アマチュアヒルクライムレースの最高峰「乗鞍ヒルクライム」に勝つようなトップヒルクライマーは、大会本番の前にどんなトレーニングやコンディショニングをしているのか? それは多くのライダーの気になるところだ。残念ながら2021年大会は中止となったが、中村俊介さん・田中裕士さんの優勝候補2人の本番1か月前の調整法を密着取材した。ぜひ参考にしてほしい。
中村俊介の場合 〜ベストじゃなくていいから、本番に上がり調子になるように
ヒルクライムレース1か月前というと、多くのライダーが最後の追い込みをかけたり、あるいはトレーニングが思うように進まなかった人にとっては、焦ってトレーニングをやり始める時期だろう。そんな時期、果たして優勝候補となるトップ選手はどのように過ごしているのか?
まずは2018年・2019年と「乗鞍ヒルクライム」2連覇を果たし、2021年大会も優勝が期待されていた中村俊介さんのケースを紹介しよう。
中村俊介さん。1987年生まれ、名古屋市在住のホビーレーサー。2018年・2019年と「乗鞍ヒルクライム」のトップカテゴリーで優勝。「ツール・ド・おきなわ2019」のロードレース市民210kmでは6位に入り、ロードレーサーとしても非凡な力を見せる。中村さんについては、過去のこちらの記事もチェック
意外とトレーニング仲間にちぎられている!?
2021年8月上旬。ちょうど大会本番約1か月前の日曜、休日のトレーニングに帯同取材させてもらった。ふだんからよく一緒にトレーニングする友人ら3人と名古屋市郊外に集まり、そこから岐阜方面へ行く、約130kmほどの峠のあるコースを走るという。
友人とトレーニングに出かける中村さん(右から2番目)。
上り区間では、先頭をぶっちぎりで駆け抜けていくのかと思っていた。がしかし、頂上まで全員まとまって上っていく。区間によっては、中村さんがちぎれてしまう場面も見られた。もちろん、全員ある程度脚がそろっているということもあるだろうが、意外だった。
上り区間で強度を上げて走る中村さん
上り区間によっては仲間からちぎれてしまう場面も(写真一番右) ※写真では反対車線を走っていますが、工事による片側交互通行となっていたためで、交通ルールを無視しているわけではありません
1か月前だからといってガンガントレーニングするわけじゃない。体調を崩さないことを最優先する
ライドを終えた中村さんに、この時期のトレーニング内容について詳しい話を聞いてみた。平日はどんなことをしているのか?
中村:平日は水曜日にだけトレーニングします。その他の曜日は回復にあてています。仕事のシフトと半休をうまく活用して、早朝に起きて3〜4時間程度走ります。峠を強度を上げて反復して上ったり、調子が悪ければ峠は1本だけにして、ミドルコースを走ったり、といった流れです。 疲労度が少ないなら、火曜・木曜と乗って水曜日をレストにあて、平日に2日乗ることもあります。
と中村さん。
土曜と日曜は?
中村:基本的には仲間とグループで走りに行くことが多いですね。土曜日は30分くらいの上りを反復してトレーニングします。走行時間としては3時間にいかないくらいですが、強度は高いです。 日曜日は、今回帯同してもらったような内容ですね。走行時間は5時間以内くらいで、早朝に走り始めて12時前には走り終える、中距離コースのトレーニングです。本当は土曜と同じように上りを反復できればいいんですが、体力的に厳しい場合は、このような内容になります。
これも意外だった。ということはレース1か月前は長時間乗り込んでいるわけではないのだ。
中村:2019年の前回大会のときも、同じような感じでしたね。ただ、そのときより年齢を重ねたためか、疲労の回復が追いつきにくくなってきていると感じていて、それもあってトレーニング量は抑えています。 とはいえ、本番まで残り1か月だからといって、ガンガントレーニングするわけじゃないんです。それよりも、体調を崩さないことを優先しています。トレーニングすることと体調を崩さないこと、そのバランスは非常に難しいんですよ。
平地区間で先頭を走る中村さん。空気抵抗を意識したフォームを常に取り続けていた
中村:トレーニングすればするほどもちろん体力は上がっていきますけど、失敗して一度調子を崩してしまうと、“もうだめ”と思ってしまいやすいんです。そうなってしまうと、それ以降調子を上げて維持していくのはかなり難しくなります。何をやっても落下してくだけになることも。そうならないように、本番まで残り約4週間をうまくバランスをとって調子を上げていく。それが本番1か月前の作業なんです。正確に言えば、本番前1週間は疲れを抜いていく時期なので、実質的には残り約3週間ですね。 僕の場合は、本番に向けてだんだんと放物線が伸びていくイメージになるようにします。本番のときに90%の仕上がりでもいいから、その時点でまだ上り調子になっていることを大切にしています。
中村さんの大会本番までのコンディショングイメージ
中村:最悪なのは、本番2週間前くらいに放物線が頂点を描いてしまったときです。そこで体調がピークになると、それを本番まで維持するのはもう至難の業です。 “何かやらなきゃ”と焦ってしまい、トレーニングしすぎて失敗してしまう人は多いと思います。大切なのは、どうやったら自分の疲労がピークにならないようにしつつ、レース本番で勝てるようにコンディションを維持していくのか、です。それを自分の体調と相談して実施していくイメージを持つと良いと思います。
……耳が痛い人は多いのではないだろうか。
食事内容・補給・睡眠には気をつけている
この期間中、栄養面や生活面で気をつけていることは?
