“大人の”四国一周サイクリング完全ガイド Vol.7:いよいよ3県目となる徳島県へ

目次

吉野川橋

 

いつかは走りたい憧れの四国一周サイクリング。人生に何度もない貴重なチャンスに恵まれるなら、ぜひ最高のサイクリング体験にしてほしい。そこで、四国一周基本ルートの設計者であり、台湾一周ツアーを日本人最多の5周回完走した筆者が、四国一周基本ルートをベースに細部をアレンジした11日間/約1,100kmのソロ1周ライドを通じて、これから四国を目指すサイクリストに「大人の四国一周」の実践的ノウハウから裏話まで大公開。連載7回目の今回は、うどん県から離れて徳島県にこぎ入る。

 

高松もやっぱりうどん。

2021年10月19日(火)。この日もうどんからスタートする。しつこいようだが、これが讃岐ルールと受け入れていただくしかない。とはいえ、うどん好きを自認する筆者の胃も流石にお疲れ気味だったのと前夜だけでは終わらなかったパソコン仕事があり、予定していた早朝からのうどん店巡りは諦め、10時過ぎに「WeBase 高松」を出た。いやはや、前回も書いたが、仕事道具を送りつける土地ぐらいは連泊できるように計画すべきだったと反省している。

 

■大人気の「ばかいち」に再訪

まずはホテルから東南方向に1kmほどの住宅地にある「手打十段うどんバカ一代」に向かう。年中無休で毎日6時から18時までぶっ続け営業。まさに店名通り昭和的な気合いに魅かれ、高松での筆者の朝食は大抵この「ばかいち」だ。メディア映えする「カルボナーラのような釜玉バター」でブレイクしたこちらは週末ともなれば朝から大行列必至なのだが、平日の10:15という中途半端な時間のおかげか、はたまたコロナ禍の影響か、すんなり入店できたのは悲喜交交だ。

 

手打十段うどんバカ一代

「手打十段うどんバカ一代」。建物は古くても掃除は行き届いているのが良店の証だ

 

こちらもセミセルフ方式なので、麺の入ったどんぶりを貰ったら好きなトッピングを自分で載せてレジで会計する。そういえばシレッと「セミセルフ」などと書いているが、本来の「セルフ」が麺を湯桶で温めてどんぶりに入れて出汁を掛けるまで全て客自身で作業するのに対して、オーダーに応じて店員がどんぶりを渡してくれる業態を総じて「セミセルフ」とか「半セルフ」とか言うわけだ。毎度サイクリングに関係ないネタで恐縮だが、覚えておいても損はないだろう。さて、この日は次に行く店が本命のため、ここでは1玉(小)のみ。熱いうどんに熱いカケ出汁のいわゆる「あつあつ」は、絶妙に茹で上げられた麺がフカフカ・ムニュムニュとして良い。出汁は前日の4軒よりはちょっと甘めで濃い目だが悪くない。天ぷらも油切れが良くて軽い食感。例によって1分ほどで完飲してうどん愛を示す。店の気合いに客も気合いで応えるのが昭和男の流儀だ。

 

かけ小(あつあつ)に玉子天とアスパラ天

「かけ小(あつあつ)」に玉子天とアスパラ天。しめて410円

 

■大トリの高松郊外で極上うどんに巡り合う

この日の本命は「ばかいち」からまた東南東に5kmほど走った田園エリアにある「おうどん 瀬戸晴れ」。駒沢で週末限定のうどん店を営む若きうどん研究家に「気鋭の実力店」というお薦めをいただいたので期待して伺ったところ、入店待ちは数組だった。平日の11時だから意外に混んでいないのかと思っていたらすぐに人が増え始め、筆者が入店する10分後には後ろにまあまあの行列ができていた。

おうどん瀬戸晴れ

いかにも「うどん屋っぽい」外観は、今回のうどん巡りではここだけ

 

こちらは今回のうどん巡りでは最初で最後となる「一般店」方式。すなわち、客は着席してから注文し、店員が出来上がったうどんを席に運ぶ普通の飲食業態だ。しかしながら、運ばれてきたうどんはとても普通とは言い難い非凡なレベルだった。1杯目は基本の「かけ小(あつあつ)」。とにかく麺が別格のうまさ。始めはスルっと入って、噛むとモチモチムニュっとした弾力があり、心なしかうねるようなノドごし。カケ出汁も良い。しっかりとした出汁にギリギリの塩分。讃岐うどんとしては最も上質感のある出汁だと思う。てんぷらは玉子とかき揚げ。かけうどんが運ばれた約1分後に、揚げたてが別皿で提供されたのもきっと偶然ではないのだろう。そう思わせる店員の動きがまた素晴らしい。

