ツール・ド・おきなわ2022 市民210km 高岡、圧巻の75km独走で7度目の勝利

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3年ぶりの開催となったツール・ド・おきなわ。注目が集まる市民210㎞のレースでは、ラスト75㎞ほどの上り区間で高岡亮寛(Roppongi Express)が単独先頭に立って逃げ切り。このカテゴリーで自身7度目の勝利を掴んだ。
 
ツール・ド・おきなわ2022
 

ホビーレーサーの頂点を決める戦い

11月13日、3年ぶりとなるツール・ド・おきなわが開催された。
今年は新型コロナウイルスの関係により人数を縮小しての開催となったが、市民210㎞のスタートリストには変わらずの強豪メンツが揃った。
 
今回は、例年最後の勝負所となっていた羽地ダムの上り区間が崩落のため使用できず、国道18号を通ってスタート地点と同じ名護市・営庭球場前交差点へと戻ってくる全長201.4㎞のコースで争われた。
 
雨が激しく降った早朝、チャンピオンクラスなどが先にスタートした後、727分に市民210㎞のレースがスタート。優勝候補たちが早速先頭に顔を揃えた。
また、距離を進めるごとに天候は回復。青空がのぞくどころか強い日差しが照りつけ、気温も30度近くまで上がっていった。
 
スタートから数㎞進んだ先で5人の逃げグループが形成されると、追走などで人数を増減しながら距離を重ねる。
コース中、山岳ポイントが設定されている普久川の上りは、77.8㎞地点と北部をぐるっと回ってから130.1㎞地点の合計2回登場する。
最初の山岳ポイントに現れたのは逃げグループ3人。少し間隔を空けて追走が3人、それに続く集団という構図となった。
 
ツール・ド・おきなわ2022

最初の逃げグループに残った加賀龍治(SUBARU Cycling Team)と岸本伊織(ロードレース男子部)。後ろから富田岳史が追いすがる

ツール・ド・おきなわ2022

石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)、水野貴行(Infinity Style)、舘岡賢弥(ハヤサカサイクルレーシングチーム)が追走をかける

ツール・ド・おきなわ2022

霧に包まれる普久川の上りを走る集団

 
 
 
展開が動き始めたのは、その1回目の上りを終えてから。沖縄本島最北端にあたる辺戸岬周辺のアップダウンで、今年のニセコクラシックを独走で逃げ切っている石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)を中心とした5人の追走集団に前回大会優勝者の高岡亮寛(Roppongi Express)が1人集団から飛び出してジャンプしたのだ。
 
「石井くんが(前に)いたので、もう2人で行っちゃおうと思って。その時、多分後ろ(とのタイム差は)一分ぐらいだったと思うんですけど」と高岡は振り返る。
 
海岸線を走り、2回目の山岳区間に入る前に高岡は追走集団へと合流した。
 
ツール・ド・おきなわ2022

海岸線沿いで石井などが含まれる追走集団に追いついた高岡

 
 
2回目の山岳区間に入ると、高岡から見た石井の状態は決して芳しくなかったという。石井を含む追走集団のメンバーを振り切って、高岡は先頭に追いついた。先頭で走っていた2人も少しの間、高岡の背中にしがみついたが、それもほんの僅かな時間のみだった。
 
ツール・ド・おきなわ2022

追走グループの先頭で上りに入っていく高岡

 
 
圧倒的優勝候補は、およそ75㎞地点で既に単独先頭となった。
「正直、別にそこからもう逃げるつもりもなかった。後ろから誰か追いついてきたらいいなぐらいで。(まだ先が)長いじゃないですか」
高岡自身ですら、そこから逃げ切ろうなんて魂胆を持っていたわけではなかった。
 
高岡のマークが薄いというわけでももちろんなく、さすがにまずいと集団も上りで佐々木遼(teamGOCHI)や中村俊介(Route365)を中心にアタックを仕掛け、ペースが上がる。山頂付近では高岡と集団との間は30秒ほどまで縮まっていた。
しかし、高岡に置いていかれた選手が下り区間で落車。それに集団が突っ込む形となり、集団は一時ストップがかかってしまった。
 
個人戦という趣が強い市民レースでは、集団で誰もが脚を使いたがらなかった。結果的に高岡を追うための動きには一向にならず。集団にいた北野普織(イナーメ信濃山形)はこう振り返る。
 
「集団心理がうまく働かなくて。みんなで回して高岡さんを追いかけようってなったんですけど、それが結果的に良くなくて。付き位置の人たちがローテーションを乱すというのを繰り返すことになってしまって。坂とかで抜け出すけど、下りは誰も回さないみたいな。高岡さんの精神力に敵わないような集団ペースになってしまいました」
 
下りでタイム差を広げていった高岡だが、集団がそのようになることを分かっていたとも話す。
 
「大体後ろでどんな感じになるかっていうのは分かっているので。結局(集団が)20人だとしても10人は後ろに引っ付いてるだけで回らなくて。誰かがしびれを切らして上りであげてみんなついて行って、みたいな結構ストレスフルな感じなんですよね。当然チームとしてまとまってペース作るとかもないし。なので、もう自分が行けるとこまで1人で淡々と行こうと思って」
 
