三重県津市出身のライターアサノがご案内!ツール・ド・津 〜 「津ぅ」の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング〜

目次

津市は三重県の県庁所在地で、日本一短い地名の市。地元の人は「つ」ではなく「つぅ」と発音する。

三重県といえば、鈴鹿サーキットがある鈴鹿や伊勢神宮のお膝元・伊勢、松阪牛でおなじみの松阪などが有名だが、それに比べると津の知名度は低いかもしれない。しかし、三重県津市出身のライターアサノに言わせれば、海も山も近くて食べ物もおいしく、極上のサイクリングルートも作れるサイクリストにとって天国のような場所だ。

そこで今回は、津の魅力を多くの方に知っていただく、ライターアサノが「津ぅ」の魅力をギュッと凝縮した1泊2日のサイクリングコースを紹介する。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

三重県中部エリアのヒルクライムスポット・青山高原。登りきると尾根をつなぐ高原道路が走っていて、高原に立ち並ぶ風車群を一望するポイントもある

 

1日目
海辺と津市の中心地を観光し、青山高原ヒルクライム。日本三名泉のひとつ・榊原温泉で〆

津はサイクリスト天国としてのポテンシャルが高い

ライターアサノは三重県津市出身で、今日まで人生の大半をを津で過ごしてきた。ふるさとが好きだからだ。食べ物はおいしいし、海も山も近いし、名古屋や東京、大阪へのアクセスも良好だ。わが家の近くには中部国際空港まで45分ほどでつなぐ高速船乗り場があり、全国へのアクセスもよい。さらにサイクリストにとって重要な自転車で走りやすい環境もある。

だが、残念ながら津の魅力は全国に知られているとは言えない。自転車で走りやすい道はあるけれど、現在のところ他県のようなオフィシャルのサイクリングルートはなく、サイクリストウェルカムなお店がたくさんあるわけでもない。だが、サイクリスト天国になるポテンシャルは高いと感じている。

そんなわけで今回、ふるさとの「津ぅ」の魅力をサイクリストの視点から伝えたいと思う。

 

海沿いからグルメの宝庫・津市中心部の大門を目指す

スタートは津の玄関口・津駅。名古屋・大阪方面から近鉄特急で乗り換えなしで来ることができる。特急なら名古屋から50分ほど、大阪(難波)からも1時間30分ほどだ。車の場合は津駅周辺のコインパーキングを利用しよう。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

津の玄関口・津駅。近鉄とJRの駅が併設されている。今回出発する東口はJRの乗り場に近いが、近鉄の利用者も連絡通路を通って東口から下車できる

 

津市は三重県内の市町村で面積が最も広い。東西に広く、東は伊勢湾、西は奈良県境まである。今回のサイクリングでは2日間かけて海から山岳エリアの奈良県境まで走るので、まずは安濃川(あのうがわ)に沿って下流に進み、海辺を目指そう。

県道114号から安濃川の右岸に沿って川を下るように堤防道路を走ると、やがて目の前に河口と伊勢湾が見えてくる。まるでカヌーで下って河口に来た時のような感動を覚える。その後も堤防沿いに進み、贄崎(にえざき)海岸を南下。潮騒を聞きながら、潮風に吹かれてのんびりシーサイドサイクリングを楽しもう。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

贄崎海岸沿いの堤防道路。海を眺めながら走れるライターアサノのお気に入りの道

 

津なぎさまちの手前で堤防道路を下りて右折。ここから津市街を東西に走るフェニックス通りを西進する。フェニックス通りとは文字通り中央分離帯にフェニックスの異名を持つカナリーヤシの並木がある通り。国道23号から近鉄道路までの区間が1967年に開通し、近鉄道路以東の区間は2005年の津なぎさまち(中部国際空港行き高速線乗り場)オープンと同時に開通した。交通量は多めだが、道幅が広いので比較的走りやすい。県道114号を渡り、最初の信号を右折すると大門商店街だ。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

中央分離帯にフェニックスの並木があるフェニックス通り。ここだけ南国ムードが漂っている

 

