サイクリストが飛行機遠征を安心して楽しむためのTIPS
目次
北海道や沖縄など、遠方で開催されるサイクルイベントに参加する場合、飛行機での遠征を選ぶ人が多いのではないだろうか。飛行機遠征を安心して楽しむためのちょっとしたコツを紹介しよう。
自転車を運ぶ輪行袋は、バイクを詰める際の手軽さや梱包後の大きさ、保護力を考えて選ぼう
飛行機遠征では、自転車を輪行袋やケースに入れ、チェックイン時に預かり荷物として預けることになる。電車での輪行と違い、飛行機内では自分の見えるところに自転車がないので、輸送時に自転車が傷つかないように自己防衛するしかない。以下に主な運び方を紹介する。
・薄手の布製輪行袋
軽さ◎
梱包後の大きさ◎
入れ物をたたんだときの大きさ◎
移動のしやすさ○
収納力○
自転車の保護力×
電車での輪行時に使うような薄手の輪行袋(オーストリッチ・L-100など)。輪行袋自体が軽くてコンパクトになるので、輪行中も輪行以外の場面でも比較的移動しやすいのが長所だが、自転車の保護力に関してはかなり不安。エンド金具でエンドをしっかり守るか、リヤディレーラーをフレームから外して緩衝材でくるみ、収納するなどの一工夫が必要だ。
・緩衝材入りの厚手の輪行袋
軽さ○
梱包後の大きさ△
入れ物をたたんだときの大きさ○
移動のしやすさ○
収納力△
自転車の保護力△
オーストリッチのOS-500のような緩衝材入りの輪行袋。ロードバイクはこのタイプの輪行袋で飛行機輪行する人も多い。前後輪を外してフレームと分けて袋に収納するが、サイズの大きなフレームやグラベルバイクの太いタイヤが装着されたホイールなどはうまく収納できないケースもある。そのような場合はハンドルを外したり、シートポストを抜いたり、ホイールだけはホイールバッグに入れて運ぶなどの工夫も必要だ。自転車の保護力に関しては、キャスター付きの輪行バッグと薄手の輪行袋の中間レベル。
・キャスター付きの大型輪行バッグ
軽さ×
梱包後の大きさ×
入れ物をたたんだときの大きさ△
移動のしやすさ○
収納力◎
自転車の保護力◎
自転車の保護力と移動のしやすさを両方重視するならベストチョイスのひとつがキャスター付きの大型輪行バッグ。バッグ自体がかなり重いが、自転車のフレームを輪行バッグ内の金属フレームに固定するため、ほかのタイプと比べて比較的自転車が破損しにくい。また、自転車以外にヘルメットやシューズ、ウェアなども収納できるので、自転車関係のモノをひとまとめにしやすいというメリットもある。デメリットは重量が重くなることで、あまり中に詰め込みすぎると預かり荷物の重量制限をオーバーして超過料金を取られてしまうこともある。また、平らな場所はキャスター付きで移動しやすいが、エレベーターが利用できないところだと階段を持ち運ぶのはかなり大変だ。梱包時の大きさもかさばるため、空港まで電車で輪行するのも現実的ではない。空港まで車で移動することができる環境でないと利用しにくいだろう。
・段ボール
軽さ△
梱包後の大きさ×
入れ物をたたんだときの大きさ△
移動のしやすさ×
収納力◎
自転車の保護力◎
飛行機輪行では自転車が入っていた段ボールを使って自転車を運ぶ人もいる。段ボール自体は自転車店などで譲ってもらうなどして入手する。前後輪は外して段ボールに入れ、リヤディレーラーは外し、緩衝材などで養生して、隙間をできるだけなくして詰め込むなどすれば、自転車が傷つきにくく、ダメージも受けにくい。場合によってはサドルやハンドルを外す必要もある。キャスターがついていないので持ち運ぶのはかなり大変で、空港ではカートを利用する必要がある。雨にさらされた場合、箱自体がダメージを負うリスクもある。段ボールの空きスペースにヘルメットやシューズ、サイクルウェアなどを詰め込むこともできるが、重量超過には注意しよう。飛行機輪行や自転車の取り扱いになれた人向けの方法と言えるだろう。
・自転車専用ケース
軽さ△
梱包後の大きさ×
入れ物をたたんだときの大きさ△
移動のしやすさ×
収納力◎
自転車の保護力◎
バイクサンドなどの自転車専用ケースを使う人も多い。基本的には段ボールと似ているが、キャスターを付けられて平地での輸送が比較的楽なものもある。長所やデメリット、詰め方などは、段ボールに準ずる。