 

かけ小

「かけ小」350円。セルフ店よりは少々高めだが、都内なら3倍とれるクオリティ

かき揚げと玉子天

「かき揚げ」200円。「玉子天」100円。きれいな油の香りがする

 

2杯目は「肉ぶっかけ小(ひや)」。冷たいうどんのモチっとムニュっとした食感はもはや感涙もので、甘くて程よい濃さの牛肉は脂の比率がまさに吉野家の牛丼っぽく、いやもちろんもっと上品だが、ぶっかけ出汁なしでうどんと合わせると薄味好きの中年にちょうど良かった。

 

肉ぶっかけ小

「肉ぶっかけ小」690円。美しい盛り付けも味に上乗せするという意思を感じる

 

同店は「チクゴイズミ」という九州産の小麦を使われているそうで、それがうどんのどこに作用しているのか素人には分からないものの、香川県産を差し置いてわざわざ取り寄せているのだから、きっとモチっとムニュっとした食感にも貢献しているのだろう。厨房を取り仕切る若い店主をフロアにいる気さくな父親がサポートするファミリー経営も微笑ましい。今回の讃岐うどん巡りはずっと伝統店ばかりだったが、最後に最先端のハイクオリティうどんで締めることができ、まだ目に残っていたウロコがまた大きく剥がれ落ちた。

 

東讃を快走して徳島へ。

■痛恨の確認ミスでスタンプのコンプリートを逃す……

うどん巡礼が大団円となったので上機嫌で走り出す。まずは小さな峠を越えて6kmほど走り、ブルーラインに再合流する交差点の北側にある「道の駅 源平の里 むれ」に向かう。この日の最初のスタンプポイント……のはずだったが、なんと定休日?! ……10分ほどジタバタしたものの結局のところスタンプ捺印は叶わなかった。スタンプポイントの営業日時については計画時に全て確認したつもりだったが、実はもともと予定していた日程を仕事の都合で1週間スライドさせたため、宿の予約や人とのアポイントは変更したものの、こちらの「第1・第3火曜日のみ休業」という変則的な定休日パターンにまんまとハマってしまった。といっても、そもそも公式チャレンジシートにもしっかり明記されているので不覚としか言いようがなく、無念ながら四国一周4日目にして“完全版”というタイトルにもケチがついてしまった。しかし、ここは包み隠さず、失敗もノウハウとして共有する。

 

「無念、スタンプポイントが定休日…」※筆者によるYouTube映像

〜定休日の看板を見て反射的に「ハンコは押せるんじゃないかな、確か……」などとくちばしった筆者。これぞまさに「正常性バイアス」……

 

■サイクリング好適地の東讃エリア

さて、悔やんでも後の祭りなので、気を取り直して走り出す。東讃、すなわち高松市より東側の香川県もサイクリストにとって魅力的なエリアだ。緩やかなアップダウンが続く地形に、情緒ある街並みが自然と共生するかのようにほどよく拡散していて、おだやかな瀬戸内海気候に護られていることもあるのか、目に映るすべてがどことなくのんびりしている。

 

 

次のスタンプポイントの「道の駅 津田の松原」までは牟礼から13km。国道11号線だけなら30分ほどだが、ここはブルーラインの指示通りに1kmほど手前の「新津田川橋」で左折し、「津田の松原」を通り抜け、道の駅の裏手入り口からアプローチするのが本道だ。四国一周スタンプポイント全29か所のなかで、ブルーラインが裏口に誘導する場所などはここだけ。この区間の国道11号線が細い割に交通量が多くて迂回させたいという理由もあるが、この国内十指に入る松原をスルーさせたくなかったという我々の気持ちの方が大きいので、ぜひ時間の許す限りのんびり楽しんでほしい。

 

「R11羽立峠〜津田の松原」※筆者によるYouTube映像

〜ブルーラインを紹介するために撮ったが、前半には「地方国道の走り方」的ハウツーも入れたので時間があればご高覧を。

 

