猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第20回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第20回

ロングライド女子部と立ち寄った三河湾を望めるお洒落なカフェ。これには彼女達も大喜びであった。

記念すべき連載20回目は山を上る話ではなくて、距離への挑戦の話。

ブルベ。それは超長距離の世界。
人は何のために1200km、4000kmと自転車に乗り続けるのだろうか?
その答えを探るべく、10年間手を付けてこなかった新たな領域へと「チャリダー」は今年いよいよ踏み入れる。

私が今まで走った最長距離はエベレスティングで350kmだが、エベレスティングなので175kmは上りでその反対は下りなので、いまいち参考にならない。
ブルベとなると200〜4000km以上の世界。
全く読めないし、そもそもどんなトレーニングをするべきかも分からない。

しかしやるからには完走はもちろん!
なるべく速くゴールし記録を残したい!というかつらい事は早く終わらせたいのが世の常だ。

ロングライド女子部

そしてそんな挑戦に一緒に立ち向かう仲間も募った。
その名も“ロングライド女子部”だ。
応募したところ圧倒的に女性が多かったらしい。
聞くところによると女性の方が長距離耐性があるとか?
レベルが全く違う5人の女性が選ばれ、それぞれの挑戦が始まる。

彼女達の挑戦が始まる前に脚質や特性を把握するべく愛知県で女子ライドを行ない、良い機会なので女性ライダーの本音や悩みを聞いてみる事にした。
意外だったのが、コンビニでの休憩ばかりはテンションが下がるという意見だ。

こんな私でもプライベートで女性とライドをした経験がある。
もちろん休憩はコンビニだ。
私はコンビニで止まるたびに2リットルの水を買い「500ml買うよお得でしょ!!」とドヤ顔で水を分配した。
彼女達の顔が引き攣っていた理由が今になってわかった。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第20回

カフェでいただいたピッツァ。おじさんがライド中に寄りたいのはピッツァより蕎麦屋だ。

 

そして一番多い愚痴は「坂でペースを上げてカッコつけるのをやめて欲しい」
坂バカの私には耳の痛い話だ。
読者の中にも坂で踏んでしまう方は多いのではなかろうか?

ここで坂研究家の私から意見を述べさせて頂く。
坂は己の、いま現在の脚、心肺など調子を計るのに最適な場所なのだ!

坂は平坦より踏みやすい!
坂でペースを上げカッコをつけたい訳ではなく、今の調子を確認したいだけなのだ。

殿様カエルの憂鬱

私の見解だが、女性は坂が(個人差はあれど)速い。
私の場合チャンピオンクラスで乗鞍に出場すると、半分を過ぎたあたりで3分遅れでスタートした女子クラスのトップ集団に抜かれるという屈辱を味わう。
しかも彼女達は私より2枚ぐらい重いギヤを、のしのしと踏んでいるではないか。

SDA王滝でもライバルの中に女子の優勝者がいた。
そして彼女も私より重いギヤを踏んでいた。

世界一過酷と言われる台湾KOMでも最後まで争ったのは女性。
私より大きなオランダ人女性は……、私より小さいスプロケを付けていた。

私だって日々重いギヤで低ケイデンスのトレーニングはしている。
なぜ、おじさんは女性ライダーに負けてしまうのだろう……。

体重が軽いというだけでは世論は納得しない。
私が推察するには、やはり機材スポーツという特性が大きいのではなかろうか?
機材スポーツゆえにしっかりポジションが決まり、まっすぐペダルが踏めて、自転車への推進力に変えられる人は女性も男性も速いのだ。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第20回

ライドの最後をヒルクライムで締めたらブーイング。この絶景も響かなかったようだ…。坂は重心が下がるので技術的にも難しい。正しい技術を身に付ければ楽しくなるはずだが…坂嫌いを払拭するのは難しい。

 

私は過去に、劇団青年座の「ブンナよ木からおりてこい」という公演で誰よりも高くジャンプする殿様カエルを3カ月演じて見事に椎間板ヘルニアを患った。
その結果今でも左脚がどうしても真っ直ぐ踏めない。
斜め外側に踏まないと力が入らないのだ。

もし私が両脚真っ直ぐ踏めていたら……、ポガチャルならぬ猪野チャルになっていた事は語るまでもない。
しかしこれも殿様カエルの運命だ。

機材スポーツゆえにポジション含め、自転車を進める「センス」が大きく左右する。
だからこそ奥が深く、その深さは男女の隔たりを越えるのではなかろうか。

ヒルクライム中に見掛ける、ぽっこりお腹のおじさんを颯爽と抜いて行く女性ライダーほど痛快でカッコいいものはない。
普段トレーニングをしていても艶やかなジャージに身を包んだ女性ライダーを見掛けるのはとても良いものだ。
恐らく男性ドライバーの皆様も鼻の下を伸ばしているのではなかろうか。

女性ライダーがもっと増えて、満開の桜の時期のライドのように道々が華やかになれば良いとおじさんの妄想にも華が咲くのであった。

猪野 学 公式Twitter