パナレーサー「アジリストファスト」実走レポート

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パナレーサーが満を持して市場に送り出す。アジリストシリーズのハイエンドタイヤ「アジリストファスト」。これまでのアジリストと比べてグリップも、しなやかさも向上し、転がり抵抗も下がっているという。

多くの乗りてを満足させるための1本

パナレーサー・アジリストファスト試乗

手前が最新作の「ファスト」。これまでのアジリストシリーズは、ロゴがパープル基調だったが、ファストはホログラムで、見る角度によって色が変わる。様々なバイク、様々なライダーに合うタイヤという意味が込められている。いいね。

 

この新作のメディア試乗会が、那須高原エリアで開催された。すでに発売されているアジリストシリーズのユーザーからのフィードバックを生かし、アジリストシリーズの最上位モデルにふさわしい「全部乗せ」の性能を与えられているというから、楽しみだ。

様々な技術が使われているのは言うまでもないが、今回特に打ち出されたのが、電子線照射という技術。素材の分子結合を強める技術で、流動性制御や耐熱性・強度を飛躍的に向上させているという。自動車のタイヤに使われることもある製造過程だ。他にもケーシングや耐パンクベルト、コンパウンドを見直すことで低い転がり抵抗と、グリップという一見すると相反する性能を両立する設計に。

 

しなやかさが際立つタイヤ

パナレーサー・アジリストファスト試乗

個人的に購入したアジリストライト(アジリストシリーズ最軽量モデル)と、その乗り味を比較してみる。ともに28C。グリップ感、しなやかさはファストが上、軽快感は同じくらいか。

同じ空気圧で、コーナーリングでのタイヤのつぶれ具合は、ライトよりもファストのほうがしなやかにつぶれてくれるので、トレッド幅を目一杯使える印象。説明にある通り、それでスピードがスポイルされてしまうという感じもない。コーナーリングを攻めたいならファスト。ただ、この印象がダンシングでバイクを振ったときは、やや潰れすぎるかなと感じないこともない。

どんどん剛性が上がっていく最近のロードバイクに、振動吸収が欲しいと思っている人は、いい選択肢ではないだろうか。

チューブによって乗り味がどう変わるかもチェックしてみた。チューブの組み合わせは、アジリストライト+TPUチューブ、アジリストファスト+Rエア(パナレーサーのチューブ)&TPUの2パターンで試乗した。TPUチューブは、ブチルチューブと比較すると乗り味がやや硬めになる傾向がある。TPUチューブよりも、Rエアと組み合わせたときの方が、グリップ感やしなやかさをより強く感じた。製品の特長として打ち出されている転がりの軽さはTPUチューブとの組み合わせが体感しやすい。

 

パナレーサー・アジリストファスト試乗

那須の水田地帯を快走

ちょっと厳しいことを書かせていただくなら、重量については、前後セットで”ライト”より 90g も重い……。ハイエンドタイヤという位置づけれあれば、重量ももう少し頑張ってほしかった。聞けば、ライトよりもコンパウンドの厚みがあるそうで、それが重量につながっているという。

パナレーサー・アジリストファスト試乗

そのコンパウンドだが、100kmほど走った状態が上の写真。コンパウンドに細かい傷が複数確認できた。遅かれ早かれ、走っていればこういった傷がつくことはあるが、自分の経験上この距離にしては傷が多いと思う。

開発担当者に、質問したところテストライダーである選手からのフィードバックとしても傷が発生するという報告があったというが、これによってパンクが引き起こされるかと言うと、そうは言い切れないということだった。

その根拠となるのは、ファストのトレッド厚はノーマルのアジリストよりも少し厚く設定しており、トレッドの傷がパンクに至るリスクは低いということだった。

とはいえ、いちユーザーとしては精神衛生上あまりよろしくないので、今後の改善を期待したい。

価格設定は見事

各社のハイエンドタイヤが軒並み1万円を超えて久しいが、アジリストファストは税込参考価格9900円とギリギリ1万円を下回っている。消耗品ゆえに、この企業努力はうれしい。

レースから、ソーシャルライドまで、乗り方が多様化しており、さらにリムブレーキとディスクブレーキのロードバイクが混在している今、タイヤの太さの好みもバラバラ。このタイヤを買っておけば大丈夫! というタイヤを作るのは難しい時期だと思う。正解が人によってまちまちだからだ。

そんな中、アジリストファストは、転がり抵抗の軽さとグリップという相反する性能の両立を目指してチャレンジングな製品を開発したことは素晴らしい。国内メーカーゆえに、フィードバックを受けた改良のスピードも早く、小回りが利くところが強みなので今後に期待したい。