日本で世界と渡り合う若手、兒島直樹はパリ五輪メダルを照準に定める

目次

兒島直樹インタビュー

2023年5月ツアー・オブ・ジャパン 信州飯田ステージ 山岳賞獲得

兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング所属)はトラック競技で、パリオリンピック出場を目指している。目指しているというより、2024年4月時点で、現実的に出場への切符をほぼその手にしていると見ていいだろう。というのも、兒島がメンバーの一人であるチームパシュートが、五輪出場国枠を獲得できる順位を確定させたからだ。

ただここで改めて兒島を取り上げたいのは、2023年の兒島はトラックレースだけでなく、日本におけるUCIロードレースで何度も大きく存在感を見せてきたことからである。

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2023年12月『THE ROAD RACE TOKYO TAMA2023』優勝 photo: Satoru KATO

 

5月の『ツアー・オブ・ジャパン』では総合山岳賞の獲得寸前まで攻め続けた。

11月の『ツール・ド・九州』では前哨戦のクリテリウムを含む2つのステージで優勝し、総合スプリント賞も獲得した。

12月の東京2020五輪のレガシーロードレース『THEロードレース東京2023多摩』では、劇的な独走勝利を決めた。

 

トラックレースのアジア大会では金メダルを獲得。今年の世界大会、ネイションズカップでは男子オムニアム3位を獲得。一般メディアでの露出も徐々に増え、世界的なレースで着実な成績を収めている23才の若き自転車競技者だ。

ロード/トラックという枠を超え、日本/世界という壁も軽々と超えていった兒島直樹。その彼が今見つめているのは、オリンピックでのメダルだ。そしてそれは、あと少しで手の届くところまで来ている。

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2023年5月 ツアー・オブ・ジャパン 相模原ステージ 山岳賞ジャージ着用

 

【兒島直樹】こじま なおき(TEAM BRIDGESTONE Cycling)

2000年11月1日生まれ、福岡県出身。

日本大学3年生時に現チーム加入。大学2年から4年までインカレ男子オムニアム三連覇。2021年全日本選手権ロードレースU23優勝。2023年全日本選手権男子ポイントレース優勝。2023年杭州アジア大会男子マディソン優勝、男子チームパシュート優勝。2024年UCIネイションズカップ第2戦男子オムニアム3位、男子チームパシュート2位。

Instagram :@naoki_kojima

チーム公式プロフィール>>
https://www.bscycle.co.jp/anchor/blog/2024/01/24teamKojimaN.html

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2023年5月 全日本選手権トラック/ポイントレース優勝

 

スプリント力もない、体力もない僕に、トラック中距離種目が合っていた

 ーー自転車競技を始めたきっかけは?

中学生の間、通学が自転車になったんです。それに僕は学校外で野球をしていたので、そこに通う時にママチャリを使っていました。その行き帰りに、野球部の子たちと競い合ったり、学校への通学で友達と自転車で競い合ったりしたなかで、速かったんですね。そういうきっかけがあって自転車をやりたいというか、『自転車だったら一番になれるかも』みたいなのがあって。なんか浅はかな考えではあったんですけど。

その後にテレビでロードレースを見たんですよね。こういう競技があるんだ、っていうのをそこで知って。中学の友達とその家族とよく一緒にご飯を食べる機会があったんですが、その友達のお父さんにそんな話をしたら、その方の先輩に競輪をされていた方がいて、その人を紹介してもらったんですね。挨拶をしたら「週末に久留米競輪場に遊びに来ていいよ」みたいに言われて。土日だけ久留米競輪場に遊びに行くようになって自転車に乗り始めて、なんか楽しいなと思って。

久留米競輪場には、地元の祐誠高校の生徒たちが練習に来るんですよ。その高校生たちと一緒に練習していると、自転車は楽しいな、って。自転車を続けるなら祐誠高校に進学だなってなって。その方に祐誠高校を紹介していただいて、進学したって感じです。それまでは高校を選ぶのにずっと悩んでて、結局そういう流れで祐誠高校に自然と行きました。

 

ーー『祐誠高校』は自転車競技の強い学校?

強かったですね。今村先輩(今村駿介/チームブリヂストンサイクリング)の代が、その時インターハイで総合優勝していたので。僕が入った時には、入れ違いで今村先輩はいなかったんですが、強かったですね。

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2023年8月 世界選手権トラック/ポイントレース 7位

 

ーー高校の時の自転車競技の成績は?