大門という地名は、近くにある日本三観音のひとつ・津観音(恵日山観音寺)に大きな仁王門があったことにちなむ。津観音は太平洋戦争の空襲で堂宇(どうう)をことごとく消失したが、戦後に復興した観音堂や仁王門、平成になって建てられた県内唯一の五重塔がこのエリアのシンボルになっている。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

日本三観音のひとつ・津観音。県内唯一の五重塔があり、門前町は商店街になっている

 

大門周辺は、藤堂高虎が江戸に城下町を開いて以来、津の中心街として栄え、今も市内有数の繁華街だ。このあたりにはおすすめの津のグルメを楽しめる店が何軒かある。

ひとつは天むす。天むすの発祥は津市大門にある「天むす千寿」というお店で、昭和30年代に天ぷら屋だったこの店のまかないだったえび天入りのおにぎりがルーツなのだ。「天むすは名古屋メシではなく、津市民のソウルフードだ!」と声を大にして言いたい。千寿の天むすは、小振りの握り飯の中に小振りのえび天が入った一口サイズ。ほんのり塩味がきいていて素朴で優しい味わいだ。これはぜひ味わってほしい。

もうひとつは、蜂蜜まん。津市民に長く愛されるおやつで、一般的にぱんじゅうと呼ばれるかまくら型の焼き菓子の一種。この店は養蜂場ゆかりの店主がおよそ50年ほど前に開店した。店頭には蜂蜜の甘い香りがほんのり漂っていて、店頭で機械を使って焼く作業をガラス越しに見ることができる。蜂蜜まんの名の通り蜂蜜が使われており、薄い皮の中にぎっしりこしあんが詰まっていて、食べるとあんこの甘さと共にほんのり蜂蜜の香りと味がする。焼きたてあつあつを食べると皮がパリッとしていておいしく、テイクアウトして湯気で少し皮が柔らかくなったものもまた美味だ。

最後はうなぎ。津はかつて養鰻が盛んだったことからうなぎ屋が多く、市内には20軒以上がのれんを掲げている。津市民には各家庭に行きつけのうなぎ屋があり、土用の丑の日以外にも仕事の打ち上げなど日常のさまざまな場面でうなぎを食べる。2005年には全国家計調査のうなぎの消費量で津市が全国1位になったこともあるほどだ。しかも都会の半額ぐらいで本格的なうなぎを味わえるので、ぜひご賞味いただきたい。これは明日のサイクリングの〆の楽しみにとっておこう。

 

【ライターアサノおすすめの津ぅグルメ その1】

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

(左)天むす発祥の店は津市大門の天むす千寿

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

(右)千寿の天むす

 

●天むす千寿の天むす
天むすの発祥は三重県津市の「天むす千寿」というお店。千寿の天むすは津市民のソウルフードのひとつだ。1人前5個入り750円。テイクアウト可
三重県津市大門9-7
059-228-6798
9:30〜17:30
日曜、第3月曜定休

 

 

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

(左)蜂蜜まん本舗。窓越しに機械で焼く様子が見られる

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

(右)蜂蜜まん

 

●蜂蜜まん本舗の蜂蜜まん
津市民に長年愛されるおやつ・蜂蜜まん。ほんのり蜂蜜の味がする。1個70円。テイクアウト可
三重県津市大門8-5
059-228-3012
9:45〜17:00
水曜、第4木曜定休

 

国宝の堂宇が立ち並ぶ高田本山と寺内町は必見!

津の中心部を満喫したら、安濃川の河川敷を通る安濃川自転車道で西へ向かう。歩行者・自転車専用道路で、オートバイは通らないが、朝夕は散歩を楽しむ人が多い。道幅もそれほど広くないので、スピードは控えめに走ろう。

ちなみに全長はわずか2.7kmで、基本的にフラットなので、あっという間に終点に着いてしまう。終点付近の数十mの区間は未舗装になる。ロードバイクでも十分走れる路面だが、パンクしやすい軽量タイヤは避けた方が無難だ。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

安濃川自転車道は、安濃川の河川敷を通る全長2.7kmの歩行者・自転車専用道路。歩行者もいるので、ロードバイクでビュンビュン飛ばすような道ではない

 

