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全日本シクロクロス選手権2016 詳報!エリート男子は沢田が優勝

12月11日(日)、栃木県宇都宮市道の駅うつのみやろまんちっく村内の特設コースにて第22回全日本シクロクロス選手権大会が開催された。最低気温-2度まで下がった早朝、霜が降りた地面が太陽の光を浴びてキラキラと反射する。これが選手たちを悩ませる原因であった。昨日同じ場所で開催されたJCX選手権の後、選手たちは試走を行った。しかし、当日は快晴にもかかわらず暖かく降り注ぐ日差しによって土の上の霜が溶けて滑りやすい泥状となり、試走時とは全くコンディションが変わってしまった。当日の試走時間にも、多くの選手が滑りやすいセクションを念入りに確認していた。
 
text:滝沢佳奈子 photo:岩崎竜太

『2』づくしのエリート男子、沢田がカテゴリーを移して初年度でタイトル獲得

最初にゴールラインを切り、バイクにキスをする沢田
最初にゴールラインを切り、バイクにキスをする沢田

「今日は(沢田)時が一番強かった。」こう振り返るのは小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)。毎年惜しくも表彰台の一番高いところまであと一歩届かない小坂はこの全日本に向けて調子を合わせてきたというが、今回のレースに関して『力負け』と評した。完全ホームでのレースということで地元宇都宮ブリッツェンの大応援団が赤い旗を掲げ、小坂にひときわ大きい声援を送るなかでスタートした男子エリートカテゴリー。午後1時50分のオンタイムにスタートを切ったのは64人であった。

 
先頭でスタートを待つ男子エリートの出走者たち
先頭でスタートを待つ男子エリートの出走者たち
ホールショットを取ったのは勢い良く飛び出した竹之内悠
ホールショットを取ったのは勢い良く飛び出した竹之内悠


ホールショットを前年度覇者の竹之内悠(東洋フレーム)が取ると、小坂、沢田時(ブリヂストンアンカー)、武井亨介(チーム・フォルツァ)、前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)が続く。1回目のフィニッシュアーチをくぐったあと、林区間に入るとペースが上がりきらない竹之内に代わって小坂が先頭に立つ。1周目後半、バックストレートで沢田がペースアップを仕掛ける。

ペースアップについていけず振り落とされてしまった竹之内はマイペースを刻みながら着実にバイクを前に進めていく。先頭のラップタイムは7分40秒をマークし、レースは8周回とアナウンスされた。先頭4人がパックとなって走行するが、2周回目後半にあるキャンバー区間にて、一番前を走る沢田のすぐうしろを走っていた小坂がバランスを崩してしまう。この小さなミスによって沢田に数秒与えることに。

「キャンバーでミスというか間を空けられて、それを詰めようと思って途中ペース上げたんですけど、それでもいっぱいいっぱいで」と小坂。一方、沢田は「数秒空いてれば絶対有利なので。先頭を走ってる限りは大丈夫だと思った」と話した。その後武井も遅れ、小坂と前田がパックで沢田を追う。

 
ファーストラップで飛び出したのは5人でキャンバー区間へ向かう
ファーストラップで飛び出したのは5人でキャンバー区間へ向かう
1周目後半のキャンバー区間で間を空け、バックストレートで差をつけた沢田が独走を開始する
1周目後半のキャンバー区間で間を空け、バックストレートで差をつけた沢田が独走を開始する
小坂もうしろに見える前田とともに前を追う
小坂もうしろに見える前田とともに前を追う
小坂と前田の攻防も続く
小坂と前田の攻防も続く


3周目以降もこの位置関係は変わらず、沢田と後ろ2人との差は10秒前後で推移する。「差が開いたセクションを毎周乗れれば、多分3周目にはレースを決められた。ラスト2周くらいまでは(誰が勝つか)分からない展開だったんでそこはちょっと甘かったかなと。」こう振り返る沢田は、勝てる雰囲気に持ち込めていることを観客の様子で察知していたという。観客を味方にできることも彼の強さの一つなのだろう。

小坂が前田よりも少し先行していたが、残り3周目の後半、前田が小坂に追いつく。「山の中のバンクの続くコーナーは絶対自分のほうが速い自信があった」と話す前田は、山の中の区間で差をつけてそのまま行くことを決めていた。MTBのシリーズ戦でもおなじみの沢田や前田が山の中の区間を抜けるスムーズさには目を見張るものがある。まるで何も障害物がないかのように1本のラインを導き出し、ヒラリとコーナーを抜けていく。

