猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第18回
目次
北群馬の山中 心肺機能の覚醒のおかげで確かな手応えの筆者。
ピーキングという言葉がある。
レースに合わせてコンディションをピークに持っていく。
2022年の私のピークはSDA王滝の1週間前。北群馬での特訓ロケの最中に訪れた。
ドクター竹谷氏から王滝対策としてライン取りやブレーキングなどを教わり最後に王滝を想定したヒルクライムをする事になった。
竹谷氏が設定した私の目標タイムは50分だ。
明らかに違う
スタートしてすぐ、いつものようにハァハァと呼吸が乱れ出す。
ガレ場の勾配がキツくなり更に呼吸が苦しくなるが、積み重ねたSSTのお陰でキープできる感じがする……悪くはない。
30分を経過したあたりで「それ」は訪れた。
「ん?何だこの静けさは…いつもより静かだ」
いつものハァハァという私自身の呼吸の音がしていない。
かなりの強度で回しているのに呼吸が乱れない。
きた!心拍機能が突き抜けた瞬間だった。
ひとつ歯車が噛み合うも行け行けドンドン!ドンドコドンだ!
速い!これは速いぞ!何年振りかの最高なヒルクライムがやってきた。
これだから自転車は辞められない!
なんと目標タイムよりもを5分も早い45分でフィニッシュしたのであった。
これは良い結果が期待できると翌週、意気揚々と王滝へと乗り込んだ。
100kmの冒険へ
私は100kmクラスに出場する。
初めてなのでエイドでの補給のタイミングが読めない。
しかもエイドが山奥過ぎて番組スタッフが居ないので、カメラのバッテリーチェンジも自分でしなければならない。
初めての事ばかりだが朝6時にスタートした。
スタートしてすぐは500人の大渋滞が続く。
落車に注意しながら徐々に前に上がるも、なかなか後方から抜け出せない。
頑張って早起きして場所取りをするべきであったと思いながら、悶々とする時が過ぎる。
ようやくリアルスタートとし強度が上がると思いきや、いきなりストップしてしまう。
どうやら危険なトンネルでの事故を防ぐために規制をかけているようだ。
5分くらい待っただろうか…ようやく少しずつ動き出した。
トンネルに着くとゆっくりと徐行する。
なるほど暗くて轍が荒れていてとても危険だ。
大会側の判断に感謝する。
トンネルを抜けると少し強度が上がるも、道幅が狭くなかなか自分のペースで走れない。
ダムが現れるといよいよ急勾配ガレ場地獄が始まる!
ガレ場は下からの突き上げで腰をやられると聞いていたので、大きな岩を乗り越える度に尻をサドルから浮かす。
王滝では必須の腰痛対策だが、尻を浮かすたびに空気椅子状態なので、太ももちゃんは大喜びだ。
標高1500mの頂上付近に到達する頃、よくやく渋滞が解消されだしコツコツと順位を上げる。
下りに差し掛かるとパンクしないよう大きな岩を警戒しながらギリギリまで攻める。
下りが終わると今度は大きな湖沿いを走る。
ここは平坦なので4、5人のパックで走る。
ダートでも時速35kmぐらいのスピードで走るのでスリル満点だ!
トラブルにも、動じない
一つ目のエイドが現れた時にそれは起こった!
水を補給し、慣れないカメラのバッテリーチェンジをし始めると一緒に走っていた5人はスタートし出す。
慌ててカメラの蓋を閉めようとするが、小さな砂利が挟まってなかなか蓋が閉まらずパニックになる。
するとその様子をニヤニヤしながら撮影する番組スタッフが居るではないか!?
ん?スタッフ居るじゃん…
「おい!スタッフおるやんけ!蓋閉まらへんねん!」となぜか三重弁で助けを求める。
スタッフが冷静に蓋を閉めてくれて再スタートするも、ライバル達はおらず単独走になる。
しかし私はうろたえない。根拠のない確固たる自信があったのだ。
調子が良い時は全てが上手くいく。
社会人ライダーのピークは貴重なものだ。
仕事など様々な事情でトレーニングを積み重ねるのが難しいからだ。
せっかくやってきた待望のピークだ!
研いだ刀をぶんぶん振り回そうではないか!!
ここから、私を表彰台へと導いた坂バカ侍の大立ち回りが繰り広げられるのであった。
後半へと続く。