トラック競技における空気抵抗との戦い。パリ五輪に向けての機材開発競争を追う

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2024トラックネイションズカップ2024

今夏行われるパリ五輪に向けて各国の機材開発競争が熱い。日本チームが11個ものメダルを取り、大躍進を遂げたネイションズカップ香港。本大会での機材のトレンドを追う。

2024トラックネイションズカップ2024

トラック競技は空気抵抗との戦い

人力で出せる最高速のスポーツと言われる自転車競技。中でもトラック競技は速いスピードで行われる。スプリント予選では多くの選手が200mを10秒を切るスピードで走り抜ける。世界記録は9秒100。平均時速は79kmに達する。

2024トラックネイションズカップ2024

ライダーの最大の敵は空気抵抗。走行抵抗の約70〜90%を占め、その内70%以上はライダーの身体が受けていると言われている。残りの約10〜30%はチェーンやギア、ベアリングの駆動抵抗、タイヤの路面抵抗となる。

パワーとスピード

ロードバイクの登りのスピードを決めるのはパワーウエイト・レシオ。自身の体重に対してどれぐらいパワーが出せるかでスピードが決まる。対してロードの平坦やトラック競技のスピードを決めるのはパワーCdA・レシオ。空気抵抗に対してのパワーでスピードが決まる。

スピードを上げる為には、パワーを上げるか?空気抵抗を減らすか?が必要になる。ライダーはトレーニングによってパワーアップを図り、各国のエンジニアは空気抵抗削減によってスピードアップを図る。

空気抵抗を減らすには?

先述の通り走行抵抗の大部分は空気抵抗。その削減の為に様々な工夫がなされる。各国のエンジニアは3Dシミュレーターで空気抵抗の少ない製品を開発し、風洞実験で実証テストを行う。

ライダーの身体が受ける抵抗は実測でないと測れない部分が多く、最近はライダーの体型をコピーしたマネキンを風洞に持ち込んでテストが行われる。

タイムレースの空気抵抗削減

タイムレースではDHバーの使用が認められている。かつては前面投影面積を小さくすることが空気抵抗削減のカギとされた。正面から見たときに如何に低く狭くするかを重要視していたわけだ。

2024トラックネイションズカップ2024

しかし風洞実験とトラックレースのタイムからDHバーに顔をうずめるようにすることが、空気抵抗削減に有効な手段であることが分かった。胸に巻き込む空気が減らせるからだ。さらには空気を最初に切り裂くDHバーを前腕にピッタリと合わせることで乱流を防ぐ工夫などもされている。
 

バンチレースにも開発のメスが入る

かつてはタイム種目で盛んに行われた空気抵抗削減の試みだが最近はバンチレース(オムニアムなど集団で行う競争種目)にも取り入れられるようになった。

以前はハンドルのドロップ部を持ってレースを走ることが大前提であったが、サーベロ社が行った風洞実験によりドロップ部を持つよりもハンドルの上部を持つほうが空気抵抗を減らせることが分かった。

それに伴い、メーカーはロードバイクのブレーキブラケット状のツノを持つハンドルを開発。これによりハンドル上部に手を置きやすくすると共にハンドル操作を行いやすくした。中距離種目では今や80%以上の選手がこのタイプのハンドルを使用する。

2024トラックネイションズカップ2024

DHバー使用に近い姿勢が取れるために以前では見られなかったハンドル上部を持ったままスプリントをかける選手も増えた。ちなみにUCIによりロードバイクのハンドル幅は350mm以上なければならないと規定されている。しかし、トラックレースのバンチレースにおいてはこの限りではない。その為、現在は325mmといった狭いハンドル幅を使用する選手も多い。

2024トラックネイションズカップ2024

フレア形状の理由

2024トラックネイションズカップ2024

ドロップハンドルの形状の変化に伴いフレア形状(ハンドル上部が狭く下が広い。ドロップ部がハの字状になっている)のものも増えた。このハンドルを使用している選手に理由を聞くと、ハンドル上部を持つ時はなるべく狭くなるように、下部を持ってスプリントする時はトルクが掛かりやすいように広がっているのが良いとのことだった。

ギア比の変化

2024トラックネイションズカップ2024

ギアの巨大化も大きな話題だ。同じギア比の場合、前後のギア歯数を大きくしたほうがチェーンの屈曲抵抗が減る。ビッグギアプーリーと同じ原理だ。

その為、チェーンリング・コグともに大きいギアを使用するのがトレンドとなった。さらに空気抵抗削減によりレースが高速化し、かつてトラック中距離は52×14Tがスタンダードなギアと言われたが今や68×15Tを使用する選手も多い。

トラックからロードへ

世界レベルのトラック競技は室内の250mトラックで行われる。スピードが速く、一定の環境下で行われるトラック競技は製品の開発テストに格好の場となる。

速いTTポジション、エアロフレーム、大きなギア比、速いスキンスーツ、速いヘルメットといったトレンドはトラック競技が発震源だ。トラック競技の進化を見ることで今後のロードバイクのトレンドを占うことが出来る。今夏行われるパリ五輪に向けてテクノロジーの進化も目が離せない。

 

中田尚志

2024トラックネイションズカップ中田コーチ

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。帰国後8年間で13人の全日本チャンピオンを生み出し、五輪選手のコーチを2回経験。日本とアメリカの自転車文化に詳しい。