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小林海(マリノ)の体当たりスペインロードレース参戦記 第8回

レース
こんにちは!「小林海の体当たりスペインロードレース参戦記」第8回目の今回は、レースの話はちょっとお休み。チームメイトと暮らす寮での生活のひとコマをご紹介したいと思います。


・4カ国から集まった5人
寮に住むメンバーは、以前紹介したウクライナ人のオレクサンドレ、コロンビア人のハイメとカミロ、アメリカ人のアンドレスと僕の5人。さまざまな国からメンバーが集まっている場合、最初の関門、気になるのはやっぱりコミュニケーション方法。まずはそれぞれがしゃべれる言語、オレクサンドレは英語とイタリア語、ハイメとカミロはスペイン語、アンドレスはコロンビア系アメリカ人なので英語とスペイン語(羨ましい!)、そして僕は日本語とスペイン語。という訳で、生活の基本言語は自ずとスペイン語になる。イタリア語とスペイン語は似ているので、簡単な内容はオレクサンドレも理解できるが、アンドレスが英語で通訳したりして、今のところ特に問題なし。

違う国で生まれ育ち、全く異なる環境で自転車競技をやってきた彼らの話は、とてもおもしろく興味深い。

例えば、「コロンビアでは、トレーニング中に拳銃を持った数人が道路を塞ぎ、自転車や身ぐるみ全てを盗んで行く集団がいる」、というのはハイメから聞いた話だ。当のハイメも、新チームから新しいバイクを貰って帰宅したら、待ち伏せしていた奴に頭に拳銃を突きつけられて全部盗まれた、なんてヤバい話を、家の下にあるバルで美味しいコーヒー(スペインのコーヒーは美味い!)を飲みながらたくさん聞いた。時には、これからの進路について、夜通しみんなで真面目に相談したり議論したりもする。
ポルトガルでのレースの1時間前の僕とハイメ。160kmでずっと雨!今までで1番きついレースだった!


・コロンビアチャンピオンが見た、欧州プロへの道
ハイメは、今年27歳で、昨年まではコロンビアでプロ選手だった。ジュニアの頃から、リゴベルト・ウラン、ジュリアン・アレドンドなど、僕たちが今テレビで観ているコロンビア選手たちと共にコロンビア代表としてたくさんの国際レースに出場。U23時代にはコロンビアチャンピオンになり、中南米のレースで数々の勝利を上げたコロンビア黄金世代の一人で、そのキャリアからすれば、今頃グランツールを走っていてもおかしくない選手だ。しかし、ケガなどで渡欧のタイミング逃し、運を掴めずにコロンビアに留まってしまった。そんな彼がなぜ今年スペインのアマチュアチームで走っているのかというと、ヨーロッパでプロになるという夢をもう一度追いかけ、実現させたいからだ。スペインやポルトガルのレースで好成績をあげて、ヨーロッパのプロチームと契約獲得を目指している。

4月にスペインに来て、早くもコンチネンタルチームから即戦力として声がかかったが、条件がかなり悪いため、みんなに相談をもちかけてきた。条件は悪くても上に行くための踏み台として契約するべきか否か。しかし、それではスペインで生活ができない。今いるうちのチームの方が条件はいい。

「ヨーロッパのプロの方がコロンビアよりずっといいと思ってこっちに来たけど、全然よくないじゃないか。輝いて見えるのは最上層の世界だけで、その下は南米より悪い状況だよ」彼が言った忘れられない言葉だ。結局、今回の話を見送った彼は、つい先日のステージレースでも山岳賞を獲得するなど好成績を連発して次のチャンスを待っている。
抜群の登坂力で山岳賞を獲得したハイメ。日本のヒルクライムレースで見てみたい気もちょっぴり
・見え始めた“裏側”
単身スペインに渡り、現地のチームに所属し、こちらの自転車界に身を置いたからこそ身近になったプロの報酬やドーピング問題がある。無邪気に走っていた頃とは違い、多少なりとも強くなり、ステージが上がるにつれてグレーや黒いものを見る事になるんだろうなあと、最近はよく思う。

レース後「あいつ絶対俺らと同じ物食ってないよなあ」なんて話が選手間で交わされることも珍しくない。スペインのアマチュア自転車界では、すべてのレースでドーピング検査が行われるわけではなく、検査のある所とない所でリザルトが変わってくるのも事実だ。そんな現状で一番クリーンな場所は、やはりバスク地方だと思う。レース後に優勝者に検査があるのはもちろん、成績がいきなり上がった選手など、疑いのある選手は検査対象になる。今まで疑惑を噂されていたトップアマ選手たちが、バスクでのレース後の検査で陽性が出たことがあったため、そういった選手たちは、バスクでのレースを避けている、という話を聞くし、その他の検査が行なわれるステージレースやシリーズ戦も出場せず、検査をかいくぐっているという現状があるようだ。

色々な選手たちからキャリアについて話を聞く機会が多々あるが、報酬やドーピングは必ず話題にのぼる。選手たちは、これらの問題を含めて常に選択の連続であり、その時々に、的確な選択をできるか否かが、上のクラスに行く選手の仲間入りができるかどうかのカギになると思う。強く、速く走れるのは大前提だが、強い選手など掃いて捨てるほど存在し、その中のほんの一握りだけが上に行けるのだ。これまで、強いのに上がれなかったたくさんの選手たちを目の当たりにしてきて思うのは、彼らに共通するのは、選択ミスから始まるタイミングの悪さ、運の悪さの悪循環。いい方向に選択し、いいタイミングを図れば運も掴めるという気がする。
 レース中補給食を食べる僕

・シーズン中盤以降に必要なこと
シーズンは、早くも序盤が終わり中盤に差し掛かる。序盤は、あと少しの所で好成績を逃して来た。身体的にはいい結果をしっかり出せるレベルに来ていると実感している。レース中に強いチームメイトの動きを間近にし、正解に近い動きを見て来たので、シーズン中盤では思い切りのよい、正しい選択をして好成績につなげたい。

そして、気が早いかもしれないが、夏には少しずつ来季のことも考えて行かなくちゃならないのも現実だ。結果を出すのがまず第一だが、自分の進路の選択もとても大切だ。そこで、チーム探しをする時に僕がとても大事にしているのが、サッカー選手のジダンが言ったこの言葉。

「選手として成功を収めるためには、 ベストのタイミングでベストの場所にいる、このチャンスをつかむ必要がある」

自分の身の丈に合っていないチームに入れる話もあったが、この言葉を大事にして、今の所は正しい選択をしてきていると思う。

 
先日のステージレース。VOLTA CICLISTA CORÑAでの選手紹介
 
書いて いるうちに、想定外に段々堅苦しい話になってしまった。チームメイトとの生活に話しを戻すと、今回の話題の中心ハイメ。ハイメの弟分で今期プロ入りに賭けるカミロ。映画大好きのカミロにはよく誘われて映画館に行くが、帰りにバスのストライキにあって、とぼとぼと歩いて家に帰ったなんてこともあった。3月のステージレースでひどい骨折をしてもめげずに超前向きなオレクサンドレ。レース出場のためアメリカに一時帰国中のアンドレス。毎日が文化交流みたいな彼らとの寮生活は、結構うまくいっているし、色々と勉強をさせてもらっている。

次回も旬の話題を書けるよう、記事の予告はしないでおきます。よろしくお願いします!