中村:まず、トレーニング直後にプロテインを飲んだり、アミノバイタルⓇGOLDをスポーツサプリメントとして摂ったりしています。アミノバイタルⓇGOLDはおやすみ前に摂ることが多いですね。今日のライドでは、途中でアミノバイタルⓇプロも摂りました。たんぱく質とアミノ酸の補給には気をつけています。
トレーニング中に「アミノバイタルⓇプロ」(左)、トレーニング後に「アミノバイタルⓇGOLD」(右)を摂る中村さん
中村:食事については、ものすごくシビアに管理するわけじゃありませんが、脂質を摂りすぎないようにバランスは考えて食べます。完全に食べないわけじゃないけど、あえて脂っこいものは食べないようにする、といったところです。ただ、食事制限はしません。走って消費したカロリー分は、しっかりと食べます。 睡眠時間もきちんと取るようにしています。6時間半〜7時間は最低必ず寝ます。
トレーニング後に食事をする中村さん
田中裕士の場合 〜本番1か月前にはほぼ体は仕上がっている
続いては、田中裕士さんのケースだ。中村さんと同じく、「乗鞍ヒルクライム」約1か月前となる8月上旬の休日に、トレーニングライドに帯同させてもらった。同じヒルクライマータイプだが、中村さんとは性格もアプローチも違う彼の調整法とは?
田中裕士さん。1988年生まれ、神奈川県在住。身長177cm・体重約57kgで、FTPは340Wに達するという驚異的パワーの持ち主。2018年に「Mt.富士ヒルクライム」の主催者選抜クラスで優勝するなど、実績も高い。中村さんとは同年代で、良きライバルでもある。田中さんについては、こちらの過去記事もチェック
不調とは思えない、とてつもない速さ
田中さんは7月下旬〜仕事の長期夏季休暇があり、実家のある滋賀県に帰省し地元でトレーニングするのが毎年の恒例行事だという。今回は峠を含む約70kmほどのコースを走った。
峠道で強度を上げて走る田中さん
田中さんは2021年7月初旬、不運にも交通事故に遭い、けがをしてメインバイクも大きく破損してしまった(今回乗っているのはセカンドバイク)。2週間ほど痛みでまともに走れない状態が続いたという。そこから回復した矢先、追い打ちをかけるように今度はかぜで体調を崩し、またまともに走れない状態に。7月下旬にようやく回復し、徐々に調子を上げるように調整して今回のライドに至る、ということだ。
とはいえ、そんなことをみじんも感じさせないほどの、驚くほどハイペースで走り続ける田中さん。上り区間では強度を上げていくが、その速度もすさまじい。平地は平地で淡々と中強度で走っている様子だが、車並みの速度を維持して走っていた。
平地を淡々とハイスピードを維持して走る田中さん
本番前1か月は疲労を抜きつつ体調を整えるイメージ
ライド終了後、インタビューを行った。まず、この時期の平日はどんな内容をこなしているのか?
田中:今年はけがと体調不良で例年どおりにはいっていませんが、基本的には毎日走りに出ます。火曜と木曜は強度を上げ、3時間程度、距離にして約90kmほど走ります。他の曜日は脂肪燃焼レベルでゆっくり脚だけ回すようなイメージで、2時間程度、約60kmほど走ります。
休日は?
