Fumy’s eye 別府史之が見た世界 étape19

別府史之が見た世界19

本場ヨーロッパで活躍するプロロードレーサー・別府史之選手の「今」を、本人の言葉で読者の皆さんにお伝えする連載。今回は、ツール・ド・ポローニュ、ベネルクスツアーと続いたレースやその合間のトレーニングなどについてお届けします(編集部)。

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Bonjour!
こんにちは、別府史之です。

最近はレースとトレーニングで忙しい毎日を過ごしています。特にベネルクスツアー前のトレーニングの日々は……SNSで気軽に近況報告する余裕さえないほどでした!

いやぁ、ほんとに、練習漬けだったんです。7月末のツール・ド・ワロニーから8月中旬のツール・ド・ポローニュまで、そしてポローニュから8月末のベネルクスツアーまで、レースの合間はひたすらトレーニングしてるだけ。練習のない日だってただ寝るだけ、休むだけ、みたいな。あとは家事と子供の世話をしたら1日が終わっちゃう。他のことをする気力も余裕もなかった。

ツール・ド・ポローニュ

ポーランドが暑かったし、時差ボケ……になっちゃったせいでもあります。あそこはレースが始まるのが午後3時、終わるのが夜7時半と時間がずれてるので、少し身体のリズムが狂っちゃうんです。家に帰ってからも起床時間が戻せなくて、朝10時くらいまでだらだら寝ちゃったり。無理して普段どおりに起きたら、疲れちゃったり。

なんだか廃人みたいでしたね(笑)。もしかしたらレース中のほうが、選手って気持ちに余裕があるかもしれない。ホテル暮らしだから料理や家事をしなくていいし、集中しているせいか気力もみなぎってるというか。でも家に帰れば細々とやることもありますもんね。トレーニングに励んで、子供の世話や家のことをやったら、あとは音楽を聞いたり動画を見たりしながらぼんやりしてました。ひたすら頭を使わなくてもいい活動だけです。

それだけ練習でかなり追い込みましたからね。距離やFTPの練習はもう済んでいるので、近頃はとにかくインターバル。レースで耐えるための強度を鍛える練習です。おかげで自転車での調子自体は、ワロニーの時よりははるかにいい。本来ベネルクスツアーに向けて調子を上げてきていたので、ピンポイントでコンディションが合わせられたなと感じてます。上々の仕上がりです。

別府史之が見た世界19

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ところでベネルクスツアーって、オランダの平坦、フランドルのクラシック、ワロンの起伏の3パターンが登場するんです。最初はオランダです。開幕前に練習で走りましたが、本当にひたすら平坦で、道は真っ直ぐで、天気は悪いし、横風も強い。しかも道の周りにはなにもないし。いや、これって、どうなっちゃうのかな……って。とにかく様子をしっかり見ながら、風が吹いても集団にへばりついていくしかないですね(笑)。

「スイミー」っていう絵本の話じゃないですけど、自転車レースって、集団の中で走るのがすごく大切ですよね。ここまでド平坦の場合は、極力プロトンにへばりついていき、分断されないように心がける。それが鉄則です。

別府史之が見た世界19

集団走行って、たしかに、日本ではなかなか習得できないです。僕もヨーロッパで鍛えられました。というのは日本ってそもそも道幅が広いまま変わらないし、レーススピードも欧州に比べれば遅いし、集団の人数も密度も低い。だからレースの時も前に出ようと思ったら、すぐに前に出られる。一旦前に出たら、ずっと前に留まっていられる。

でもヨーロッパだと、道幅ひとつとっても、狭くなったり広くなったり。状況はころころ変わる。だからこちらに来た当初、自分では「よし、前に上がれたぞ」と思っても、ふと気が付いたら「あれ! いつの間にか後ろに下がってた!」っていう状況になっちゃってた。だからって後ろから前に上がる、後ろから前に上がる、って繰り返していると体力的にものすごく負担になる。

で、上手い人というのは、真ん中から前のほうにずっといられるんです。体格がいいから前にいられるわけじゃないです。もちろん体格を使って割り込んでくる選手もいますけど、それって結局は、体力を無駄に使っちゃうことになる。ハンドルテクニックも重要ですけど、むしろ集団の流れを読むことが大切です。対流というんですかね。集団の流れ、風の流れ。コーナーでの伸び縮み。もちろんチーム単位の流れも重要ですが、カオスになった時の選手個々の流れも見る必要がある。そういう「流れ」が読めるようになった時に、ああ、自然に前にとどまれるな、っていう感覚になりました。