このように、どの運び方にも一長一短がある。大まかに言うと、「道中の持ち運びやすさ」「入れ物自体のコンパクトさ」「自転車の収納しやすさ」「プロテクション能力」「梱包後の重量」「収納力」のどれを重視するかでベストな方法は変わると言ってもいい。
なお、キャリヤ付きの輪行バッグや自転車専用ケースなどは、保管時にたたんでもそれなりの大きさになる。自分でこれらのバッグやケースを購入して保管するとなると、自転車とは別に保管スペースも必要になるので、必要なときだけレンタルを活用するのもありだ。
自転車を預ける際は、駆動系が下にならないよう天地の向きを指定しよう
飛行機遠征で自転車を預かり荷物として預ける際、自転車のドライブサイド(ディレーラーやクランク、チェーンなどがある自転車の右側)が下になるとディレーラーハンガーが曲がってしまって変速不良になったり、最悪の場合は走行中に変速した際にホイールと干渉してリヤディレーラーがもげてしまったりする。それを防ぐため、チェックイン時に自転車を預ける際はドライブサイドが上になるように指定しよう。輪行袋やケースが自立するように梱包し、「天地無用」の指定をするのもよい。さらに念のために「こわれもの」の指定をしておくと、精神衛生上も安心だ。
チェックイン時にこれらの指定をすると、バッグやケースに天地無用や壊れ物などのシールを貼ってくれる。このシールを貼ってもらうことで、空港の荷物の取り扱い担当者が自転車をより丁寧に扱ってくれることが期待できる。
自転車や荷物を送ってしまえば、道中の移動もラクラク
飛行機遠征では、自転車以外にも数日分の着替えやサイクルウェア一式などを持って行くため、どうしても荷物が多くなる。自転車などの大型の荷物は預かり荷物としてチェックイン時に預け、それ以外の荷物は預かり荷物と客室持ち込みの手荷物に分けて運ぶ必要があるが、一人あたりが持ち込める個数や大きさ、重量には制限がある。また、空港に行く前に輪行したり、空港内で移動したりすることを考えると、荷物はできるだけコンパクトにしたい。
荷物を減らすため、宿泊先まで自転車や荷物をあらかじめ宅配便で送ると、道中の移動は格段に楽になる。有人の受付があるホテルやコンドミニアムなどであれば、あらかじめ宿泊先に自転車の受け取りをお願いし、現地到着時には宿泊先で荷物を受け取るよう段取りするとよい。有人の受付がない施設の場合は、会場近くの運送会社の営業所受け取りにするなどの工夫が必要になる。
自転車を送る場合、西濃運輸の「カンガルー自転車輸送便」、クロネコヤマトの大型荷物を送れる「ヤマト便」などのサービスを利用する。このうち「カンガルー自転車輸送便」は、段ボールやケースを自分で用意しなくてもレンタルでき、3辺合計サイズ280cm、重量30kgまで対応するので、大きなサイズの自転車でも安心して送れる。帰りはあらかじめ集荷をお願いしておいて宿泊先から発送するか、営業所に持ち込んで発送する。イベントによっては、会場での受け取りや発送にも対応する「カンガルー自転車イベント便」というサービスが利用できる場合もある。
道中の移動が楽になる代わり、送料が往復で2〜3万円程度余分にかかるので、コストをかけても楽をしたい人にはおすすめだ。
自転車を発送する場合の注意点としては、イベント前日までに自転車を確実に受け取れるよう、余裕を持って発送し、帰りの発送時も集荷が必要な場合はあらかじめ予約しておくことが重要だ。ちなみに、往復で利用したり集荷ではなく営業所に持ち込めば料金の割引も受けられる。
変速機などのバッテリーの取り扱い、持ち込み不可のアイテムは要チェック
飛行機輪行の際に気をつけなければいけないのは、飛行機への荷物の持ち込みだ。飛行機には客室に持ち込む機内持ち込みの手荷物と、預け荷物があるが、これらのいずれかのみOKのものと持ち込み不可のものもある。自転車関係で注意したいものを以下に列記する。
- 手荷物でも預け荷物でも持ち込みNG
・スプレータイプのケミカル(引火性ガス・毒性ガスを含まないものはOK。潤滑油は引火点60度を超えるものはOK)
・CO2ボンベ(50ml以下の容量のもの4本までは可能) - 預け荷物としてはNG、手荷物ならOK
