最新ストリート・バイシクル文化の祭典 メッセンジャー世界大会CMWC2023横浜大会が開催

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メッセンジャー世界大会2023

2023年9月20日(水) から9月25日(月)に渡り、『CMWC 2023 Yokohama』2023年サイクルメッセンジャー世界大会が開催された。神奈川県横浜市の日産スタジアム(横浜国際総合競技場)を中心に横浜各所がその舞台となった。

14年ぶりに日本開催のCMWC

2023年のCMWC=サイクルメッセンジャー世界大会が横浜で開催された。日本でのCMWC開催は、前回の2009年から数えて14年ぶりだ。今年で29回目。前回の東京都・お台場から場所を移し、横浜を舞台にさまざまなイベントが行われた。メインレースとなったのは、メッセンジャー世界一を決める『デリバリーレース』。昨年の勝者は日本のメッセンジャーである下写真の『ちかっぱ』さん。2年連続のタイトルを狙う。

ちかっぱさん

取材を行ったのはデリバリーレース決勝の開催日である24日(日)。レース最終日であり、メインイベントが開催される会場には、多くの観客が来場していた。このイベント自体がお祭りのようなもの、これまで開催されてきたイベントも、レースだけにとどまらず、アートショー、マーケット、キッズスクールやパーティーといった、サイクリストやメッセンジャーでなくても楽しめるものが多かった。

 

この日のメイン会場は、東海道新幹線の新横浜駅近くにある日産スタジアム前の広場。荘厳で巨大な日産スタジアムの外壁をバックに、世界と日本からメッセンジャー・カルチャーをまとった参加者と観客が集まった。メインレースが行われる15時には、会場は多くの人で賑わっていた。

メッセンジャー世界大会2023会場

レースというよりストリート・バイシクルの祭典

メインレースの日ではあるが、レースというよりフェスティバルといった趣きの会場だった。メッセンジャーだけでなくストリート・バイシクルの祭典といったおもむきで、さまざま出展ブースが並んでいる。そのブースの多くが展示ではなく現場での商品販売。今目の前にある商品が買えるという、他の自転車レースではあまりない会場の感じだったのも、多くの観客を会場に留まらせていた。

世界大会なので、もちろん世界各国からメッセンジャーたちが集まってきた。バイシクル・メッセンジャーの数は世界的に減少していると言われているが、来日したのは現役のメッセンジャーたち。彼らのテリトリーはニューヨーク、シアトル、ストックホルム、コペンハーゲン、ユトレヒト、チューリッヒ、ローザンヌ、and more。彼らのほとんどがサイクルジャージを着るが、レーサーパンツを履くものはほぼ皆無。大体がショートパンツという出立ちだったのもストリートスタイルならではだ。

メッセンジャー世界大会2023

日本のみならずメッセンジャーが活躍するのは都市部である。海外からのメッセンジャーたちにはそれぞれが働く都市のスタイルが見られる個性的なもの。その自由な空気感は世界的なストリート・バイシクルカルチャーが集まった一大祭典といった印象。皆が、自分の個性に合わせて自転車を組み上げている。自転車は自由だ、そう改めて感じさせられた。

この日に行われたレースは、大型荷物を運ぶために作られた『カーゴバイク』がメインのカーゴバイクレース、荷物とメッセンジャーとのやりとりや配置を『ディスパッチャー』がコントロールするチーム戦のDSPレース、そしてメインのデリバリーレースの3つ。その合間に、BMXのスクールやフラットランドのショー、そしてデンマーク式自転車教室といった子どもも参加できるイベントが行われた。下写真はBMXアーティストのNAO YOSHIDAによるフラットランドショー。

ナオ・ヨシダ

こういった家族で楽しめる時間と空間に、そのためにベビーカーを押したり子供の手をひく方々もたくさん来場していた。現役メッセンジャーたち、そして元メッセンジャーたちの家族だろうか、そんな想像をすると、14年前のCMWCを思い出して嬉しくなる。会うのは14年ぶり、という声も周りでよく聞こえた。メッセンジャーのカルチャーは都市に根付き脈々と続いているんだなあと感じ入る。

コロナ禍以降のクライアントの変貌

レースが始まる前に、世界から来たメッセンジャーたちに、現在のメッセンジャーシーンについて聞いてみた。2019年からの世界的なコロナ禍というのがメッセンジャー界にも大きなインパクトをもたらしたのは間違いなく、クライアントもコロナ禍以前より変化したという。

メッセンジャー世界大会2023

現在でも、サインした実際の書類が必要な法曹関係が大きなクライアントだというが、それ以前にあったマスコミの放送素材といったものは減ったと聞く。その代わりにアメリカやスイスでは歯科医を中心とする医療関係や大学研究室からの試験サンプルや部品などの配送が増えたそうだ。

またリモートワークのため細かな日常品のデリバリーも増えたそうで、イギリスでは早朝5時半に焼けるパンをカフェなどに届ける、といった業務も増えてきているという。特に北欧では花を届けることが多く(いい文化です)、水道管など家庭の修理のパーツを運ぶことも多いと聞いた。

