つくばエクスプレス(TX)がサイクルトレインを初運行、都市間鉄道での運行がさらに拡大

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3月25日(土)につくばエクスプレス(TX)で、臨時の貸切列車を使ったサイクルトレインが運行された。サイクルトレインとは輪行(自転車の前後輪を外して専用の袋に詰める)をしないで、そのまま車内に持ち込めるというもので、多くのサイクリストが実現に期待を寄せている。

 

鉄道利用者の減少を受け、都市間鉄道での運行が相次ぐ

これまで地方の鉄道路線において、通学や買い物の利用客をターゲットに運行するサイクルトレインは見られたものの、主要都市を結ぶ都市間鉄道では少なかった。ところが近年、鉄道利用者の減少という事態に直面し、関東でも西武鉄道(S-TRAIN)や京王電鉄(Mt.TAKAO号)で、実証実験という形ながら運行する例が現れた(西武鉄道は3月21日以降、除外日を除く土休日に定期運行を開始)。TXのサイクルトレインもその例に漏れず、東京近郊の南千住駅もしくは八潮駅と、終着の一つ手前となる茨城県つくば市の研究学園駅を結ぶものとなった(南千住駅と研究学園駅の区間距離は50.0km)。

 

マッドガード付きのツーリング車に乗って八潮駅に向かう

当日はせっかくのサイクルトレインということで、所有する自転車の中で最も輪行しづらいツーリング車を持ち出した。マッドガードが付いていることもあって輪行の作業に20分ほどを要するうえ、鉄製のフレームということで車重は優に10kgを超えており、担ぐにも骨が折れる代物だ。自宅から7kmの自走で八潮駅に到着。ここで同行してくれる八重洲出版の大平雅也さんと落ち合ったら、受付を済ませて駅のコンコースで列車の到着まで待機する。

 

ツーリング車

サイクルトレイン用に選んだ自転車は、マッドガードが雨中の走行で威力を発揮

 

一般の乗客と動線が重なるのを避けるため、自転車を担いで階段へ

今回、サイクルトレインを実施するにあたってTX側が最も気にかけていたのが、一般の乗客も我々サイクリストも、互いに気を遣うことなく安全に利用できるということ。サイクリストだけが利用する臨時の貸切列車としたのは乗車中に双方が接触するのを避けるため、早くからホームに上がらないようにしたのも狭いホームで双方がかち合うのを避けるためであった。ただしそうなると、列車が到着する間際にコンコースからホームまで移動しなければならない。エレベーターに積める台数は限られており、必然的に階段を担いで上ることに(エスカレーターの利用は一般の乗客に限定)。昨年11月に西武鉄道で行った実証実験では「発着駅には段差の少ない駅を選んだ」と語る西武側に、「軽量のスポーツバイクだから、階段であってもかまわない」と述べた筆者も、40を超す階段に案内されたときにはビックリした。

 

八潮駅のエレベーター

八潮駅ではエレベーターの利用も可能だったが、1回に数台しか載せられないため階段を利用

八潮駅の階段

エスカレーターやエレベーターの奥にある階段は、一般の乗客が利用する機会は少ない

 

車内への乗り込みと自転車の固定はスムーズ

受付で渡された名札には乗降に利用するドアが明記され、それに従ってスムーズに車内に乗り込むと、用意された伸縮性のベルクロテープで自転車を手すりに固定するだけで作業は完了。手すりは緩衝材で養生され、自転車にも車内の設備にも傷がつかないよう配慮されていた。TXの森髙部長によると、「回送列車を使って、どのように固定したらいいのか検討を重ねた」とのことだ。

 

団体と表示された電光掲示板

臨時列車ということで、電光掲示板には「団体」と表示された

団体と行き先表示されたサイクルトレイン

駅に到着したサイクルトレインの行き先表示にも「団体」の文字

サイクルトレインに乗車

各自の乗降口は事前に割り振られていたため乗り降りはスムーズ

自転車をベルクロテープで固定

持ち込んだ自転車は、緩衝材で養生した手すりに伸縮性のベルクロテープで固定

研究学園駅で降車

到着した研究学園駅でも降車はスムーズに行われ、列車は遅滞なく発車

研究学園駅の階段

軽量のスポーツバイクだから、階段での多少の担ぎも苦にならない

TX経営企画部長の森髙龍平さん

サイクルトレインの実現にあたって大役を果たしたTX経営企画部長の森髙龍平さん

 

参加費の値引きを期待しつつも国内最速級のスピードを実感

ちなみに今回のサイクルトレイン、募集定員は36人(南千住駅)+36人(八潮駅)の計72人で、884人という乗車定員の10分の1以下。6両編成の各車両に12人ずつとゆったりできるのはよいのだが、参加費は4950円と通常運賃の2倍以上となっていた。前述の西武鉄道では1.5倍に抑えており、TXでもそこを目指していただきたい。もちろん、そのためには募集定員の増加、あるいは定期運行される列車の一部のみサイクルトレインにするといった工夫が必要で、そこはTX側も承知している。一方でTXの最高時速130kmは新幹線を除けば国内最速級とあって、乗車時間は40分に満たない。まさにあっという間に到着し、研究学園駅の改札を抜けるとTXの柚木社長やつくば市の五十嵐市長らが出迎えてくれた。

