安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.8

目次

安井スーパーシックスエボ8

徹底評論第13回は、近年稀に見る「衝撃のモデルチェンジ」となったキャノンデール・スーパーシックスエボである。アメリカでのローンチイベントに参加し、帰国後も日本で何度も試乗を行い、さらにこの連載のために新型エボの全モデルに(ホイールを統一して)乗った安井。新世代万能ロードに関する考察をしながら、新型エボを分析・評価する。

vol.1はこちら

 

エボらしい登坂性能は健在

まずは①から。デュラエースDi2に新設計のホログラム45SLノットホイールを組み合わせた100万円オーバーのトップモデルである(現在はディスコン)。
印象はアメリカで感じたものとさほど変わらず。前作のような鋭さを武器とするのではなく、加速はややおとなしめ……というよりスムーズになった感じ。純粋な加速性能ではヴェンジよりわずかに劣るが、レベルは間違いなく高い。

巡航性能も非エアロロードとしてはかなり優秀だ。さすがにシステムシックスやヴェンジクラスには及ばないが、もうエアロロードと言ってしまっていい高速巡航性能を持っている。
登坂性能はヴェンジよりエボが勝っている。純正ホイールだとさすがに峠道で輝いたご先祖ほどの登坂力は見せてくれないが、軽いホイールDTスイス・PRC1100ダイカット35ディスク)を履かせると(=④)カンカンに反応するようになり、どんな斜度でもリズミカルに上れるようになる。コンセプトがエアロ寄りになったとはいえ、登坂性能には妥協していないのだ。スーパーシックスエボの面目躍如。
総じて、動的性能は最新ハイエンド万能ロードとしてトップクラスにあると言っていい。

安井スーパーシックスエボ8

気になったのはハンドルセットの剛性感である。硬すぎるのか、変形のプロセスが不自然なのか、もしくはヘッド周りの剛性バランスが原因か、ダンシングでバイクの振りがややギクシャクする印象だ。直進⇔転舵、シッティング⇔ダンシングの度に微舵修正が必要になる感じ。ハンドルセットを含めたヘッド周りの剛性感の煮詰め不足が原因だろうか。エボが採用する専用ハンドルは、通常のハンドルセットとはステムへの固定方法が完全に異なる。それが影響したのかもしれない。ただ、欠点としては小さく、気にしない人なら気にならないレベルだろう。

快適性についてはやや特徴的だ。筆者はアメリカで乗ったときから、動的性能に対して快適性が非常に高いという印象だった。しかし、日本で一緒に試乗した某選手は「縦に硬い」としきりにこぼしていた。
なぜだろう。同じバイクに同じ場所で乗って印象が真逆になるなんてことがあるのだろうか。いろいろと注意して試乗しているうちに、その理由が分かってきた。

 

乗り手によって変わる“快適性評価”

要は、「自転車がどこで振動を吸収しているか」、そして「人間はどこで振動を感じているか」なのだと思う。
人間とバイクの接点はハンドル、ペダル、サドルの3点。
例えばここに「前乗りでサドルが高くハンドルが低く、常用パワー域が高くガンガン踏んで走るライダー」がいるとする。当然、大きな荷重はペダルにかかり、次にハンドルだ。踏んでいればサドルから荷重は抜け気味になる。そういうライダーが言うところの“快適性”とは、ハンドルとペダルに伝わってくる振動によって判断されるはずだ(サドルにどっかり座っていないのだから、サドルに伝わってくる振動に対しては鈍感になる)。
一方、「後ろ乗りでサドルが低くハンドルが高く、それほどパワーを出さずに淡々と回して走るライダー」がいたとする。荷重はサドルに集中する。そういうライダーは、快適性をサドル部の振動で判断するだろう。
先述の選手は前者、筆者は後者である。というか、快適性を評価するときには無意識にペダリングを止めて凹凸を通過し、そのときのサドル部の振動の大きさや減衰特性を感取していた。自ずと「サドル部メインの快適性評価」となっていたことは否めない。

試しに、エボでハンドルとペダルに荷重した状態で段差を超えてみた。思った通り、ガツンという振動が足に届く。なるほど、と思った。要は新型エボ、操安性と動力伝達性を確保するために、ハンドル周りとハンガー周りは結構硬いのである。一方、ドロップドシートステーによって柔軟性を高めたサドル部は柔らかいのだ。

要するに「どこで快適性をセンシングするか」で評価は変わるのだ。
新型エボのサドル部の快適性は非常に高く、一昔前のエンデュランスロードレベルにある。アメリカで「特にリヤセクションの快適性が高い」と感じたのはこれが理由だ。一方、ハンドルとハンガーにはそれなりに振動が伝わる。
タラーッと流しているとき(=サドル荷重)は快適だが、ガシガシと踏んでいるとき(=ペダル荷重)は、快適性がやや減ずる。そういう振動特性である。

この「3点の振動配分特性」は、メーカーによって様々だった。例えばウィリエールのゼロSLRやスコットのアディクトRC、BHのG8などは、3点に伝わってくる振動感に差がなく、「どんな走り方でもそれなりに快適性が保たれる」という作りだった。剛性確保セクションと振動吸収セクションを明確に分離させているドマーネやルーベなどは、さらに極端な特性になっているのではないかと推測する。
読者の皆様も、試乗の際には3点の振動を感じ分けてみると面白いと思う。「自分がどこで快適性を感じているか」、そして「自分の走り方にはどんな快適性案配が適しているか」を意識することで、自分が求めている快適性が選びやすくなるからだ。

安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.9に続く