思惑どおり前田は小坂を引き離し、独走を始めた。前で走る沢田とのタイム差はおよそ30秒。「20秒以上離れた時点で勝てると確信した」と最終周回、笑みを浮かべながら走る沢田。最後のコーナーに差し掛かる前に、ジャージのジッパーをきっちりと上まで閉めた。第22回の全日本シクロクロス選手権大会、完走者22人のなかでゼッケン番号2番、22歳の沢田が1時間2分22秒でゴールラインを切ると、バイクを持ち上げてキスをした。

 
最後尾からスタートしたブリヂストンアンカーの鈴木龍はゴールまでになんと約50人を抜いて16位に
最後尾からスタートしたブリヂストンアンカーの鈴木龍はゴールまでになんと約50人を抜いて16位に
毎ラップ7分40秒ほどで安定的に走りきった沢田が笑みを浮かべながら最終周回をこなす
毎ラップ7分40秒ほどで安定的に走りきった沢田が笑みを浮かべながら最終周回をこなす
山の中で小坂と差をつけた前田も諦めず最後に踏みにかかる
山の中で小坂と差をつけた前田も諦めず最後に踏みにかかる
大応援団に見守られながらうなだれてゴールする小坂
大応援団に見守られながらうなだれてゴールする小坂


34秒差の2位で終えた前田は「全日本選手権なんで優勝目指していったんですけど、自分の中で悔いの残る走りではなかったです。今シーズン前半に不調で走れなくてすごく辛いシーズンだったので、負けて悔しいですけどスッキリもしてます。自分の思うような走りができたという面では納得もしています。来年はあと一つ上げて、優勝したいと思います」と清々しい表情で語った。たくさんの声援を受け、3位に入った小坂は「本当に時おめでとうって感じですね。勝たないと意味がないレースだと思ってるのでやっぱり3位は悔しいです。また諦めずに1年頑張ります。」と満足した様子ながら沸々と煮えたぎる情熱が垣間見えた。

ナショナルチャンピオンというビッグタイトルを手にした沢田は感想を聞かれると、
「本当に嬉しいです。日本チャンプになるってことは終わってから嬉しいことがたくさん待ってるので、徐々に実感が湧いてくると思うんですけど、今日はすごくいいレースができたことに満足しています。」とニカッと笑った。

また、今シーズン始まる前にエリート1年目でシクロクロス全日本を獲ると宣言していた沢田。有言実行してどんな気持ちだったのだろうか。
「小学生から、この競技始めた頃からエリートで勝つっていうのは目標だったんで、ようやくこの時が来たという感じですごくワクワクしていました。シーズン始まってからもいいレースができていたんで、自信はありましたし、本当に思いどおりの走りができて良かったです。」と話した。

今後の目標については、「来月の世界選手権に選んでいただけると思うので、まずはそこに。エリート1年目なので、どのあたりで走れるかわからないですけど、自己最強の状態で臨めるように休息もしっかり取りながら、調子を合わせていきたいと思います。」と語った。

世界で闘うということについてどのように考えているかを聞くと、「世界のレベルはまだ走っていないので全然わからないですが、厳しいとは思いますけど、まだまだ成長できると思っているので上を見ていきたいと思います。」と、まるでよどみのないワクワクした少年のようなまっすぐな目をした。来年はMTBでもエリートカテゴリーでの参戦となる。世界で闘う沢田時の姿が見られるのを楽しみにしていきたい。

 
シーズン中盤の鎖骨骨折により、MTBのU23全日本連覇の座は逃したものの、シクロクロスのエリート初年度での全日本チャンプのタイトルを獲得した沢田
シーズン中盤の鎖骨骨折により、MTBのU23全日本連覇の座は逃したものの、シクロクロスのエリート初年度での全日本チャンプのタイトルを獲得した沢田


男子エリートリザルト
1位 沢田 時(ブリヂストン アンカー) 1時間2分22秒
2位 前田 公平(弱虫ペダルサイクリングチーム) +34秒
3位 小坂 光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム) +40秒
4位 竹之内 悠(東洋フレーム) +1分42秒
5位 武井 亨介(チーム・フォルツァ) +2分18秒
 

