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安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.8

昨今の新型車の中で一頭地抜く注目を集めたルックのヒルクライムスペシャル「785」。同じく登坂を得意としていた名車585に惚れ込んでいた安井は思わず785ヒュエズRS、しかもZED2クランク仕様を買ってしまった。本国技術担当者のインタビューを交えながらお送りする、久々の自腹インプレ。
 
text:安井行生 photo:茂田羽生

意図した高剛性

担当者は言う。
「785ヒュエズRSは確かに硬いフレームです。もちろんそれは意図したものです。そもそも785は山を速く駆け上がるために作られたバイク。長い上りを速く走るためには、常にケイデンスを高めにキープしてペダリングをする必要があります。そういう強いライダーがリズムをキープするためには、このくらいの剛性が必要だと我々は考えました。逆に、ケイデンスが上下してしまい、ペースが乱れるようなレベルのライダーは、ノーマル(785ヒュエズ)のほうが合うかもしれません」。
メーカー自身が、“ある程度の脚力がある人に向けて作られたフレーム”と言い切っているのだから、こうなるのも当然だろう。硬すぎるとか快適性がどうとか文句を並べる軟弱者は相手にしない。危うさの混じる剛性感でそれなりの脚力を持つ通人を魅了する。そういう仕立てがされているのだ。
 
2019モデルは、ハイエンド帯であっても乗りやすく仕立てられているものが増えた。誰にでも扱えて簡単に高性能を楽しめる快適な高価格車。
もちろんそれはプロからの要求に応えたものなのかもしれないが、メインの購買層である体力が落ちて腹が出てきたオヤジでも乗りこなせるように、という商売上の都合でもあるだろう。
 
それらお客様のご要望やらマーケ屋の戯言やらを中途半端に設計に落とし込もうとすると、安っぽい高性能車が一台できるだけだ。そんなものはそこいらの路上に溢れている。やるなら新型ヴェンジや近代マドンや795ライトRSくらい徹底的にしなければ、完成度において突出するのは難しい。
そうでなければ、785のようにシンプルな方法論で作った方が本物になる。785ヒュエズRS ZED2、これは近年稀に見る本物のレーサーである。ワイドタイヤやチューブレスの流れも含めて、ラクに安全に快適にゴージャスに……そういう潮流から、785ヒュエズRSだけは一人離れて違う方向を向いているのだ。

 
ルック、なかなか面白いことをやる。695も795も、凝りに凝った構造を持ちながら、走りはキレイにまとめられていた(795はああ見えて超万能機である)。しかしこの785は、いたって普通な成りをしていながら、走りは超個性的なのだ。
もちろん走行性能そのものは異なるが、フレーム構造がどうであれ、ネーミングの由来がどうであれ、その精神性において、785はやはり585の再来なのである。
 

追記①

785シリーズから遅れること1年、ルックはハイエンド帯に795ブレードという新型エアロロードを加えた。その走りはしなやかで伸びやかで快適で扱いやすく、どこかかの名車595に通ずる走りの世界を持っていた。

雄叫びをあげながら空を舞う785。
地上1mを静かに滑空する795ブレード。
そのイメージは見事な好対照を描く。
 
2017年までの2トップは、695と795ライト&エアロライトだった。繰り返しになるが、共に作りは個性的で奇抜ながら、走りはバランスよくまとめられていた。
2019年からのハイエンド帯を支えるのは、785と795ブレード。両車とも構造はシンプルになったが、その走りは個性的で、かつ両車間に明確な差が付けられた。
1年の変遷期を挟んだこのラインナップの転換は実に興味深い。
好戦的な785と聡明な795ブレード、これはどこか、やんちゃな585と大人な595の関係に似ていないだろうか。
ルックのヘッドクオーターが本当は何を考えているかなんて知る由もない。だが、試乗印象という状況証拠から斜視するに、ルックは今、黄金期の一つ、585と595が同時に存在した10年前のあの時代に、ラインナップの世界観を戻そうとしているように思える。
もちろんそんなものはただの偶然だろう。しかし、20年近くルックのロード作りを肌で感じてきた者としては、それが意味のある偶然に思えて仕方ないのである。
 

追記②

撮影後、ZED2クランクを外して、アダプターを介してカンパ純正クランク(スーレコの旧型5アームモデル)を入れてみた。
たったそれだけで剛性感があまりに変わるものだから、サドルの上でしばし呆然としてしまった。
ペダリングフィールがマイルドになり、脚を回しやすくなる。心なしか快適性まで上がったように感じる(クランクから伝わってくる振動も快適性に影響しているのだろう)。
 
695に乗っていたときも、ZEDクランクを外して7900のクランクを付けて走っていたが、そのときはZEDと7900でここまで大きな差はなかったように思う。もちろんアルミ製のデュラエースとカーボンのスーパーレコードの剛性の差もあるだろうが、これはZEDクランクとフレームとの相性の差からくる違いでもあるだろう。
 
感覚的には、785ヒュエズRS ZED2のあの独得の剛性感の3割ほどはZED2クランク起因のものだった、と断言してもいいくらいだ。
しかし、動力性能はほとんど低下しない。挙動の鋭さは(ほぼ)そのまま。特にあの鮮やかな登坂性能は全く翳っていない。ペダリングがしやすくなったため、総合的な性能は上がったような錯覚すらある。ここに、785ヒュエズRS ZED2は、めでたく「ボクの大好きなルック」になったのだ。
最初から大人しく非ZEDのRSを買っておけばこんな遠回りをしなくて済んだのかもしれないが、このプロセスもまた自転車道楽の一端である。それに、<785ヒュエズRS ZED2のZEDクランク抜き>と<785ヒュエズRS>が同じ乗り味になるとは限らないし(たぶんならない)。
 

 



安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 完