ファクターの新型ロードバイク「モンザ」デビュー! 詳細レポート
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イギリス発のレーシングブランド「ファクター」より新型ロードバイクが登場。名を「モンザ」、同社のブランドスピリットを世に知らしめる自信作だ。京都で行われたローンチイベント「テンプル・オブ・スピード」の模様と併せてレポートする。
FACTOR MONZA
●フレームセット価格:66万円
●シマノ・アルテグラR8170完成車価格:112万2000円
●スラム・フォースeタップAXS(PM付)完成車価格:115万5000円
●カラー展開:スティールグリーン、ソーラーブルー、パールホワイト
●フレームサイズ:45、49、52、54、56、58、61
和室にロードバイク。これが中々しっくりくる組み合わせだった。畳敷の大広間でヴェールを脱いだそれは、ブランドの考える「今本当に作りたいバイク」を具現化したもの。ファクターが狙いすまして放つ“二の矢”であった。
スピードの殿堂を訪ねて
ファクターといえばレーシング。エンジニア本位の少数精鋭チームによる、勝てるバイク作りに定評あるブランドだ。ワールドチーム「イスラエル・プレミアテック」のロードレースでの活躍を筆頭に、近年はトライアスロンやトラックにも進出。そのストイックさと卓越したデザインセンスで、日本でも徐々に支持を集めている。
そんな注目のブランドが日本で、しかも世界に先駆けた新モデル発表会を開くという。やはり新手のレーシングバイクだろうか?そんな期待を胸に取材を快諾した。
ところで、指定された会場のユニークさに面食らった。場所は京都、それも京扇子の製造卸を手がける老舗「大西常商店」。なぜここで?の答えは後半にて。ただただ興味津々、カメラ片手に特急サンダーバードに乗り込んだ。
ローンチイベントは「テンプル・オブ・スピード」と銘打たれ、築150年の京町家を一棟丸ごと借り切って行われた。靴を脱いで上がると、和室にレースバイクが鎮座する斬新かつスタイリッシュな空間が広がる。イベントに際しファクターの本社スタッフが来日し、国内代理店トライスポーツのバックアップをもって開催へとこぎつけた。
舞台を京町家に据えた慧眼、そしてセンスの良さにただ脱帽だった。なお、ローンチイベント後は同会場が一般ユーザー向けに開放され、レアな実車を間近に拝めるチャンスとなった。
2階の大広間にゲストがそろい、プレゼンが始まった。CEOカルヴィン氏からブランドの歩み、バイク作りへの情熱、今後の展望までひとしきり語られたあと、話題は新型機へ。ヴェールの下から、上品なブルーをまとったエアロロードが現れた。
名は「モンザ」。同社のフラッグシップレーサー「オストロVAM」の弟分にあたるエアロロードだ。大まかなスペックは以下の通り。
- 電動変速専用
- BBはT47規格
- リヤエンドはUDH規格
- ホイールと一体型ハンドルはブラックインク
- 最大タイヤ幅は34c
- ダウンチューブストレージ搭載
第一印象は横に並ぶオストロVAMと瓜二つ、ということだ。交互に見比べると、わずかなチュービングの差にようやく気づけたほど。弟分とはいえどこまでもレーシーで洗練されており、セカンドグレードという雰囲気はまったく感じない。一目でこれはレースバイクだと悟るも、どうやらひとひねりあるらしい。
目を引く特徴は、この手のエアロロードには珍しくフレーム内ストレージを備えることだ。エンデュランスロードやグラベルでの採用が多いフィーチャーだが、利便性を考慮してモンザに取り入れたという。加えて、サドルバッグ取付時よりも4Wの抵抗削減を実現。トレーニングライドに修理キットは必須であるし、美観を害さない。ファクターらしい合理的な判断と言えるだろう。
妥協なく作り込まれたヤングブラザー
名前の由来はイタリアの「モンツァ・サーキット」。長いストレート区間が特徴で、ハイスピードレースが繰り広げられるコースだ。サーキットの一区画が「テンプル・オブ・スピード」と呼ばれ、本イベントに採用されたという顛末だ。その意味するところは、モンザはしっかりと“速さ”を求めたバイクだということ。
