ツール・ド・おきなわ2022 チャンピオン&女子国際

目次

シーズン最後のロードレース、ツール・ド・おきなわが3年ぶりに開催された。
ここではチャンピオンレースと女子国際レースのコメントレポートをお届けしよう。
 
ツール・ド・おきなわ2022
 

ゆったりとしたレース

11月13日早朝6時、まだ日が昇っておらず辺りは真っ暗。当日は天気予報に晴れマークがついていたが、早朝の時点ではあいにく前日の雨がそのまま続いた。選手たちも雨に濡れないようにとスタート地点周辺にはギリギリまで現れなかった。
 
海外チームの参加はなく、国内UCIコンチネンタルチームとクラブチーム、沖縄選抜チームのみの参戦となった今回のツール・ド・おきなわのチャンピオンクラスは、市民210㎞カテゴリーと同じく例年から羽地ダムの部分のコースが変更された201.4㎞で行われた。
 
6時45分にスタートを切り、走り出すと徐々に雨も小降りになってきた。
リアルスタートを切った集団からは、逃げを打とうとアタックが頻発。阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)らも飛び出そうとするが後ろが連なり、吸収される。
 
「今日はアベタカ(阿部)さんと(小野寺)玲さんを軸に戦う(つもりだった)。基本的にはやっぱベンジャミ(・プラデス:チーム右京)らの脚が違うので、逃げでトライしようみたいな感じになってました」と宮崎泰史(宇都宮ブリッツェン)は振り返る。
 
十数㎞進んだ先で、「少し落ち着かせたいなという意図で」宮崎が単独でアタックすると、集団はそれを容認。一気にタイム差が広がり始めた。
 
ツール・ド・おきなわ2022

まだ霧が残る上りに単独先頭で現れた宮崎

 
 
今年のツアー・オブ・ジャパンなどでも活躍を見せていた宮崎だったが、シーズン後半にコロナウイルスに感染。その後、後遺症の影響か呼吸をしても横隔膜が下がらない横隔膜弛緩症のような症状が出てしまっていたそうだ。呼吸がうまくできず、トレーニングどころかリハビリのためのトレーニングの日々が続いており、乗っても1日3時間~3時間半のみという程度だった。おきなわのレース前も、「走れなさすぎるので僕、出ない方がいいかもしれないです」と監督に伝えたそうだが、最後のレースということで出場することとなった。宮崎はこう振り返る。
 
「最初の算段だと何も役に立たないんで、ちょっとだけ役に立てばいいかなみたいな感じで思っていて。(逃げた後)誰も来ないし、とりあえずちょっと離れてチョロチョロって合流してくれるのを期待していて、それにブリッツェンの選手がいたら美味しいなと思ってたんですけど、誰も来る気配もなくて……。タイム差も広がったんで、もうこれは脚が終わるまで踏もうとなりました。(チームカーで)監督が来て、とりあえずKOM(キングオブマウンテン:山岳ポイント)を1位通過しよう、タイム差もあるからKOMだけ取ろうみたいな感じで」
 
集団からは単独で天野壮悠(シマノレーシング)が追うシーンもあったが直に集団にキャッチされた。
残り150㎞、タイム差は3分以上広がる。集団はまるでサイクリングのようなゆったりモードだ。
 
集団から今度は、バトムンク・マラルエルデン(レバンテフジ静岡)が単独で追走をかける。
先頭の宮崎が1回目の山岳賞の上り区間へと入る頃、集団とのタイム差は9分に広がっていた。マラルエルデンは宮崎から遅れること4分差で上りへと突入する。
 
集団はチーム右京がコントロールを始めた。山岳ポイントを宮崎、マラルエルデンの順で通過し、下りへと入る。
集団は、北部を回る区間ではチームブリヂストンサイクリングがコントロールした。
 
ツール・ド・おきなわ2022

2回目の上りの途中、宮崎の後ろにはマラルエルデンが迫る

ツール・ド・おきなわ2022

宮崎と代わってマラルエルデンが単独先頭に

 
 
2回目のKOMの上りでは、宮崎とマラルエルデンとの差は背中が見えるまでに縮まったが、山岳ポイントはなんとか宮崎が先頭通過。スタートからちょうど3時間半で宮崎の脚は止まってしまった。宮崎は山岳賞は確定させてから、マラルエルデンに先頭の座を明け渡した。マラルエルデンと集団とは940秒差。
 
山岳賞を獲得した宮崎は、「体が動くようになってきてる、リハビリがうまくいってるっていう実感を得られたのが山岳賞よりうれしいです」と話していた。
 
ツール・ド・おきなわ2022

上りでは集団をキナンが引く。チーム右京はプラデスを守る

 
 