安濃川自転車道を下りたら県道55号に出てひたすら道なりに走る。田園地帯を抜けて丘を超えると、目の前に県道10号との交差点が現れる。県道を横断して踏切を渡り、小学校のある交差点を細い道の方に直進すると、やがて目の前に真宗高田派の本山・専修寺が現れる。

立派な山門をくぐると、如来道と御影堂という2棟の巨大な国宝のお堂が迎えてくれる。向かって右手が寛文6年(1666年)に建立された御影堂。入母屋造・本瓦葺の高田本山専修寺の最大の建物で、現存する江戸時代の寺院建築では全国有数の大きさで、信州にある善光寺の本堂より大きいそうだ。その左隣にあるのが寛延元年(1748年)に建立された如来堂。唐様の外観で、桐紋の入った破風や中国の故事に基づく象・竜・獏などの彫刻が見られる華麗な造りが特徴だ。個性的な2棟のお堂が立ち並ぶ姿は圧巻の一言。ぜひ自分の目で確かめてほしい。

高田本山の周辺には、高田本山を中心に形成され、環濠に囲まれた寺内町がある。寺内町の周辺には古い町並みが残っていて、昭和レトロな雰囲気の個人商店もあり、どこか懐かしい雰囲気が漂う。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

全国に600以上の寺院がある真宗高田派の総本山・高田本山専修寺。御影堂(右)、如来堂(左)と2棟のお堂が立ち並び、いずれも国宝に指定されている

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

高田本山の周辺には寺内町があり、古い町並みが残っている

 

市内の至るところにある干支の像のナゾ

高田本山と寺内町の散策を終えたら、初日のルートのKOMというべき青山高原に向かう。高田本山の寺内町周辺や県道10号は交通量が多めだが、県道410号に入るととたんに交通量が少なくなって走りやすくなる。信号も少なく、アップダウンもそれほどないので、気持ちよく走れるだろう。

安濃川を渡り、さらに5kmほど道なりに進むと右手に製材所が見えてくる。その前に羊の親子と馬の親子の像が置かれている。これは広告などではなく、この地区の氏神様の辰水神社に地元の有志が毎年奉納し、年末から年明けの2月末ごろまで参道の入り口に飾られるジャンボ干支だ。ジャンボ干支は40年近い歴史があり、お役御免となった干支の像は市内各地の事業者などに引き取られて飾られるため、市内のあちこちに干支の像があるのだ。今回の1泊2日ルートでは初日に未と午を見られるほか、翌日に卯のジャンボ干支の近くを通る。三重県観光連盟のサイトでは過去のジャンボ干支が見られる場所も紹介されているので、興味のある方はぜひ見に行ってほしい。

午のジャンボ干支から1.5kmほど走ると辰水神社がある。普段はここにはジャンボ干支はなく、神社の前でジャンボ干支が見られるのは年末から2月末ごろまでの期間のみだ。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

2014年の午年に辰水神社に奉納されたジャンボ干支。近くで見るとかなり大きいのが分かる

 

●辰水神社・ジャンボ干支の詳細
https://www.tsukanko.jp/event/79/
https://www.kankomie.or.jp/report/1223

 

ピークまで9km、獲得標高700m。初日のラスボス・青山高原ヒルクライム

いよいよ本日のラスボス・青山高原へのヒルクライムに挑む時がきた。

青山高原は、津市と伊賀市にまたがる布引山地にある標高700〜800mほどの高原で、津市側からは今回紹介する美里町の直登二段坂からの上り口と下山時に使う榊原町からの上り口のほか、いくつかのルートがある。美里町の二段坂の上り口は、高原まで約9km、獲得標高710mほどで、平均勾配は7%弱だ。南長野川を越えたところから上りが始まるが、序盤の1kmほどは直登二段坂を含む急勾配区間で、平均勾配は10%に迫る。ちなみに、榊原からの上り口と異なるのは最初の区間だけで、直登二段坂を終えたところで両ルートは合流する。

両ルートの合流後も勾配が緩くなったりきつくなったりを繰り返す。勾配がきつい区間は勾配15%に迫るようなところもある。ヒルクライムが苦手な人はフロントをコンパクトチェーンリングにするか、30T以上のローギヤを備えたカセットスプロケットを搭載してくるといい。

