スペシャライズド新作XCレースMTB《エピック8》試乗レポート、『最速のその先へ』そこにあったものは

目次

エピック8

上りで感じるサスペンションの喰いつき感

スペシャライズドの新作XC(クロスカントリー)レースバイク《エピック 8》。そのメインコンセプトとしてあげられるキャッチコピーは、『最速のその先へ』。発表担当者曰く、「オフロードで最も速いバイク」を目指しているという。どういうことか。その機材と走り心地から、これを読み解いていく。

Sワークスエピック8

最新XCレーシングMTB、《S-Works Epic 8》

新作エピック 8は『走破性』が大きなコンセプト

「前後120mmトラベルバイクの中で最高の走破性」を誇るというエピック8。その開発の中心となったのが、これまでサスの開発を担っていたチーム、スペシャライズド・ライドダイナミクスチーム。このバイクから、バイク全体の開発に関わり、『ライドダイナミクス・チューン』と呼ばれる全体設計を施した。

これまで「軽さ」と「剛性」という言葉が並んできた自転車の機材紹介。しかしそれに頼っていくとカンカンというシビアな乗り味になってしまうのは仕方ない。これまではそれがいいとされてきたが、XCレース自体がダウンヒル並みにエクストリームになってしまった今、サスペンションの動きが大きくものをいう。

エピック8

軽やかに走る、レースマシンだがつい笑顔になってしまう

東京2020オリンピック・MTB競技の模様はご覧になっただろうか。そのコースの凄まじさは、世界トップシーンでは当たり前のものとなっている。コースを走破すること自体がレースにおける最初のチャレンジになる。そのコースを走るのに、あたかもチートのような走破性を与えた、というのがこのエピック8のメインテーマだ。

エピック8

『フライトアテンダント』の自動サス制御が最高だ

サスペンションが走りそのものをデザイン

これまでの考え方、あるいはMTB以外の自転車フレームの考え方は、素材のしなりとジオメトリーで構成される構造体として見たものだった。しかし、このバイクはサスペンションの動きや挙動を前提として、走りそのものをデザインしたと言える。それをスペシャライズドは、3つのサス・ポジション、『ライドダイナミクス・3ポジション』でライダーに選ばせる。

最も動く「ワイドオープン」、サスを固める方向に振った「スプリント・オン・ロック」。そしてもう一つが「マジックミドル」というその中間とも言えるポジション。これらを走行中に操作して変更できるのだが、最高級のSワークスモデルでは、この変更を走行中に自動で行える最新の仕組みを取り入れた。それが前後サスにつく自動設定変更システム「ロックショックス・フライトアテンダント」だ。

フロントのフライトアテンダント

フライトアテンダントのフロント、スイッチはあるがほぼ触らない

リヤのフライトアテンダント

リヤショックにつくフライトアテンダント、もちろん無線だ

MTBサスペンションメーカーであるロックショックスが2年前に発表、発売した『フライトアテンダント(以下FA)』。これはサスのダンピングやコンプレッションなどの設定を走行中、路面と乗り手からの入力に応じて変更する無線電動システムだ。

このFAがエピック8で行うのは、先に述べた3つのサスモードを自動で変更するというもの。試乗前は「マジックミドル」にしとけば大丈夫なんじゃないの? と思っていたが、乗ってみて、FAの性能の凄さに驚いた。

スワットストレージ

SWATストレージ、ドア部にはCo2カートリッジホルダーが

機能を増やしてさらに軽く、最新のジオメトリーで

乗った感想の前に、まずは乗らず語りに必要なメカとしての特徴を簡単に。

重量はSワークス仕様で10.24kg(Sワークス)。先代モデルのエピック完成車同士の比較して、76g軽くなっている。76gは小さな違いかもしれないが、先に述べたFAやタイヤの空気圧を管理するTyreWizといった電子機構、ボトルケージ部からフレーム内に工具などを収納できるSWATストレージといった機能性を加えたにも関わらず、の軽量化だ。

ステアリングまわり

SLコクピットと無線による超スッキリステアリング

素材である最高品質のFACT12Mカーボンの使用。ステム/ハンドル一体型のカーボン『SLコクピット』。リアショック取り付けタブの中空化。さらに細かなチタンパーツの利用。これら細かな軽量化の積み重ねが、さらなる軽量化を実現しているという。

そしてジオメトリーである。先の「ライドダイナミクス・チューン』による全体設計はジオメトリーにも大きく関わり、これが全体の走破性を高めているという。
475mmと前モデルより15mm長くなったリーチ、より寝かせられた65.9度のヘッドアングル、シートチューブアングルは75.5度と1度立たせ、BBの位置は8mm低くなっている。