一番最初に全国で優勝したのは、高校2年生の時の国体、ポイントレースです。その前に、JOCオリンピックカップのポイントレースで2位と都道府県大会のポイントレースで2位になって、2位が続いて、その次にあった国体で優勝したって感じですね。ロードレースでは、高3の時に全日本選手権ジュニアで3位になっています。

 

ーー高1で競技を始めて高2で国体優勝?

そうですね。その高校2年の時の国体優勝から自信がつきましたね。高1の段階だとやっぱり差があったんですよね、同級生には中学生の時からやってる子もいて。同級生が強いのは、やっぱり悔しい。追いつきたいってのもあって自主練習をやったり、先輩に喰らいついてみたいなことやってたら、ちょっとずつちょっとずつレベルアップしていったって感じです。

 

目標を世界選でのメダルに定めると、すべきことが自ずと見えてきた

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2023年世界選手権トラック/チームパシュート 8位

 

ーーずっとトラック競技に? ロードレースに出たいとは思わなかった?

そうです。結構珍しいんですけど、そもそも祐誠高校にはロードの練習がなくて、基本的にもうずっとトラックで練習でしたが、トラックレースもスプリント系の練習も楽しいな、みたいになって。

それに、トラック競技には中距離っていう種目もあって。自転車には競輪とロードレースしかないと思ってたけど、やり始めたらこの中距離種目が楽しいなって思って。

 

ーートラックの中距離競技は何が楽しかった?

僕的には、スプリント力もなく、ロードレース走りきる体力もなく、その間がちょうど僕に合ってたというか。速すぎなくても勝てる、ぐらいのところがよかったです。

今もそうなんですけど、僕はスプリント力があるわけでもないです。でもロードレースってスプリント力なくても体力があれば勝てるところもありますし、その本当に中間が僕にすごい合ってたなってのがありました。

 

ーーですが見え方としては逆。スプリントもできて、長距離を走れる体力もある。自分ではその辺をどう感じている?

ポジティブな感じで言ってもらえましたが、僕的にはやっぱり、どれも中途半端だなというのはあります。突き抜けたものがない。何か突き抜けた自分だけの武器が欲しいなって、長年思っています。器用貧乏みたいな感じですよね。突き抜けたものがないと、やっぱり勝てない。

国内だったら武器になる部分があるかもしれないですけど、世界を見渡すと全然平凡だった。だから、何か世界でも通用する武器を身につけたいなっていうのはあります。

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2024年4月 Jプロツアー 西日本ロードクラシックDay1優勝 photo: Satoru KATO

 

ーー例えばその気持ちの表れが、去年のツアー・オブ・ジャパンの山岳賞だったり、ツール・ド・九州でのポイント賞獲得への原動力に?

そうですね。進化したいって思っていると、流れに身を任せるんじゃなくて、自分がどうなりたいか、どうしていきたいのかって考える。そのなかで、この道の方が面白そうってなったら、じゃあ成功するかわからないけど行ってみようっていう感じです。

2023年は、世界選手権のポイントレースでメダルを獲りたいっていう目標を立てていました。そういう目標を立てることは今までなかったんですが、その年で一番大きな目標を立てたら、それに向かって、今何をしないといけないかっていう道順が見えてくる。

ポイント賞とか山岳賞に挑戦するっていうのも、世界選手権でのポイントレースのメダルにつながるのかなって。ただただロードレース走るだけじゃ意味ないなと思って、目の前の目標を立てるっていうのも重要だなと、そういう挑戦をしました。

 

2023年のロードレースでは上りもスプリントも独走も自信がついた

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2023年12月 THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2023 表彰式 photo: Satoru KATO

 

ーー今行なっているトレーニングはトラック中距離のためだと思いますが、それがロードレースに役立っている?

