安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.7

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安井ドグマF8-7

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。vol.7

 

“ナノアロイテクノロジー”とは一体何なのか?

安井ドグマF8-7

この樹脂とは、もちろん例のナノアロイ技術を用いたものである。しかし、ピナレロのカタログを読んでも雑誌をめくっても、ナノアロイの正体が一体何なのかよく分からない。東レのホームページに説明が載っているが、「複数のポリマーをナノメートルオーダーで微分散させることで、従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる当社独自の革新的微細構造制御技術です」と、残念ながら筆者のような素人にはほぼ解読不能である。東レの担当者に、分かりやすく説明してください、とお願いしてみた。
 
「ナノアロイとは、モノの名前ではなく、技術(作り方)の名称です。特性の異なる2種類の樹脂を混ぜて破壊強度の高い樹脂を作るんですが、そのとき『混ぜ込む樹脂をいかに均質に同じ密度にするか』が大切なんです。均質にすることで、元々の樹脂の特性と混ぜ込んだ樹脂の特性を、最大限に発揮させることができるようになります」
 
『特性の異なる樹脂を均質に混ぜ、破壊強度の高い樹脂を作る技術』- これが“ナノアロイ”の正体である。ピナレロは、そのナノアロイテクノロジーを採用している自転車ブランドとして有名だが、そのナノアロイテクノロジー自体も進歩している。

 

「壊れても分断しにくい」から「そもそも壊れにくい」へ

「T1100Gに合わせて、新しいタイプの樹脂を開発しました。これまでのナノアロイ(高衝撃タイプ)は、<素材が衝撃を受け、破壊が始まり、完全に破断する>という一連の破壊プロセスの中で、完全に分断されるまでのねばりが強いことが特徴でした。クラックが生じるときの荷重の大きさ(強度)は通常の樹脂と同じですが、『完全に壊れてしまいにくい』という素材だったんです。T1100Gには、さらに新しいナノアロイ技術を用いた樹脂(高強度タイプ)が使われています。その特性は、『破壊が始まる荷重』がより高くなっていること。つまり、強度が上がったんです。通常の樹脂を使用したプリプレグと比較して、破壊強度が20%ほど上がっています。ちなみに、完全に破壊されるまでのねばりは通常の樹脂と同じです」
 
今まで使っていた高衝撃タイプは、クラックが入ってから完全に分断されるまでによくねばるというもの。今回の高強度タイプは、クラック自体が入りにくいようになったもの。「壊れるがバラバラになりにくい」から、「そもそも壊れにくい」に進化したというわけだ。T1100Gの「強度が高い」という性能を、樹脂の面でも最大限に活かす作りとなっているのである。
  

言い換えれば、繊維の面でも樹脂の面でも強度を上げたのだ。とにかく「壊れにくさ」を追求したプリプレグだといえる。