フリップチップ

『フリップチップ』でジオメトリーを変えられる

ただこれらは全て静止状態でのジオメトリー。これらが実際に乗るとサスペンションの挙動などで、ベストな重心位置に変わってくる。さらにジオメトリーをHIGH、LOWと変更できる『フリップチップ』も搭載されているから、ジオメトリーの数字を見て、一概に判断できるものではない。

その結果が、ペダルボビングすなわちペダルを踏み込むことによるリアサスの沈み込みを前モデルより20%軽減できたこと。そしてホイールを通してフレームに伝わる衝撃を比較すると、前モデルから12%減らせたこと。つまり体に伝わる衝撃が少なく、その分疲労も少なくできたという。

XX SLイーグルのリヤディレーラー

変速はもちろんSRAM XX SL EAGLE 無線変速

走破性の高さとは、イメージ通りに走れる安全性の高さ

では実際に乗った感想だ。とにかく気になるFAの自動モードだが、これが全然わからないのだ。先の3モードが変わっている感じはある。耳をすませばチュインという音も聞こえるから、働いてくれているはず。

だが実際にどう働いているのか正直よくわからない。ただ結果として上りがとても楽である。坂が急になるとスルッとジオメトリーが変わったような印象はある。しかも楽しい。ボコった根っこなどは変にトルクを調整しなくても、きちんと捉えて抜けない。軽いものがスコスコと上る、という印象ですごくいい。

エピック8

ヌッて踏むと、スコッと前に進む印象

もちろんSワークスという最高級モデルだということはある。とりあえずラインを決めて踏み込むと、ナイフのように路面を切り裂き、滑るように上っていく。そんなイメージだ。

車体が軽いので、上り以外でもとにかく何をするのも軽い。リップなどのきっかけを使ってヒョイって体重を抜くと、フワンと面白いように飛んでいく。バイクが自分の一部になってイメージ通りの走りができる感覚だ。
イメージ通りに走れるというのは、つまり安全性にもつながる。それこそバイク任せで走れ、思ったラインを安全に走り切れるのである。これがエピック8が誇る走破性の高さなんだなと思う。

エピック8で飛ぶ

リップの最後で抜重するとフワリと飛んでいく

その滑らかさが、実はFAの出来の良さだというのが、廉価グレードのコンプに乗り換えてよくわかった。特にリバウンド・ダンピング、つまり縮んだサスの減衰が、あくまでSワークスと比較してだが、コンプはふわつく感がある。それを抑えるため無意識に体を動かすので体力のロスにつながる。

FAがあると、走行中にはそのロスがほぼなく、もちろんペダリングからのキックバックもほとんどない。3次元的に捉えると、体の重心位置が選んだライン上の空間を安定して進んでいく感じだ。体の疲労が12%少なくなるというのもよくわかる。

エピック8

イメージ通りに走る、ラインと体の位置がずれにくい

上りで攻めて下りで回復、なんてよく言われるが、その言葉のイメージ通りに走れそうである。下りでその走破性を発揮してストレスを減らし、上りで軽快さを発揮する。それをトータルにコントロールするのがFAだ。疲労を少なくし、安定して走らせる、そこに対して大きなアドバンテージを見出したということだ。

冒頭のキャッチコピー、「最速のその先に」。その先にあったと僕が感じたのは、安全性だ。難しいセクションを精神的なストレスなく安全に、安定した心持ちで走り切れる。今時のレースバイクとはこういうもんなんだろうと思う。レースだけじゃもったいないと思う。タイトターンが多い日本のトレールによく合っている。

エピック8

新世代のXCレースマシンは、それこそ初級者にこそ安全だ

エピック8の価格とバリエーション

エピック8は、最高級グレードの《Sワークス エピック8》が179万3000円。エキスパートモデルが99万円、コンプモデルが62万7000円。FAが装備されるのはSワークスモデルのみ。

またトラベル量を伸ばし、制動力の高いブレーキを使って下り系に振った『ダウンカントリー』に向きの《エピック8エボ》も発表。サスペンションは前が130mm、後ろが120mmトラベルで、変えられるサスのポジションはオープンとロックの2つ。日本ではコンプモデル(62万7000円)のみが発売される。

これで、XCレースシーンに対応できる3種がそろったとスペシャライズドは言う。まず昨年の春に発表された《エピックWC》。前110mmで後ろ75mmサストラベルの、滑らかなコースで活躍するマシン。そしてオールラウンドに走れる《エピック8》、そしてダウンカントリー的なコースで最速となれる《エピック8エボ》。ライダーの好み、スタイルで選べるレーシングマシンである。

クロスカントリーレースバイクの軽さ、そして最新の性能をあらゆる人に、というスペシャライズドのMTB戦略だ。まさに時代の最先端、MTBの進化は、いつの時代も止まらないものだと改めて思わせる。スポーツ自転車の性能は、これまでも、これからも、MTBがリードしていくのである。