だいぶありますね。コーチが今のダニエル(ダニエル・ギジゲル氏)になって、全方位的なトレーニングをしています。短距離競技寄りのスプリントトレーニングもするし、ロードで乗り込みもします。チームパシュートのスタートも、フライング(走行中からのスタート)からチームパシュートのように走ったりとか。どんな状況にも対応できるようなトレーニングをずっとしてきています。

実際のロードレースに当てはめても、体力は乗り込みで補って、スピード面だったら中距離的な走力でいけます。スプリント系のトレーニングもしているのでフィニッシュスプリントにも対応できます。アタック合戦になったとしても、インターバル系のトレーニングもしているので対応できる。

たぶん今、チームのみんながどういう展開でも走れる、ロードレースを戦えるって自信があると思います。強いて言うなら独走とかは難しいかな。

 

ーーそれでも2023年の12月『THE ROAD RACE TOKYO 2023 TAMAで独走勝利を収めている。

あの時は特に何も意識はしていなかったです。チームの作戦的に逃げるっていうプランはあったんですが、最初アタック合戦があって、逃げは全然決まりませんでした。ただ一回ニュートラル区間があって、それが終わった後に、もしかしたら抜け出せるかもって思って。

ずっと我慢して、よし行くかって思ったタイミングで、前の方で大喜さん(山本大喜選手・JCL TEAM UKYO)がなんかウズウズしてたので、それを眺めてたらバーンって行ったんですね。着いていったらその逃げが決まって。自分が決めたかったタイミングと大喜さんが行きたかったタイミングがちょうど重なった。

独走になった時、後ろの集団はすぐ見えるとこまで来ていました。残りの距離はまだ10kmぐらいあって、平坦区間だったからこれは捕まるだろうなって思いました。でもどこまで逃げ切れるか試してみようってのもあって、一人で走り始めて。意外に距離が詰まらなかったので、出し切れるだけ出し切ってやろうと思って、ずっと走ってましたね。

この東京のロードレースだけじゃなくて、2023年を全体を見ると、TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)では上りをこなして、ツール・ド・九州ではスプリントでステージを勝てて、ポイント賞もスプリントで取れた。その後の多摩(THE ROAD RACE TOKYO)では独走も決めれられたので、ロードレースにおいてどの場面でも対応できるっていうのが分かってすごく自信になりましたね。

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2023年10月 ツール・ド・九州・小倉城クリテリウム優勝 Photo: Satoru KATO

 

ーーではそのTOJについて。山岳賞に挑んだけれども少しの差で逃した。これを今どういう風に感じていますか?

僕の中では、しっかりやれたと思っています。ただ力不足だったと思うのは、信州飯田ステージです。ポイントを獲得できる機会が3回あって。2回目までは先頭にいたんですが、3回目にドロップしちゃってポイントが取れなかった。ここで残れる体力があれば総合山岳賞は獲れていた。

信州飯田ってすごくキツいコースなんですけど、そこを耐えられる胆力が必要だし、世界で戦っていくうえで、レースの終盤でどんなにキツい場面になっても出し切るかっていうのがすごく重要になってくる。そういう胆力みたいなところ、精神的なところも必要だなと思いました。

自分に甘えてドロップするんじゃなく、もうどうしてでも獲りたいっていう気持ちを強く持たないと、特別賞ジャージも獲れないなっていう。そういう何かを成し遂げたいときって、どれだけ自分の中で強い意識を持てるかっていうのがすごい大事になってくるんだなって改めて思いましたね。

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2023年10月 ツール・ド・九州 福岡ステージ優勝後地元知人らに祝福される Photo: Satoru KATO

 

ーーさらにUCIレースのツール・ド・九州では、地元の福岡ステージで勝利し、狙っていたポイント賞も獲得した。

あれは本当にすごく集中してましたね。最初の福岡ステージは特に、レースの終盤が自分の地元だったのもあって、絶対に一番前のグループで通過して、みんなの前に出たいというのがありました。一度千切れはしたんですけど、もう全力で追いついてやるっていう気持ちがあったので、がんばって追いついて。

最後の上りもそこさえ耐えればゴール勝負にいけるところだったので、すごいきつかったんですけど、前の選手の後輪だけを見て食らいついていく意識で。それだけ意識しながらやっていたので、これまでの中で一番集中したレースになったのかなと思いますね。

 

ーーそして今年、トラック競技のネイションズカップという世界大会で、オムニアムで3位を獲得。

さっき自信がついた、って言ったんですけど、あれはロードレースだけでの自信です。

香港のネイションズカップは、オムニアムに出場できるって1月の時点から聞いていて。みんなにオリンピックに選考されるチャンスが平等にあるんだなっていうのを感じていました。誰よりも成績が上だったら、僕にもオリンピックのオムニアムに出られる可能性があるなって。