 

バイクスタンド

駅の構内には一時的に駐輪できるよう、サイクルスポットが用意したバイクスタンドが置かれた

首都圏新都市鉄道の柚木浩一社長

つくばエクスプレスを運行する首都圏新都市鉄道の社長、柚木浩一氏が駅で出迎えてくれた

つくば市の五十嵐立青市長

「自転車のまち つくばへようこそ!」と書かれた横断幕を掲げるのは、つくば市の五十嵐立青市長

つくチャリ

研究学園駅の駅前に置かれていた、つくば市のシェアサイクル「つくチャリ」

ジャイアントストアつくば

メカトラブルが生じた際は、駅前の「ジャイアントストアつくば」に駆け込めばいい

 

小貝川に沿って、高低差の少ない道をのんびりとサイクリング

さて、いつもならここで自転車を組み立てる作業に20分ほどを費やすところ、GPSの電源を入れるだけですぐにスタート。研究学園駅からは筑波山に向かうのが定番だが、帰りの列車の時刻が決まっているうえに大平さんと一緒に走るのは初めてということもあり、豊里ゆかりの森を経由して小貝川ふれあい公園まで北上。そこから川の右岸を下って福岡堰さくら公園を目指し、東進して駅に戻る47km弱のコースとした。大平さんに加え、『サイクルスポーツ』の元編集長である宮内忍さんも一緒に走ったコースの詳細は、こちらで閲覧可能となっている。関東一円で本降りの雨に見舞われたこの日、筑波山に向かった皆さんはアップダウンに悩まされたようだが、平坦で距離も短かった我々は、途中の休憩に十分な時間を割きつつも、ゆとりを持って一日のサイクリングを楽しんだ。

 

豊里ゆかりの森を抜けていく

平地に突如として現れる豊里ゆかりの森を抜けていく

両脇に耕作地が広がる道

両脇に耕作地が広がる道の交通量は少ない

小貝川の堤防の菜の花

小貝川の堤防は菜の花に覆われていた

糸繰川の流量を調整する水門

小貝川に注ぐ糸繰川の流量を調整する水門

小貝川ふれあい公園のトイレ

小貝川ふれあい公園にあったきれいなトイレで小休止

小貝川の堤防上の道

小貝川の堤防上は河川管理用の道路で、一般車両の通行はほぼ皆無

上善若水の碑

豊田城址の側にある一里塚で、上善若水の碑が立っている

福岡堰

小貝川をせき止める福岡堰は、関東三大堰の一つに数えられている

福岡堰さくら公園

堰を渡った先となる福岡堰さくら公園では、満開の桜が出迎えてくれた

 

サイクリングの適地と自宅とがシームレスにつながった

ポツポツと帰ってきた皆さんから話を伺っているうちに、復路の出発時刻が迫ってきた。車内に乗り込み、行きと同様に自転車を固定すると出発。思い出にふける間もなく八潮駅に到着すると、そこで大平さんに別れを告げて自宅に向かって走り出した。妙な感動に襲われたのは、自宅のある草加市内に入ってからのこと。これまでサイクルトレインは何度か利用したものの、いずれも到着した駅から自宅までは距離があったため、その先はわざわざ輪行していたのだ。それが今回初めて、一度も輪行することなく遠くに出かけられたことに気づいたのだ。たまたま自宅と発着駅が近かったからなのだけど、サイクリングに適した遠方の地と自宅とがシームレスにつながるという、貴重な体験をすることができたのが今回の一番の収穫であった。

 

サイクルトレインの参加者

サイクルトレインの参加者がそろったところで集合写真を撮影

茨城県から参加したサイクリング仲間

(左から)八潮駅で別れた大澤さん、田沼さん、菊池さん、谷島さんは茨城県から参加のサイクリング仲間

 

TXサイクルトレインを体験した皆さん

いつもは千葉方面まで自走で出かけているという黒川さんは、発着が地元の八潮だったことと、それ自体が面白そうだなと思って初めてサイクルトレインを利用した。

 

黒川さん

発着駅の一つとなる八潮駅の地元、埼玉県八潮市から参加した黒川さん

 

SNSで今回の企画を知った石井さんも、サイクルトレインの利用は初めて。自転車をいじるのも好きで、乗ってきた自転車は中古で買ってカスタマイズしたものだ。通勤で使っているTXに、自転車と共に乗り込むのは新鮮とのこと。

 

石井さん

同じく八潮市にお住まいの石井さんは、つくばエクスプレスを通勤で利用

 

千葉県白石市から参加の髙橋さんは企画を担った京成トラベルサービスの社員だが、仕事とは関係なく参加。「つくばは走る場所に事欠かない地域だから、サイクルトレインの運行はありがたい」と語ってくれた。

 

高橋さん

千葉県白石市から参加の髙橋さんは雨が苦手ということで、到着後はそのまま引き返すとのこと

 

TXの社員である玉澤さんは、自社の車両に自転車を持ち込むことに背徳感を覚えた。それでも手は汚れないし無駄な時間も掛からないと、サイクルトレインのメリットを実感。

 

玉澤さん

ブルベを愛好する玉澤さんは、今夏に開催されるパリ〜ブレスト〜パリに参加する予定