猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第29回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第29回

スタート前 まだ元気いっぱいな筆者。

650km、6400mアップ

RAAMと言われるレースがある。
アメリカ横断4000kmを2週間で走り切るレースだ。

そのレースに出場する資格を得るための予選会となるのが、RAA青森650。
化け物レースの予選会だけあってかなり厳しいコース設定だ。
坂バカとして興味深いのは獲得標高が6400m近くある事だ。
もう少し上ればエベレスティングではないか!!

さらに厳しいのは制限時間だ。
2022年までは50歳以上は34時間であった。
なぜか昨年から32時間と短くなった。
ハードルというものは高くなる事はあっても低くなる事は無い。

とにかく私は青森をマルっと一周650km走る“化け物予選会”に出場する事になった。

24時間ローラー練

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第29回

とにかく飽きるので10分だけW杯 なでしこJAPAN対スウェーデン戦を観せてもらう。

 

私の自己最長距離は370kmだ。
650km走り切るには一体どういうトレーニングをすれば良いのか全く分からない。

という事で24時間ローラーを敢行する事になった。
24時間で何km走れるかで大体のペース配分が分かるし、何をどのタイミングで補給すれば良いのかも分かる。

そして心強い師匠も一緒に走ってくださる。
山田翔 師匠だ。師匠はローラーを7日間漕ぎ続け、ローラーで4000kmを走破した強者だ。
今回の師匠の目標は24時間で600km。私は400km行ければ良いところだろうか?
午後14時、過酷な24時間ローラーがスタートした。

スタートしてすぐ思ったのがズイフトのコースの坂が多いという事だ。
スタッフに聞くと「RAA青森と同じ650kmで6400m上る設定になってます!」
RAA青森はそんなに上るのか?
よく分からないが私は坂バカだ!受けて立とうではないか!

なぜか舞台は福島

さらに私を苦しめたのが暑さだ。
今回の会場は福島県…ローラーだから東京でも良いし、もっと言えば自宅でもいい。
きっと何か事情があるのだろう、世の中は事情で溢れている。

福島とはいえ7月は暑い!
エアコンはなく、みんな大好き業務用扇風機だけだ…全身から汗が止まらない。
すると何やらトイレに行きたくなってきた。

トイレも食事も睡眠も自由だ。
併設しているホテルのトイレに行くと、そこはキンキンに冷えたエアコンの世界。
自ずと長い休憩となる。

トイレから帰ると師匠はすでに20km先を走っている。
休憩がいかにロスになるかを痛感する。

しかしすぐにまたトイレに行きたくなる!
何故だ!そう!カーボローディングのせいだ!!

私はこの日のために3日前から炭水化物を溜め込んできた。
師匠を見ると全くトイレに行かない(一度だけトイレに行く姿を見た)。
恐らく体に何も無い枯渇した状態からスタートし、スタートと同時に補給し出すのだ!
それならトイレに行かなくて済む。
無駄は一切はぶくのが速くゴールする秘訣らしい。

そして驚いたのが補給のほとんどがアスリート粉飴とカロリーメイトだけだという事だ。
粉飴はスプーン一杯で300kcalある。
師匠はボトルに5杯! ボトル1本で1500kcal以上あるではないか!
乗車したまま飲むだけでカロリー補給!無駄が無い!!

一方で溜め込んだ私は炭水化物が肛門をノックし続ける……、トイレに行く度に開く師匠との差。
結局、私が100km走った時点で50kmも開き、超長距離にカーボローディングは不要と学んだ。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第29回

就寝前の至福の時だが、すでに目が開かない。

まだ大間……

22時頃に200kmを経過。
8時間30分……坂が多いわりに良いタイムだ。
するとスタッフが「青森だともう少しで大間ですね」
まだ大間か…まだ半分にもほど遠い。

「考えてはダメ」これが超長距離の鉄則!ひたすらペダルを回す。

深夜に入り眠気が来たので風呂に入る。
長風呂は良くないのだろうが10分も浸ってしまった。
冷水シャワーで毛細血管を広げ疲労回復を促す。

再びスタートするもペースが落ちる。
入浴も考えものだ……

300km走ったら仮眠を取ると決めていた。
仮眠でどれだけ回復するかのデータが欲しいからだ。

朝方4時に300km走破。14時間もかかってしまった。
以前、下北半島ロングライド310kmでは12時間で走れた。

やはりトイレ休憩が無駄だと悟り、ホテルで仮眠。
もちろん眠れない…眠れない事は分かっていた。
しかしキンキンに冷えた部屋とパリパリのシーツのベッドに横になるだけで人は回復するものだ。

自己最長記録更新

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起床 ほとんど眠れなかったが回復を実感した。師匠からも回復が早いと褒められる。

 

2時間くらい横になって、眠れない事に飽きたので朝7時に再びローラーへ。
師匠は相変わらず漕ぎ続けている。
聞くと、ほとんど休んでないようだ…しかし表情はかなりキツそう。
私は横になったおかげで体も精神もフレッシュだ。

12時前に370kmを過ぎる。
スタッフが「猪野さん、自己最長記録です!」と鼓舞してくれる。
未知の領域だ…不思議なもので新しい領域に入ると俄然ワクワクしてくる。
自分は今、己を更新しているたのだ!!

しかしよく考えてみれば、毎朝起きるだけで我々は人生最長記録を更新している。
人生ほどの超長距離はない。

疲労が溜まり思考が巡る…何の為に…何の為に…何の為に。
これは超長距離の根源的なもの…何の為に生きているのか?そう!まさに哲学だ!

その時、山田師匠が「あぁ〜〜っ!」と叫んだ!肉体も精神も限界なのだろう…
何だこの世界は?何の為に?

そして昼過ぎに400km走破!
あと2時間!キリの良い450kmを目指す!

すると師匠が「猪野さんとの距離がどんどん縮まってます…」と呟いた。
170kmあった差が150kmまで縮まった…仮眠のおかげか?ここにきて踏め出した。
私は本番の青森でも仮眠を取る事を決意した。

そして遂に14時を迎える!!
師匠は24時間で616Km(休んだ時間1時間41分)
私は458km(休んだ時間6時間19分)でゴールした。

とんでもない達成感に包まれる。
何の為に?この達成感の為か?

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ゴール後に師匠と! 脚の太さが全然違う。この後、北海道を走るとの事…

 

とにかく青森へのデータは取れた。
終えると同時に思ったのが、ローラーと実走ではどちらが楽なのだろうかという事だ。

青森を走り終えた今なら分かる。
実走の方が100倍キツい。

この頃の私はそんな事は露ほども知らないのであった。

 

RAA青森650に出場!次回のお話

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