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安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.7

昨今の新型車の中で一頭地抜く注目を集めたルックのヒルクライムスペシャル「785」。同じく登坂を得意としていた名車585に惚れ込んでいた安井は思わず785ヒュエズRS、しかもZED2クランク仕様を買ってしまった。本国技術担当者のインタビューを交えながらお送りする、久々の自腹インプレ。


vol.1はこちら

 
text:安井行生 photo:茂田羽生

軽量化一考

肝心の上りだが、確かにこすこぶる軽快である。ペダルへの入力にカンッカンッと即応する。このフレーム重量でこの剛性感はすごい。似たような重量の新旧スーパーシックスエボ、BMCのSLR01、エモンダなどは、軽量フレームらしくもっとしなやかだった。「軽さと剛性を両立させる」というシンプルな目標は十分すぎるほどに達成されている。
 
本筋とは外れるが、ここで自転車の軽量化についての一考を。
運動する物体として考えれば、自転車は当然軽ければ軽いほうがいい。物理の法則である。パーツや人間が同じ条件なら、フレームは1gでも軽ければ、その分慣性が小さくなり、運動性能は上がる。加速しやすく、上りやすく、曲がりやすく、止まりやすくなるのだ。
ただし、それは剛性や強度が全く同じであれば、という条件付きで成立する話である。快適装備満載のクルマと違って、ロードバイク、とくにフレームは応力を担っていない場所がほとんどない。同じ条件(同じ素材、同じ技術、同じコスト)でフレームを軽くすると、その分きっちり剛性や強度が落ちる。当然それは走行性能にモロに跳ね返ってくる。
 
もちろん軽いことは素敵だ。軽量化は悪魔の実。筆者も一通り手を出した。その結果、実体験として「軽い=速い・良い」とは全く言えないという結論に達した。
例えば、もしフレームの50gの差が走行性能に実影響を与えるなら、ボトルの中の水の量によって走行性能が激変するはずである。体も運動体の一部に含めるなら(もちろん含めるべきだが)、トイレに行く前と後では登坂性能が別物になるはずである(場合によっては大小合わせれば400gほども軽くなるのだから)。
しかし現実世界ではそんなことは起こらない。500gといったって、自転車+人間のトータル重量の1%以下にすぎない。「フレームが600gだろうが800gだろうがどうでもいい。走りの良さのほうが100倍大切だ」と先に書いたのは、そういう理由からである。
重量が加減速に影響を与えやすいホイールだって、実際には軽さと走行性能の間に相関性はほとんどない。軽いだけで全然進まないホイールなんていくらでもある。

 

「軽さ=善」というフェーズからの脱却

しかし企業の経済活動において商品力は重要だ。あのときスーパーシックスエボがあれほどウケたのも、世界最軽量の695gという看板を掲げたからだろう(実際にはそんなに軽くなかったが)。しかし、メーカーもユーザーも、いいかげん数字に捕らわれるフェーズから脱却してもいいのではないか。
世の中にはフレームの実測重量がカタログ重量より重いというだけで激怒する人がいるらしいが、もう少し物事の本質に目を向けたほうがいい。筆者はフレーム重量で買うものを決めたことはないし、フレーム重量なんてアホらしくて測ったこともない。
 
軽さこそ善、とは国内外問わず我々ロード乗りに深々と植え付けられた概念だが、正しくは「軽さと強度・剛性(剛性感)との両立こそ善」であり、肝に銘じておくべきは「同じ条件で軽くすれば強度・剛性は必ず低下する」である。
730gでルック史上最軽量と謳っているこの785も、測ればそれより重いかもしれないが、もしそうだとしても、怒るのではなく安心するくらいでないといけない(以上は全て筆者の主観です。念のため)。
 
まだダラダラと書き連ねてしまった。文字数制限のないウェブ用原稿執筆時に出る悪い癖である。785について、そろそろまとめに入ろう。
結局、ルック・785ヒュエズRS ZED2とは、どんな自転車なのか。
近年珍しい一点突破型。上りかつ高負荷下での反応は鮮烈至極。過激なハンドリングと剛性感が、高負荷下の登坂路においてカチリと噛み合う。調子がいいときはどんどん踏める。どんどん回せる。だが、脚はそのぶんきっちり削られる。貧脚お断り度合いで言えば、ドグマF10に匹敵するフレームだ。
爆売れしているという785ヒュエズRSの本当の性能を目一杯引き出せる人は、そう多くはないだろう。もちろん自分はその他大勢である。今の筆者にとっては、本当に体調のいいときしかこれをこれらしく走らせることはできない。
 
でも、それでもいいではないか。
体のダメージと引き換えに手に入るのは、物理法則の全てが手の内にあるような快感だ。それを得るためのこれはスペシャルマシンなのだ。
体調が万全なとき、このバイクに乗っていると、自転車乗りの本能が無意識に坂を探し始める。これはまさにあの日あのとき、僕らが585の上で見た景色だ。
 
しなやかさ。奥の深さ。タッチのやさしさ。おもてなしの心。驚きの洗練性。過度な快適性。
そういうものはこの自転車に期待してはいけない。これは登坂スペシャル。峠でそんな軟派なものは必要ないのだ。
 
 
 



安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.8に続く