ジャパンカップでの日本人優勝はもはや夢か?新城に聞いた日本のレベルアップと留目が見たヨーロッパとの熱量の違い

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ジャパンカップ2025 新城/留目

2025年10月19日に行われた宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース。日本人選手たちが苦戦する中で、プロトンから見た新城幸也が感じたこと、また、留目夕陽がワールドチームの2年間で感じたことを聞いた。

 

スピードレースでの日本人選手の苦戦

10月19日、栃木県宇都宮市の森林公園にて2025宇都宮ジャパンカップサイクルロードレースが行われた。レースの具体的な内容については他に譲るが、アジア人(=日本人)最高位は留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)の22位という結果だった。

近年のジャパンカップといえば、シーズン最後のUCIポイントを取る機会ともあり、特にワールドチーム残留が懸かったチームなどはかなり積極的に良い状態の選手を送り込んでいる印象にある。

少し前までは、既にシーズンオフを迎えた状態の選手を見掛けることも多かった。しかし、現在ではイル・ロンバルディアなど直前のレースまで走ってきてから、最終レースとして万全な状態でジャパンカップを走っている選手も多い。

ジャパンカップ2025 新城/留目

引退セレモニーに参加したメンバーが中央に集まり、ワールドチーム、プロチームが多く前方に並んだスタートライン

 

さらに、スタートからワールドチームらが仕掛けるというのが恒例になってきており、これまではスタートライン前方には序盤から逃げに出ようと国内チームの選手が並ぶことが多かったように思うが、ワールドチームのメンバーがスタートライン前方にずらりと並ぶ様子も珍しくなくなってきた。日本人選手たちが逃げに入って山岳賞を狙うことすら難しい状況だ。

今年は特に、日本人選手が苦戦したように見える。

シマノレーシングがスタートから前に出て速度を上げていき、結果下りで集団が分断される形となった。

今年は最初の展開から日本人選手のほとんどが振り落とされていた。反応できた橋川丈(愛三工業レーシングチーム)だけが集団に残り、岡篤志(アステモ・宇都宮ブリッツェン)が下りを攻めて集団に追いつくシーンもあった。だが、結局ワールドチームの選手たちが前へ前へと展開を繰り広げ、使い切った橋川は第2集団からも遅れることとなってしまった。

「良かったですよ。でも、”ここから”なんですけどね」と、ほんの数年前にこのレースの終盤を経験した中根英登は残り3周の愛三の補給をしながら話していた。

ジャパンカップ2025 新城/留目

集団に食らいついた橋川

 

集団には留目、宮崎泰史(キナンレーシングチーム)、新城幸也(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)、岡、金子宗平(日本ナショナルチーム)が残ったが、先頭グループには日本人は誰も残ることができなかった。

 

”助っ人外国人”として

ジャパンカップ2025 新城/留目

集団を引く新城

 

新城は、昨年までのバーレーン ヴィクトリアスにいたときのスケジュールのようにジャパンカップまでのレース期間が空かずに、マレーシアや九州のレースを走ってから乗り込んだことにより、「近年では一番調子がいい状態」とチームプレゼンテーション前の会見で話していた。

しかし、序盤から下りで集団が割れたことによって、チームごと取り残されてしまった。自ら集団を引く動きもしたが、「結局、(チームメイト)4人とも同じ集団でずっとレースをすることになって、ただ走っていて、みんなの力を全部発揮できずに終わった感じでしたね。脚の調子が良かっただけに、もったいないレースをしたなっていうのは、もう悔しい気持ちしかないです」とレース後に振り返った。

新城は今年プロチームへと移り、レーススケジュールも大きく変わった。ツアー・オブ・ジャパン(TOJ)やツール・ド・熊野、ツール・ド・九州など日本のレースも多く走った。

ツール・ド・九州では新城自身がレースを動かしていたように、日本のUCIレースを他の日本人選手が動かせるようになるには、そもそも「どういう選手をチームが取るか」も大きく影響すると新城は話す。

僕みたいに教えられる選手を取っていれば、チームはどんどん強くなるんですよ。だけど、あるチームは外国人を連れてきて、その外国人が自分の好きなように走って、他の日本人には何のチャンスもないという状態がダメなんですよね。チームの思いもあるでしょうし、(UCI)ポイントが欲しいというのももちろんあるでしょうけど。

僕はチームのために走るし、外国人助っ人ってもともとそういう役割じゃないですか。日本の選手がただアシストして終わっていたら、もちろん(チームの)成績は出るけど、日本のレベルアップにはならないですよね。日本の選手を強くするつもりはなくて、チームの成績だけが一番だと言うなら、別にそれでいいのですが。

じゃあ日本の選手を強くするためにはどうするかって言ったら、経験あるライダーを捕まえて、今サイクリングがどうなっているかを教えてもらう。ただパワーを出せばいいという話じゃないじゃないですか。こうやって下りで分かれるし。だから、自転車の乗り方も教えなきゃいけないし、ズイフトをやってるだけじゃ、この下りは下れないですからね

 

選手自身がレースを見ながら自身の脚を使うべきタイミングを考えることも大事だと新城は続ける。

あとは選手自身がちゃんと考えてやることですよね。チームメイトと一緒にいるのは分かるけど、ついていくだけじゃ意味がないですから。ちゃんとレース展開を追って、今、何でリーダーチームがこの逃げを行かさないのかとか、総合順位を見て1分以内の人たちは逃がさないよなとか、ちゃんと選別して、どれもこれも行ったら脚が売り切れるだけですから。