アジア選手権で勝つのは当たり前だと思っていたので、香港のネイションズカップに向けてずっと調整していました。しっかり乗り込んで体力面を強化しつつ、トラックでのトレーニングもどれだけ意識高くやれるかっていうのに重点を置いていました。

そんな調整で臨んだ香港だったので、すごくワクワクしていましたし、最初の3種目目まではすごく楽しみながら走っていました。結果総合2位で最終種目のポイントレースを迎えて、もしかしたら優勝できるんじゃないかっていうのが現実になって。

ただ逆に、現実になったことで自分が固まった部分もありました。緊張して固まって、結局アグレッシブな走りができなくなって守りに徹したというか、後手に回ることが多くなってしまって。視野も狭くなって、もう何も考えられなくなって、ただただ走ってるっていう感じになってしまったので。。。3位という結果になって、本当にもったいない部分がたくさんあったポイントレースでした。

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)2024年3月 静岡県三島市でのUCIネイションズカップ香港大会パブリックビューイングにて 男子オムニアム3位

 

五輪に出場できるかは考えず、自分のやれる精一杯を毎日積み重ねていく

兒島直樹インタビュー

2024年1月 チームの初詣にて

 

ーー今目指してる、憧れている選手というのは?

難しいですね。でも国内で言うなら、ずっと目指してるのは今村先輩(今村駿介・チームブリヂストンサイクリング)ですね。

ずっと僕は、目標選手を立てています。高校の時は、僕が1年生だった時の3年だった強い先輩を目標にして、その選手に食らいついていました。その先輩よりもいい結果が出始めて、追い抜いたっていう感覚が出てきた時に、次の目標を今村先輩にしました。

福岡の先輩でもあるし、身近な存在でもあったので、目標にしてやってきました。それが今もずっと続いています。本当にすごくありがたく、引き上げてもらってるって感じです。

 

ーーオリンピックは、いつ頃から現実として感じられるようになった?

去年からですね。目標を立てると意識を変えた去年からです。オリンピックが目の前、もう全然時間がないって感じ始めてからすごく意識が変わりました。

去年の時点であと1年ちょっと、長いように感じるんですけど、競技の伸びしろ的に見るともう本当に時間がないのを実感して。そこからはもう本当に意識高くやらないと、オリンピックのレベルまで行けないっていうのを感じて。

オリンピックでのメダルの前段階として世界選手権で表彰台に立つことは大事だと感じたからこそ、まずそこに目標を置きました。これが、2023年の伸びしろにつながったのかなって感じています。

兒島直樹インタビュー

2023年11月 リラックスした表情で

 

ーー妄想でパリ2024オリンピックを語ると、どの種目に出てどんな結果を残したい?

そこまでは明確になってないかもしれないですね(笑)。妄想の話だと、オムニアムでメダルを獲りたいです。

ただ妄想から現実的な話になると、チームパシュートで枠は取れてるんですけど(チームパシュートで五輪出場枠を獲得するとオムニアムの出場枠も獲得できる)、チームパシュートに出場できる4人に入っても、例えば今村先輩が(2023年の)世界選手権でオムニアム3位を獲っているのもすごくプライオリティが高い。

そういうことをいろいろ考えてたら、そもそも自分がオリンピックに出られるのかすら分かんないなって考えちゃって。

でも、最近はまた考えを改めていて。出られるか出られないかはもう考えないようにしようと思って。自分のやれる精一杯のことを、毎日の練習で積み重ねていって。自分のやれることを精一杯やった上で出られなかったら、仕方ないっていう諦めもつく。

出られる出られないじゃなくて、そういう自分のやれることを積み上げていこうっていう気持ちに変わりましたね。

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2023年5月 ツアー・オブ・ジャパン信州飯田ステージ表彰式でのシャンパンファイト

 

ーーこれからの自転車競技者としてのビジョンは?

28年のロサンゼルスオリンピックでは、オムニアムでメダルを取ることを、まず目標にします。

その後の明確なビジョンはないんですけど、世界選手権よりは、4年の一度のオリンピックでメダルを取りたいという気持ちに変わってきました。ロスとブリスベンでのメダルのチャンスが、僕の中では現実的に狙える大会です。その二つの大会でメダルを獲るというのを目標にやっていきます。そのぐらいしか考えられないですね(笑)。

<参考サイト>
チームブリヂストンサイクリング(アンカーブログ)