプロチーム、ガスプロム・ルスヴェロに所属していた外国人選手たちだった。ガスプロム・ルスヴェロはジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)に招待される事もあるチームで、今年もイタリアのティレーノ~アドリーアティコとミラノ~サンレモに招待されていたが、UCIの決定により今シーズンの活動そのものができなくなってしまった。ガスプロム・ルスヴェロには、イタリア人選手が7人所属していた。
 

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■ 5月にプロサイクリスト協会のジャンニ・ブーニョ会長と記者会見を行ったガスプロム・ルスヴェロのクリスティアン・スカロニ(左)とマルコ・カノラ(中央) (©SprintCycling)

 
各チームに所属しているロシア国籍の選手たちの活動は制限されなかったが、ツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)を主催するアモリー・スポール・オルガニザシオン(ASO)は、3月に開催したパリ~ニース(UCIワールドツアー)から、公式サイトの成績表でロシア国籍の選手の国旗アイコンを消してしまった。

2022年はもう終わるが、ロシアのウクライナ侵攻は終りが見えない。ウクライナに平和が戻り、全ての国籍の選手たちが不自由なくロードレースに参加できる日が待ち遠しい。
 

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(photo : LaPresse)