エリート女子は、マキノ・野辺山に続く坂口の圧巻の勝利

12時半、坂口聖香(パナソニックレディース)のホールショットからスタートした女子エリートも白熱した闘いが巻き起こった。スタートを切ったのは27人。先月のマキノや野辺山で圧勝した坂口の一人舞台を多くの人が予想したであろう。結果として、坂口の優勝というリザルトだけを見ればその予想は正しいかもしれない。しかし、凝縮された40分間にはリザルトだけでは語ることができない、選手とそして観客とが生み出したドラマがあった。

1周目、坂口が先頭を引っ張り、それについて行ったのは、野辺山でも表彰台に上った武田和佳(リブ)と今井美穂(サイクルクラブ.jp)。1周目後半に設置されたキャンバー区間を3人はパックになって進んでいく。先頭の坂口がバイクを降りた状態で進んだ区間を、うしろにいた今井は乗車で越えようとする。しかし、タイヤを取られ、ずりずりと落ちていく。今井はバイクがコーステープに引っかかってしまい、復帰する間に坂口と武田に数秒のタイム差を空けられてしまう。

「一つのセクションにこだわるんじゃなくて、一周をつなげるように走ることを考えたら割り切るのがやっぱり選択としてはいいと思うので、割り切って、切り替えて走っていました。」と話す坂口。レース運びを見る限り、非常に冷静に乗車・降車の切り替えを見極めていたように思えたが実際のところはまったく落ち着けなかったという。「冷静さもなかった。プレッシャーもあったんだと思います。心と体がバラバラだった」と振り返る。2周目のラップタイムは8分43秒。5周回で争われることが決まった。

 
坂口がホールショットを取り、うしろに続く
坂口がホールショットを取り、うしろに続く
レース序盤、先頭は坂口、武田、今井がパックで進む
レース序盤、先頭は坂口、武田、今井がパックで進む
多くの観客が連なる前でシケインをこなす武田
多くの観客が連なる前でシケインをこなす武田
坂口と武田が抜け出し、声援を受けながら攻防を繰り広げる
坂口と武田が抜け出し、声援を受けながら攻防を繰り広げる


レース中盤、今井は山の中の区間にあるキャンバーでも再びバランスを崩し、さらにはチェーンが落ちてしまう。その隙に與那嶺恵理 (フォルツァ・ヨネックス)が今井をパスする。今井の集中の糸が一瞬途切れてしまったようにも見えたが、次の周回では集中し直し、まだまだ諦めていないというような表情を見せていた。気持ちの上で勝つこと、これはフィジカルにも大きく影響してくる。

先頭では十数秒差での坂口と武田のつばぜり合いが続く。コース後半部の全体が見渡せる場所には、観客が大勢集まり、声援を送る。「聖香ーーー!!!!」、「和佳~~!!!」とほぼ同数で聞こえてくる。一方では武田がコーナーで少し差を詰めると「追いつけー!」と歓声が上がり、もう一方で坂口が乗車で踏みに入ると「行けー!」と激励が飛ぶ。観客の「このまま振り切れ!負けるな!まだ行ける!」という気持ちが込められた全力の声援と選手の「勝ちたい!絶対追いついてやる!」という思いがシンクロし、選手たちの表情を見ていると、まるで声援の一つひとつが力に変わっていっているようにすら思えた。

 
山の中にあるキャンバー区間でもコーステープに自転車が引っかかってしまう今井
山の中にあるキャンバー区間でもコーステープに自転車が引っかかってしまう今井
うしろから冷静に今井の背中をとらえる與那嶺
うしろから冷静に今井の背中をとらえる與那嶺
最終周回、うしろと30秒ほどの差で砂セクションを終え、少し安心した表情を見せる
最終周回、うしろと30秒ほどの差で砂セクションを終え、少し安心した表情を見せる


最終周回、坂口と武田との差は15秒。フライオーバーを越え、砂区間を抜けると勝利を確信した様子の坂口は少しほっとした表情を浮かべていた。日本チャンピオンの姿を一目見ようとホームストレートへ詰め掛けた観客に見守られながら最後のフィニッシュアーチへ向かう坂口。連覇を讃える温かい拍手に包まれながら控えめに、しかししっかりとこぶしを握り締めて両腕を掲げた。

