2022JAPAN CUP CYCLE ROADRACE ジャパンカップで国内チームが得た経験

目次

ジャパンカップ2022 国内チーム
ワールドチームが惜しみなく力を発揮し、速いスピードで周回を重ね、トップ選手たち自らがレース展開を作った2022年のジャパンカップサイクルロードレース。ワールドチームが順当に勝利をつかんだ中で、国内チームのほとんどのメンバーはスポットライトが当たらない場所で悔しさを飲み込んだ。国内チームが得たものとは。
 

成長へとつなげる経験

3年ぶりにジャパンカップのスタートリストには、ワールドチームだけでなくプロチームなどからも強力なメンバーの名前が載った。
 
93人の出走中、41人が完走。40位までに与えられるUCIポイント圏内には13人の日本人選手が入った。日本人1位というところに価値を見出すかどうかは人それぞれだろうが、今回は新城幸也(バーレーン ヴィクトリアス)が11位でその位置を獲得した。
 
海外チームに所属する日本人選手がレース中にチームのための仕事や自らのための動きを見せる中で、国内選手たちは攻撃というよりも耐える時間が圧倒的に長かったように思う。
 
ジャパンカップ2022 国内チーム

シマノレーシングは中井唯晶(中央)が唯一36位で完走

 
 
レースを終えて、育成チームとして活動するシマノレーシングの野寺秀徳監督は、「実力としては予想どおり」と振り返る。
 
この2年の間、国内チームはコロナ禍によって、ヨーロッパはおろか、アジアツアーでのレースすら出場する機会が失われていた。
 
ジャパンカップ前週には、久しぶりにツール・ド・台湾へチーム右京や愛三工業レーシングチーム、シマノレーシングが参戦(チーム右京だけはアジアの他レースにも出場していたが)。
日本国内のレースとは違う戦略を取らねばならない中でシマノレーシングとしては、台湾では総合9位、10位を獲得。調子のいい状態でジャパンカップに入ることができたが、来日した選手たちの目の色はクリテリウムから違ったと野寺監督は話す。
 
「私が現役のときとは全く別物のレース、別物の展開というのが本戦でも予想されていました。当時のように後半まで7割程度の力で行って、最後の4周から始まるレースというような、読める展開には今年はならないんじゃないかと予想できていたし、やっぱりその通りになりましたよね」
 
適当な逃げを泳がせて、集団がのんびりと周回数を消化するという時間はほとんどなかった。近年のワールドツアーでもそうだが、優勝候補となる有力選手自らが前に行く展開というのがこのジャパンカップでも起こった。
 
トッププロの走りがどれだけ強烈かなんて走る機会がなければおよそ知る由もない。映像を見て少しはイメージができるかもしれないが、やはり実際に走るのとは訳が違う。まずはその経験ができたことを野寺監督はポジティブに捉える。
 
ジャパンカップ2022 国内チーム

台湾で総合9位となったシマノレーシングの風間翔眞も集団から千切れてしまった

 
 
「彼らもレベルの高さは十分認識していたはずの中でのチャレンジしたけど、自分の想像を超えて、集団にすら残れなかった。でもそれが経験できただけでも違う。今回海外選手にボコボコにやられた経験は、ポジティブな意味でものすごく大きかったんじゃないかなと思ってます。世界のトッププロが来て、力を出し惜しみすることなくこのコースを走ってくれた。日本の中ではトップで走っている彼らがそれを経験できたということで、彼らの中でも、彼らが下に伝えていく中でも、すごくいい経験がこのジャパンカップでできてますよね」
 
実際に勝負が決まる最後の局面では、トップの優勝争いをしていた数人、その追走集団、さらに完走した集団と3つのグループに分かれた形となった。それがまさに実力差を示していたようにも思える。
 
最終局面で追走集団に入っていた新城などと比べると、完走集団にいた国内チームのメンバーがレベル的にどうしても見劣りをすることは否応ない事実だ。しかし、「低いレベルの中でもやっぱり成長幅がある」と野寺監督は語る。
 
「集団ごとに明確に彼らの実力が分かるようなイメージだったので、そのステップをどんどん前に上げていかないと。そういう意味でも、本当に自分たちが目指していくものを明確に見せてくれた大会だったんじゃないかなと思っています。
彼らは若いから、自分にはまだまだ成長できるんだって気持ちさえあれば成長していけるし、その中でどこかでその成長曲線を一気に上げられるような選手っていうのが、中には出てくるから」
 

山岳賞の裏側

ジャパンカップ2022 国内チーム

宇都宮ブリッツェン、シマノレーシング、那須ブラーゼンが協力し、振り出しに戻すべく集団を牽引する

 
 
展開に関しては、宇都宮ブリッツェンの清水祐輔監督も同じように考えていたために、最初の逃げにエースの増田成幸を乗せたがった。
「3年前もそうですし、前のように泳がす逃げを行かせて、最後にペースを上げて、ということは最近はないので。そういう逃げに増田を最初から乗せて、逃げ切りトライをしようと思っていて」
 
