安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.3

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安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.32

https://www.cyclesports.jp昨今の新型車の中で一頭地抜く注目を集めたルックのヒルクライムスペシャル「785」。同じく登坂を得意としていた名車585に惚れ込んでいた安井は思わず785ヒュエズRS、しかもZED2クランク仕様を買ってしまった。本国技術担当者のインタビューを交えながらお送りする、久々の自腹インプレ。

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785シリーズ3車の性格の違い

安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.32

785ヒュエズ RS ZED2 プロチームブラックグロッシー ※完成車イメージ

そんな785には、3種類のモデルが用意される。核となるのは785ヒュエズRS。販売形態はフレームセットのみで38万円。ルックのハイエンドとしては安い。その下にカーボンの弾性率を落とし、快適性を上げつつ価格を下げた785ヒュエズがある。こちらはフレーム価格約30万円、アルテ完成車(ホイールはアクシウムエリートUST)が44万円、105組(ホイールはシマノRS10)で34万円と、なかなかお買い得な値札を下げる。

ルックは同じフレーム形状で素材を変え、剛性感を作り分けるという手法をいち早く取り入れたメーカーだが、585(585ウルトラと585)、595(595ウルトラと595)、695(695SRと695)では、価格は同じで剛性感を変えるという作り方だった。しかし785では、価格帯を変えてきた。カタチは同じで素材を変えてグレードを作り分けるという、他社もよくやっている手法になったのだ。
なお、RSが付かない素の785は、M46J(46トン)が8%、T800(30トン)が42%、T700(24トン)が39%、グラスファイバー(12トン)が11%となる。もちろん高級食材を使ったからといって必ず美味しい料理ができるわけではないように、素材でフレームの良し悪しは計れないが。

なお、皆さま気にされる重量は、RSがフレーム730g、フォーク280g、ノーマルがフレーム990g、フォーク350g(いずれもSサイズのカタログ値)。確かに軽いが、特段驚くほどでもない。ま、個人的にはフレームが600gだろうが800gだろうがどうでもいい。走りの良さのほうが100倍大切だ。

さて。785シリーズには、785ヒュエズRSより10万円も高い特別仕様車が存在する。785ヒュエズRS ZED2。その名の通り、785ヒュエズRSのフレームにルック独自のZED2クランクをぶち込んだ最高峰モデルである。フランス籍のプロチーム、フォルトゥネオに供給されるチームレプリカという位置付けで、カラーリングもRS ZED2のみ黒/白/緑/青のチームカラーとなる(19モデルでカラーは一新された)。
ハイエンドのさらに上の価格帯に60万70万のフレームが数多くある現在、RSのフレーム38万円はお買い得感たっぷりの価格設定である。しかしRS ZED2は、クランクセットが付属することもあり50万円近くに達する。ZEDのみ他社のスーパーハイエンドと戦わなければならない存在なのだ。

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785ヒュエズアルテグラ ※写真と一部仕様が異なります。

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785ヒュエズ105


キモであり泣き所でもある

クランクは695や795と同じZED2。市場で唯一、左右アームとシャフトが一体化された高剛性カーボンクランクで、BB65という専用の大口径BBシステムを介してフレームに装着される。アーム先端に配されたおむすび型のシムの向きを変えることで、クランク長を170mm~172.5mm~175mmと可変できる機構も盛り込まれている。アーム~シャフト一体成型&大口径ベアリング使用によって、軽量化&高剛性化の最先端を行くクランクセットだ。とこう書けばこの上なく麗しいモノに思えるが、しかしこのクランクは欠点が多いことでも有名である。

左右アームが一体なので、取り付け時にアーム~シャフトにBBベアリングを通過させなければならない。その構造上、Qファクターは149㎜より詰めることが出来ないのだ。これがスムーズなペダリングを阻害するのである。これは、自分で695を買ったときに気付いた重大な欠点である。筆者のような小柄な乗り手にとって、これは軽量化と高剛性化とトータルエンジニアリングの代償だからと笑って許せるレベルの話ではない。ZED2は「小柄なライダーを無視したクランクセット」なのである。

変速性能も欠点の一つ。チェーンリングは795時代にOEM先をストロングライトからプラクシスワークスに変更している。電動化によってチェーンリングにも剛性が求められるようになったためだという。これによって貧弱なフロント変速性能はやや改善されたが、まだまだコンポメーカー純正にはほど遠く、それはこの785でも変わらない。
チェーンリングの作りそのものに加え、チェーンラインも影響している。なぜなら、ZED2はシマノとカンパニョーロに同時に対応しなければならないからである。シマノとカンパニョーロのチェーンラインはもちろん異なるが、ZEDクランクはそれぞれの(ほぼ)中間に設計されている。変速性能は落ちて当然なのだ。
これはルックのカタログにもちゃんと書いてある。
「ZED2クランクのチェーンラインは、あらゆるコンポーネントパーツに対応させるため、アウター46.5mm、インナー39.6mmに設定されています。そのため、シマノ規格(47.5mm、39.6mm)、カンパニョーロ規格(46.3mm、38.6mm)の各メーカー純正と同等の性能は発揮されません」。

かように、ZEDクランクの欠点は、695で初採用されたときからそっくりそのまま健在なのだ。ただし、785ではZEDが嫌ならPF86仕様を選べばよくなった。担当者曰く、「ZEDクランクは市場の中で最も軽く最も剛性が高いクランクセットです。ただ、変速がスムーズなのはコンポメーカー純正のクランク。重量が少々増えても純正クランクを使いたいなら非ZED仕様を、軽さと剛性を追求するならZED仕様が最強です」とのこと。
これまでハイエンドモデルにはZED仕様しか用意せず、「ルックの旗艦に乗りたいんならガタガタ言わずにZEDで乗れ」と言わんばかりだったルックだが、785では「普通の人なら非ZEDでOK。とにかく軽さと剛性が欲しい数寄者はZEDをどうぞ」という姿勢に転じたわけだ。

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ZED2クランクセット

安井行生のロードバイク徹底評論第11回 LOOK785 vol.4に続く