上りに入った集団では、キナンレーシングチームがペースを上げ始めた。
上りが終わり、アップダウン区間に入ると、シマノレーシングやヴィクトワール広島なども先頭を追うべく集団牽引を行う。残り45kmでタイム差は330秒まで縮まった。
 
残り30km地点でマラルエルデンが捕まると、今度は小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、新城雄大(キナンレーシングチーム)、吉岡直哉(チーム右京)らが飛び出し、小野寺が単独先頭、新城が追走という形に。集団と小野寺までは1分前後まで開いた。
 
集団は、プラデス擁するチーム右京が最後の上りにかけて一気にペースを上げる。新城を含む飛び出していたメンバーを全て吸収すると、キナンレーシングチームも集団牽引に加わった。
 
いよいよ羽地の代わりとなるラスト10㎞からの上りに突入。上りに入ってからキナンが先頭を引く集団に小野寺が吸収されると、プラデスがアタックをかけた。花田聖誠(キナンレーシングチーム)、山本元喜(キナンレーシングチーム)、阿曽圭佑(ヴィクトワール広島)、沢田時(チームブリヂストンサイクリング)がそれに飛びつく。
 
しかし、プラデスはラスト7.5kmで全員を引きちぎった。山本、花田が一人ずつでプラデスを追うがタイム差は広がっていく。その後ろからはホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)が飛び出して花田をパス。先頭を追う。
 
ツール・ド・おきなわ2022

十分な間隔を空けて単独でフィニッシュしたプラデス

 
 
プラデス、山本、ビセンテがそれぞれ独走のまま下りに突入。プラデスと山本で20秒ほどついたタイム差は縮まることなくフィニッシュライン見える直線へと到達した。後ろを確認したプラデスは、すっかり晴れ上がった青空に両手を高く突き上げ、今シーズン最後のレースを勝利で締め括った。
 
ツール・ド・おきなわ2022

2位は山本元喜

ツール・ド・おきなわ2022

3位はホセ・ビセンテ

 

”勝てるチーム”のやるべきこと

今回、上りで後続を引きちぎっての勝利となったが、プラデスは集団でのスプリントだったとしても勝機があると考えていたそうだ。
 
「200㎞のレースで集団と一緒にゴールすれば、スプリントでも勝てることが分かっていました。上りで単独で残るか、上りで単独で残れなければスプリントで勝つかの2択でしたね。しかし、少人数になることが多いこのようなフィニッシュでは、もちろん常にリスクは高いのですが、スプリントも選択肢の一つになったかもしれません」
 
勝利を確信したポイントについてはこう語る。
「フィニッシュラインで他の選手とスプリントすることにならなかっただけでなく、最後の上りで一人になってから調子がいいのが分かり、そのときに勝てると思いました。また、下りの手前で最後の数人になり、集団がずっと後ろにいるのが見えたときには勝利を確信しました」
 
ただ、チーム右京としては、うまくいかない部分もあり、完全な勝利ではなかったと石橋学と小石祐馬は話した。
 
「いろいろうまくいかなかった。自分ももっと残していきたかったんすけど、前が行っちゃって、結局繋げてあげなきゃいけない仕事、麓までに全部一応回収して、上りに入るっていう仕事が自分に回ってきた。でもプラデスの脚は残せたので……。
プラデスの場合は小集団なら全然もがける。ある程度削って、単独じゃなくても最後少人数、ある程度いてももがきには自信あると言っていたので。ただ小野寺とかそういう(スプリントができる)人たちも残ると、またわかんなくなってくるのでそれはちょっと避けたいなと個人的には思ってましたけど。
本当は自分が残っていたら自分が行って、プラデスがスプリントのために後ろで待ってっていうのが一番いいなと思ってたんですけど、それがちょっと前倒しになっちゃったんで、いろいろな人の配分が……」
石橋はこう振り返る。
 
さらに小石はこう続けた。
「別に勝ったからいい、じゃないと思うんですよね。上り切ってから、やっぱり1人より2人の方が強いじゃないですか。花田と(山本)元喜さんがもうちょっと強くて、追いかけられてたら負けてたかもしれない。それも人数を残してないからそういうことになるわけじゃないですか。5人でスタートして(プラデス以外の)4人でラスト30㎞やるんなら、やっぱりそういうこと考えない駄目なんじゃないかと」
 
ただ、勝利を挙げたプラデスはチームの働きのおかげと強調した。
「最後に僕たちにとっては複雑な逃げが行ってしまうといった、いくつか困難な瞬間がありましたが、チームは問題を解決することができて、チームのおかげで勝つことができました。チームなしで今日勝つことは不可能だったと思います」
 
