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安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.3

近年稀に見る名作と称されたキャノンデール・スーパーシックスエボハイモッドが、4年ぶりにフルモデルチェンジ。その進化の方向性とは。さらなる軽量化か、空力性能向上か、それとも― 
ザルツブルグにて開催されたワールドローンチに参加して技術者にたっぷりと話を聞いた安井が、旧モデルとの比較もふまえて新型エボの全てをお伝えするvol.3。


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text:安井行生 photo:キャノンデール、安井行生

エンジニアの苦労がにじみ出る


設計の変化をざっくりとまとめれば、剛性を上げ、快適性を上げ、一応空力性能も考慮しました、ということである。当然、剛性アップも快適性アップも空力性能向上も素材が増える(重くなる)方向の変化であり、新型エボのフレーム重量は、世界最軽量695gという華々しいキャッチコピーでデビューした前作に比べて80gほど重くなり、777gとなった(695gという衝撃的な重量だった先代エボだが、カタログ値はいつの間にか760gになっていた。695gという数字は「塗装済みフレーム(アルティメイトカラー/サイズ56)の実測」だったはずなのだが……まぁ色々と事情があるのだろう)。
しかしプレゼンでは、フォーク、ヘッドセット、シートポストを含めたシステム重量では前作比で67gの軽量化を達成しているとしつこいほど繰り返していた(1370g→1303g)。剛性と空力性能と快適性を上げたその結果、フレームは数十グラム重くなったが、それをひっくり返すべくフォークやシートポストを必死に軽くした、というわけだ。
 
数十グラム程度の重量の増減が走行性能に影響するとは思えないし、TAPとやらの中途半端なチューブ形状が我々一般ライダーの常用速度域で目覚ましい効果を生むとも思えないが、「モデルチェンジしたのに重くなった」「今の時代に全然エアロじゃない」では、マーケットが納得しないのだろうか。エンジニア諸氏も大変である。
 
チューブ形状やカーボンの積層をフレームサイズごとに最適化するサイズ・スペシフィック・コンストラクションも前作に引き続き採用、最小サイズから最大サイズまで乗車感を統一することには細心の注意を払ったという。例えばリヤ三角の作り。全フレームサイズでチェーンステーの形状を共通とし、チェーンステーとシートステーをエンド部で接着するブランドが多いなか、キャノンデールはシートステー~エンド~チェーンステーをワンピースで成形する。要するにリヤ三角の金型をサイズごとに用意したことになる(8サイズ×左右2つ=合計16個)。金型にコストをかけてまで乗車感の統一に気を配ったというわけだ。
 

仮想世界の速さに意味はない


最近のロードフレームにしては珍しく、新型エボはシフトケーブルがダウンチューブ内蔵されない(リヤブレーキケーブルはトップチューブに内蔵)。シフトケーブル2本をダウンチューブの中に隠しても空力性能がほとんど変化しないことを実験で確認したからだという。内装でも外装でも変わらないならメンテナンス性を重視して外にしたほうがいいという判断だ。真意のほどは分からないが、イジりやすさを考えれば個人的には歓迎である。
ここまでやるなら、いっそのことリヤブレーキのワイヤも外装にしてほしかった。ヘッド前面からワイヤを入れると、アウターにハンドルが押されてハンドリングが地に落ちる。
 
さて、新型エボの全容が見えてきたところで、市場における立ち位置を透視してみよう。現在、ビッグブランドの多くが力を入れているのはもちろん絶賛大流行中の空力性能である。マドンもヴェンジもフォイルも795もエアロエアロエアロである。エアロにするなら重くなっても市場は許してくれる。
一方、キャノンデールはエアロロードには興味を示さない。その理由は前述した通り「単科目突出型より全科目万能型のほうが結果的に速いから」である。様々な状況の中を走るうえで重要なのはバランスであり、どれか一つの性能が突出していても意味がない、というわけだ。個人的にその意見には大賛成である。

 
実世界で役に立たないエアロや気持ちよく走ることを邪魔するエアロなど百害あって一利なし。仮想世界での速さに意味はない。全てを空力に捧げた専用ハンドルをライダーに押し付けるフレームもあるが、ロードレーサーにとってライディング環境は何より重要だ。自分に合ったサドルとハンドルが使えて、ちゃんとポジションが出ること。ストレスなく操舵・制動・変速の各操作ができ、気持ちよく走れること。それは加速や快適性より優先されるべき項目であり、ましてや空力のために犠牲になるなどということはあってはならない。
 
しかし専用ハンドルがないと組めないマドンやヴェンジを罵倒はできない。それらを作るトレックやスペシャライズドは空力一本で闘っているわけではなく、オールラウンドモデルやエンデュランスロードをラインナップしたうえでのエアロであり、「エアロが嫌なら万能タイプをどうぞ」と言えるラインナップを敷いているからだ。
しかしキャノンデールは他のビッグメーカーのようにコンペティティブロード、エアロロード、エンデュランスロードという三本柱を用意しない。シナプスとスーパーシックスの二本勝負。キャノンデールだって、もしできることならエアロロードをラインナップしたいと思っているかもしれない。しかし現状では、エアロロードに開発リソースを割いて中途半端なものになるくらいなら、コンペティティブロードに絞ったほうがいい。二兎を追う者は一兎をも得ず。そういう判断だろう。
 
要するに、キャノンデールはこの時代に、新型スーパーシックスエボを王道中の王道である“ザ・ロードレーサー”として作ったのだ。潔い勝負である。


安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.4