スペシャライズド・Sワークスエートス【俺の愛車の本気(マジ)レビュー】

目次

バイクの試乗記事というと、新製品のメーカー試乗車で行うのが常だ。毎月毎月バイクをとっかえひっかえ試乗しているその裏で、本誌の執筆陣は自分の愛車を見定めて購入している。その愛車に、原稿料をつぎ込んではカスタムにいそしんでいるのである。誌面で、さんざんバイクやパーツについて論評を展開している面々。当の本人たちは一体どんなバイクに乗り、どんなパーツを選んでいるのか。一人一人が自分の乗り方に合わせた一台は、その訳を読めば、読者諸兄のバイク選びパーツ選びのヒントになると思う。そんな執筆陣の純粋な自転車人としての面をご覧あれ。

今回は、本誌元編集長で自転車ジャーナリストの吉本 司氏のスペシャライズド・Sワークスエートスだ。

Sワークスエートス

“争わない”超軽量ロードバイクSPECIALIZED S-WORKS AETHOS

フレーム価格/66万円
サイズ/58
フレーム重量/585g(56サイズ)

Parts Assembly

コンポ/シマノ・デュラエースR9250
ホイール/ロヴァール・アルピニストCLX
タイヤ/スペシャライズド・Sワークスターボコットン 700×28C
インナーチューブ/レボループ
ハンドルバー/スペシャライズド・Sワークスシャローベンド
ステム/エクストラライト・ハイパー
サドル/スペシャライズド・Sワークスローミンエボミラー
ボトルケージ/アランデル・マンディーブル
バーテープ/フィジーク・テンポ

カスタム履歴

フレームの軽さと快適性を損なわないよう、ホイールはアルピニストCLX、ローミンエボミラーのサドル、エクストラライトのステムを装備した。実は最初に56サイズを購入した。レース的な走りをするならこのサイズでも良かった。しかしロングライドなどを考えると少しゆったりと乗りたいと感じたので、ワンサイズアップの58サイズをさらに購入することになり、出費がかさんだ……。とはいえ上りの軽快感を失うこともなく、下りの安定感が増してより快適に乗れるようになったので良い判断だった。

Rider 吉本 司(よしもと つかさ)

吉本さん

身長:186cm
体重:77kg
ハンドル幅:400mm
ステム長:110mm
サドル高:786㎜
クランク長:172.5mm
ギヤ比:52×36T、11-28T

スポーツバイク歴38年。フリーの自転車ジャーナリスト。その豊富な経験から、ハード&ソフトウェア、市場動向まで、車種、遊び方を問わず造けいが深い。本誌元編集長。

 

エートスはどんなバイク?

2021年モデルとして投入されたロードバイクのニューファミリー。“パフォーマンスロード”として位置づけ、レースで争うことを主とせず、ロードサイクリストが自分の思うままに走ることを楽しむ一台として提案された。才気煥発の技術者P・デンクが一から設計を担当。フレーム単体重量585gという超軽量が話題を呼んだ。

 

私の見どころポイント!

Point_01

Sワークスエートスのシートステー

細さが際立つシートステー。リヤエンドに対して一直線に伸びるシンプルなデザインは、トラディショナルな美しさがある。もちろん軽量化や快適性を生み出す一端にもなる。

Point_02

Sワークスローミンエボミラー

元々クッション性に優れていて“ドッカリ”座れるサドルが好みだ。Sワークスローミンエボミラーは、お尻が浮遊するかのような独特の座り心地で抜群の快適性が得られる。

Point_03

エクストラライトのハイパーステム

フレームの軽さを生かすためにステムも軽量なものを選んだ。エクストラライトの「ハイパー」ステムは、アルミ製の超軽量モデル。筆者が使う110mmの付き出しで83gの重量。

Point_04

アルピニストCLX

スペシャに乗るのなら、ホイールはやはりまずはロヴァールを組み合わせたい。淡々と長距離をこなし山岳ルートを行く筆者のような走りには、軽量なアルピニストCLXが似合う。