NICO

松原手前の「NICO」でテイクアウトして海岸で小休止。真ん中は「みたらしだんご」

四国一周スタンプ

この日の最初で最後のスタンプ。1コマ前の空きが悔しい……

 

ブルーラインは「津田の松原」から先もしばらく、大型車両の交通量が多い国道11号線を離れて海側の県道を走る。この区間は12kmほどなのだが、決して単なる迂回ルートなどではなく、サイクリスト目線で実走検証した結果、1km弱ほど走行距離が延びることと引き換えにその数倍もの安全性と景観を約束する、四国一周基本ルートならではの快適コースだ。特に巡航速度が25km/h未満ぐらいのフルバッグツアラーやクロスバイクのグループなどであれば、路側も歩道も心もとない国道を恐々と走るよりも結果的にスムーズでタイムロスが少ないと思うし、たとえ軽量ロードレーサーの健脚サイクリストであってもこの区間はブルーラインの方が楽しいはずだ。

 

吉本食品

三本松の市街地にある「吉本食品」も人気のうどん店。立ち寄る予定だったが時間と胃の都合で諦めた

 

ブルーラインはJR三本松の先で国道11号線に戻り、そこから香川県と徳島県の県境まで11km。平日なので大型トラックもかなり走っているが、引田(※「ひけた」と読む)を過ぎて再び海岸線に沿うようになってからは路側帯も広くなってくるので、中級者以上ならそれほど問題なくマイペースで車道をいけるだろう。小高い峠を上ってトンネルを通過してから下ると程なく県境に差し掛かる。観音寺市に入った2日前の午後からここまでの走行ログは約160km。距離は短めだが、旅の記憶は濃厚だ。もしまた訪れる機会があれば次回は倍以上の日程を用意しようと思う。

 

■徳島突入後に“ペダリング・ハイ”光臨。

県境の峠を下ると景色が変わる。右に急峻な山が迫り、堤防が低くなったのか海も左に迫るようだ。途中の「彫刻公園」で少しクールダウンしたあと、山と海の境界線を一筋に突っ走る。空は秋晴れ。風は西からの追い風。気温22℃。瀬戸内海は凪(な)いで穏やか。いよいよ3県目の徳島に突入。バイクは最新ディスクロード「GIANT TCR ADVANCED SL DISC」。カーボンホイールは最強・最速の「CADEX 36 DISC TUBELESS」。心拍数を抑えながらもそこそこ速めの速度で巡航するうちに、笑いがこみ上げるような多幸感に包まれる。きたきた“ペダリング・ハイ”だ!水分補給ポイントに決めていた「JF北灘 さかな市」まで7km、時間にすれば10数分、平均速度もせいぜい35km/h程度だったはずだが、すべてが噛み合う最高の時間が期せずして光臨した。それは、路面しか見えない前傾姿勢で得た絶対速度や、インドアサイクリングでのワット比などとは異次元のリアルでミラクルな時間。これがあるからサイクリングはやめられない。大人がわざわざコストと労力をかけてハイエンドバイクを持ち込む価値はここにある。

 

JF北灘 さかな市

「JF北灘 さかな市」は上等なバイクラックでサイクリストを歓待。トイレもキレイで嬉しい

 

■鳴門スカイラインから鳴門海峡へ

国道11号線が瀬戸内海に背を向けて内陸に向かった直後の交差点を左折すると、鳴門スカイラインになると。その名の通り1996年まで有料道路だったそうで、アップダウンと大小様々なコーナーが続く、徳島県内屈指のドライブコースとして知られている。そのせいか、ごく稀に凄まじいスピードのクルマとスレ違ったり、3桁レベルの速度差でモーターサイクルにブチ抜かれることもあるので、特にブラインドコーナーでのライン取りなどは注意したい。また、同じ理由で、ここを走るなら平日がオススメだ。

 

「鳴門スカイライン」※筆者によるYouTube映像

〜観光道路でプチヒルクライム。時間にすれば9割は上りで1割だけ下りという感じ……

 

