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ケルビム・今野真一のNAHBS2019レポート

2019年3月15日〜17日に米国・サクラメントで開催されたNAHBS(北米ハンドメイドバイシクルショー)2019。9回目の出展となったケルビムは、「Airline」でベスト・コロンブス・アワードを受賞した。今野製作所のチーフビルダー、今野真一氏が、今年のNAHBSの傾向についてレポートし、自転車の未来を考える。

 
text & photo:今野真一

NAHBSとは

15周年を迎え、過去最高の出展者数を記録したNAHBS(ナーブス)。世界最大のハンドメイドのスポーツバイクが集まるショーであり、ビルダー自らがブースを出すというルールもあり、特別かつ国際的なショーである。通常のショーでは代理店やディーラーがメインとなる事も多くあるが、「NAHBS」は「作り手」との直のコミュニケーションを最重要視しているのが特徴だ。各ビルダーの組織レベルは決して大きくないが「我々が輪界の最先端である」そんな気迫が各ブースから伝わってくる。事実、大手マスプロメーカーもショーに足を運び次のトレンドを探っている光景も珍しくなく、機動性の良さを生かしたビルダー達の試みは常に時代の先端を走っているのである。

 

今年の傾向

技術的に熟成されたディスク&グラベルロードが目立った。オリジナルリヤエンドや、新型のフォークも出揃いスルーアクスル車も洗練された様子だ。650Bはもはや当たり前で、グラベルロードの5台に1台は650Bだった。700x42Cも多少見かけるが圧倒されるほど大きい。この大きさはやはり米国ならではだろう。
ロードバイクとグラベルロードの境界線は距離を縮め判断にも苦しむが、おそらくこの国ではそんな定義は意味を成さないであろう。

 

3冠を達成したNo.22



ベストインショー、ベストカンパニョーロ、ベストSILCA(シリカ)アワードの3冠を獲得したNo.22のディスクロード。今までのモノトーンのイメージから一転、チタンの焼き色を巧みに使いカラフルに。カンパの12速EPSを早速装備

 

SEVENがベストロードバイクを獲得



ベストロードバイクに選ばれたSEVEN(セブン)。意外なことに今回がNAHBS初出展。ドロップアウト、ヘッドチューブ、各パイプ、全てオリジナルのチタンフレームはSEVENならでは。構成がオーソドックスなだけに、フレームの工作が際立つ

 

CHERUBIMはベストコロンブス賞を受賞



CHERUBIM Airline(ケルビム・エアライン)。コロンブススピリット46mmチューブを加工したトップチューブと、新開発のオリジナルドロップアウトを使った最新のショーモデル。ベストコロンブス賞を獲得

 


ケルビムオリジナルドロップアウト。チェーンステーの強度に影響の少ない構造のフラットマウント用エンドは、現地のビルダーからの反響が大きかった

ベストグラベルバイクも獲得したSEVEN



SEVENはベストグラベルバイクにも輝いた。チタンとカーボンのハイブリッドのグラベルバイク。「ロードプラス」と呼ばれる650x47Bのタイヤと、XTR Di2をミックスしたフロントシングルの組み合わせ

 

前後輪ともに右側片持ち「ENGLISH」



NAHBS以外では目にかかれないタイプの1台、ENGLISH(イングリッシュ)の「ライティー」。前後輪ともに右側片持ち。ディスクローターとベルトドライブスプロケットはチェーンステーの外側についている

 

地元カリフォルニアのLOW



ショーで唯一のアルミフレームビルダー、地元カリフォルニアのLOW(ロウ)のグラベルロード。まるでカーボンフレームのような一体感のある仕上がり。こちらも650x48Bのロードプラス

 


Don Walker Cycles(ドンウォーカーサイクル)は、昨年急逝したダリオペゴレッティを追悼する1台を製作。ペゴレッティオリジナルのカーボンフォークとチェーンステーを装備

コンポーネント

各コンポーネント会社も代理店に頼らずに自ら出展している。今年は12速電動やフロントシングルが主流だ。

振り返ってみれば、4年ほど前からこのショーでビルダー達はサードパーティーのパーツや独自の改造パーツを使い、ワイドスプロケットやフロントシングルを実現していた。今回発売されたばかりの「スラム・レッドeタップAXS」や「ローター・1x13」コンポーネントメーカーがビルダーに追いついた形と言えるだろう。そしてこの二社の使用率も高い。なんと全ロードバイクとグラベルロードの内、2割ほどが「スラム・レッドeタップAXS」を装着していた。カンパニョーロもNAHBSに合わせ「スーパーレコードEPS12S」を発表するほどで、コンポーネント会社らがハンドメイドビルダー達の傾向を追従しているのは疑う余地はない。