そういうのも分かっていない選手もいます。だから一緒に走って、あれがああだったね、こうだったねとその場で言えることが大事なんです。車(チームカー)からでは見えないんですよね。

『それ今必要か?』って考えることですよね。今日はシマノがスタートしてすぐに先頭で上り始めたじゃないですか。それは意味があるのか?って。まあ最初の2周で映らないチームもあるんで、それに比べたらいいです。だけど、先頭じゃななきゃダメだったのか?と思うんですよ。

ワールドツアーの誰かが引いていたら、その後ろで上り始めればいい。そうじゃないと先頭の人は引き倒して、たった1㎞で終わりになってしまう。逃げに乗る、分かった、じゃあ周りを見てやろうよっていう話です。だって毎年、古賀志の1周目は速いから、だったら2列目にいて横一列になった瞬間飛び出した方がいいじゃないですか

そういったことを経験を重ねてきた選手たちが伝えていくべきだと新城は話す。

自分がこれだけ経験してきた、いい経験でした。それで?っていう。次につなげようよって思います。“経験”はもう3回ぐらいでいいです

 

日本のレースを多く走った1年で分かったこと

ジャパンカップ2025 新城/留目

沿道からは一際大きな声援が送られていた

 

シーズン初めに新城が「日本のレースを走りたい」と言ったのには訳があった。

日本の選手を見たかったんですよね。僕の選手寿命はもうあと 1、2年じゃないですか。なので、今できることを、さっき言ったように集団にいないとできないと思うんですよ。みんながどういう走りをしているのか。もちろんYouTube中継ありますけど、全部を見られるわけじゃないので

実際にTOJや熊野でも、勝負どころでない場所で無駄に風を受けて、脚を使ってしまっている日本人選手に対して「それ必要か?」と問い掛けをしたという。

うるさい奴だなと思われてるかもしれないです。だけど、何でそれを言われたかって、その人が理解しないとダメなんですよ。今必要? なんで?みたいになって終わってしまったらそれまでなんですよ。もちろん大事なところは行かなきゃいけないし、でもついてきゃいいだけじゃないんです

ジャパンカップ2025 新城/留目

展開を見極める力、そして譲り合いの心も必要であると続ける。

そこが日本のレースは結構みんなガッチャガチャなんですよ。(今回でいえば)ワールドチームが集団を引いているところに僕らが行っても、僕らを前に入れないわけじゃないですか。もし自分たちのチームが引いていても、他のアマチュアチームが来たら入れない。

九州とかで戦っていると、結局大事なところで脚を使わずに前に残れないっていう人が多い。第1ステージとかは特にそうでした。みんなぐるぐる(先頭交代に)来るけど、結局上りを上ったら僕と増田(成幸・チーム右京)さんしか前にいなかった。だったら位置取りで脚を使わないで後ろにいて、終盤の上り口だけ前に来ればいいじゃないですか。

ずっと僕らと一生懸命先頭交代していたブリッツェンの選手にも『俺らの前に出てもどうせどかされるんだから、後ろにいろ!』って言ったんですけど、その意味が分かってるかどうか。結局彼も残れていないです。

だからそれを言ってくれる人がやっぱり大事ですよね。(国内チームに来ている)外国人が教えてくれないと。今一度そういうところを見直してほしいと思いますね。あとは、選手本人にも聞かなきゃいけないです。色々分かっているつもりかもしれないけど、どういうことなんだろうって。

ツールとか、レースを見て勉強するしかないですね。どうしてこのチームはこういう動きをしてるんだろう?って

ただがむしゃらに走る、それだけではレースを動かせるようにはならないし、日本全体のレベルアップには到底つながらないのだ。

 

熱量の差

ジャパンカップ2025 新城/留目

逃げグループがフィニッシュをした後の集団スプリントで22位に入った留目

 

今年、唯一のワールドチームに所属する日本人となった留目は、2年間ワールドチームを経験して、「新城選手とか別府(史之)選手と比べると本当にまだまだなんですけどね」と加えつつ、分かったことがあるという。

レースに関しては当たり前なんですが、自転車に対する熱が日本人とヨーロッパプロで違いが本当にあるなと思います。

ワールドチームやプロチームなどに所属する”本当のプロ”は、自転車に対する熱がすごくて、睡眠だったり食事だったりとか全部に専属のコーチがいたり、あと本当にシーズン中は自転車以外何もしないみたいな、友達とご飯行くのも遠慮したりとか、プロのヨーロッパの選手は自転車に対して、『絶対成長してやる』、『絶対レースに勝ってやるぞ』みたいな、プロの領域で絶対生き残ってやるっていうその熱量が、日本のチームとヨーロッパでは全然違うなと思います

ジャパンカップ2025 新城/留目

留目もそれに感化され、必要な時以外は動かずにリカバリーに徹したり、食事や睡眠にも投資をして、「最高の状態で自転車に臨む」ことをしてきたという。

彼らの話からするにヨーロッパと比較するのであれば、日本人との差は単にフィジカルだけではない。明確に意識の違いやレースに対する理解度というところにもそもそもの差があるのだろう。

全部が全部、ヨーロッパ至上主義になるべきだとは言わない。新たな芽を生み出すために国内でも裾野を広げていく必要はあるからだ。ただ、ヨーロッパを目指す、つまりジャパンカップで勝ちを狙うくらいの選手になるためには、その差を理解して埋めていく必要があるのかもしれない。

 

<参考サイト>宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース