パリ2024五輪・日本自転車初の金メダル濃厚!!  男子トラック短距離/太田・中野・長迫・ブノワに聞く

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男子トラック2024.3

現在、トラック競技における日本男子短距離チームには、破竹の勢いがある。昨シーズンは全ての世界大会にて優勝を含む表彰台を獲得。今年2月は、世界選手権に次ぐレベルの世界大会、ネイションズカップ第1戦でもスプリント優勝、ケイリン2、3位、チームスプリント2位と五輪種目で確かな結果を残している。

このオリンピックイヤーに圧倒的な強さを見せる、日本トラック短距離チーム。日本自転車界で初となる五輪金メダルが、いよいよ濃厚になってきた。パリ2024オリンピックで必ずや活躍するだろう注目の男子3選手、太田海也、中野慎詞と長迫吉拓に、そして彼らを率いる世界の闘将ブノワ・ベトゥ氏に、ネイションズカップ第2戦・香港大会を前に話を聞いた。

 

太田海也/彗星のように現れ、その身体能力であっという間に世界トップに

男子トラック2024.3

太田海也(オオタ・カイヤ)24歳、岡山県出身

出場種目:スプリント、ケイリン、チームスプリント

所属:チーム楽天Kドリームス/競輪選手

チーム公式プロフィール: 
https://keirin.kdreams.jp/team-rakuten-kdreams/riders/kaiya-ohta/

 

2023年 アジア大会 スプリント優勝

2024年 ネイションズカップ第1戦 スプリント優勝

2024年 ネイションズカップ第1戦 ケイリン3位

2024年 ネイションズカップ第1戦 チームスプリント2位

男子トラック2024.3

 

【圧倒的な強さと明るい人柄、世界が驚く才能を持つ、新世代の自転車競技選手】

2023年、ネイションズカップの初戦から2戦連続でスプリントでのメダルを獲得。アジア大会ではスプリントで金、そして2024年初戦のネイションズカップでスプリントで金メダル、ケイリンで銅メダルをとった太田海也。その圧倒的な身体能力で、一気に世界のトップへと上り詰めた。

ボート競技で挫折し、サイクルショップ店員から競輪界へ。世界デビュー戦でメダルを獲得し、1年で世界トップ選手になった異色の経歴。競輪界の若手最高峰のレースであるヤンググランプリ2023でも、他選手を寄せ付けないぶっちぎりの走力で勝利した。

スプリント、ケイリン、チームスプリントの第二走として、短距離種目全てでメダルを狙う。常ににこやかでフレンドリーな立ち振る舞いは、前時代の競輪選手のイメージをとことんまで覆す。今、最もオリンピック金メダルに近い日本人自転車選手だ。

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ーーボート競技選手からサイクルショップに就職、そこから競輪選手になった経緯について簡単に?

ボートをしていたので、体を動かすことはすごく好きでした。ですがボート競技をやめてから、競技をしていたからこそ、もう競技をしたくないという気持ちがありました。ロードバイクに乗って心拍数がドキドキするのも「あの時の感じだ」と思って嫌になるぐらいストレスがあったんです。

ですがその中で、気持ちを縛られずに趣味として自転車に乗っていると、それがすごい楽しくて。むしろ競技をやりたい、どんどん「やっぱりやりたい」ってなってきて。僕って本当に体を動かすことが好きだったんだなって改めて気づいて。

(ショップの)仕事の前にも乗って、仕事の後にも乗って、そうすると仕事してる時間がすごい苦痛に感じだして。だったら日本で自転車乗るのを仕事にできる、食べていけるのは何かってなった時に、ロードのプロ選手になるか、競輪選手の2択がバーンって出てきて。

その中で自分の体に合うと思ったのが競輪でした。短距離種目が自分に合うっていう、誰にも全く言われたことなかったけれど、わからないけど絶対いけると思いました。競輪用のピストバイクなんて触ったこともなかったですが、競輪だったら絶対いける、俺は絶対短距離だったら誰にも負けないと思い、競輪選手養成所に入りました。

 

ーー昨年、初出場だったネイションズカップ第1戦(2023年2月/ジャカルタ)でスプリント2位獲得。突然現れいきなり強い選手という印象です

初めての世界レース、ネイションズカップの参加で、ケイリン/スプリントの個人戦もちゃんと出るのは初めてでした。そこで初めて銀メダルを取れたときは、正直そこまでいけるとはもちろん思ってなかったですし、その時たまたま自分の持っている力が、イメージが噛み合ってメダルが取れたという感じでした。

男子トラック2024.3

ーーフォームがとても特徴的です、背中がしなやかに反って、頭がすごく下がっている

そうですね。昨年の世界選手権(2023年8月)で結果が全く出ず、そこから自分では今までやってきたものを全部変えてやろうっていうぐらいの気持ちでフォームの改善だったり、走行ラインの改善を取り組んできました。

アジア大会(2023年10月)ぐらいから実戦で取り組んできて、それがやっと今年のネイションズカップ第1戦(2月/オーストラリア)で、やっと実戦で使えるようになってきたのかなと感じています。

 

ーーそのネイションズカップでのスプリント優勝、ケイリン2位という結果、これに対する印象は?

