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NIPPO・ヴィーニファンティーニの大門監督にインタビュー【山本元喜のジロ編】

日本とイタリアがタッグを組んだUCIプロコンチネンタルチームのNIPPO・ヴィーニファンティーニが、今年もツアー・オブ・ジャパンに参戦している。

開幕前夜、チームを率いる大門宏監督にインタビューし、ジロ・デ・イタリアに初参加した山本元喜について語ってもらった

 

ジロに初出場した山本元喜について大門監督にインタビュー

 
5月28日、NIPPO・ヴィーニファンティーニの大門宏監督がイタリアから帰国し、大阪の堺で開幕するツアー・オブ・ジャパン(アジアツアー2.1)に合流したとき、ジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)は、ゴールのトリノまで残り2ステージだった。

今年のジロには山本元喜が日本人として唯一参加し、開幕前に目標として掲げていた『完走』はもう目前だった。昨年は石橋学が初参加したが、第9ステージの途中でリタイアという結果に終っていただけに、日本中のレースファンが山本元喜に注目していた。

ツアー・オブ・ジャパンの開幕前日、まだジロ参戦中だった山本元喜について大門監督から話を聞いた。

Q:ジロが始まる前の暫定リストでは、日本チャンピオンの窪木一茂がメンバーに入っていたが、山本元喜に変更した理由は?

NIPPO・ヴィーニファンティーニの今年のジロ参加メンバー。山本元喜は唯一の日本人選手だった                              
NIPPO・ヴィーニファンティーニの今年のジロ参加メンバー。山本元喜は唯一の日本人選手だった                              
「窪木がジロのメンバーから外れたのは、チームにケガ人が多かったから。最初は窪木を走らせて、1週間か10日くらいで止めさせようと思っていた。

でもケガ人が多い中で、10日間でいいから窪木を、というほどの余裕がチームにはなくなってしまった。そうじゃなければ、山本元喜と窪木の2人を使っていたと思う」

「グレガ・ボレもケガをして、ジロに参加してはいるが全然成績はない。本人もジロなんかに行ってもしょうがないと思っただろうが、チームが無理矢理彼を連れて行った。チームとしては、成績は出さなくてもいいから、練習のつもりで前半を走って、どこかで狙えるステージがあればというつもりだった。しかし、そんなに簡単ではなかった」

「それが逆に、元喜にはよかった。グレガも余裕があって、毎日調整で走っているから、元喜にもアドバイスしてくれる。グレガがジロに挑戦しに来ていて、ピリピリしていたら、そこまでの余裕はなかったと思う。その場合は、前で走っていただろうし。今回は彼も割りきって走っていて、ずっとグルペットしていた」

「グレガがいなかったら、元喜もうまく走れていなかっただろう。力のバランス配分が難しかったと思う。21日間のレースでは、どんどん疲れていくというわけではない。最初エネルギーが満タンで、だんだんなくなるものだろうと思うだろうが、ちがう。どこかで手を抜きながら走っている。最初から21日間を想定して走らなければ無理なので、そういうところをグレガから教わったと思う」

「たとえば、ここで無理をして付いて行かなくても一緒に千切れればいいとか、時計を見ながら千切れればいいとか。普通はそんなことを誰かがアドバイスしてはくれない。とくに元喜は日本人だから、とにかく付いて行く、なんて走りをしていたら、今回見せたような走りは絶対できていなかったと思う。グレガのおかげだ」
 
 
ジロ第3ステージのスタート前。右が山本にいろいろなアドバイスしてくれたベテランのグレガ・ボレ 
ジロ第3ステージのスタート前。右が山本にいろいろなアドバイスしてくれたベテランのグレガ・ボレ 

Q:山本元喜は目標としていた完走ができそう?

「完走と言うか、まずは21日間走ることが大事。そうしないと次に進むことはできない」

「選手を長くやっていれば、ジロを途中でリタイアすることもある。どこかのステージでがんばって10位くらいに入ってリタイアした方が、チームのためになるとか、いろいろなことがある。別に最後まで走ればいいというものではない」

「ただ、元喜の場合は、今回は初めてのジロで、まずは21日間走り切るということが大事だったわけだ」

「ジロに出た、と言っても、まずは21日間走り切らないことにはステージレースはわからない。21日間走って、初めてジロはどうだったかと語ることができるものだ」

「21日間走れば、それがどんな走りであったとしても、最終ステージはこんな風にスタートしたとか、リーダージャージはあの時、こんなところにいたとか、すべて振り返ることができる」