この区間は動画しか撮っていないので、時間が許せば上掲のYouTube動画をご高覧いただきたいが、元々有料道路だったということでそもそもエンジン付き車両が前提なのか、上りも下りも斜度がキツく、速度抑制のための段差も頻繁にある。また、舗装も全般的に荒れ気味。ブルーラインが引かれてはいるものの、走行環境だけ考えれば決して万人向けとはいえない。上りでの蛇行や、下る際の振動による操作ミスなどのリスクがあるので、中級者以上が望ましいし、登坂に自信がないならeバイクがオススメだ。また、動画にもあるが、橋のつなぎ目や段差舗装、荒れた舗装での振動やショックはまあまあ強いので、太めのチューブレスタイヤがよいだろう。前編までも紹介したが、筆者は700×28Cサイズのチューブレスレディタイヤ「GIANT GAVIA FONDO 0」を履いているので、ここに限らず荒れた路面でのストレスをかなり軽減できたと思う。

話を戻すと、やや悪条件にもかかわらずブルーラインを引き、筆者もいろいろ脅しながらそれでもこのルートをオススメするのは、兎にも角にもここを通って欲しいからだ。筆者も毎回ここを通るたびに己の体重と不摂生を呪うはめになるが、それでも鳴門スカイラインを黙殺して国道11号線を直進する気になど一切ならない。鳴門海峡エリア独特の急峻な地形を生身で楽しむ機会など数回もないだろうから、だまされたと思ってぜひ走って欲しい。

さて、鳴門スカイラインの最高点「四方見展望台」でしばし眺望を楽しんだら、一気に下って大毛島(おおげじま)側に渡り、鳴門公園へ向かう。鳴門公園は標高98.6mの鳴門山の山頂にあり、「鳴門海峡のうず潮」を見下ろす景観と、淡路島と徳島を結ぶ「大鳴門橋」で有名な観光スポットだが、ソロサイクリストにとってはあまり長居できる場所ではない。エリア内にサイクルラックどころか駐輪場すらないので、カフェやお土産屋には入れないし、トイレにさえ行きづらい。筆者は鳴門海峡のうず潮を望む「千畳敷展望台」と「お茶園展望台」にバイクを担いで歩き入り、しばらく景観を楽しんだら折り返して徳島方面に向かった。

 

千畳敷展望台

「千畳敷展望台」でベタな1枚。ここは必ず観光客がいるのでお互いに撮り合う

 

■鳴門〜徳島間の市街地を安全に走り抜けるには。

鳴門公園から7kmほどで大毛島の南端に行き着き、「小鳴門橋」という築60年超の橋で四国本土側の鳴門市街に渡ることになるが、片側1車線のこの橋には歩道どころか路肩すらほとんどないため、歩行者や自転車が通るのは現実的ではない。筆者は一度だけロードバイクで渡ったことがあり、健脚サイクリストがソロで走るならそれほど大問題でもないが、インバウンドのサイクルツアーやレンタサイクル観光客は絶対に走らせられないと確信している。と言いつつ、四国一周基本ルートはこの橋を通っているので、筆者が実地調査した頃よりは地元の車も寛大になっているのかもしれないが。

ともあれ、大毛島から鳴門市街に渡るには鳴門市営の「岡崎渡船」を利用するのが良い。朝昼夕なら30分に1便あるので、鳴門公園あたりから軽く時間調整しつつ動けばそれほど待たずに乗れる。結果的には迂回するより早いし、安全で旅情もある。しかも無料だ。

 

大毛島の土佐泊港にある時刻表

大毛島の土佐泊港にある時刻表。本土側の岡崎港まではわずか3分

岡崎渡船

乗客は筆者ひとり。しかも無料。嬉しいような申し訳ないような……

 

この岡崎渡船を利用する場合は、すぐにブルーラインに戻らず、10kmほど川沿いの裏道を走ることをオススメする。クルマ社会の四国で朝夕の市街地を自転車で走るのはそれなりにリスクも大きく、できれば狭いのに交通量の多い主要道などは避けて通りたい。筆者が引いた鳴門〜徳島市街のルートは、全17kmの前半は撫養川(むやがわ)東岸と旧吉野川右岸を通り、国道28号線に合流したらあとはひたすら道なりで徳島駅まで至る。走行距離もブルーラインより短い。ただし、裏道は曲がる交差点を一つ間違えただけで迷ってしまうこともあるので、もし筆者のルートをトレースする場合は、GPSマップに読み込み、要所要所でナビゲーションを活用することが前提になる。ブルーラインは外国人ツアーなどの大人数にも対応するため、市街地ではナビなしでも迷わない道の分かりやすさや、ビギナーがエスケープできる広めの歩道、途中の休憩ポイントなどを考慮しているので、大型バイパスなどを通ることが多い。もちろん、それはそれで悪くないので、自分が市街地走行に慣れているかどうかで判断すればよいだろう。

徳島市街到着は17:30。朝のスタートが予定より2時間半ほど後ろにズレたので駆け足の1日になってしまったが、天気とバイクに助けられ、明るい時間に走りきることができた。

 

吉野川橋

1928年製の日本百名橋「吉野川橋」は自歩道を通るのが正解だ

JR徳島駅

初めて「JR徳島駅」に寄ってみた。どことなく関西の駅っぽい雰囲気?

