安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.1

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安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.1

昨今の新型車の中で一頭地抜く注目を集めたルックのヒルクライムスペシャル「785」。同じく登坂を得意としていた名車585に惚れ込んでいた安井は思わず785ヒュエズRS、しかもZED2クランク仕様を買ってしまった。本国技術担当者のインタビューを交えながらお送りする、久々の自腹インプレ。

近代ルックの商品構成

安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.1

ボクたちの大好きなルックが戻ってきた。

そんな声がいろんなところから聞こえてきた。
まぁそう言いたくなる気持ちはよく分かるのだ。

かつて峠道で悶えるのが好きな人たちにカルト的人気を誇ったロードフレームがあった。2004年にデビューしたルック・585。カリッとエッジの立った剛性感を持ち(高剛性というより、しなり戻りの速い剛性“感”)、ライダーを蹴り上げるように上るラグドカーボンフレーム。ペダリングも軽いがハンドリングも軽く、「バランス」「完成」「洗練」というよりも「危うさ」「破綻」「やんちゃ」という単語が似合う韋駄天ルック。名作だった。

その後ルックのモノ作りは、E-ポストを採用した595から徐々に独自性を増していく。あれよあれよという間にインテグレーションが推し進められ、専用ヘッドシステム・専用ステム・専用シートポスト・専用クランク・専用ブレーキを盛り込んだ695でオリジナリティが大爆発する。また、その後にリリースされた675は他に類を見ない一角獣スタイルで登場し、別種の賛否両論が巻き起こった。
それら(インテグレーションと一角獣スタイル)が融合した795で、その特異性は極限に達する。そのアクの強さは一部のユーザーには熱狂的に歓迎されたが、一部のユーザーには徹底的に拒否された。

独自性の強いフレーム作りをする近代ルック。例えば2017シーズンの旗艦は、そんな795と695の2トップだった。ルックのハイエンドモデルを買おうとすると、イジりにくく複雑でクセの強いモノしか選べなかったのだ。
それらの走りはさすがカーボンフレームのオーソリティと納得できるものだったが、481や585や595を知っている者からすると、ルックはもうあの頃のルックじゃなくなったんだ、と一抹の淋しさを感じさせるラインナップではあった。

585の面影

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ルック・585

最近のルックは仰々しくて無理。そんな共通認識が生まれつつあったところに、2017年、ルックは突如として軽量フレーム785を発表する。
エアロ完全無視のオーソドックスなフレームワーク。ヘッドフィットシステムすらないドノーマルなヘッドまわり。27.2mm径の真円シートポスト。BBは欠点の少ないPF86。ブレーキもノーマル。互換性は高くポジションも自由自在。
あのエキセントリックな675や複雑怪奇な795の次に、突然このプレーンな785である。サフィックスの“ヒュエズ”はもちろんL’Alpe-d’Huezの“Huez”だ。その名前からも分かるように、上りにフォーカスしたフレームだ。

あのルックが数年ぶりに出すシンプルな山岳専用車。これはどう考えたって585の後継車ではないか。誰もがそこに、あの585の面影を見た。
名車の復活だ。これを待ってたんだ。
そんなスタンディングオベーションと共に、785はウケにウケて売れに売れているらしい。
筆者だって785の登場には心穏やかではいられない。なにせ2009年に試乗した585に惚れ込んで大絶賛の原稿を書き殴り、我慢できず数か月後には中古の初期型585ウルトラを買ってしまったくらいなのだ。訳あって手放してしまったが、その後ヘッドフィットシステムを搭載した最終型のノーマル585を買った。一番バランスがよかったのはなにかのインプレで乗った585オプティマムだったが。
そんなこんなで、785の発表直後から頭の中はそれで一杯。今本当に金がないのでかなり迷ったのだが、コレクション的に所有していたフレーム数本とホイール数セットを売っぱらってなんとか金策し、震える手でオーダーを入れた。

ボクの大好きなルックが戻ってきた― もしかするとそれは筆者の独り言だったか。

末尾の数字2桁が同じであることからも585と785には共通性を感じてしまうが、伝統的に数字3桁となるルックの車名の法則は、時代によって変遷している。
481、486、585の時代は100の位が世代(数字が大きくなるほど新しい)、10の位が車種とグレード(9がトラック用、8がハイエンドロード、6がミドルグレードロードなど)、製法(1がアルミラグ+カーボンチューブ、5がカーボンラグ+カーボンチューブ、6がカーボンモノコック)だったが、595から10の位の意味が変更された(9がハイエンドで、数字が減るにつれてグレードが下がる)。
しかし現在の700番台で再びルールが変更され、100の位が7=ロード、8=トラック、9=MTBという車種を表すものとなった。下二ケタが、65=エンデュランスロード、85=軽量フレーム、95=エアロロード、75=トラック(マディソンなど)、96=タイムトライアル・トラック用と、より詳しいバイクの性格を表すものに。末尾のRSはレーシングスポーツの略で、ハイエンドの競技用フレームを意味する。
だから585は“500番世代のカーボンラグ構造のハイエンドロードフレーム”、785は“競技用軽量ロードフレーム”という意味であり、785と585の“85”は根本的に意味が違うのだ。

安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.2に続く