安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.5
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近年稀に見る名作と称されたキャノンデール・スーパーシックスエボハイモッドが、4年ぶりにフルモデルチェンジ。その進化の方向性とは。さらなる軽量化か、空力性能向上か、それとも―
ザルツブルグにて開催されたワールドローンチに参加して技術者にたっぷりと話を聞いた安井が、旧モデルとの比較もふまえて新型エボの全てをお伝えするvol.5。
固形芯材を使う理由
前作に乗ったとき、疑問に思ったことがある。製造法になにか秘密があるのではないか。あの当時、スーパーシックスエボほど走りと安定感と軽量性を両立させたフレームはなかった。その理由は技術的飛躍というより、製造時の加圧方法などに工夫を凝らしたからではないかと思ったのだ。Q:フレームの製造時、内圧はどうやってかけているのでしょうか?
A:一般的なバルーンでの加圧だと、バルーンを膨らませたときに、膨張するバルーンの表面に引っ張られてプリプレグの角度がずれてしまうことがあるんです。プリプレグの積層角度がずれてしまうと、緻密な設計が台無しになってしまいます。プリプレグの角度は非常に重要です。とくに、無駄がないがゆえに繊維の角度を非常に正確に配置することが求められるエボのようなフレームでは。
で、我々はどうしたか。芯材に固形の発泡剤を使ったんです。あらかじめフレーム形状より少しだけ小さなカタチに成形された芯材にプリプレグを張り、それを金型に入れて成形しています。この方法だと、カーボンは金型と芯材のわずかな隙間で正確に加圧できますし、芯材の表面は動かないので積層角度がずれることもありません。その固形芯材は加熱すると縮むように作られているので、成型後にフレーム内部から取り出すことができます。だから芯材はフレームを作るごとに使い捨てになってしまいます。時間がかかり、製造コストは高くなりますが、フレームを軽く強く作るには必須の方法です。
昔のカーボンフレームは、バルーンで加圧した際にプリプレグがずれてしまうのを見越して、多めに積層していたものです。本当は3層しか必要ないのに、ズレてしまうかもしれないから6枚積層しておく……というようにね。しかし、それでは無駄な素材が多く、重くなってしまいます。固形芯材を用いる現在の作り方では、無駄はほとんどありません。だから必要な素材しか使う必要がなく、剛性と強度と軽さを両立させることができるんです。
固形芯材はフレームの隅々まで正確に加圧するために用いるのだと思い込んでいたが(もちろんそのようなメリットもあるのだろうが)、なるほどこのような理由もあったのだ。モノづくりの現場にいる人しか知りえない事実である。この回答は今回一番の収穫だった。これが聞けただけでもはるばるオーストリアまで来た甲斐があった。
なお、フォークはバルーンによる加圧ということだから、フレーム各所で固形芯材とバルーンを使い分けているのだと思われる。
この連載恒例のフレーム内部写真
マジックは設計の中に存在する
Q:素材(カーボン繊維&樹脂)に変更は?
A:前作と同じです。特殊なものを使っているわけではありません。そもそもカーボンとは非常に複雑な素材です。繊維、樹脂、繊維の供給形態(プリプレグなのか繊維なのか)によって、幾百もの組み合わせが存在します。だから、マジックは素材の中にあるのではありません。マジックはエンジニアリングの中に存在するのです。
アルミフレームを考えてみてください。どのブランドも同じ6069アルミを使っていますが、エンジニアの経験や創造性によって、特別なもの、そうCAAD12のような(笑)― ができるのです。カーボンフレームだって同じです。同じ素材を使ったカーボンフレームが全て優れたものになるわけではありません。高弾性繊維と高強度繊維の組み合わせ方や、レイアップによる剛性コントロールによって、優れたライドフィールを作りだすのが我々の使命です。
我々が使っているのは他のメーカーが使えない特殊なカーボンである― と宣伝しているメーカーもありますが、ほとんどの炭素繊維や樹脂はどのフレームメーカーでも同じものが買えます。我々フレームメーカーは同じ商社から素材を仕入れているんですから。だから我々はいつも「バイク作りは料理のようなもの」だと言っているんです。そこそこの食材であっても、腕の立つ料理人がいればいい料理になります。いい料理人が最高の食材を使えば、それは最高の料理になります。素材が同じ(例えばT800など)だけでなく、繊維の割合まで同じ(例えばT800が○%でT600が○%で、など)だったとしても、積層の角度が数度違うだけで全く違うフレームになるんです。