樫木祥子が2022年全日本女子ロードチャンプ獲得/U23は小林が勝利

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2022全日本ロード女子

2022年10月23日、広島県・三原市 広島県立中央森林公園周回コースで行われた第90回全日本自転車競技選手権大会 ロード・レースの女子エリートカテゴリーで、樫木祥子(team illuminate)が優勝した。ゴールスプリントの直前に、一瞬の隙をついた動きの勝利であった。これで樫木は今年、女子エリートタイムトライアルに加え2つ目の全日本タイトルを手にした。

延期された全日本ロード女子がようやく開催

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エントリー19人、出走18人でレースは行われた

6月に開催予定だった全日本選手権エリート女子、並びにU23女子ロードレースが、参加選手の訴えを発端に延期となり、結果10月23日に開催される運びとなった。

天候は晴れ、気温も低くなりすぎず絶好のコンディション。エリートもU23も1周12.3kmの広島空港の周囲を回る広島森林公園のコースを8周、全98.4kmで争われる。

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與那嶺恵理(Human Powered Health)がこのレースの中心人物

コース前半はアップダウン基調の地形に曲がりくねるテクニカルなもの、後半残り4kmから始まる1kmほどの上り、通称『三段坂』はレースでの大事なアタックポイントとなる。

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石田 唯(早稲田大学)を先頭に2周目の三段坂を上るメイン集団

午前11時15分にスタートしたレースは、2、3周目と淡々としたペースで進む。平地では集団となり、やはり三段坂でグッとペースが上がって後方選手が振り落とされる。全18人の出走で、中盤の4周目時点に先頭集団を走るのは7人となっていた。

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コースの最高標高地点で、他選手の様子をうかがう與那嶺(写真左)

三段坂で集団は絞られ、與那嶺、樫木、金子が三つ巴に

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後方を振り落としていこうとするのは與那嶺恵理(Human Powered Health)だ。彼女のコーチは與那嶺に「今日は早い段階から強気で行って構わない」と指示をしており、三段坂で力強く踏んでいるのは彼女である。また、今日の総距離98.4kmは、與那嶺には短いとも言った。海外でのワールドツアーレースを主戦場とする與那嶺が走るレースは150km近いものも多い。

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残り3周、7人の先頭集団はさらにペースアップし、3人にまで絞り込まれた。與那嶺、樫木、そして金子広美(イナーメ信濃山形)だ。それまで軽くローテーションしていた先頭グループは、3人になりあからさまな戦いとなった。

脚が攣った金子、牽制しすぎた二人

3人それぞれが信じる場所でアタックを掛け、残りの2人に捕らえられる。このアタックの掛け合いが最終周回まで繰り返された。その多くが與那嶺が金子と樫木を振り切ろうとしたものだった。

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最終局面への動きは、三段坂最後の上りで始まった。與那嶺のアタックに金子が遅れた。3人になって動きが激しくなり、それまでも騙しながら走っていた彼女の脚がここで攣ったのだ。遅れた金子を置き去りにし、與那嶺と樫木はゴールまでを下っていく。絶望的な状況となった金子だったが、ここからの展開に今日のレースの核があった。

金子は今日のコースを「アタックしてもついて来られるコース」と評した。アップダウンの多い地形は選手の体力を削るがその分、下りが作るモメンタム(慣性)は上りを楽にもし、先方が緩んでいれば追いつくのは難しくない。

それが現実となった。そこからゴール前までに牽制しあった2人のペースは格段に落ち、金子は2人に追い付く。そしてフィニッシュ前200m、上りからの平地ストレートに、3人は連なって姿を現した。先頭は與那嶺だ。

スプリントの直前、その一瞬にすべてが決まった

ここから勝負は一瞬のタイミングで決まった。こんなことが起こった。諦めかけていた金子が、力を振り絞りゴール前180m、渾身のアタックを掛けた。與那嶺の左後ろから一気に追い上げる。

それに気がついた與那嶺は、迫る金子を見るために左を向いた。その瞬間を樫木の本能は逃さなかった。自分から與那嶺の目が離れたそのときが、彼女の勝機だった。

フィニッシュ前100m、與那嶺の右側から樫木がスプリント。そのまま伸びる樫木に反応が一瞬遅れた與那嶺は追いつけなかった。

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2022年全日本選手権女子ロードレースは、樫木が勝利した。これで彼女は個人タイムトライアルに続き、2022年二つ目の全日本タイトルを獲得した。樫木に話を聞いた。

 

ーー最終局面では何があった?

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「ずっと與那嶺選手がアタックを繰り返していて、それに私と金子さんが我慢我慢でついていく形でした。

最後の上りで彼女が踏んだ後は、絶対スプリントになるだろうと。もう絶対、絶対に彼女の後ろから動かないでいようと。

2019年(の五輪選考会で)、私、スプリントで負けてオリンピックを逃しているんです。もう100mまでガマン、ガマンってとにかく自分に言い聞かせました。ここまで来たら最後までタレない、という距離を見計って行った感じです」

 

ーー全日本開催延期になった期間は何を考えた?

「今年8月にコロンビアへの海外遠征があったんですが、その後レースの予定がなかったんです。全日本次第で、オフシーズンに入るかどうかが決まる形だったので。コロンビアが終わってから1ヶ月半ぐらいは、もう練習も本当に身が入らなくて。で、ようやく1ヶ月前になって開催を聞かされて。慌てて高地合宿をしたりして、とりあえず一ヶ月でできることをやって。すごい準備不足だなと思いつつも、今回行ってみました。

 

ーーロード全日本タイトル獲得の気持ちは?

「本当に獲れるとは思っていなかったので……最後3人になったときは、3位になるかな、ぐらいの気持ちで走っていたのでなんかちょっとまだ驚きで。受け止められていないんですけど、まあこれから噛み締めながら、いろんな人に報告したいと思います」。

2位の與那嶺に話を聞いたが、「ノーコメントです」と回答された。言葉はもらえなかったが、何度も顔を洗う與那嶺の目からこぼれ落ちる涙を見た。

アジア選を勝利し参戦した小林がU23

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女子のU23全日本選手権は、女子エリートと同時出走。前々日に韓国でのアジア選手権で女子U23のXCアジアチャンピオンを獲得していた小林あか里(弱虫ペダルサイクリングチーム)が渡部春雅(明治大学/Liv)と女子先頭グループに食らいつく快走で展開。

2022全日本ロード女子

左が小林、右から2人目が2位になった渡部春雅(明治大学/Liv)

レース後半に上位3名が抜け出した後は、小林は後方となった4名の集団をリードする独走で4位に着けた。そのまま自分のペースを守る形で、今日の直接のライバルとなった渡部を遠く離し、U23優勝のゴールをくぐった。

「今日はもう、おとといにあったMTBアジア選手権からの疲れがあるというのは自分で自覚してたので、まあ出し切ることだけにフォーカスして。 出しきれなかったことがゴール後にないよう、全力で走りました。結果的に、U23優勝という形でゴールできたので良かったかなと思っています。アジア選では優勝しましたが悔しくもあったので、それもあって今日を嬉しく思います」(小林)

 

第90回 全日本自転車競技選手権大会 ロード・レースリザルト

エリート女子

1位 樫木 祥子 team illuminate 2:55:18
2位 與那嶺 恵理 Human Powered Health 0:00
3位 金子 広美 イナーメ信濃山形 +0:02

U23女子

1位 小林 あか里 弱虫ペダルサイクリングチーム 2:57:04

全リザルト

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