キャニオン・新型アルティメットシリーズをインプレッション

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キャニオン・新型アルティメットをインプレッション

Presented by CANYON BICYCLES JAPAN

CANYON(キャニオン)の軽量万能型ロードバイク「ULTIMATE(アルティメット)」がフルモデルチェンジ。そこで今回は、前作を所有していた自転車ジャーナリストの吉本司が、最高峰の「CFR」、主力機となる「CF SLX」、そして廉価版の「CF SL」の3台を乗り比べ、新型アルティメットの魅力とグレード間の違いに迫る。

キャニオン・新型アルティメットをインプレッション

 

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キャニオン・新型アルティメットシリーズの特徴〜開発コンセプトは「パーフェクトバランス」

キャニオンの新型アルティメット

今やスペシャライズドやトレックといったビッグメーカーに肩を並べる人気を獲得するに至ったドイツのキャニオン。その躍進の出発点となったのが2007年に産声をあげた「アルティメット」シリーズである。そんな同社のアイコン的な存在が、実に7年ぶり(その間ディスクブレーキ仕様を追加)に刷新され、第5世代へと進化した。他社では4年程の間隔でフルモデルチェンジをすることが多いが、それからすると前作はずいぶんと長い活躍だった。ファンは新型の登場を、首を長くして待っていたに違いない。

では、本作のハイライトを見てみよう。開発コンセプトは“パーフェクトバランス”。軽量性、空力、快適性、ねじり剛性、堅牢性など、レーシングバイクに必要な性能を総合的に追求している。

キャニオンといえばミニマルな造けいで性能と美しさを両立しているが、本作ではそれがさらに極められた。デザインはより直線的になり、各チューブのエッジを際立たせることでぜい肉を落としている。当然ながらカーボンレイアップの見直しなども図られ、これにより第4世代よりも軽量化しながら、ヘッドまわりのねじり剛性を15%向上させることに成功している。

空力については「AEROAD(エアロード)」に採用されたステム一体型ハンドルを受け継ぐ。加えてクリアランスを大きくしたフォーククラウンまわりなど、フレーム細部の形状をリファインして空気抵抗を改善。時速45kmの走行時に10Wのパワー削減を実現したという。

前作から7年が経過して、ロードバイクはディスクブレーキと太幅タイヤがデフォルトになった。当然ながら本作も装着できるタイヤは32mm幅までに拡幅。乗り心地の向上はもちろん、昨今ロードレースで登場するグラベル区間での走破性も向上している。

フレーム単体重量は最高峰のCFRで760gだが、キャニオンでは軽量化のみならず堅牢性にも目を向けた。落車で破損が生じやすいトップチューブやシートステー、チェーン落ちで傷つきやすいチェーンステー根元は、カーボンの積層を増して強度を高めている。CFRでは60g、CF SLXでは30g分のカーボンをこれに充てているという。落車のトラブルに見舞われやすい選手のメリットはもちろん、彼らのようにフレームが破損してもすぐに交換できない一般サイクリストにとってはありがたい計らいだ。

5代目のアルティメットは、現行エアロロードがモデルチェンジしたときのような見た目に派手な変化はないかもしれない。しかし前作の基本コンセプトを受け継ぎつつ、軽量オールラウンダーに求められる“今”を地道に突き詰めた姿は、ドイツブランドらしい質実剛健なモデルチェンジと言えるだろう。

キャニオン新型アルティメットのヘッドまわり

キャニオンらしい直線的でミニマルなデザインの美しさは、特にヘッドまわりのフォルムに表れる。前作によりもチューブのエッジがシャープに整えられて、より精悍になった

キャニオン新型アルティメットのフォーク

フロントフォークは特にクラウンまわりがボリュームアップした印象だ。ブレードについても若干太くなっており、ヘッドまわりと合わせてシャープなハンドリングの源になる

キャニオン新型アルティメットのBB

BBエリアは前作と比べると縦方向にボリュームアップしている。その一方で余分な部分のぜい肉を削いだデザインでスッキリとした見た目だ。BB規格はプレスフィットタイプ

キャニオン新型アルティメットのタイヤクリアランス

フォーククラウン内側のエリアは広げられ、空気はスムーズに流れるようになり空力が改善されている。それは同時に、32㎜までのタイヤを履くことを可能にしている

キャニオン新型アルティメットの内装シートクランプ

シートポストの固定小物は、シートチューブとトップチューブの交点の前方に移設された。前作は走行時にネジ部が泥はねなどの影響を受けやすかったが、その心配もなくなった

分割式エアロハンドルの採用

ステム一体構造のカーボンエアロハンドルは、中央のT字型バー(ステム部)と両側のウイング(ドロップ部)が分割される構造により、ハンドル幅を左右それぞれ20mm調整できる

コラムカットなしでハンドル高さの調整可能

ヘッド部の構造もエアロードから譲り受けたもの。5mmと10mmのスペーサーが付属されて、その付け外してステム高さを調節できる。コラム部をカットする作業は必要としない

D型断面になったシートポスト

前作では27.2mmの丸型だったが、本作はD字断面のシートチューブに合わせて専用シートポストを装備する。やぐら部分は、側方からサドルレールを固定するシンプルなタイプ

オリジナルのブラケットとライト

エアロハンドルに装着できる純正のメーターマウントは、それに取り付けられる専用のヘッドライトもある。マウントと一体感が生まれるようにデザインされて、美しい見た目だ

テールライト取り付け可能

シートポストの背面には専用テールライトのブラケットをネジ止めできる。ランプは固定バンドなどを使うことなくスマートに取り付けられる。もちろんその着脱も容易だ

1モデルを除きパワーメーターを標準装備

CFRからCF SLまで3グレードの完成車には、最も手ごろなCF SLの1モデル以外、パワーメーターが装備される。シマノコンポはシマノまたは4iiii、スラムコンポはクォーク製だ

 

3つのグレード&今回試乗するバイク

キャニオン・アルティメットCF SLX 9 DI2

キャニオン・アルティメットCF SLX 9 DI2(シマノ・デュラエースR9200完成車) 価格:104万9000円(税抜・送料別) 写真のサイズ:M(適応身長目安:178-184cm) 参考重量:6.76kg(ペダルなし)

キャニオン・アルティメットCFR DI2

キャニオン・アルティメットCFR DI2(シマノ・デュラエースR9200完成車) 価格:125万9000円(税抜・送料別) 写真のサイズ:M(適応身長目安:178-184cm) 参考重量:6.32kg(ペダルなし) ※写真の自転車はホイールにシマノ・WH-R9270-C36-TLを装着しており、実際の完成車の仕様と異なります

キャニオン・アルティメットCF SL 8 エアロ

キャニオン・アルティメットCF SL 8 エアロ(シマノ・アルテグラR8100完成車) 価格:59万9000円(税抜・送料別) 写真のサイズ:M(適応身長目安:178-184cm) 参考重量:7.48kg(ペダルなし)

 

アルティメットシリーズは、最高峰のCFRから廉価版のCF SLまで、フレームの基本設計は共通。カーボン素材の質などが異なり、当然上位ほどに軽量になる。さらにCFRではシートポストもゼロオフセットタイプとなり、さらなる軽量化と前乗りが可能になった(他は20mmオフセット)。SLグレードは下位2機種(CF SL8、CF SL7)が、SLの上位機種とフレームセット、ハンドルセットの仕様に違いがあり、オイルラインが外出し式だ。CFRのみフレームセット(STI&ディスクブレーキキャリパー装備)の設定がある以外は、全て完成車での販売となる。

 

インプレッション〜情熱的だけど冷静沈着な走り

新型アルティメットを吉本司がインプレッション

インプレッションライダー:吉本 司。フリーの自転車ジャーナリスト。キャニオンは日本で販売される以前の2007年に、初代アルティメットCF SLXを購入。恐らく国内在住の日本人で初めてのキャニオン所有者。以降5台を自費購入。これまで同社のロードプロダクツのほぼ全てを試乗している。

 

3グレードに共通するキャラクター

第5世代を初めて目にしたとき、7年前にスペインで開かれた第4世代のアルティメットCF SLXのプレスキャンプに足を運んだときの第一印象が思い出された。「新型はどこが変わったんだろうか……」。第3世代→第4世代のモデルチェンジでそう感じたのだが、第4世代→第5世代は、それ以上に一見した違いは少なく思える。とはいえ、新旧を見比べると、シャープさを際立たせ新型は、旧型よりもスマートでシャープな走りを連想させる。

実際の走りも、そんな期待を裏切らない。試乗はCF SLグレードから開始してステップアップしていったが、CF SLでさえ、私が所有していた第4世代(CF SLXグレード)の走りを凌駕したように感じる。シリーズに共通している走りは、走りの軽さが際立つのに、バイクを自分のコントロール下にしっかりと置けることだ。ひと言で表すのなら“情熱的だけど冷静沈着”な一台とでも言おうか。

 

中核グレード CF SLX

自転車全体の剛性に一体感があり、ペダリングの感覚もとても軽くクリアだ。パワーポイントからストンと脚が自然に軽く落ちてゆく。それがそのままストローク後半(6時以降)につながり、きれいに円運動の連続によりパワーを発揮しやすく、ケイデンスも維持しやすい。ハンガーエリアの剛性は高いと思うのだが、不思議とその剛性感が散らされていて脚への負担は少ない。

このペダリング感覚にバイクの動きの軽さが絶妙なマッチングをみせる。低速域から加速の軽さは際立つ。吹けの良い車のエンジンのように、ペダルを踏み込むたびにシュンシュンと加速するように快感を覚えるはずだ。この軽やかさは上りで確実な武器となる。勾配変化、つづら折りのコーナーを抜けるときの“チョイ踏み”などでも脚を使わされず、もちろんケイデンスを維持しながらシティングでテンポを刻みながら進む走りも軽やかだ。

そんな振る舞いがありながらも、路面をしっかりと捉える感覚に長けていて、安定して力強く進もうとする。軽量車のようなひらひら感、ペダリングトルクが抜けてしまうような印象はない。恐らくリヤセクションの剛性バランスが良いのでバイクが上手く押し出すのだろう。それは平地の高速域では力強さにつながり、それもまたヒルクライムでのテンポの良い走りを生む一端だ。

走りのシャープさはハンドリングの切れの良さにも要因がある。前作よりも明らかにクリアでありながら、路面追従性や乗り心地の良さによって動きが抑制もされている。下りをはじめとする高速域のコーナリングも舵角がスパッと決まり走り抜けられる。そしてフロントセクションの剛性感も適切なので、ダンシングでのバイクのさばきは軽く、それが平地における加速、上りのリズミカルな走りにつながってくるのだ。

太幅なタイヤの効果を差し引いても乗り心地はレーシングバイクとして高い領域にあるし、エアロハンドルの装着によりフロントセクションの空力が改善したことで、下りでは前作よりも空気の抜けの良さも感じられる。軽量オールラウンダーとしての隙という隙はなかなかにして見当たらない。走りの癖は一切感じられず、恐らくどんなライダーが乗ってもフィットしやすい、スイートスポットの広いライディングパフォーマンスを備えている一台だろう。

 

最上級グレード CFR

CF SLXにそんな好印象を持つと、CFRの伸びしろはどうだ? と不安に駆られるのだが、確実にアドバンテージが上乗せされている。軽量になったことで動きはさらに軽くなり、しかも走りは奥深くなった。ペダリングフィールはCF SLXよりもバネが生まれ、筆者の脚力ではよりトルクをかけやすくなり、さらに気持ち良くペダルを踏める感覚が強くなった。そしてそれはヒルクライムでの走りの軽さ、加速の鋭さに色濃く反映される。いつも上りが憂鬱な筆者だが、CFRに乗るとその気分は明らかに霧散される。

760gという重量以上の走りの軽さがあるというのに、危うさを微塵も感じさせないのだ。乗り心地はレースバイクとしては抜群に良く、下りでの腰高感は皆無。コーナリングなどの横Gにはバイクが路面に粘るようにコンタクトして、安心・安定感が得られて下りもガンガン攻められる。とかく軽量モデルというと何かを失うこともあるが、CFRは軽量化のネガが一切なく、全てのパフォーマンスが向上している。フラッグシップとしてふさわしい“究極のなかの究極”だろう。

 

ベースグレード CF SL

CFRの性能に興奮しきりだったのだが、CF SLのパフォーマンスの高さにも驚かされた。CF SLXと比べて肉厚のあるフレームであることが分かるペダルの踏み心地なのだが、その感覚と一致しないような走りの軽さ、ペダリングフィールの軽やかさに一瞬とまどいを覚えた。そして、車重も上り以外では感じにくい。CF SLXと比べると加速のシャープさは薄味だが、それでもかなりレベルは高い。無駄な力を使わず流れるような感覚で進むし、ペダリングトルクもかけやすいし、乗り心地はCF SLXよりも良い印象すらある。こうしたライドクオリティは、その価格と一致しないほどに優れている。試乗車のホイールはエアロモデルだったが、リムハイトを抑えたモデルを装備すれば、ヒルクライムの戦闘力は高いだろうし、「これでレースをしてね」と言われれば、「はい、喜んで!」と笑顔で答えられる。

 

総括〜「パーフェクトバランス」といううたい文句にはうなずくしかない

こうして新型アルティメットシリーズに乗ってみると、メーカーが唱える「パーフェクトバランス」といううたい文句にはうなずくしかない。走りの軽さが際立ったキャラクターは、同社のエアロードとしっかり差別化ができている。ヒルクライムやグランフォンドなど勾配変化の大きなコースで楽しむ、長距離で体の負担を抑えつつ速さを求めるようなサイクリストにとって理想的な存在と言えよう。そして3グレードで走りのキャラクターがブレないので、自分が無理せず買えるモデルを選べば、すてきな相棒になってくれるだろう。

そのときの時代背景に影響される面もあるとはいえ、メーカーによっては車名こそ同じだが、前作の面影すらないモデルチェンジも少なくない。それからするとアルティメットは、派手さはないものの地道なモデルチェンジによって性能を突き詰めている。それはまるでドイツの自動車メーカーのようであり、目指すべき性能やデザインの基本コンセプトがしっかりしているからに他ならない。5代目のアルティメットシリーズは、見た目の変化以上に実利の大きなモデルに仕立てられていると言えよう。