自分自身本当にできることをやって積み上げてきたのが、去年の世界選手権で結果が全く出ず、この半年以上、本当に積み上げて、もうゼロから積み上げてきた技術や走行ラインが結果になったという形でした。それまではパワーをより多く使うような感じでしたが、その状態で結果が出なくて。コーチと話し合って方針を変えて、その時に身についているパワーをどれだけ無駄なく自転車に伝えるか、そしてその自転車に伝わったスピードをどれだけロスなく、さらにスピードに足していけるかっていうのを意識しました。本当にゼロからっていうイメージでした。

自分の中では第1章がパワーで、第2章が今の段階に入っていると感じています。

 

中野慎詞/絶対的な文武両道、信念を貫く知性と土壇場での勝負強さ

男子トラック2024.3

中野慎詞(ナカノ・シンジ)24歳、岩手県出身

出場種目:スプリント、ケイリン

所属:チーム楽天Kドリームス/競輪選手

チーム公式プロフィール:
https://keirin.kdreams.jp/team-rakuten-kdreams/riders/shinji-nakano/

 

2023年 ネイションズカップ第2戦 ケイリン優勝

2023年 世界選手権 ケイリン3位

2024年 ネイションズカップ第1戦 ケイリン2位

男子トラック2024.3

 

【早稲田大学在学中に養成所を卒業、ネイションズでケイリン金、世界選手権でケイリン3位】

世界選手権2023年世界選手権に初出場で銅メダル、2024年のネイションズカップ、第1戦のケイリンでは銀メダル。世界選手権での銅メダルで見せたロングスプリントは、他選手をも驚かせるほどの長く速いものだった。

早稲田大学の在学中、単位を全てとり卒論まで終えてから競輪選手養成所に入所、養成所はその成績を認められ早期卒業、その後に大学もしっかりと卒業。2022年の競輪選手デビューイヤーには、18連勝を重ねてS級に特別昇進を決めた。絵に描いたような文武両道のエリートである。

絶対的な信念の強さと実現力で、理想を現実のものとし続けてきた中野。そして追い込まれるほど、緊張がギリギリに高まった土壇場での勝負強さは、誰にも負けない。

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ーー大学の在学中に競輪選手養成所に卒業、学業と競技を完全両立させた、その経緯は?

早稲田大学のスポーツ科学部なんですが、もともと大学4年生の時に楽をしたいっていう気持ちで、1年生の時から単位をずっと多く取っていたんです。授業も楽しかったですし、上限マックスの『満単(マンタン)』で単位を取り続けてたんですけど。

ナショナルチームに本格的に来ることになって、大学に行けなくなってしまったんです。そこでは週に1回だけ、大学に行っていいよっていう許可が出て。ですけど週に1回、唯一行ける水曜日に取れる大学の授業がほとんどなかったんですよ。これだと4年で卒業できないなって思いながら、いろんな先生のところに「こういう事情なので、レポートでやるので、変えてくれませんか」というお願いをして単位を取ってきたんですね。

でも最終的にはコロナがあって、オンライン授業になったんです。そうして大学に行かずに伊豆で練習していても単位取れる、となって、バーって授業入れてしまったんですよ。そしたら3年生の時には、卒業に必要な単位が全部取れてしまったんですよね。

残すのは卒業論文だけってことになって、どうしようって思った時に、このまま4年生の生活をゼミの単位だけで過ごすのはもったいないと思いました。であれば今、競輪選手になろうと思ったんです。

 

ーーそこで初めて競輪選手になろうと思った?

もともと競輪選手になるつもりではいたんです。小学3年生の時に、今の師匠の佐藤友和選手に憧れて、競輪選手になりたいって思ったんですよ。それがきっかけで自転車競技部に入って、自転車競技をやっていくうちに、競技も楽しくて、自転車に乗ることそのものがすごく楽しくなって。

大学を卒業してから競輪選手になろうという思いでした。アマチュア競技をしながら大学に行って。早稲田大学はいろんなスポーツの強い選手が集まるんです。そこに行くことで得られるものが色々あるし、たくさんの人と触れ合うことで、自分の人生に活きると思い、大学進学を選びました。

それで、大学4年の1年は無駄になると思って。だったら4年生の単位も取り終えてるので、3年生の時に卒業論文を終えて養成所に入れば同級生と一緒に卒業できると思い、そっちにシフトしました。4年生分の単位であるゼミの必修科目は、ゼミの先生に「お前がそんなに頑張ってるなら、認める」って言ってもらって単位をいただいて。全て卒業できる状態にしてから、養成所に入ったんです。

大学を卒業できないっていうのは絶対ありえないと思ってたので。大学に入ったからには、その4年間をやめてしまったら無駄になるし、学歴をつけたいのもあったんですけど、やっぱりそんな中途半端なことをは良くないと思ってたので、取り組んでいました。

男子トラック2024.3

ーー選手として自分の強みは?

