新連載! 安井行生のロードバイク徹底評論 第1回 Cannondale SYNAPSE HI-MOD2 vol.9
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2012年、名車スーパーシックスエボを完成させて、レーシングバイクカテゴリでライバルを置き去りにしたキャノンデールが、エンデュランスロードにも本気になった。イタリアで100km、日本で300kmを走り込んだ安井が、シナプスの本質とエンデュランスロードのあり方に迫る。技術者インタビューを交えた全10回、1万文字超の最新ロードバイク論。vol.9。
背反条件の見事な両立
前述したとおり、このシナプスはフレーム各部を理詰めで構築していったモデル。フレームの末端(フォーク・シートステー・チェーンステー)を動かし、パワーライン(ヘッド~ダウンチューブ~BBエリア)を硬く作る。動かす場所と固める場所を明確に分け、ペダルを踏んだときにはガッチリと、路面から入力があったときは柔軟に動かすという作り。快適性と剛性を両立させたいのなら、どう考えてもこういう設計にするのが理論的・力学的に正しい。
そうして実現したのが、背反条件の見事な両立だ。「快適性」と「柔らかだが無駄のない脚さばき」と「常に高レベルを維持する動力伝達性」の両立である。性能面でロードの本分は守られている。次に論ずるべきは、その走りが楽しいか否か。路上で気持ちよくなれるか否か、である。
動く歩道の浮遊感
なぜそのような論点に立とうと思ったか。それは、フレーム各所の役割を明確に切り分けることによって、新型シナプスから生々しい感触が失われてしまったと感じられたからである。動力伝達性と快適性とのあまりに高度な両立によって、ある種無機的な印象を乗り手に与えてしまうのだ。リアタイヤが路面を蹴飛ばしているという実感が薄い。それなのにすさまじい加速をしてくれるのだから、本当に不思議な感覚である。ゼロスタートの瞬間は、空港によくある動く歩道に足を踏み入れた時の「フワッ→スッ」という浮遊感に似ている。
どこか不自然さを残したまま、洗練に洗練を重ね、現実味のないハイスピードで滑空する。これが最新コンフォートバイクの走り方である。それは、開発費を大量投入し高度な技術を積み重ねて機械として優位に立つ冷静な速さ。正しい理論を極めて忠実になぞった速さ。乗ってすぐに技術達成度の高さに驚ける速さである。だから、この新型シナプスは「コンフォートロードにしては……」というエクスキューズを必要としない。ロードバイクとして超一流の走りを得ているのだ。
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