サーヴェロ新型S5 空力、快適性が向上

目次

S5

マイナーチェンジのようなフルモデルチェンジ

先日閉幕したツール・ド・フランスでヨナス・ヴィンゲゴーが総合優勝を果たし、さらにはウァウト・ファンアールトの超人的な活躍の末のポイント賞獲得も記憶に新しいが、その走りを支えたのがサーヴェロだ。

 

ユンボ・ヴィスマのジャージ

 

ツールでは、主に軽量オールラウンダーのR5が使用されたが、平坦ステージではエアロロードのS5が投入された。

そのS5に新型が登場した。
代理店から事前に送られた資料を見たとき、現行モデルとの違いが分からず、間違い探しのように2枚の写真を見比べた。 さて、新型はどのように進化したのか……?

 

ポイントは空力と快適性

今回のモデルチェンジでのキーポイントは2つ、『空力性能』と『快適性』の向上だ。

まず、最も目を引くV字型の専用ステム。 これは前作から採用されている形状だが、V字の開き角が変更され、前作よりも20mmほど狭くなっている。 それにより、空気抵抗が軽減するだけでなく、ハンドルバーの左右の飛び出し幅が長くなることでわずかにしなりが生まれ、快適性の向上にも役立っているそうだ。
また、前作ではステムを上げる際のスペーサーは別売りで、さらにスペーサーの厚みごとにステム固定ボルトの長さも異なっていたのだが、新型ではスペーサーは付属、ボルトの長さも1種類に統一された。
ステムとバーの接続位置が変わったので、前モデルとステムやバーの互換性はない。

ハンドルバーも刷新され、ブレーキレバーからハンドルバーへの手の移動がスムーズになるような形状に変更された。
また、前作ではシムを噛ませる事でバーの送り角を0°、2.5°、5°の3段階に調整していたが、新型では2本のボルトで無段階に0〜5°の範囲で調整できるようになった。

 

S5のハンドル周り

S5のアイコンとも言えるハンドル周り。外見上は前作と変わらないように見えるが、互換性はない

 

特徴的なヘッド周りは、一見、前作との違いが分かりづらいが、構造は完全に一新されている。
前作ではフォーククラウンから生えたシャフトをヘッドチューブの下から通し、上から別パーツのフタをする構造だったのだが、新型ではクラウンを『コの字』型とし、上からボルト(シャフト)で固定する構造になっている。
構造がシンプルになったおかげで、ヘッド周りで53g軽量化されている。
これは推測だが、この部分が一体化することで、剛性面でも有利になるのではないかと思われる。
また、前出のステムの固定ボルトの長さが1サイズに統一できたのも、この構造変更のおかげだそうだ。

 

新型S5のヘッド周り

新型S5のヘッド周り。フォーククラウンからの伸びる『コの字』型のステーでヘッドチューブを挟み込む

前S5のヘッド周り

前作のヘッド周り。ヘッドチューブの下からフォークを差し込んで、上からフタをする構造

 

ヘッドチューブとフォークの形状も変更され、UCIの『3:1ルール』の緩和によって、ヘッド部分の前後長をボリュームアップし、よりエアロな形状になている。
同様に、シートチューブとトップチューブの接合部、シートチューブとダウンチューブの接合部の『フィン』もボリュームアップしている。

 

S5のヘッド回り横

前作と比べて大幅にボリュームアップしたヘッド周り

S5のヘッド回り正面

ただし、ボリュームアップしたのは前後長だけで、左右幅はよりスリムになった。上下異径のベアリングは、上は一般的な1-1/8だが、下は1-3/8という特殊サイズ

S5のフォーク

UCIの『3:1ルール』の緩和によって、フォークブレードはより薄く。空力性能の向上とタイヤクリアランスの確保が可能に。

S5のBB

ボリュームアップされたBB部。ベアリングにはセラミックスピードを採用

 

さらに新型では、設計時に基準とされたホイールが完成車にアッセンブルされる。
この『リザーブ』というブランドは、サーヴェロとサンタクルズが共同で興したブランドで、空力のテストやロードモデルの設計はサーヴェロが、強度テストやMTBモデルの設計はサンタクルズが、という具合に、各メーカーの得意分野を持ち寄って造られる。
新型S5は、このリザーブのホイールと28mm幅のタイヤを装着した状態での空力設計を行っており、つまり、完成車状態が最もS5の空力性能を発揮できる、ということだ。
リムハイトは前輪52mm、後輪63mmが装備されるが、この前後のリムハイトの違いも、空力テストの結果、ベストと思われる高さなのだそうだ。
空力設計上は28mm幅のタイヤがベストではあるが、フレームのクリアランスは実測34mm幅のタイヤを許容する。
これは、近年のタイヤ太幅化にならうもので、走行性能だけでなく、快適性の向上にも寄与する。
これにはチームからの要望もあったようで、前作S5ではタイヤ幅が25mmだったのだが、チームで使用している他モデルのR5やカレドニア5では28mm以上のタイヤを標準としており、レースで選手によって使用モデルが異なると、28mmタイヤのホイールとS5用の25mmタイヤのホイールを用意しなければならず、準備に手間がかかるので、統一してほしいとの意見があったそうだ。
太幅化による快適性の向上もあり、ファンアールトは今年のパリ〜ルーベの試走は新型S5で行っていたそうだ(ただしレース当日は雨だったのでカレドニア5で出走)。

 

 

S5のリヤ

『リザーブ』のホイールを基準に設計された新型S5。最大34mm幅のタイヤを許容するため、シートステーは根元から左右に張り出す形状に変更された。試乗車のタイヤはパナレーサー・アジリストだが、市販車ではヴィットリア・コルサTLRの28Cが採用される

 

フィッティング面では、全4サイズのうち、大きい方の2サイズ(56、54)に関してはシートポストのオフセットが15mmに変更された(前作は25mm)。
これは、近年の前乗り傾向を考慮してのこと。

 

S5のシートポスト

56サイズと54サイズには15mmオフセットのシートポストが採用される。51サイズと48サイズは0mmオフセット

 

細かい部分では、新型S5は完全に電動変速+油圧ディスクブレーキ専用となっており、機械式変速や機械式ディスクブレーキでのワイヤリングには対応していない。
電動変速専用と割り切ることで、リヤエンド周辺の設計も一新し、これも快適性の向上に一役買っているそうだ。

ラインナップは完成車4モデルとフレームセット。
カラーはサファイア/アイス(パープル)、ファイブブラック、タイガーアイ(レッド)の3色だが、製造ラインの都合上、タイガーアイは入荷が遅れているそうだ。
気になる価格だが
スラム・レッドeタップAXS完成車:220万円
シマノ・デュラエースDI2 R9270完成車:214万5000円
スラム・フォースeタップAXS完成車:163万9000円
シマノ・アルテグラDI2 R8170完成車:160万6000円
フレームセット:96万8000円
※全て税込

メディア向けの試乗会では、乗った全員が「これは速い」と口を揃えた新型S5。
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