 

「鳴門から徳島への裏道ガイド映像」※筆者によるYouTube映像

 

旧知の粋人と徳島で再会。

■徳島市内でスポーツサイクルといえば……

誰もが口を揃える老舗中の老舗、「ナカニシサイクル」に立ち寄った。明治37年創業というこちらは、徳島というよりも日本の自転車業界におけるパイオニアとでもいうべき存在であり、サイクリストにとっては並の観光地よりもはるかに興味深い場所だといえよう。代表の中西裕幸氏は老舗の四代目として若い頃からスポーツサイクルに親しみ、国内のレースやイベントの牽引役として業界に貢献し続けているレジェンドであるので、運が良ければ国内MTB黎明期の貴重な話なども聞けるかもしれない。ちなみに、こちらのドメインは「http://cycling.co.jp/」である。つまり、日本で最も早くインターネットに「サイクリング」という語を当て込んだ企業という意味であり、まさに正真正銘のフロントランナーなのである。とはいえ、これ以上褒めちぎっても仕方がないので、さらに興味があれば「瀬戸内Finderの記事」をご覧いただきたい。

 

ナカニシサイクル

「ナカニシサイクル」外観。火曜日の18時前だというのにこの後もひっきりなしにお客様が訪れていた

 

話があらぬ方向にずれたが、つまりは四国一周サイクリストが徳島市内で頼るべきはここだということだ。パーツの品揃え、超高級カーボンバイクから電動アシストママチャリまで広範な整備ノウハウ、平日20時までの営業時間など、すべてが心強い。もちろん、ノーアポで押しかけて「明朝までに完璧に直して!」なんて馬鹿なこと言うのは論外。分別のある大人に限り、何かあれば相談するとよいだろう。

 

ナカニシサイクルの五代目候補と四代目

五代目候補(左)と四代目(右)。自身の若い頃に似る息子と一緒に仕事ができるなんて羨ましい限り

 

ということで、この夜は必然的に四代目とサシで飲む。中西代表と筆者は20年ほど前から主に自転車レース会場で顔を合わせる間柄だったが、徳島の街で同席するのは今回でまだ2回目なので、計画時からとても楽しみにしていた。旅先で見知らぬ人と仲良くなるのも楽しいが、親交のある人の地元で会えるというのはそれ以上にうれしい。これも大人の四国一周に欠かせないピースのひとつだ。

 

■徳島の宿も「おもてなしサポーター」からチョイス

19時15分に食事の約束を入れたので、チェックインすることに。この日のホテルも「おもてなしサポーター」のリストから、徳島市住所でナカニシサイクルから一番近いホテルを選んだ。「HOSTEL PAQ tokushima」は、主に海外からの旅人を迎え入れるべく2019年5月にオープンしたそう。エントランスからラウンジ、客室までカジュアルで肩肘張らない居心地の良さがあり、四国一周サイクリストにはぴったりだと思う。今回は時節がらダブルルームに一人で泊まったので、バイクも問題なく部屋に持ち込めた。もちろん、ドミトリー利用でも一階のガレージ風エントランスに壁掛け式のバイクラックがあるので問題ない。コーヒーやミネラルウォーターはフリーだし、洗濯機も200円。コストを抑えたい若者にもよい宿だ。

 

ホステルパックトクシマ

簡素だが居心地の良いダブルルームは、バイクを置いても気にならないほどの広さ

段ボール

高松同様、徳島のホテルにも東京から街着を送っておいた

 

■和食で始まり焼き肉ライスで〆る大人げない最高の夜

徳島の夜を知り尽くした粋人と合流して向かったのは、最近の行きつけというカウンター割烹。季節感豊かな料理が10皿ほど供されるコースに四国の日本酒を合わせていただく。手際の良い板さんからテンポ良く供される料理は、食味はもちろん眼にもおいしく、食べるほどに食欲が増す。この日は貸し切りだったのと、同世代の代表と酒の好みが一致してしまい、お互いセーブする理由も見つからずにグイグイと呑み進んだ。結果、コースを終えた2時間後にはかなりの酩酊状態となったが、まだ宵の口とばかりに2軒目を目指す。