レースを終えた坂口は、連覇を成し遂げ、さぞ満足したコメントをするかと思いきや想像していたよりも遥かに高い意識を持って走っていた。
「結果1位で終わることができてほっとしていますが、今日の走りは今までのレースとしては一番ダメだったんじゃないかと思っています。各セクションで自分は力を入れすぎたのかなと思います。緊張して力が入りすぎていたのでうまく対処できていない感じでした。」と、勝利を収めたにも関わらず、納得のいっていない様子であった。

とは言っても2位と十分な差をつけての独走での勝利。勝負が決まったと思う瞬間はあったか聞くと、
「ずっと息継ぎができない状況でレースが終わったので、苦しかったし決まったという瞬間は自分でも余裕が持てなかった」と話した。来季、オランダのロードチームに所属する坂口。「まだまだだと思うので、力もテクニック面もレベルアップしていきたいと思います。」とストイックな一面を見せた。見つめる先は世界だ。

 
晴れやかな笑顔でインタビューに答える坂口
晴れやかな笑顔でインタビューに答える坂口


女子エリートリザルト
1位 坂口 聖香(パナソニックレディース) 45分43秒
2位 武田 和佳(リブ) +38秒
3位 與那嶺 恵理 (フォルツァ・ヨネックス) +2分22秒
4位 今井 美穂(サイクルクラブ.jp) +2分48秒
5位 唐見 実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム) +3分25秒
 

男子U23は横山航太が2年ぶりに優勝

(男子U23)冷静に織田の様子も見極めた横山が勝負どころを逃さず勝利。2年ぶりのU23のタイトルを獲得した
(男子U23)冷静に織田の様子も見極めた横山が勝負どころを逃さず勝利。2年ぶりのU23のタイトルを獲得した
(男子U23)ホールショットを取ったのは、メリダミヤタバイキングチームの竹内遼
(男子U23)ホールショットを取ったのは、メリダミヤタバイキングチームの竹内遼
(男子U23)要所要所で織田がアタックを仕掛けるが冷静に淡々とペースを刻んでいく横山が強さを見せた
(男子U23)要所要所で織田がアタックを仕掛けるが冷静に淡々とペースを刻んでいく横山が強さを見せた

男子U23リザルト
1位 横山 航太(シマノレーシング) 51分9秒
2位 織田 聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) +7秒
3位 日野 竜嘉(ボンシャンス) +4分49秒
4位 加藤 健悟(臼杵レーシング) +5分9秒
5位 藤田 拓海(スネルシクロクロスチーム) +5分9秒

【速報】全日本シクロクロス選手権 男子U23チャンピオンは横山!
http://www.cyclesports.jp/depot/detail/73092
 

男子ジュニアは日野泰静が優勝

(男子ジュニア)圧倒的な強さを見せつけてのゴールを切った日野
(男子ジュニア)圧倒的な強さを見せつけてのゴールを切った日野
(男子ジュニア)13人が出走した男子ジュニアのスタートダッシュ
(男子ジュニア)13人が出走した男子ジュニアのスタートダッシュ
(男子ジュニア)1周目からおよそ30秒のタイム差をつける日野。序盤は後ろの江越もついていく
(男子ジュニア)1周目からおよそ30秒のタイム差をつける日野。序盤は後ろの江越もついていく

男子ジュニアリザルト
1位 日野 泰静 (松山城南高校) 43分13秒
2位 村上 功太郎 (松山工業高校) +38秒
3位 江越 海玖也 (横浜高校自転車競技部) +1分22秒
4位 積田 連(チームガノーチェーンリング) +3分39秒
5位 梶 鉄輝(伊丹市立伊丹高校) +3分47秒

【速報】全日本シクロクロス選手権 男子ジュニアチャンピオンは日野!
http://www.cyclesports.jp/depot/detail/73088
 

来年の全日本シクロクロスの開催地は野辺山に決定

2017年、第23回全日本シクロクロス選手権大会はRaphaスーパークロスでおなじみの野辺山で開催されると発表された。今回の宇都宮よりもアクセスのしやすさは劣るものの、抜群の見ごたえは約束されているようなものだ。

今シーズンのシクロクロスはまだ中盤戦。ロードレースよりも遅い速度で選手たちが何度も通り過ぎるシクロクロスは、見るだけでも非常に楽しめる。どれだけ差がついても諦めない姿勢・表情を目の当たりにすると感動を覚え、応援したくなる。ぜひ観戦に出かけてその魅力を感じ取ってみてほしい。