シーズン終盤も終盤の10月にチーム右京に再び合流したプラデスだが、10月に多くのレース予定を抱えたチーム右京はチームの補強を必要としたため、スペインのレースで調子を上げていたプラデスに合流するように話したという。
 
プラデス自身はそれまで、スペインのコントロールパックというアマチュアチームで活動をしていたと話す。スペインでもレベルの高いチームで、一部はプロへと転向する可能性もあるそうだ。
 
「スペインでたくさんレースをしてきたので、シーズン終盤はとてもいい状態でここに来ることができました。今回、勝つことができて良かった。今まで(のおきなわのレース)も勝利に近いところにはいたけど、初めて勝つことができてうれしいです」
プラデスはそう話した。
 
 
ツール・ド・おきなわ2022 チャンピオンロードレース210㎞ リザルト
 
ツール・ド・おきなわ2022
1位 ベンジャミ・プラデス(チーム右京) 5時間13分37秒
2位 山本元喜(きなんレーシングチーム) +29秒
3位 ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ) +35秒
4位 西尾勇人(那須ブラーゼン) +41秒
5位 孫崎大樹(スパークル大分レーシングチーム) +51秒
 

女子レース界の今後のために

ツール・ド・おきなわ2022

フィニッシュラインを切る金子

 
 
女子国際ロードレースは、沖縄本島の北部にある奥やんばるの里をスタートして南下、他カテゴリーと同じく21世紀の森体育館へとフィニッシュする102.3㎞で争われた。35人がスタートラインへと並んだ。
 
スタートから20㎞ほど進んだ先の普久川の上りで仕掛けようと考えていた金子広美(イナーメ信濃山形・バイクサンド・R×L)は思惑通りに集団の人数を5人まで絞った。
その5人で声を掛け合いながら、後続とのタイム差を開き、1分半ほど開いたところで落ち着いてのローテーションに切り替えていった。
 
東村の海岸線を越えて、残り25㎞ほどの上りが出てくるところで金子が再び仕掛けると、一人また一人と千切れていく。上りに入ってさらにペースを上げると、後ろとの差が開いたため、そこから金子は一人旅となった。
フィニッシュラインまで全力で踏んでいった金子は単独でフィニッシュラインへと現れ、控えめなガッツポーズでラインを切った。
 
ツール・ド・おきなわ2022

2位争いのスプリント。手塚悦子が先着した

ツール・ド・おきなわ2022

集団の頭をとったのは、渡部春雅

 
 
「本当に久しぶり」という勝利だったが、「全日本が終わって、ちょっと自分の心と状態をリラックスさせて、このおきなわに集中いう感じで持ってきていました」と金子は話す。
 
金子は年間とおしてコンスタントにレースに出場するというよりもスポットでの参戦が多い印象だ。その理由についてこう語る。
「自分の中であんまり(レースに)出すぎると集中力も切れたり、疲れたりするので。積み上げていって、出るレースに集中してピークを持っていってます」
 
ツール・ド・おきなわ2022

表彰が終わった後も多くの女子選手と話をしていた金子

 
 
また、近年では年長者としても女子選手たちを盛り上げていきたいという気持ちが強いと語る。
「若い子たちに普及させていかないと、自転車界が女子は少ないので。自分ができる限りのことはしたいなと思って」
 
実際にレース後、金子が他選手たちに声をかけている様子をよく見かける。
「もう自分のレースよりも、『どうだった?』って声かけて。じゃないと下の子たちに後がないので。私も今、やっと自分のことが分かって、体も安定して、精神状態も安定してコントロールできるようになったんです。やっぱり若い子って難しいんですよ。素質があっても辞めてっちゃう子とかも見てきたので、それに対して自分が何ができるんだろうと思うと、やっぱり声かけて気にかけてあげることが大事なのかなと思って。(選手数が)少なくなってくるのは悲しいですし、自分ができることがあるとしたら、やっぱりその役割なのかなと思って。頑張りたいですね」
 
若い女子選手たちはそもそもの構造として、身体的にも精神的にも不安定に陥ることも多いはずだ。実際に経験している選手が自分の話を聞いてくれるというだけでもおそらく大きく違う。今後、女子選手の強化育成といった面でも内部から支えてくれる金子のような存在は非常に大きいように思う。
 
 
 
ツール・ド・おきなわ2022 女子国際レース100㎞ リザルト
 
ツール・ド・おきなわ2022
1位 金子広美(イナーメ信濃山形・バイクサンド・R×L) 3時間7分18秒
2位 手塚悦子(IMEレーシング) +3分39秒
3位 大堀博美(MOPS)+3分39秒
4位 渡部春雅(明治大学/Liv) +5分26秒
5位 植竹海貴(Y’sRoad) +5分26秒
 
 
ツール・ド・おきなわ公式サイト
http://www.tour-de-okinawa.jp