 

徳島の和食

旅先でその土地の旬の食材を楽しむにはやはり和食が一番というのがこの日の結論

 

さて、二人ともバーをイメージして歩いていたはずだったが、なぜか勢いで焼肉店のカウンターに座っていた。「ホルモン・焼肉 黒ちゃん」はカウンター12席だけながら、粋人いわく飲み屋街の中心地にあって長く人気を保っている名店らしい。実は1軒目に向かう途中で見かけて満席で煙モウモウという印象が残っており、バーへの道すがら覗いてみたら「まだOK」と威勢よく返されて引っ込みもつかずに入ってしまった次第だ。二人とも和食とはいえコース料理を食べ終えた直後なので味見程度でビールだけ……と思ったら、なんと期待以上にうまい。特筆すべきは「イリカス」。徳島名物のホルモンらしいのだが、青年期の焼肉のおかげで今があると豪語する54歳のメタボ野郎にも見た目だけでは何だかまったく分からない“謎肉”だ。噛むとクチュクチュ・コリコリした食感と牛ホルモン特有の旨味が口いっぱいに拡がり、ビールが止め処なく飲める。これは堪らない。他にも、マメ、ホソ、コリコリなど、どこの肉なのかさっぱりわからないメニューを酔った勢いで追加したが、すべて上質で脂もほどよい。独自のタレもうますぎるので、禁断の白めしを追加してツラミと一緒に頬張る。注文時に「玉子? そうめん?」と訊かれる味噌汁も独特。もちろん両方いれてもらう。怒涛の勢いで45分ほど堪能して、2人でしめて7750円。2軒目とはいえ、生ビール5杯と肉7人前でこれは破格だ。いやはや、飛び込みで入った店が当たりだと満足感は倍増する。徳島の黒ちゃん。次も忘れずに行こう。

 

黒ちゃんの焼肉

ツラミとミノだったと思うが、酩酊していたので記憶も記録もない

黒ちゃんの味噌汁

味噌汁にそうめんをいれて卵でとじるのは、西日本ではポピュラーらしい。当然ながら美味い

 

黒ちゃんを出たら22時15分。胃袋と肝臓はもう少し頑張れる感じだったが、お目当てのバーがうっかり火曜定休だったことと、翌朝は8時スタート確定につき自主規制で23時までしか飲めないため、最後は少し大人になり、再会を約束して解散。これで四国一周4日目をコンプリート。良い1日だった。翌朝からは特別ゲストを迎えて走る。次回もぜひご高覧いただきたい。

 

>>「Vol.1:プロローグ」はこちら
>>「Vol.2:入念なアプローチ計画から四国松山に上陸。」はこちら
>>「Vol.3:いよいよ四国一周に走り出す。」はこちら
>>「Vol.4:やっぱりサイクリストの聖地は外せない。」はこちら
>>「Vol.5:船旅から日本一の夕日を目指す瀬戸内ならではの1日。」はこちら
>>「Vol.6:うどんサイクリングの聖地を満喫!」はこちら

 

 

渋井さん

 

<筆者プロフィール>
渋井亮太郎(しぶいりょうたろう)
ジャイアントの広報・宣伝・イベント業務を主軸に、スポーツサイクル振興事業全般に関わるサイクルビジネスプロデューサー。2012年に開催したしまなみ海道での大型イベントを契機に「愛媛県自転車新文化推進事業総合アドバイザー」となり、以来、台湾と日本におけるサイクルツーリズム振興に携わっている。四国一周については、2014年にジャイアント側でツアー計画に着手し、その実績から2016年に自治体側の基本ルート設計も受任。以後も各施策にアドバイスしている。また、国際的なサイクリングツアーでの現場経験からサイクリングガイドの必要性を痛感し、「一般社団法人日本サイクリングガイド協会」を2014年に設立。スポーツサイクル業界の立場から、サイクルツーリズムの根幹を支える専門技術の標準化と専門人材の育成・組織化に心血を注いでいる。四国一周以降は忙しさからプライベートライドが激減する一方で体重とウェストは激増。成人病スコアの急上昇に怯える54歳。