強豪ホビーレーサー・田中裕士の秘密に迫る〜オレのポジション〜
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仕事をしながら忙しい時間の合間を縫ってトレーニングし、プロ顔負けの実力を発揮するレーサー達がいる。人は、彼らを“強豪ホビーレーサー”と呼ぶ。そんな彼らの体を解剖し、そのポジショニングの秘訣やトレーニング・コンディショニングの秘訣を紹介する連載の第6弾。今回は“2018フジヒル”優勝者で、すさまじいパワーウェイトレシオを持つ田中裕士さんだ。
ストーリー〜ダイエットのために始めたロードバイク
1988年大阪生まれ。神奈川県在住の会社員で、仕事はとても忙しい。2012年にダイエットを目的としてロードバイクに乗り始めたが、そこからのめり込んでヒルクライムレースで活躍するようになり、国内市民ヒルクライムレースの最高峰、Mt.富士ヒルクライム・主催者選抜クラスの2018年大会で優勝し、注目を集めた。
修行僧のようにストイックにロードバイクに乗り込むことで人気で、またとてつもないパワーウェイトレシオを持つことでも有名だ。所属チームはSBC Vertex Racing Team。
フィジカル〜細身の体だがすさまじいFTP
すらっとした長身かつ細身の体型で、見るからにヒルクライマー然としている。FTPは何と340Wで、パワーウェイトレシオは驚きの5.8倍だ。「前よりもさらにFTPは増えましたよ」と田中さん。
●身長:177cm
●体重:約58kg
●FTP:340W
●脚質:ヒルクライマー
フォーム〜得意の上りはトルクを掛けて
体の柔軟性は低めだが、フォームは全体的に前傾が深い。背中の中央部分を大きく曲げて前傾姿勢を取るタイプだ。「平地で速度を上げて走るときは基本的に下ハンドルを持ちます。ケイデンスは毎分90回転くらいですね。サドルの前後で座る位置を動かして、ポジションを調整しています。ヒルクライマータイプですけど平地は苦手じゃないし、好きです。実は強い選手と平地を高速でローテーションして走るのが一番好きなんです」。
「得意の上りは、基本はシッティングでブラケットを深めに持ち、70〜80回転でトルクを掛けて踏んでいきます。勾配が10%以上にきつくなったら、体重だけを使った“休むダンシング”を使います。レースでアタックをかけるときは力を入れたダンシングを使います」。
バイク〜話題のディスクロードに乗り換えた
長らくトレックのヒルクライムバイク「エモンダ」のリムブレーキ仕様に乗っていたが、話題のスペシャライズドのディスクロード「エートス」に2020年10月から乗り換えた。
「ディスクロードにしたいと思ったのと、自分の好きな上りで軽い走りができる究極のバイク、と考えてこの一台にしました。非常に良くまとまったバイクです。何よりも変わったのは、ディスクブレーキになって下りの安定感が増して、結果的に速くなったことですね」。
機材面でのこだわりは? 「サドルですね。このバイクは初期状態でショートノーズの“パワーサドル”が付属していたのですが、どうしても合いませんでした。そこで、愛用の旧型Sワークストゥーペにしています。自分はサドルの前側に座ってトルクを掛けた走りをするタイプなので、サドルの前端部分が長いサドルじゃないとだめなんです」。
●セッティング系のデータ
サドル高:725mm
サドル後退幅:不明。だいたいで合わせている
ハンドル-サドル落差:不明。ステムを一番下まで下げている
クランク長:172.5mm
ハンドル幅:400mm(芯-芯)
ギヤ:フロント52-36T/リヤ11-30T
タイヤ幅:25mm(前後とも)
空気圧:5.5気圧(前後とも)
●スペック
フレームセット:スペシャライズド・Sワークスエートス
メインコンポ:シマノ・デュラエースR9170 DI2
ホイール:ロヴァール・アルピニストCLX
タイヤ:コンチネンタル・グランプリ5000 700×25C
ハンドル:スペシャライズド・Sワークスショート&シャロー
ステム:TNI・ヘリウム6
サドル:スペシャライズド・Sワークストゥーペ(廃盤品)