まず体の部分で言ったら、ロングスプリントできることが僕の強みだと思います。ロングスプリントできるのは、人よりも先に仕掛けられるので、戦術の幅が広い。

もう一つは、過度な緊張があっても冷静に自分のパフォーマンスを発揮できるメンタルの強さかなと思います。去年のネイションズカップで金メダルを獲ったんですが、その時はもう崖っぷちだったんですよ。その前年に鎖骨を折って2022年の世界選手権には出れず。ということはパリも厳しいと。2023年のネイションズカップで結果を出して世界選手権に出れなかったらダメだぞって言われてたんで。もうすごい追い込まれていたんです。

そのめちゃくちゃ緊張したなかで金メダル獲れたのが自信にもつながりましたし、そういう状態でもしっかり冷静に自分でレースをできるのが強みだなと思っています。

 

ーー自身が、これから世界を目指す自転車選手たちのロールモデルになっているという自覚はありますか?

師匠が僕の人生を変えたって僕は思っています。師匠に憧れて、自転車を始めたいって思いましたし。もともとすごい悪ガキだったんです、不良とかではないんですけど、どうしようもないほどの。それが自転車と出会って、高校の自転車で目標を持つようになって、熱中できるものに出会って、一気に変わりました。

これから僕は子供たちに夢を与えられるような人になっていきたいというのがあります。「中野慎詞さんを見て、自転車競技を始めました、世界を目指してます」という夢を与えられるような。その第一歩として、まず自分がオリンピックに出場して金メダルを獲るのが、まず一番かなと思っています。

 

長迫吉拓/BMXからトラック競技へ、3度目の五輪出場・メダルへの挑戦

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長迫吉拓(ナガサコ・ヨシタク)31歳、岡山県出身

出場種目:チームスプリント

所属:チームブリヂストンサイクリング

チーム公式プロフィール:
https://www.bscycle.co.jp/anchor/blog/2024/01/24teamNagasakoY.html

 

2024年 ネイションズカップ第2戦 チームスプリント3位

2023年 アジア競技大会 チームスプリント優勝

2024年 ネイションズカップ第1戦 チームスプリント2位

 

【日本BMX界のレジェンドライダーは、チームスプリント第一走に特化し五輪メダルに3度目の挑戦】

2016年リオ五輪と2020年東京五輪、そのBMX競技日本代表として走ってきた長迫。一時はUCIのお膝元で特待生としてBMXの練習を積んできた彼は、現在もBMX界隈でレジェンドライダーとして大きな影響力を及ぼし続ける。

2016年からトラック競技にも関わってきた長迫。東京2020への出場も目指していたが、それは叶わず。そして現在は、3人からなるチームスプリントの第一走として、スタートから250mトラック一周をかけて後方の2人の速度を上げる役目を果たしている。

現在のチームは、長迫の第一走に、第二走が太田海也、第三走は小原祐太という布陣。この体制で東京2020の後、世界大会では多くの好成績を残してきた。その実力はその表彰台の数が証明、自身が最後のオリンピックへの挑戦とするパリ2024で、メダル候補として目されている。

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ーーBMXからトラック競技に転向したのは?

リオ五輪、東京2020五輪をBMXで出場しましたが、結果的にメダルからほど遠くて。でもメダルというものが自分の中で捨てられないもので、もう一度オリンピックに挑戦したかったんです。

じゃあ、もう一回BMXでやるのかと考えると、年齢的にも自分はBMXレース界では31歳という年齢はベテランの領域、怪我とのリスクを考えるとリミットが来てるのかなっていう感じがありました。その中で、2016年の終わりから18年までの2シーズン、このトラック競技もしていましたが、これは中途半端に終わってしまっていました。

東京2020はBMXとトラックの2種目で目指したんですが、結局BMXに絞った形になり、トラック競技に全力で挑めませんでした。ですから、次にトラック競技で可能性があるなら挑戦したいということで、チャンスをもらった形です。

 

ーーなぜチームスプリントに?