別府史之が見た世界19

 

別府史之が見た世界19

 

だから今回のツール・ド・ラヴニール(若手の登竜門とされるレース)に、アンダー23日本代表が欧州での準備がないまま出場したのは、なかなか難しい状況だったでしょうね。欧州で走り慣れてない。そういう印象を受けました。しかも代表レースで、コロナ禍ですから、他にも走り慣れていない国や選手が多かったはずなんですよ。落車に巻き込まれた選手が多いのは、そういう理由もあると思います。

僕もアンダー23でヨーロッパに乗り込んで、最初はただがむしゃらに走っていました。フランスアマチュアの一番下の、レジョナルレベルだと、そのがむしゃらな走りでも行けるんです。普通に身体的ポテンシャルがあれば勝てる。でもレベルが上がってエリートレースになってくると、レースの展開を読めないと勝てないどころか、そもそも満足に走ることさえできない。パワー任せでは無理なんです。しかも、そこまでくるとプロトンの流れを読むだけでは足りず、加えて戦略というのも必要になってくる。チーム単位での仕事が欠かせなくなってくる。なるほどな、個人で戦うレベルじゃないんだな、と分かるわけなんです。もちろん頭では分かっていたことでしたが、やはり身体がついていかないとどうしようもない。だから僕の場合は、実際にレースを走りながら学んでいった物事が、一番身につきましたね。

別府史之が見た世界19

おかげさまで今現在はレース遠征中なので、久しぶりに本を読む気力も戻ってきました。今回のベネルクスツアーに持ってきたのは、伊坂幸太郎さんの『AX』という小説です。伊坂さんは昔から好きで、作品はいくつも読んでます。『AX』は特に主人公が僕となんだか良く似ていて……分かる、分かる、と共感しながら読み進めてるところです。

読書は良くしますね。紙の本で読みます。タブレットの中にも雑誌とかいろいろ入れてますけど、活字は紙の本で読むほうが多いかな。だから日本に帰ると何冊も買ってフランスに持ち帰ります。小説用にはレザーカバーもつけます。長年愛用しているカバーですよ。結構手に汗握っちゃうんで、本屋さんでつけてもらう紙カバーだと、破れちゃうこともあるんです。今レースにもカバー付きで持ってきてます。

実は日本に返った時は、あまり本を読もうという気分にはならなかったりします。日本の文字がいたるところにあふれているから、わざわざ読む必要がないと言うか。でもヨーロッパにいると、日本の文字を読みたくなる。ウェブやツイッターでもいいんですけど、でも小説を読んで、文字から情景を想像していくのが好きです。文字で読む、というのは想像力を高めてくれる作業だと思います。

あとインターネットでは調べれば色々と簡単に出てきますけど、その調べるきっかけをくれるのも、僕の場合は紙の書籍です。だって調べるというのは、自分が興味持ったものだからこそ色々と調べるわけじゃないですか。でもネットの中だけで新しい発見をするのは難しい。幅広い視野で色々な情報に触れるためには、やはり紙の本って大切かな。昔の本を掘り出して読んだりもします。

そういう意味では、集団走行も同じかもしれないですよ。ただ前だけを、一点だけを見ていたらダメということです。ほんとです。前だけ見てたら、気がついたら最後尾、自分の後ろには誰もいない、なんてこともありますから。あらゆる方角にアンテナを張り巡らせる。色々な情報を常に探し求め、考える。そんなことが応用できるのかもしれないです。

別府史之が見た世界19

ここのところチームも好調でいい感じですね。ブエルタ・ア・エスパーニャではチームメイトのマウヌス・コートニルスンが3勝してるし、ここベネルクスツアーではステファン・ビッセガーが個人タイムトライアルで勝ちました。やっぱりこれもハードなトレーニングの成果なのかもな……なんて思ったりしてます。僕もこうしてレースをいくつも転戦して、ステファンの総合リーダージャージのために働いて、ハードな練習を積んできた甲斐があった。シーズン前半は、一時帰国のせいもありほとんどレースには出てこなかったので、特にそう実感してます。

別府史之が見た世界19

別府史之が見た世界19
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これからも9月、10月とレースが複数スケジュールに入ってます。いまだにコロナウイルスの影響で中止になったレースもありますけど、ありがたいことに僕はたくさん走らせてもらえそうです。しばらくはまだレースとトレーニングの日々が続きます!

それでは、また。

別府史之

 

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(宮本あさか)