シートポスト:ロヴァール・アルピニストカーボンシートポスト
ペダル:ルック・ケオブレードカーボン
パワーメーター:シマノ・FCR-9100-P
サイクルコンピューター:ガーミン・エッジ520J(廃盤品)
実測重量:約6.2kg(写真の状態)
トレーニング〜コロナでレースがない1年をどう過ごしたか
2020年は例のコロナ禍によりレースがなく、出場しなかった。そんな中どんなトレーニングをしていたのか。「もともと自転車に乗ること自体が好きなので、ひたすら修行僧のように走り続けるようなことをしていました。一人でコンビニによらず無補給で200km走るとか、そういうチャレンジを続けていましたね。レースがないので、現状維持です。でも、楽しかったですよ」と田中さん。
「平日は朝4時30分には走りに出て、7時30分くらいまで3時間走ります。基本は毎日です。そのときは強度を上げて10分走を4本程度組み込みます。
土日は200kmくらいずつ、長時間乗ります。淡々とまったく止まらずに走り続けます。
2018年に“フジヒル”で優勝した頃に比べて、“長距離で全体的に速く走れる”ようになりました。その中での強度の上げ下げにも強くなってます。当時は“上り1本で速い”という特性でしたが、今はよりツール・ド・おきなわ市民210kmに対応できるような脚質に変わってきています。
実は、2020年は骨折して、一度フィジカルがかなり落ちたときがありました。そこで、今まで以上に乗り込んで、一から体作りをし直したんです。それはそれでとても有意義でしたよ」。
生活〜夜は残業が多い
平日は仕事が忙しく、乗る時間は朝しか取れない。「仕事は忙しいので、どうしても帰宅は夜遅くなってしまいます。土日は基本休めますよ」。平日のトレーニング時間を考えると、ほとんど寝てないのでは? 「睡眠時間は平均4〜5時間くらいです。昔からこうなんです」。
コンディショニング〜食べるのが大好き。しっかりと栄養を食事で取る
サプリメント類は使ってないという田中さん。ただし、食事には気を遣い、コンディションを整えているという。
「自分は食べるのが大好きということもありますが、とにかく必要な栄養分を食事でしっかりと取ることを重視します。“走る分はしっかりと食べよう”ということですね。やせるのは簡単です。たくさん走って食べなきゃ痩せる。でも、しっかり食べるのは意外と難しいんです。自転車はとてつもないエネルギーを消費するからその分摂取しないとだめだと考えています。負担も抜けないし、強くもなれない。週末にたくさん走るときは、ものすごい量を食べますよ。タンパク質もかなりとります。
一般のライダーは、“乗る分食べる”というのは意外とできていないと思います。食べるのが苦手な人って、割といるんです。そういう人は栄養不足になりがち。自分は食べるのが好きだから、全部普通の食事で栄養をまかなうけど、それができない人は不足する分をサプリメントで補うのが賢い選択だと思います。以前に「アミノバイタルⓇプロ」を飲んだことがあるんですが、とても飲みやすいと思いました。また、長距離を乗って練習するときでも、しっかりとコンディションを支えてくれます。こういうものを活用するといいと思います」。
2021年の抱負〜“フジヒル”にピークを合わせたい
今年はまた各種レースが開催されていく模様。何のレースを狙っていきたいのか? 「“フジヒル”にピークを合わせて出場したいと思います。“乗鞍”は、“フジヒル”にピークを合わせるとけっこう調整がつらいので、どうしようかなぁと……。ツール・ド・おきなわ市民210kmはモチベーションが高いです。しっかり出て、チームメンバーと協力して走りたいですね。
一方で、レースだけではなくて、今年は自分と戦いたいと思ってます。FTP340Wの壁を超えて、350W、体重の6倍の領域まで己の肉体を高めたい。もはや仙人の域ですが。自転車は長く続けていくことが大事だと思うので、レースで勝つことだけじゃなくて、楽しむことにも重点を置いていきたいんです」。
2021シーズンも、田中さんから目が離せない。