安井行生のロードバイク徹底評論第9回 TREK MADONE vol.7

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安井トレック・マドン7

第9回で俎上に載せるのは、デビューから2年が経つトレックのマドンである。安井がOCLV700のマドンRSLとOCLV600のマドン9.2という2台と数日間を共にし、見て考えたこと・乗って感じたことを子細にお届けする。全8回、計1万6000文字。渾身のマドン評論。vol.7。

 

ハンドリング、制動性能、快適性

安井トレック・マドン7

フォークの剛性バランスもブレーキ一体型のエアロブレードとは思えないほどいい。こういうフォークはヘニャヘニャか、そうなることを避けようとガチガチになることが多いものだが、マドンのフォークは極めてニュートラル。左右方向(ハンドリング)も前後方向(ブレーキング)も超絶ナチュラルである。

そう、悔しいことに制動性能にも文句が付けられなかった。マドンの専用ブレーキは極々マトモだったのだ。さすがにデュラエースレベルには達してはいないが、最近の105~アルテグラくらいの完成度には到達している(=かなりの絶賛)。アルミの鋳造品や切削品がいくつも寄り集まって複雑怪奇な構造をしているこの専用ブレーキは、絶対的な制動力はもとより、コントロール性も非常に高い。なにより、ブレーキレバーを引くフィーリングがいい。抵抗感は少なく、レバーの戻りもクリア。腕のいいメカニックが組み、ちゃんとメンテナンスをしていれば、先述の通りアルテグラとさほど変わらぬ感覚で使えるだろう。これは結構すごいことだと思う。
 
エアロロードブームに乗ったロードバイクメーカー各社は、一時は専用パーツてんこ盛りの方向に行きかけた。しかし今まで、空力のためにブレーキキャリパーをフレームに埋め込んだものにロクなものがなかった。はっきりゴミと言いたくなるものも多かった。限られたシチュエーションでしか走らないTT専用車なら、多少ハンドリングに難があってもブレーキがプアでもいいだろう。しかしどんな状況でも誰が乗っても安全に操作できなければならないロードバイクがそれでは困る。

暴走しかけたところでそれに気付いた各メーカーは現在、エアロ特化をやや鈍らせ、チューブ形状で高い空力性能を維持しつつ、ノーマルブレーキを使って使い勝手を落とさない方向に舵を切りつつある。ドグマも795ライトもフォイルも、そういう“最適化された”エアロロードである。しかしトレックの解は違った。ならばちゃんと効く専用ブレーキを作ればいいじゃないか。そう判断したのだ。パーツまで自社開発できるトレックならではのパワープレイである。
 
快適性も悪くないのだから書き手としては本当に嫌になる。シートチューブを二重にするというIsoスピードの設計がスマートだとは思えないが(主観的印象)、その効果は認めざるを得ない。

エアロロードとして、どこもかしこも頭一つ抜けている。マドンの狂気1~3は、机上論でもハッタリでもなく、現実世界できっちり仕事をしているのである。その結果、新型マドンは、ただエアロなだけ、ただよく走るだけ、ただ快適なだけでは飽き足りない異次元に達している。悔しいが、OCLV700のRSLに関してはそう評価せざるを得ない。某メーカーのエアロロードは選手が嫌がって乗らないというのがもっぱらの噂だが(あくまでウワサ)、このマドンは選手が喜んで乗っているらしい。よっぽどの山岳ステージでない限り、上りでもマドンを選ぶ選手も多いという。それも納得の万能性だ。

 

ブレーキキャリパーの完成度

安井トレック・マドン7

その後、この連載用の撮影も兼ねてOCLV600のマドン9.2にも乗った。しかしこのマドン9.2の試乗でつまずいた。

2017モデルのマドン9.2(アルテグラ完成車)に付属するホイールは、オーラ5というアルミリムにカーボンのカウルを張り付けた重量級ホイールである。さすがにこのホイールでトータルの評価を下すのは酷だと思い、私物のレーシングゼロに交換した。

ナローリムなのでブレーキ調整が必要だったのだが、いくら調整してもブレーキのフィーリングがよくない。リヤブレーキの引き代を調整したあと、どんなに頑張ってもセッティングが決まらないのだ。

ダウンロードしたマニュアルと首っ引きでいくら調整を試みても、左右ブレーキアームの引き代が均等にならない。2時間ほど格闘したのち、全バラしてみて原因が分かった。ブレーキのアーチを外側に引っ張っている棒バネが、片方だけ所定の位置に収まっておらず、センター調整ボルトがその棒バネに接していなかったのだ。
 
フロントブレーキもおかしかった。使えはするものの、フィーリングがどうにもスッキリせず、左右のアーチの作動量に差がある。こちらも分解してみると、ワイヤによって引っ張られるチドリが片方のローラーに当たらず、そのローラーを押さえているワッシャーに当たっていた(何度も無理な力がかかったワッシャーは変形していた)。

フロントは組み付け時のミス、リヤは設計そのものが原因だろう。修理を依頼したコンセプトストアに聞くと、初期不良として何件か同じようなケースが出たらしい。専用設計のパーツはこのような欠点を抱えていることもある。

とはいえ、現在は改良されているとのことだし、この類の専用ブレーキの中でマドンのブレーキキャリパーは出色の出来だといえる。シューの交換は容易だし、引き代やセンター調整も覚えてしまえば比較的簡単だ。おそらく史上最高のエアロロード専用ブレーキだろう。
 

安井行生のロードバイク徹底評論第9回 TREK MADONE vol.8へ続く 

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