「ジロはリタイアしたら、その日からホテル代は自分で払わなければならない。レースに参加しないヤツは、チームと一緒にいる資格はないと言っているようなもので、それは当然だと思う」

「今年のジロでジャコモ・ベルラートはすごく頑張っていたが、ちょっとしたハンガーノックが原因でリタイアしてしまった。でも、彼はダミアーノ・クネゴの山岳ジャージにはすごく貢献したと思う。彼は去年のジロですでに21日間走っていた」

「運もあるし、落車だってあるから、そう簡単に最後まで走れるものではない。どんなに強い選手だって、途中で止めることもある。「僕は21日間走ります」ということを目標にして、それを達成できることは、選手をやっていてもそんなには多くはないと思う」

「3年経って元喜がベテランになり、そんなことを目標にしていたら笑われてしまう。元喜はまだ若くて初参加だったから、21日間走ることが大事だった」

「それは日本人みんなが思っている『完走』とは、ちょっと違う感覚だ。ただ完走すればいい、というのとは違う。21日間走って、それが次につながる、というものだ」

「次は元喜も、リタイア覚悟で引けと言われることもあるだろう。そう言われたら従うしかない。でも、今回彼は初出場だし、クネゴがチームの絶対的なエースだとは言え、彼が犠牲になるような環境は他にはない。元喜と同じレベルの選手もいるし、弱いレベルの選手もいる」

「こういうフォーメーションのチームにいられるから、元喜もそういう目標を公言できる。なぜなら、彼にはクネゴのアシストを最後まではできない。必死になってアシストしていたベルラートのような選手は、やはりリタイアしている」

「元喜には上りでベルラートのようには走れない。ああいう逃げはできない。本人も頑張ってはいるが、そういう意味で、彼はすごく環境的に恵まれている」
 
オランダのステージでも連日逃げていたベルラートはTVインタビューも受けていた           
オランダのステージでも連日逃げていたベルラートはTVインタビューも受けていた           
ゴール後にベルラートの働きぶりをねぎらうスタッフとグレガ・ボレ
ゴール後にベルラートの働きぶりをねぎらうスタッフとグレガ・ボレ

ただ『完走』するのではなく、21日間走ることの大切さ

「ジロでは、TVでは観られないようないろいろな動きが裏にある。チームのスタッフも倍以上で、20人くらいはいる。接待をするには一番いい機会だから、スポンサーの人たちも出入りする。そういうのを見ることも、選手にとってはいい勉強だ」

「元喜は日本から唯一参加しているから、インタビューされることもあるし、日本から旗を持って応援にも来てくれる。そういう点でも、21日間レースにいるということは大事だ」

「元喜が来年もまたジロに出られるかどうかはわからない。もっと強い選手でも、ジロには出られない場合もある。でも、来年走れなかったとしても2年後、3年後、あるいは他のレースで、ジロに初めて出て21日間走り切ったことが、彼の経験になっている。そういう意味で、今回はよかったと思う」

「2回も3回も出て、また完走を目標にすると言うことは、そんなに良いことだとは思わない。次は、完走することは結果論に過ぎず、どこかでインパクトのある走りをしなければいけない」

「結局のところ、リタイアした選手のことは誰も覚えていない。ベルラートのように頑張れば、みんなが強いイメージを持つ。彼がリタイアしたかどうかは問題にはならない」

 

Q;山本元喜が毎日更新していたブログについてはどう思う?

「あれだけ書くなら喋れ、と思う。あれを全部喋ってくれればいいのだが、彼は無口で、自分から喋るタイプではない。ああいうタイプだから、言葉も覚えるのが遅くなるのかもしれない。普通だったらイタリア人たちと会話して覚えるものだ」

「でも、文字にも伝える力がある。自転車のことをよく知らない人たちや、表面的なことしか知らない人たちがああいうのを読むと、すごく背景が見えて面白いんじゃないかと思う。選手はこういうことを考えて走っているんだとか、レースってこんなにキツいものなんだとか」

「日本のTV放送からは、苦しみや苦労が伝わってこない。若い選手がすぐ、ジロやツールに出たいと言うのは、その影響でもあるんじゃないかと思う」
 
大門監督に話を聞いた2日後に、山本元喜は21日間のジロを最後まで走り切った!
大門監督に話を聞いた2日後に、山本元喜は21日間のジロを最後まで走り切った!


(http://teamnippo.jp)

山本元喜ブログ「今日も元喜に日進NIPPO」 http://www.genki.website/index.html

NIPPO・ヴィーニファンティーニの大門監督にインタビュー【TOJ参戦編】  http://www.cyclesports.jp/articles/detail/63553