カルヴィン氏は言う。ブランドの成長と認知拡大に伴い、より幅広いユーザー層にアプローチする必然性が増し、モンザの開発へと至ったと。オストロVAMはトップレーサーのための“ベスト”バイクであるが、万人に乗りこなせるほど優しくない。それを鑑み、モンザはホビーライダーへ贈る“ファースト”バイクとしてデザインされた。ブランドを世に広く知らしめる存在として、満を持して投入されたというわけだ。
勝てるバイクしか作らない。その哲学を貫くがゆえ、ファクターのカタログは少数精鋭で占められてきた(2025年で計12モデル)。そのどれもが一線級レースバイクであり、プレミアムでエンスーなブランドイメージが保たれてきたが、高嶺の花でもあった。モンザはファクターの間口を広げるバイクと言えるだろう。さりとて、速さへの妥協は一切なし。オストロVAM開発時のエッセンスを元に、よりターゲットユーザーの広いバイクとして設計された。
開発コストのかかる完全新規フレームながら、工法の見直しやパーツ構成の最適化でコストカットを実現できたという。具体的には同社お得意のセラミックスピード製ベアリングは非採用とし、耐久性に優れたスチールベアリングに置き換えた。また、一体型ハンドルとホイールはブラックインクのミドルグレード品を採用。これらのパーツは、兄貴分のオストロVAMとの互換性を確保済み。将来のアップグレードを見据えた設計とされている。
そんなモンザをカルヴィン氏は「エブリデイバイク」と形容する。無論、日常生活の足代わりというチープな意味ではない。日々のトレーニング、ここ1番のビッグライド、そしてレース。ライドの一つ一つに本気で取り組む、エンスージアストのための1台として送り出したという。同一金型+素材のダウングレードで安上がりに作った、他ブランドの末弟グレードとはモノが違うと胸を張る。
オストロVAMとのジオメトリー面での差異は、約5mmリーチが短く、スタックが高いことだ。微差ではあるが、ホビーライダーの想定ポジションに寄せてデザインされたという。これにより、サンデーライダーの伴走者として、初級レーサーの入門機として、モンザは本領を発揮することだろう。プレミアムブランドたるファクターの魅力はそのままに、スピードの快楽を広く伝える1台として期待したいところだ。
モンザは完成車とフレームセットから選択可能だ。ソーラーブルー、スティールグリーン、パールホワイトの3色展開となる。ただし、同社のカスタムペイントサービス「Prisma Studio(プリズマスタジオ)」には非対応だ。
見据える10年目、さらなる飛躍へ
精緻な手作業により生み出される京扇子と、カーボンシートの集合体たるロードバイク。どちらも妥協なきクラフトマンシップのたまものであり、その近似性が大西常商店を会場に選んだ一因でもあったという。扇子とロードバイクに近しさを覚えたのは偶然ではないだろう。ファクターの哲学を伝える場として、これ以上ないほどふさわしい空間であった。
モンザと並びプレゼンで印象的だったのは、ファクターのバイク作りへのこだわりと自信だ。その一例が、オゼオン社の最上級カーボン「テキストリーム」をあえてフレーム最内層に配置すること。外層にテキストリーム地が見える他社バイクが存在する一方で、ファクターは走りの質を追い求めたという。創始者ロブ・ギテリス氏は30年以上のキャリアを持つエンジニアだが、現在でも開発の先陣に立ち理想のバイク作りに邁進している。
もうひとつのトピックは、発表会翌日から4日間、別イベントとして「ラファサミット」が催されたことだ。2025年は京都が会場となり、全世界から150名近いクラブ会員が集ったそう。ファクターはRCC(ラファサイクルクラブ)とパートナーシップを結んでおり、全世界のクラブハウスで利用できるレンタルバイクが、このモンザに切り替わる予定だという。日本のクラブ会員の方は、ぜひ試乗に足を運んでほしい。
ファクターブランド発足から9年、カルヴィン氏の語る展望は明るい。世界各国で同様のローンチイベントを行い、ブランドストーリーの伝播、ユーザーやショップとのさらなるコミュニケーションの拡大を図るという。また、ショールームとしての旗艦店(日本とは明言されなかったが)の進出も見据える。ビッグブランド各社に倣い、世界中にショップを構える日が来るかもしれない。
オストロVAMに対するモンザの登場から、1カテゴリーに2グレードというブランド戦略が透けて見える。少し気が早いが、グラベルバイクやXCレーサーの末弟グレード登場にも、今から期待しておきたいところだ。