・リチウムイオンバッテリーを使用したライト類やサイクルコンピューターなど
・電動変速用の予備バッテリー
※Di2などの電動変速用バッテリーのうち、自転車に組み込まれていて外せない場合は製品仕様書などを見せればOK - 手荷物ではNG、預け荷物ならOK
・工具類
この中で要注意なのは電動変速用のバッテリーだ。スラムのように取り外せるものは取り外して機内持ち込みにするのが安心。シマノDi2やカンパニョーロEPSのように、バッテリーが自転車に組み込まれていて外せない場合は、バッテリーの製品仕様書などの提示を求められることがあるので用意しておくと安心だ。
チェーンルブなどのケミカルは、「引火点60度を超えるもの」、スプレー式ならさらに「引火性ガスや毒性ガスを含まないもの」という条件を満たせばOKではあるが、現場での検査官の対応次第という側面もある。メーカーが発行するSDS(製品データシート)を用意しておき、必要に応じて提示するのが望ましい。また、容器を移し替えず、なるべく小さな容器に入った未開封のものを持ち込むのがベターだ。
詳しくは航空会社各社の機内持ち込み・預かり荷物の条件でチェックしよう。
宿泊費を安く済ませたいなら、グループでのコンドミニアムや貸別荘への宿泊はおすすめ
北海道や沖縄などに飛行機遠征する際、行程に余裕を持たせるとなると最低でも2泊3日のスケジュールを確保したくなる。しかし、遠征の行程が長くなるほど、その分宿泊費や食費もかかる。遠征先でお金を使うことも経済を回すことにつながるが、やはり旅費は少しでも浮かせたいのが人情だろう。
2024年に入ってインバウンドの観光客がコロナ前の水準を上回るようになり、観光客に人気のリゾート地周辺では宿泊費も高騰傾向だ。宿泊費を安く抑えるのにおすすめなのが、グループでのリゾートコンドミニアムや一棟貸しの貸別荘への宿泊だ。
コンドミニアムとは、分譲マンションのようにリビングやダイニングキッチンと複数の部屋があり、各部屋がベッドルームになった宿泊施設。トイレや風呂ももちろん付いている。冷蔵庫や電子レンジなどのキッチン家電や食器類もそろっているので、自炊も可能で、物件によっては部屋に洗濯機が置かれているところもあるため、長期滞在で洗濯物が出ても洗って干せるのはうれしい。北海道のニセコエリアにはリゾート客を対象にしたリゾート型のコンドミニアムがいくつかある。
リゾート先での滞在に利用できる同様の施設には一棟貸しの貸別荘もあり、こちらはよりプライバシーが保たれやすい。
コンドミニアムも貸別荘も1日いくらという形で借りる方式が多く、一人で泊まっても数人で泊まっても1泊あたりの値段は変わらない。ベッドの数に限りがあるので、一部屋あたりの最大宿泊人数は限られるが、人数が多い方が一人あたりの値段も安くなる。料理も持ち込みで自炊すれば、宿泊費や食費をかなり抑えることができるだろう。何より大人の修学旅行といった雰囲気で楽しい。
せっかく行くならイベントのプレライド(試走)やアフターライドも楽しもう
飛行機遠征で北海道や沖縄に行くなら、できるだけ長く滞在してイベント以外にもライドを楽しむのがおすすめだ。
イベント前に早めに現地入りし、ニセコグラベルなら前日のプレイベント的な位置づけのSライドに参加するのもありだし、ツール・ド・おきなわならコースの試走に行くのもいい。
イベント後も飛行機の時間を夕方や夜の便にして、出発日もアフターライドを楽しむのがおすすめだ。レースやイベント後のアクティブリカバリーになるし、イベント参加とは別にリラックスした気分でサイクリングを楽しめるのはすばらしい。
2024年9月に行われたニセコグラベル2024オータムライドのサイクルスポーツ取材班は、北海道を出発する日の朝、ライターと編集担当者が宿泊先のニセコエリアのコンドミニアムから空港への帰路の途中にある洞爺湖まで40kmほどのアフターライドを楽しんだ。レンタカーはカメラマンに運転をお願いし、洞爺湖で合流。バイクをパッキングし、洞爺湖付近で温泉につかって汗を流し、さっぱりした状態で帰途についた。遠征のシメとしてはこの上ないぜいたくな体験だったので、皆さんもぜひ楽しんでほしい。