単純に、僕はその一走しかできないからです。2016年から2シーズントラック競技を経験した中で、自分の得意なスタートダッシュが活きるのがチームスプリントの一走だったこと。そしてスプリントとケイリンにはトレーニングの時間が少なく、オリンピックまでに自分が選考され世界的な結果を出せるまでに厳しさを感じたからです。

正直、チームスプリントの一走だけを目指すのは、3人でのチームが強くなかったら選ばれないリスクはありました。でも僕ががんばって、結果日本チームを強くできれば、僕のオリンピックが近くなる。言い方は変ですけど、自分の力がチームスプリントで活きるような誘導を自分で仕掛けていったというか。チームスプリントで速くなれば、二走、三走の選手も、個人種目も必然的に速くなる技術がチームスプリントにはあるので、結果的には個々の選手にもいいことだと考えました。

そして確率の問題です。チームスプリントは、出場できる国が8カ国しかない。例えばBMXだったら24人が、ケイリンなら32人が出場します。出場24人の中でメダルは3つしかないですが、チームスプリントは8チームの中に3つのメダルがある。だからメダルが一番近い種目なのかなと感じています。

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ーー成績の実感、手応えをどう感じていますか?

今までリオと東京、2大会のオリンピックに出場して、今度で3大会目のオリンピック・メダルへの挑戦になります。これまでの2大会の中で強く印象にあるのは、オリンピックでメダルを獲る選手は、その前のシーズンやその年に、どこか大きな大会でメダルを取って表彰台に立っていたことです。

僕は今までそれをできませんでしたが、今回は、チームスプリントのネイションズカップ第1戦(2月/オーストラリア)で銀メダルを獲っています。

今回は、確実にメダル圏内に入ってきていると思っています。本当にメダルを狙える位置に来ているので、すごく楽しみですし、逆に本当のプレッシャーがかかっています。今までとは全く違うプレッシャーがかかってきていて、毎日怖いですし、そんな感じです。

 

ブノワ・ベトゥ チーム総監督/今の彼らには、はるかに大きな野心と自信があります。

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日本トラックナショナルチーム テクニカルダイレクター:ブノワ・ベトゥ

現在の日本トラック競技ナショナルチームをテクニカルディレクター、いわば総監督という立場で率いるのがベトゥ氏だ。2016年に日本に来日し、それ以来日本のトラックチームは、彼の指導のもと圧倒的な勢いで成績を伸ばしてきた。

これまでフランス、ロシア、中国とナショナルチームのコーチを務め、中国には五輪金メダルをもたらしたべトゥ氏。自身はライダーとしても、トラック競技はもちろん、MTBダートジャンプから伊豆イチ・ロングライドまで、あらゆる自転車を乗りこなし、楽しむ。

日本チームをオリンピック金メダル獲得に大きく近づけた彼に、現在の男子短距離チームの心持ち、そして世界での立ち位置を聞いた。

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ブノワ・ベトゥ氏インタビュー

まず、年齢です。今の男子短距離チームはとても若い。そして過去に囚われていません。先輩たちのようなバックグラウンドがなく、他国チームを強いと感じていません。今の彼らには、はるかに大きな野心と自信があります。

過去に日本は多くのレースで負けてきました。2016年に私が彼らに会うまで、常に外国人に負けていました。東京2020でメダルを狙った選手たちは、実績のある日本の競輪ライダーでしたが、外国人の方が強いというイメージを持っていました。それをなくすのはとても難しかった。これは当時の彼らの自信に大きく影響しました。

ですが、新しい世代にはそれがありません。彼らは外国人ライダーをそんなふうに見ていません。それが大きな違いです。彼らには勝つ準備ができていて、そのとおりに勝ち始めています。

男子トラック2024.3

周りの国からの見られ方も完全に違います。以前の日本選手は「なるほど、日本のライダーも悪くないな」でした。ですが今は違います。「チクショウ、相手は日本のライダーだ!」という感じです。全く違うのです。

それは全体の環境も、スタッフもそうです。今、私たち日本チームが会場にいるとき、世界は私たちに大きく注目しています。メンタリティ、レースのアプローチ、サポート、レースそのものの方法が大きく進化しました。それが他国の日本への認識です。

まだ多くするべきことはありますが、私たちは明らかに正しい道を進んでいます。ただそれはメダルをすぐに獲得できるという意味ではありません。オリンピックのメダルには経験が必要です。ただ彼らがそれを成し遂げる可能性が1%でもあれば、成し遂げられるでしょう。私たちはそう信じ、そのために働いています。

今の男子短距離選手たち、彼らは若く、才能があります。彼らは強いがゆえに、ここにいます。彼らが負けるイメージを持っているとは感じません。彼らは野心に満ちています。それが大きなポイントです。

 

 

<参考サイト>
2024UCIトラックネーションズカップ第2戦(香港大会)
開催日程:2024年3月15日〜17日
UCI公式サイト