しかしタイミングを逃してしまい、途中、増田はコフィディスの選手と2人で追走をかけたものの追い付かなかった。その後の展開でも前に乗せられず、結果的にはチームメイトを使って振り出しに戻すこととなった。増田はこう振り返る。
 
「もう出し惜しみせず行ける選手が前に行ったと思いますし、やっぱり脚があっても油断して後ろに残った選手も見てるといたと思うんですよね。僕は逃げようとしていろいろ脚使って戻ってきたタイミングで行かれたんで、ちょっと無理だなと思ったんですけど……。序盤からハイペースのレースでしたね」
 
普段、国内のレースでは最もレベルが高いとされる位置で走る増田だが、強い選手たちと走るレースには目を輝かせ、楽しさを見出すことも多い。
「また面白い展開だったと思いますね。やっぱり毎年同じ展開だとレースつまらないですし。今年はあぁ、いいレースだなと思いながら、そういう気持ちで走ってました」
 
ジャパンカップ2022 国内チーム

山岳賞を取りに行った増田

 
 
また、レースが振り出しに戻ってから、3回目(9周目)の山岳賞を狙いに行った増田だったが、山岳賞は初めて取ったと話し、「やっぱり普段やっていないことってなかなか……」と苦笑いを浮かべた。
 
9周目、トレック・セガフレードやEFエデュケーション・イージーポストが集団をコントロールする一つにまとまった集団で、「そこから飛び出せば山岳賞を獲得できる」と清水監督から無線が飛んだ。
「これは取りに行かなきゃ駄目だなと思って」と、体が勝手に動いたと増田は話す。
 
上りで40秒ほど集団から先行する形となり、増田は後ろからの合流を期待もしたが、コントロールされ切った集団から飛び出す選手はおらず、無理をせず次の周で戻ると無線でやりとりをした。
 
結果として、ブリッツェンは半分の3人は完走を果たしたものの、勝負に絡む展開にチームからメンバーを入れることは叶わなかった。
清水監督は結果を受け入れつつ、やはり野寺監督同様、この貴重な機会に対して感謝を表した。
 
「これが今の実力ですし、3年前もそんな程度だったと思うので、それはそれで近づいてもなく、離れてもなくというか。でも最後の逃げが行ったときに一気にタイム差開いたので。やっぱりここで最後のひと踏みが違うなと思いましたね。
僕らはプロチームやワールドツアーと一緒に走る機会がずっとなかったので、結果云々ではなくて走ることができてすごく良かったですよね。モチベーションにもなるし。やらなくちゃいけないことを世界で常に持って、日本よりもどんどん進歩していってるだろうから、そういったのも見られるし、情報も入ってくる。そういった部分ではやっぱりありがたいですよね」
 
ジャパンカップ2022 国内チーム

完走集団のトップ、15位でフィニッシュした岡本隼(愛三工業レーシングチーム)

ジャパンカップ2022 国内チーム

岡本は、「今日見たものをしっかりイメージしてやっていけば必ず届く範囲だと思いますし、小さなところでできた差がドンとついてしまうのがロードレースだと思うので。ここに甘んじず、貪欲に頑張りたいです」と話す

 

さらに先の本物のトップ

ジャパンカップ2022 国内チーム

ダイボールは自らで脚を使い、最後の勝負の展開に食い込んで3位という結果

 
 
ジャパンカップは、ヨーロッパで走る選手たちにとっては結果が求められる大会。だが、国内チームにとってはまた少し違った挑戦の場だ。コロナ禍になってから、出場できる国内UCIレースでも、今回3位になったベンジャミン・ダイボール(チーム右京)など個人として強い選手は出場していたものの、レースを次々に展開させていくような海外チームの参加はなかった。
 
つまり現在地を確認する機会というのはこのジャパンカップが久しぶりだったのだ。
さらにトップカテゴリーであるワールドチームと走る機会はほぼないと言ってもいい日本のコンチネンタルチームにとって、極めて貴重なレースだったことは間違いない。
 
ジャパンカップ2022 国内チーム

JCLチーム右京に移籍が決まっている山本大喜(キナンレーシングチーム)は、「結局は展開にハマれなかったのも自分の実力なんで、それが今の自分の実力なのかなというのはありますけど、もっと何かできたことがあるんじゃないかって後から思っちゃう部分があって……すごく悔しいです」とレース後に話した

 
 
トップが厳しい争いをする中で国内チームの選手たちが完走できたからすごいなんて褒めちぎるつもりは毛頭ない。国内のレベルはまだまだ低いところにある。それでもこれを機会の一つとして、野寺監督が言うように一歩の成長幅を見込みたい。
ワールドチームだって、今回参加した選手たちはもちろん強いけれども、グランツールのエースを張るような選手たちはもっととんでもない化け物だ。
 
JCLチーム右京なるトップカテゴリーを目指すチームの発足も決まり、ツール・ド・フランスのポディウムに日本人を、という夢も語られた。その化け物たちに挑もうとしているのであれば、少なくとも現実をさらに整理してやるべきことを明確化していく必要があるように思う。
 
日本では特に、資金も選手の数も、選手が肉体的にも精神的にも強くいられる期間だって有限なのだ。