メッセンジャー世界大会2023

結局コロナ禍でメッセンジャーの運ぶ荷物のダイバーシティ、多様性が広がり数が増えた国もある。スイスやオランダでは、メッセンジャーの数は増えたという。特にスイスでは電車のシステムと共同で行う『スイスコネクト』というシステムがあり、例えばチューリッヒのメッセンジャーに預けた荷物を電車でローザンヌまで運び、駅からメッセンジャーが届けるという形も取られているという。なお日本では今も荷物は書類が主なものであるそうだ。

メッセンジャー世界大会2023

カーゴバイクとディスパッチャーのレース開催

メッセンジャーのレースは、単に速さを競うだけではない。スタート後に渡されるマニフェストという指示書がある。これには拾って→届けるデリバリーポイントなどの指示が書かれ、これをもとに荷物をピックアップして届けなくてはならない。それぞれのマニフェストにチェックをもらい、それが正しく届けられた後に、先着順で順位がつく。

メッセンジャー世界大会2023

午前中に行われたのはカーゴバイクレースだ。カーゴバイクとは、大きな荷物も運べるようにキャリアや荷台のついたバイクのこと。小回りは効きにくいがその分、大きな荷物を運べる。
これも先に述べた多様性の一つ、例えばコペンハーゲンではメッセンジャーの9割ほどがカーゴバイクを使ってデリバリーを行っているという。そういう時代だ。

カーゴバイクレース

その大きなカーゴバイクが走るレースは圧巻だ。日産スタジアムの外周と通路を巧みに通した長いコースをカーゴバイクが走る。ダンボール箱を3つも4つも、いや5つも6つも運んでしまうのがカーゴバイク。

これまでは前にある荷台に荷物を詰むスタイルが主流だったが、今回は前のカーゴ部がフレームと一体化したカーゴバイクが目立った。重い荷物はハンドルと一緒に動かないため、ハンドリングは軽く、操作感も荷物を乗せない自転車に近い。自転車で大きな荷物を運ぶための最新ソリューションといえよう。

ディスパッチャー

 

そしてディスパッチャーレースだ。これは、メッセンジャー・カンパニーの司令塔とも言える指示者=ディスパッチャーの技量が問われるレースだった。本部に止まったディスパッチャーがマニフェストをうけ、それをチームで走るメッセンジャーたちに無線で指示を出す。

誰をどこに向かわせ拾わせるだけでなく、メッセンジャー同士で荷物を交換させるといった実際のメッセンジャー業務を思わせる進行。メッセンジャーたちは無線でその指示を受け取る。実際の業務でも無線をよく使っているのはそのためなのだ。最適効率を導き出し最短時間で届ける、メッセンジャー業務のコアとなるディスパッチャーに光を当てた別視点のレースとなった。

メッセンジャー世界大会2023

デリバリーレースは2人のデッドヒートに

夕暮れが始まるかなという頃、メインレースであるデリバリーレースが始まった。エントリーは合計120名、レース時間は2時間半。一枚に数カ所のデリバリーポイントが書かれたマニフェストの配達をこなして1周終了、全部で8枚のマニフェストをコンプリートする。しかも後半はマニフェストの数が先着順で決まり、その数は周回ごとに減っていくというルールだ。

メッセンジャー世界大会2023

そのオープンクラス、レース序盤からトップを争っていたのがアメリカから参加の『サファ』、そしてデンマークからの『ヨーヨー』の2人。後方に圧倒的なタイム差をつけながら、着々とマニフェストをこなしていく。レース開始が3時過ぎ、だんだん夕焼けが深まる中2人は、完全に2人だけでレースを争うように。

メッセンジャー世界大会2023

その差は数十秒ほど、ちょっとした荷物の受け渡しで縮まる差だが、サファはそれでもトップを譲らずフィニッシュ。2023年メッセンジャー世界一の称号を得た。男性以外のジェンダーがエントリーできるWTNBクラスでは『エマ』が勝利した。共に「今回は体力を使うコースだった。デリバリーの複雑さよりもスタジアム内のアップダウンを走るのに、かなり体力を使った」と述べた。下写真がCMWC 2023勝者のエマ(左)とサファ(右)。

エマとサファ

 

メッセンジャー文化は不滅です

今から25年前、日本で『メッセンジャー』という映画が制作・公開された。この映画がきっかけとなって、スポーツ自転車にはレースを走る以外の楽しみ方があるのを知った人も多い。振り返れば、それまでは本当にスポーツだった自転車文化が、街中/ストリートへと癒合していく始まりでもあった。

メッセンジャー世界大会2023

その映画や当時の雰囲気を知る人は今も多いはずだ。その彼らが成長して人生のフェーズが変わっても自転車に乗り続けている。そして彼らから影響を受けた下の世代が、ストリートと融合したメッセンジャー文化をアップデートしてきた。

メッセンジャー世界大会2023

車体のカスタムやファッションなど、自転車の自由さを存分に表現し乗り続ける。実際に業務としてメッセンジャーを行っている、いないに関わらず、確かな一つの自転車文化として街にある。当サイクルスポーツの編集長ナカジだってメッセンジャー出身だ。CMWCは実際にそれを肌で感じられる、言葉通りの都市型の自転車イベントだった。来年のCMWCはスイス・チューリッヒでの開催だ。