171㎞地点の最後の補給地点では2分まで差が広がり、羽地ダムの勝負所の代わりとなる最後の上り坂には3分弱という十分なタイム差を持って突入した。
 
「その時は、あの上り一発で3分は普通に考えたらもう追いつかれないだろうなと思ったんですけど、とはいえ、気を引き締めて行ってましたね。昔も結構独走で勝ってるので、その経験が大きかったです。それがなかったらこんなこと絶対できないですね」
上りをクリアし、パンクや落車がなければ勝てると確信した高岡は、中継カメラに向かって喜びをあらわにした。
 
ツール・ド・おきなわ2022

後続とは十分な余裕を保った高岡は、ガッツポーズを繰り返してフィニッシュ

 
 
下り切って、フィニッシュが見える直線に現れた高岡は、存分にガッツポーズを繰り返す。多くのホビーレーサーがターゲットとして据えるツール・ド・おきなわ市民210㎞のカテゴリーで2007年、2011年、そして2015年~2017年、2019年に続いて7回目の勝利を挙げた。直近の6大会では5回勝利を収めていることとなる。
 

優勝を逃した集団での争い

高岡の独走を許してしまうこととなった集団では、相変わらず統率がうまく取れないまま、少し飛び出しては吸収されという形が続いた。
最後の上り区間では中村が下からほぼ全引きでペースアップ。これについていくことができた7人が表彰台争いの権利を手に入れた。
 
最後の直線では横並び。北野が先着し、2位となった。
「悔しいですね。高岡さんに『俺に勝つなんて100年早いよ』って言われてたので。今回で200年に延びちゃった気がするんですけど、来年はちょっとそれをまた縮められるように」と北野は話す。
 
3位は南広樹(TeamZenko)。南は今回、奥さんの芙美子さんの希望でおきなわに初参加したという。
「初出場だったんで、コースもあんまり分かってないですし、試走もしてないんで、付けるとこまでついてっていうつもりで走ったんです。高岡さんがもう逃げてしまったんで後ろもなかなかローテーションで回りきらず、もう脚が終わるまでつけるところまでつこうという気持ちで走ってましたね。でも最後の方は、最後まで残れるかな、スプリントかなと思いながら走ってました」と、南は振り返った。
 
ツール・ド・おきなわ2022

2位争いのスプリント

ツール・ド・おきなわ2022

北野が2位を確保。「人間界では一番だと思います(笑)」

ツール・ド・おきなわ2022

最後の上りでのペースアップで遅れた兼松大和らは集団から離れてフィニッシュ

ツール・ド・おきなわ2022

普段はJBCFのレースを走る南。奥さんの芙美子さんは市民レディース50㎞で初出場&優勝。夫婦揃っての表彰台獲得となった。「みんなの記事とか呼吸のやり方とかコースとか、みんなが書いているやつを読んで練習して。でも思った以上の結果が出ました。こんなレース出たことないんで、めちゃくちゃきついですけど、終わったら楽しかった気がするから不思議ですね、レースって」と南は笑った

 

”最高”の更新

ツール・ド・おきなわ2022
 
Roppongi Expressのチームとして出場全カテゴリーでの優勝を狙っていたそうだが、140㎞、50㎞ともに2位という結果で僅かに届かなかったそうだ。
 
それでも市民でトップカテゴリーの210㎞、誰もが注目を置く中で高岡は、まるでライバルたちの心をへし折っていくかような独走勝利を飾って見せた。
 
「ここまで仕上がったのは珍しいです。もう前日で本当に100%の状態に仕上がったとは思ってたんです」と高岡は話し、他選手の力は分からないものの走る前から「自分の100%は出せる」と確信を持った。
 
ツール・ド・おきなわ2022

7勝目を示す

 
 
日本縦断ギネス記録に挑戦したり、グラベル世界選手権に挑戦したりと高岡の自転車へのモチベーションは尽きない。
「その中でもツール・ド・おきなわは、やっぱり自分の軸というか、グラベルやったりいろいろやってたけど、やっぱここが一番ですね。まだ自分の中では」
 
46歳となる来年もまた、このおきなわを狙っていきたいと話す。
「やってみないと分からないですからね。ただきっかけにできたので、1年1年続けていきます」
 
高岡はさらなる”最高”を更新し続けるのだろうか。
 

ツール・ド・おきなわ2022 市民レース210㎞ リザルト

ツール・ド・おきなわ2022
 
1位 岡亮寛(Roppongi Express) 5時間14分54秒
2位 北野普織(イナーメ信濃山形) +2分28秒
3位 南広樹(TeamZenko) +2分28秒
4位 池川辰哉(VC VELOCE/EMU) +2分28秒
5位 佐々木遼(teamGOCHI) +2分28秒
6位 佐藤文彦(ロードレース男子部) +2分28秒
7位 道堀裕介  +2分29秒
8位 中村俊介(Route365) +2分29秒
9位 兼松大和(Infinity Style) +3分15秒
10位 原田将人(Infinity Style) +3分15秒
 
ツール・ド・おきなわ公式サイト
http://www.tour-de-okinawa.jp