今回の上りルートは、途中道幅が広くなって視界が開ける区間はあるものの、基本的には鬱そうとした森の中を上り続ける。野鳥の鳴き声に癒されながら黙々と脚を回し続け、ついにピークに到達! この達成感があるからヒルクライムはやめられない。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

勾配が細かく変化する青山高原のヒルクライムの美里ルート。ピーク付近までは景色が開ける場所はあまりない

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

青山高原の美里二段坂上り口のピークはこのあたり。ここから先は三角点の展望台までアップダウンを繰り返す。

 

ピークから先は先ほどまでとは違いかなり視界が開けている。上りきったとはいえ、この先も結構な急勾配のアップダウンが続くが、路面が荒れているところもあるのでスピードの出し過ぎには注意しよう。

さて、今回青山高原のヒルクライムをルートに入れたのにはわけがある。上り切った者だけが堪能できる絶景を見てほしいからだ。

ひとつは、青山高原の風力発電の風車群。高原一帯には風力発電の風車が90基以上も立っていて、高原道路から風車群の一部を一望できるポイントがあるのだ。そこからの眺めは、青空と高原の緑、風車のコントラストが鮮やかで、実に写真映えする。

そしてもうひとつは、青山高原三角点からの眺めだ。三角点には展望台があり、そこから先ほど走ってきた伊勢湾方面を一望できるのだ。あんなところから走ってきたのか、と考えると感慨深くなるはずだ。この光景は上りきった者だけが味わえるごほうびだ。

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

青山高原一帯には風力発電用の風車が90基以上ある。高原道路に風車群を一望するポイントがある

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

青山高原の三角点の展望台からは、先ほど通ってきた伊勢湾方面を一望できる

 

1日目の〆は、清少納言が絶賛した名湯・榊原温泉

青山高原の絶景を堪能したら、来た道を途中まで戻り、二段坂への道を直進して榊原温泉方面に下る。上りはあんなに大変だったのに、下りはスピードも出て爽快。とはいえ、見通しの悪いカーブも多く、路面が荒れているところもあるので、スピードの出し過ぎには注意しよう。

榊原温泉は「七栗の湯」ともいい、古くからいで湯の里として知られてきた。貴族が都から伊勢神宮に御幸する際に温泉で身を清める湯垢離(ゆごり)の地でもあり、清少納言が「枕草子」で「湯はななくりの湯」と絶賛したという歴史ある温泉だ。温泉宿に向かう前に榊原温泉とゆかりが深い射山(いやま)神社に寄っていこう。同神社は古くから温泉の神としてまつられ、神社の向かいには伊勢神宮に奉納する榊を清めるために使われてきた長命水という泉がある。榊原という地名はこのあたりに榊がたくさん自生していたことにちなみ、榊原温泉のいで湯は、今も毎年6月に行われる同神社の献湯祭で伊勢神宮に奉納されている。

ここまで来れば今日の行程はほぼ終わり。温泉に入っておいしいものを食べて明日のサイクリングに備えよう。

—2日目に続く—

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

巨木に見守られるように鎮まる射山神社。榊原温泉の歴史を語る上で欠かせない場所だ

 

【〆の温泉 榊原温泉】

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

(左)湯元榊原舘

三重県津市の極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング

(右)自家源泉100%のお湯を楽しめる湯元榊原舘の温泉

 

●湯元榊原舘
榊原温泉は「七栗の湯」ともいい、清少納言が「枕草子」で「湯はななくりの湯、有馬の湯、玉造の湯」と記した三名泉のひとつ。アルカリ性単純泉で湯上がりに肌がツルツルすべすべになる美肌の湯として名高い。中でも湯元榊原館は、自家源泉100%のお湯を楽しめる地元でも評判の温泉宿。宿泊だけでなく、隣接する日帰り温泉・湯の庄では日帰り入浴(大人1000円)も楽しめる。

三重県津市榊原町5970
059-252-0206
https://www.yumoto-sakaki.co.jp/

 

 

【初日のルート】「津ぅ」の海、山、グルメと極上ルートを楽しむ1泊2日サイクリング