安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.4

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安井キャノンデール・スーパーシックスエボハイモッド4

近年稀に見る名作と称されたキャノンデール・スーパーシックスエボハイモッドが、4年ぶりにフルモデルチェンジ。その進化の方向性とは。さらなる軽量化か、空力性能向上か、それとも―
ザルツブルグにて開催されたワールドローンチに参加して技術者にたっぷりと話を聞いた安井が、旧モデルとの比較もふまえて新型エボの全てをお伝えするvol.4。

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結局、バランスが全て

オーストリアのワールドローンチで我々に与えられた新型は、スーパーシックスエボハイモッドチームのフレームにブラックインクのパーツがアッセンブルされた特別仕様車。なのだが、なんと筆者が乗る予定だったサイズ48が用意できていないという。48のみ生産が遅れているそうだ(デビューしたてのニューモデルではよくある)。
現地でそれを知らされても困ってしまうが、まぁいい。海外試乗で正確な評価ができるなんてハナから思っちゃいない。時差ボケで、普段とは違うコースで、いつもとは違うパーツで、厳密なポジションだしができていないバイクで、プロ選手の先導によるグループライドである。しかも足回りはマヴィック・CC40Cと25Cという決して軽くはない組み合わせ。これでフレームを正確に評価しろというほうが無茶である。というわけで、本格的な試乗は日本に帰ってからするとして、先に本国プロダクトマネージャー氏との一問一答をお送りすることにする。

 

まずはコンセプトについて

安井キャノンデール・スーパーシックスエボハイモッド3

Q:いつの時代もマーケットは分かりやすさやインパクトを求めるものです。軽さや空力や快適性をもっと大げさに宣伝したほうが分かりやすく売れそうですが、なぜ「どこまでもバランス重視」なんでしょう?個人的には大歓迎ですが。
 
A:自転車はとても複雑なスポーツです。一つの性能だけにフォーカスすれば、各種テストや風洞実験など数値上ではいい結果が出ます。でも、そういうバイクは実際に乗るとライディングフィールがよくないことが多い。バランスを重視したバイクは、ライダーとの関係も親密になり、メンタルにもいい影響を与えます。自転車はメンタルが大事なスポーツですから。
それに、実際に走っていると様々なシチュエーションに出くわします。上りもあれば下りもあり、風が吹く方向も一定ではありません。スムーズな路面もあればラフロードもある。集団走行することもあれば単独で走ることもある。それら全てを踏まえてトータルで考えると、バランスが最も重要だと考えたのです。
しかし、ただのバランスで満足したわけではありません。重くて剛性が低くて空気抵抗の大きなバイクも「バランスが取れている」といえますが、それでは高いパフォーマンスを発揮できません。新型エボは全ての面を進化させることを目指しました。例えば、トータルパッケージで新型エボは最軽量クラスにありますが、それはエボの真価の一面にすぎません。

 

なぜ重くなったのか

Q:ではフレーム単体重量が重くなった理由は?
 
A:いい質問です。前作のエボは、無駄なところが一切ない非常に洗練されたフレームでした。新型の重量が増えた原因は主に2つ。まず、BB部の剛性を増したこと。高剛性化のためにBB幅を広げましたし、剛性向上のためにカーボンの積層を増やしました。それが重量の微増につながっています。
2つめは、快適性を向上させたこと。前作のチューブ形状は細く、薄く、ストレートです。新型では快適性を上げるためにベンドさせた場所があり、それに伴ってカーボン繊維もカーブしています。それによってやや重量が増えています。前作は丸断面チューブが多かったので、素材の量が最小限でした。剛性に方向性を持たせたい場所は積層で工夫をしていたんです。新型は、剛性の方向性をもっと明確にするため、積層に加えてチューブ形状も変化させたのです。例えばチェーンステーは、横方向の剛性を上げるために横に広い形状とし、チューブのサイドに高弾性の積層を追加しました。そうして剛性と柔軟性のバランスをとった結果、やや重量が増したのです。また、空力性能を上げたことでも重量は増しています。

安井キャノンデール・スーパーシックスエボハイモッド3
Q:フレームの構造は?
 
A:トップ~ヘッド~ダウンチューブ、シートチューブ~BBエリア、シートステー~チェーンステー×2(左右)をそれぞれ一体で作り、それらを接着して作っています。これは前作とだいたい同じですが、BB部とチェーンステーの接合方法がやや変わっています。前作は、BBとチェーンステーの接合部はBBの直後でした。新作はBB部からチェーンステーに向かってチューブを伸ばすように形作り、チェーンステーの中ほどで接合しています。BBシェルがエンドに向かって伸びたので剛性が向上し、快適性もアップしました。
そうそう、エンド部の設計も新型エボの特徴の一つです。多くのロードフレームのエンド部は、チェーンステーとシートステーが別体で、エンドをラグのように使って接着しています。接合部はソリッド(中実)で、無駄が多い作りと言えます。新型エボのリヤセクションは文字通りワンピース。エンドの直前まで中空なので軽いですし、カーボン繊維が途切れることなくチェーンステー~エンド~シートステーとつながるので、リヤ三角がより強固なものになります。接着だと繊維が途切れてしまい、つないでいるのは接着剤だけになってしまいますから。
このような構造にすると、サイズごとに専用の積層を設計することが必要になり、サイズごとに専用のモールド(金型)も必要になり、当然コストがかさみます。しかし、それを補うほどのメリットがあるんです。

安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.5