仕事しながら世界を狙う。社会人レーサーのマスターズ戦記【その2】
家庭と仕事と両立しつつ、本気で“マスターズ”世界一を狙う45歳の社会人レーサーの岸本伊織(きしもと いおり)さん。葛藤や挫折を乗り越え、「それでも走りたい」という想いを原動力に再び挑戦を続ける。限られた時間と体力の中で積み上げるリアルな日常と、その先にある戦いを描く連載の第2回です。
前回は、家庭と仕事を両立しながら世界一を目指す45歳の社会人レーサーが、挫折や葛藤、そして一度の離脱を経てもなお、自転車への情熱を失わず、限られた時間の中で積み上げる日常に価値を見出している。そんなお話をさせていただきました。
要するに、趣味を本気で突き詰めたい一人の「おじさん」の挑戦です。ですが、同じように迷いや不安を抱えている方に、「まだやれる」と少しでも背中を押せたらうれしいと思っています。私自身、特別に速かったわけではありません。ただ、日常の隙間時間を自転車に変えてきただけです。
今回のテーマは、「世界一への現実的な一歩」です。
私が目指しているのは、マスターズカテゴリーでの世界一。そして今年は、ニセコで開催されるグランフォンドでの挑戦を見据え、準備を進めています。日本開催の世界選手権は、今後そう多くはないかもしれません。だからこそ、このチャンスは逃したくないのです。
この大会に出場するには、各国で行われる予選を通過する必要があります。条件はシンプルで、上位25%に入ること。昨年まではニセコがその予選の舞台でしたが、今年は「ツール・ド・福島」がその役割を担うことになりました。
昨年のニセコでは、得意とするタイムトライアル(TT)で3位に入り、予選は通過しました。しかし、世界選手権への出場は見送りました。理由はシンプルで、予算の問題です。
だからこそ今年は違います。完全なホーム開催ではないにせよ、日本での開催を少しでも盛り上げたい。そして何より、自分自身の限界にもう一度挑戦したい。そう思い、参戦を決めました。
とはいえ、まずは予選通過が必須です。そして私は、いわゆる「一発勝負」が得意なタイプではありません。
そこで選んだのが、地元で開催されるAACA(長良川の河川敷コース)への参戦です。1周5kmを3周する、計15kmの平坦コース。4月26日と5月3日の2戦あるため、両方に出場する予定です。
目的は明確で、「ポジションの最適化」と「現状把握(ライバル比較)」です。
まずポジションについて。
今回はLEOMO(リオモ)の「TYPE-R(タイプR)」というモーションセンサーを使用し、フォーム解析を行いました。これにより、ペダリング時の左右差や身体の動きを“見える化”できます。特にTTはポジションがすべてと言っても過言ではありません。短距離になればなるほど、その重要性は増していきます。
ただし、このシステムは扱いが難しい。そこで今回は、マスターズ短距離界で数々の実績を持つ濱中康志さんに、わざわざ兵庫からお越しいただきました。
次にライバル比較です。
今回意識しているのは、昨年ニセコで優勝したRide Beyond BordersのSandu Ionut(ヨノツ)選手。今年から同じ45-49カテゴリーで戦うことになります。強い選手がライバルだからこそ、頑張れます。
さて、レース当日です。
まずはアップ。
コースを3周試走した後、ローラーで細かく時間を調整します。
スタート前。
チームメイトと軽く言葉を交わし、今日のコンディションと狙いを確認します。意識するのはヨノツ選手との差、そして自分のポジション。今回は体の各所にセンサーを装着し、データも同時に取得します。
そしてスタート。
2周目の入りで少し踏みすぎた影響か、上体がわずかに起きてしまいました。
こうした微細な変化も、TTでは確実にタイムへと影響します。
そしてゴール。
タイムは20分40秒。昨年の全日本TTマスターズ前、万全の状態で記録した20分30秒と比較すれば、決して悪くありません。今回はポジション検証のため、300W一定で走るプランでしたし(実際は少し垂れてしまい、数ワット上振れしましたが)、現状としては十分に評価できる内容でした。
そして結果は、2位。
優勝は、予想通りチームメイトの恭司郎。
一方でヨノツ選手はというと、順位上は私が上回りましたが、昨年の大怪我から復帰したばかりで、実質的には比較対象とは言えない状況だったかもしれません。
今回の収穫は、結果以上に「課題が明確になったこと」です。
特にポジションについては、まだ改善の余地があると感じています。データと実走の感覚、その両方をどう擦り合わせていくのか、ここが次への鍵になります。
この「数センチ」いや「数ミリ」を詰められるかどうかで、世界との差は大きく変わります。変わるはずです。
次回は、このポジションについてもう少し深く掘り下げていきます。数字と感覚、そのズレをどう埋めていくのか。
引き続き、お付き合いいただけたらうれしいです。






















