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安井行生のロードバイク徹底評論第12回 スペシャライズド・ヴェンジ vol.1

2015年、エアロロード戦争という名の集団から飛び出して一人逃げを打った先代マドン。集団も負けじとスピードを上げ、やっとこさマドンの背中が見えてきたと思ったら、集団内で牙を磨いていた新型ヴェンジが入れ替わるように飛び出した。この強烈なカウンターアタック。しばらく続くであろうこの鮮やかな単独エスケープ。それにまつわる現代エアロロード論。
text:安井行生

二代目の狼狽

ゲームチェンジャーという言い回しがある。言葉自体の意味は「ゲームの流れを変える選手」といったところだが、「物事の優劣を覆すような新しい思想を持つ製品」のような意味で使われることも多い。
各メーカー間の技術格差が小さくなり、それに伴って性能差も縮まったと言われる現在のロードバイク界にも、ときおりゲームチェンジャーと呼びたくなるような傑作車が登場する。
軽量・高剛性という流れを作り出した2003年のスコット・初代CR-1。トレンドに大きな影響を与えた2008年のトレック・マドン。完璧な万能性を備えていた2011年デビューの初代スーパーシックスエボ。ハイテクの申し子、二代目BMC・SLR01。エンジニアの理性的な暴走が作り上げた楼閣的超高性能車、2016年のマドン。このように数年に一度、頭一つ抜けたモデルが出てくるのだ。

今回は、2018年にデビューしたエアロロード戦争のゲームチェンジャー、新型ヴェンジの設計と実力について書こうと思う。

今思えば、初代ヴェンジはそれほど悪いバイクではなかった。筆者が試乗した初期モデルに限って言えば、確かに空力性能を追求するがあまりロードバイクの基本的資質の一つであるフロントフォークの横剛性が決定的に不足しており、ハンドリングに正確さを欠いてはいたが、全身これ翼断面にした結果として、(おそらく偶然にも)フレームの横剛性は適度に抑えられ、フレーム&フォークの空力的資質と適度なウィップを許す剛性感とが相まって、スムーズにスピードが伸びていく気持ちのいいバイクになっていた。
 
なにかがおかしくなったのは、二代目のヴェンジ・ヴァイアスである。初代の剛性不足を補おうとしたからか、今度は一転、剛性感はガチガチのゴチゴチになっていた。走らせれば確かに速かった。空力性能も磨かれていた。が、バイクとの意思疎通は全く取れなかった。バイクとの間に信頼関係が築けなかった。使いようのない専用ハンドルや、利くんだか利かないんだかよく分からない専用ブレーキキャリパー、常にケツをシバきあげてくるスパルタンな乗り心地も含め、こらまた一体どうしちまったのよ、と驚いたものだ。
そんなヴェンジ・ヴァイアスからわずか3年。噂になっていた新型ヴェンジが発表された。

 


これ、新型ターマック?
 
筆者は写真を見てまずそう思った。同じ印象を抱いた人は多いはずだ。見た目からして「エアロお化け」だった先代から一転、攻撃的なフォルムは身を潜め、妙にスッキリとしていたからである。
一体コイツはどういう新型車なのか。神奈川県は湘南国際村でアジアマーケット向けのローンチイベントが行われたため、各国のメディアに混ざって新型の正体を確かめに行ってきた。

椅子から転げ落ちる

プレゼンが始まった。
新型ヴェンジの開発目標は、①旧型より空力性能を向上させること ②ハンドリングを維持すること ③旧型より軽くすること、の3つだという。
いきなり椅子から転げ落ちそうになった。

え、改善点そこでしたっけ?
 
オブラートに包まずに言わせてもらうとそれが感想だ。驚くことに、プレゼンには最後まで「快適性」や「剛性」の話が一切出てこなかったのだ。二代目ヴェンジから改善すべきはまさにその2点だと思っていたのだが。まぁいい。ひとまず彼らの言い分に耳を傾けてみよう。
 
①については、あれだけエアロエアロしていた現行モデルより空力性能はよくなっているらしく、公開されたデータを見ると特に風向き10度付近では大差がついている。メーカー担当者に聞いたところ、これは意図的に作り出された特性だという。「ロードバイクが屋外を走るとき、真正面から風が当たるケースは少ない」というのがその理由だ。
スペシャライズドが風速センサーを積んだ車をプロチームと伴走させてデータを収集した結果、左右5~10度から風が当たることが多いと分かったのだという。だから真正面ではなく、10度付近の空力性能を重視したのだ。もちろんこの角度は自転車の速度域によって変わる(速度が遅くなればなるほど風の角度は大きくなる)。
 
②はヘッド周りのバランスを煮詰めつつ、フォークオフセットを2種類用意し、さらに専用ステムと専用ハンドルの剛性を徹底的に上げるなどして、かなり入念に作り込んだという。もちろんフレームサイズ毎に入念な設計と煮詰め作業を行い、サイズ間で走行性能や扱いやすさに差が出ないようにする設計手法、ライダーファーストエンジニアリングも取り入れられている。
 
③は、フレームの表面積を減らすなど軽さを重視した形状にすることで達成した。フレーム小物も一つ一つ減量させ、フレームセット(フレーム、フォーク、ステム、ハンドル、シートポストなど)で計460gの重量削減(サイズ56)を実現したという。
展示会場に飾られていたフレームを叩いたり小突いたり握ったりしてみたところ、どこもかしこも肉厚でがっちりしていた前作と比べ、新型はチュービングが全体的に薄くなっているようだ。当然だが積層でも軽量化を図っているのだろう。
 
なお、ルーベ同様に新型ヴェンジもディスクブレーキ専用車となり、リムブレーキ仕様は用意されない。また、フレームは電動変速機専用設計で、機械式変速機で組むことはできない。




安井行生のロードバイク徹底評論第12回 スペシャライズド・ヴェンジ vol.2に続く