田中:1日100km以内に収めるようにして、20分程度の峠を1〜2本ほど強度を上げて走り、あとはほどほどのペースで走り続けます。今日みたいな練習です。なお、夏季休暇中は1日乗って1日休んでを繰り返していきます。すると、徐々に出せるパワーが上がっていくんですよ。これも“本来なら”ですが。
ライド最後の上り区間を全力で走る田中さん。上りとは思えない速さで通り過ぎていった
かなり走り込んでいるようだが……
田中:いえ、もう本番1か月前の段階ではほぼ体は仕上がっていて、練習量をちょっとずつ減らし、疲労を抜いて体調を整えていくことに時間を費やします。体重もこの段階でちょっとずつ減っていって、体が仕上がるんです。 今回のテーマからは外れますが、狙った大会があれば、その半年前からもう準備は始まっているんです。はじめの3か月は乗り込んでベースを作り、次の2か月で高強度トレーニングをし、残り1か月で疲労のピークが来ていて、それを徐々に抜いていくのです。
これでも疲労を抜いていく段階とは。さすが田中さん、驚きだ。
田中:本番1か月前に焦ってギリギリまで練習してもだめなんですよ。付け焼き刃にしかならない。ここは体調を整えることに専念すべきです。多くの一般のライダーに言えることだと思います。もちろん、ふだんからまったくバイクに乗っていない人なら意味はありますが、ある程度乗り込んでいる人なら、焦ってやらない方がいい。 実は、数年前に乗鞍ヒルクライムに挑んだとき、自分も失敗しているんです。トレーニングをすればするほど良いと思い、頑張りすぎてしまいました。疲労がたまっている状態でさらに負荷をかけようとしたり、ハードな減量をしたりして……。当然、その年は結果は出ませんでした。当時はまだ経験が足りなかったんです。その苦い経験が今に生きています。
とにかく走った分しっかり食べる
食事や生活面で気をつけていることは?
田中:とにかく走って消費したカロリー分を食べることですね。ただ、脂質は少なめにすることは気をつけます。甘いものは、体が欲しているなら完全に避けるわけではありません。洋菓子よりは和菓子にするといった工夫はしますが。
トレーニング後にかき氷を食べる田中さん。「まぁ、かき氷くらいなら食べてもいいかな(笑)」
田中:先ほど説明したようにかつてはハードに減量をしていた頃もありましたが、しっかりと食べるようになってから体調をきちんと整えられるようになりました。これは個人的な見解ですが、体の調子が悪いときは体に必要なエネルギーが足りていないんだと思います。だから、“とにかく食べよう”と言いたいですね。
スポーツサプリメントは使っている?
田中:私はふだん使いませんが、絶対に良いものだと思うので、活用してみるのは賢い選択だと思います。アミノバイタルⓇプロとアミノバイタルⓇGOLDは携帯に便利だし、飲みやすいと感じます。
アミノバイタルⓇプロ(左)をトレーニング中にアミノバイタルⓇGOLD(右)をトレーニング後に摂る田中さん
けがと不調をどう乗り越えるか
今年は予定外のできごとで調子を大きく崩してしまった田中さん。ここから本番までどう調子を上げていくのか?
田中:ここまで説明した方法を実践して、6月頭の段階でそれがうまく功を奏し、体はピークに仕上がっていました。今年はここからオフにして、7月からまたトレーニングを頑張り、8月で疲労を抜いて……と考えていた矢先のこのけがと不調だったんですよね。 ですがそんななかでも、2週間前の段階ではよく行く峠で290Wしか維持できていなかったところ、今日の段階では330W程度を維持できました。気をつけていたことは2つ。ある程度体重が増えてもいいので、とにかくよく食べて栄養を摂っていたこと、そしてちょっとでも疲労がたまって脚が重くなったなと感じたらよく休んだこと。 このまま本番までひたすら調子を上げていくことに専念していけば、今から2週間後には360Wが維持できるようになっているはずです。
2人に共通するもの
いかがだっただろうか? 2人ともそれぞれやり方は異なるが、共通していたのは、本番前1か月は“調子を整えていくことに専念する”ということだ。
ともすれば我々一般のライダーは、“大会本番にむけてがむしゃらに頑張っていかないといけない”というイメージを持ちがちだが、大切なのは本番でできるだけベストに近い力を発揮できるようにすることなのだ。
特に、中村さんはその本番で力を発揮するのが非常にうまいのだと思われる。「練習で一緒に走るとき、びっくりするくらいシュンスケは弱いんですけど、乗鞍本番になるとなぜか強いんです」とは田中さん談だが、そこに彼の強さの秘密があった。
一方、「自転車に乗ること自体が好き」という田中さんは、乗り込む時間こそ長いものの、彼なりのしっかりとしたプランニングに基づいて行動していた。
もしこのまま“乗鞍本番”が開催されていたら、果たして彼らのどちらかが優勝したのか? 非常に興味深いところだ。
2021年はさまざまなレースが中止となっているが、2022年はきっとまた多くが開催されていることだろう。そのときのために、ぜひこの2人のケースを参考にして、トレーニングに挑んでみてほしい。
コンディショニングにおすすめのアミノバイタルⓇプロ&アミノバイタルⓇGOLD
最後に、本記事で登場した2つのスポーツサプリメントを、編集部おすすめのアイテムとして紹介しよう。
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