シマノ製品を使うビルダー達は、XTR Di2のリアディレーラーとスプロケットを流用した1x12が多数と未だに正規の仕様形態では対応できない状況のようだ。

 

ステンレスチューブを使ったCHERUBIM Super Leggera



CHERUBIM Super Leggera(ケルビム・スーパーレッジェーラ)。コロンバスXCRステンレスチューブを使った軽量ロード。軽くする為敢えてリムブレーキを採用。リムブレーキのハイエンドバイクこそ、ハンドメイドの独壇場になっていきそうな予感

 

Cerettaは内装12速を採用したバイクを展示



Ceretta(セレッタ)の650Bグラベルバイクは、Pinion(ピニオン)の内装12速ギアボックスを装備。一瞬eバイクかと思いバッテリーを探してしまった。もちろんこのギアボックスに合わせるフレーム材料も、このNAHBSでは手に入る

 

ローターの13速コンポーネントで組んだT.RED



T.RED(ティーレッド)のエアロロードは、ローターの「1x13」を早速装備。ローターも自らブースを出し、新商品をアピールしていた

ホイールの傾向

今年のトピックは「ハンドビルドホイール」が主流になったことだろう。ディスクが主流となりリムサイズの選択肢も増えた。結果、カスタムする自由度が求められるのであろう。
注目はマヴィックが発表した「オープンプロカーボン」リムブレーキ用、ディスクブレーキ用が用意され、いきなりマスターピースの予感。マヴィックはなんと、汎用のハブも発表。ハブ単体でも、これらを組み合わせた完組ホイールとしても販売予定だそう。
エンヴィを筆頭に、ショーに出展していたBOYD(ボイド)、HED(ヘッド)、ALTO(アルト)など完組メーカー達も汎用のハブにJベンドスポークを組み合わせハンドビルドホイールと謳ったホイールを全面に押し出していた。その流れにロルフプリマもAstral(アストラル)という別ブランドを立ち上げ、流行に対応。パーツ全て専用設計されている完組ホイールがむしろ時代遅れになって来た。

 


マヴィックの「オープンプロカーボン」を使ったホイール。その場で手組ホイールを実際に組みながら展示していた。このほかに、「CXPプロカーボン」リムも発表

 


35周年を迎えたHED。こちらもオーダーを受けてから、仕様に合わせたハブとJベンドスポークを選んで組み合わせるスタイル。カーボンリムも作り置きではなく、注文を受けてから焼いているそう

時代は変わる

驚いた事があった。以前のNAHBSでは主流とされていたeバイクやコミューターバイクなどがすっかり影を潜めている事だ。

それもそのはず、街を歩けば至る所に”JUMP”(ジャンプ)と書かれた電動アシスト自転車が無造作に止まっている。全て、スマホのアプリを使ったシェアバイクで現場での決済を不要にし、エリア内ならどこからでも借りることができ乗り捨ても自由という優れもの。車体の仕様も様々なアクシデントを想定し強靭に設計されている。カップホルダーがしっかり装備されているのもアメリカンである。通勤時間帯にはスーツにネクタイというスタイルで通勤をする姿を多く見かけた。すでにこのシェアバイクは全米の主要な都市で普及しており、現地のジャーナリストによると、自転車愛好家でもなければ自転車は所有するという概念がなくなりつつあるとのこと。目的を達成しつつ、充電もメンテナンスも他人任せで済むシェアバイクは生活圏がコンパクトで遠距離の通勤が稀なアメリカではあっという間に標準となった。私も現地では存分に活用させてもらい身を持って便利さを体感して来た。

これらはスマートフォンなしでは成立し得なかったシステムだ。進化するSNSやコンピューターテクノロジーの影響は、人類、無論自転車乗りにとっても計り知ることが出来ない程の影響を与え続けている。その結果、自転車との付き合い方も大きく変わるのである。そして本当に価値のある体験とは?その答えが浮き彫りになりつつある。

ショーでは草レースやブルベなどに参加することを想定した趣味性の高い自転車が多く、無駄に必要性に訴えるのではなく、体験をプロデュースできる自転車が選ばれている。自分に合わせた世界でただ一つの自転車を作ってもらう。ある意味、究極の自転車体験を提供できるハンドメイドバイクの未来はさらに広がって行くと確信したショーでもあった。

 


「JUMP」の電動アシストバイク。JUMPアプリのほか、UBERアプリからでも利用できる。前輪をモーターが駆動してる為チェーンへの負荷も少なく、ローラーブレーキと相まってかなりメンテナンスフリーに仕上がっている。レバーやケーブルなども極力飛び出したパーツをなくし、多少荒く扱ってもへこたれない構造

 


オーダー車のみを専門に扱う、カナダのBLACKSMITH CYCLEのマイクさんと。今回はNAHBSのスポンサーにもなっていた。スポーツバイクを扱うショップの、一つの理想形かもしれない

 

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