 

Impression「高性能がライダーの手の中にある」

最新モデルに乗ると、ロードバイクの性能はものすごい領域に到達したものだと、感心させられることしきりだ。でも、その一方でバイクが「もっと踏め」「もっと速く走れ」と訴えかけてくる。選手であればそれは、速く走るための心のブーストになるのだろう。筆者も一昔前ならそうだった。しかし今はレースをしないし、グループライドで競い合う時間もだいぶ減った。一人で淡々とペースを刻み、たまに峠などで自分を追い込むくらいだ。そんな乗り方だと、常に“速く走れ”と訴えかけてくるバイクは少々窮屈に思える。だからこの数年、僕とロードバイクの間には、何となくズレのようなものが存在していた。

そんな時に目の前に現れたのがエートスだ。最初に引かれたのはルックス。これ見よがしなロゴはなく、古典的な丸チューブを主に構成するシンプルさ。元来、凝った造形でこれ見よがしのブランドロゴをまとった、レースバイクの筋肉質な見た目は苦手だった。エートスはまさにその対極にある、僕が望む理想の立ち姿だった。特徴である585gという超軽量も魅力の一つ。歳を重ねるとどうしても最大出力が落ちて、苦手な上りがさらにつらくなった。かつては自転車の重量について全く気にしなかったが、上りの速度が落ちると重量がより足かせになると感じていた。そんな時にもこの軽さは効果的だった。少ない質量は軽快なダンシングの動きをもたらし、シッティングでも軽いギヤを無理なく回し続けることを可能にしてくれる。

超軽量車というと挙動が不安定とか、下りが苦手な印象もあるがエートスは全く違う。むしろ魅力はゆったりと乗ることができて、そしてしなやかに走ること。ホイールベースが長く感じられ、下りのコーナリングでも路面をしっかり“押せる”接地感の高さによる安心感がある。それは適度な剛性感と振動減衰特性の高さ故だろう。下りの恐怖感は微塵もなく、むしろ思い切り楽しめる。下りが好きな僕には絶好だ。

最新レースバイクは絶対的な剛性が高く、速く走らせるにはそれ相当の出力が必要になる。エートスの絶対剛性は、プロレーサーには少し物足りないかもしれないが、僕みたいなサイクリストに心地良い。硬くはないけれど芯はちゃんとある剛性感だ。ケイデンス重視でペダリングをすれば、上死点から足がスカッと自然に落ちていく。パワーをかけても足が跳ね返されることもなく、トルクをかけている時間が長くなったかのようなじんわりとしたペダリングができるのは、バイクを“走らせている”という満足感にあふれている。

エートスは決して速く走れと肩をたたかない。でも速さが必要な時にはしっかり力を発揮してくれる。その“でしゃばらない高性能”が最大の魅力だ。だからのんびり走らせるのも気持ち良いし、速さにも大いに興奮できる。冒頭にも述べたが、今の自転車はとにかく速い。でも、どこか自転車に“乗せられている”という感覚が強く、自転車の楽しみの一つである“操る楽しさ”を置き忘れているような気がする。しかしエートスは“自分の手の中に高性能がある”という感覚に長けていて、ライダーがイニシアチブをとって走らせることができるのだ。そんなロードバイクを楽しむ醍醐味をかみしめられるのが何より面白い。

エートスに出会う前は「50歳を過ぎたらロードバイクはもういいかなぁ」(グラベルロードなどを除くピュアロードバイク)とも考えていた。しかしコイツに出合ってからは、まだロードバイクに乗ってもいいかなぁと思えるようになった。操る楽しさを再認識することができたエートスは、僕にとってロードバイクの絶好の回春剤である。

吉本さんとSワークスエートス

 

なお、スペシャライズドは、エートスの世界観を伝えるために、「My Aethos,My Styleキャンペーン」を2022年9月30日(金)まで実施している。エートスを購入した人に、その金額の10%分のスペシャライズドのアイテムをプレゼントするものだ。

My Aethos,My Styleキャンペーンのページ