猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第17回

猪野学 ネオ坂バカ第17回

阿蘇のレース時に階段王が撮ってくれた1枚。色んな意味で最強だったのではなかろうか…

自転車競技はとても激しい競技だ。
その苦しみに耐え得るにはメンタルが大きく左右すると言われている。

レース中の高強度に耐えるメンタル。
トレーニングに向かうモチベーションも、メンタルが大きく関わる。

私はこのメンタルの重要性をようやく理解する事になる。
それは昨年の乗鞍ヒルクライムまで遡る。

ワースト記録を叩き出したあの忌まわしき乗鞍。
あの日の不調はメンタル的な事だったのか?それとも身体的な事だったのか?
振り返ろうと思う。

猪野学 ネオ坂バカ第17回

集大成を迎える階段王とママチャリ戸丸。

 

 

乗鞍レース当日は雨であった。
坂バカ部はまだ暗いうちからローラーでアップをする。
中田コーチも現地に来てくれて、ペース配分などのご指導をいただく。

前半はパワーを抑えめで、位が原からは全力走。
そして気を付けなければならないのが乗鞍は高地なのでパワーが10%落ちるということ。
だからサイコンの表示を見てパニックに陥らないのが重要。
パワーが低くて当たり前なのだ。

コロナ禍での初の乗鞍。
厄介なのはマスドスタートだった。
いつもと勝手が違う。
よく分からないまま同年代のゼッケンの行列に並ぶ。
3年ぶりに顔を合わせるライバル達と談笑していると行列が急に進み出した。

「ん?これスタートしてるぞ!」と誰かが叫んだ。
ちょっと待ってくれ!まだ心の準備が出来ていない!
慌ててサイコンを起動させて気持ちを作れないままスタート!

心とは裏腹に一気に上がる心拍数。
コースもいつもより人が多く混沌としている。
そしてあまり調子が良くない感じがする。
体の冷えだろうか?アップ不足だろうか?なかなかスイッチが入らない。

調子がいまいちなので三本滝までは集団で行くことにする。
三本滝の通過タイムは21分。
悪くはないが自己ベスト出した時は19分30秒で通過している。

厳しい展開を悟る。

ゲレンデ区間に入ると更に道幅が狭くなりレースが荒れだす。
階段王はここで落車してしまったらしい。
前日の夕食のカレーを「カレーは油だから」と白米だけを食し、乗鞍にかけていただけに悔しい落車だ。

やはり乗鞍は難しいレースなのだ。
因みに戸丸はスタート直後にチェーン落ち。
こちらは乗鞍がどうのこうのという話ではない。

中間地点を34分で通過。
隣を走る人に目標タイムを聞くと「1時間20分です!」と返ってきた。

このペースではダメだ。
集団に見切りを付けて単独走に切り替える。
位が原を54分で通過。どんなに頑張っても自己ベストには届かないタイムだ。

しかし諦めるわけにはいかない。
悔いを残すとメンタルが病むし、ここまで頑張ってきた自分に失礼だ!
最後まで出し切って夏を終えよう!

4号カーブを曲がって残り1km。
実は4号カーブを過ぎると急な勾配は3か所しか無い。
ここからスピードをうまく乗せるかどうかで大きくタイムが変わる。

唯一この区間だけ本来の走りができたが後の祭りだ。
1時間17分45秒と自己ワーストタイムでフィニッシュした。

猪野学 ネオ坂バカ第17回

ご褒美に用意したみたらし団子だが……その味はほろ苦いものとなってしまった。

 

競技というものは経験を積めば積むほど難しくなるような気がする。
ひとつボタンをかけ違えると取り返しのつかない結果となる。
改めて競技の難しさを知った乗鞍となった。

レース後にチャリダーのドクター竹谷氏から「トレーニングチャンピオンの可能性もありますよ」とご指摘をいただいた。
トレーニングチャンピオン?
トレーニングで完結してしまっているという事か?

確かに今年は今までにないトレーニング量をこなしてきた。
トレーニングをする事に喜びを感じ、トレーニングする事が楽しかった。
今考えればレース本番よりトレーニングの方が楽しかったかも知れない。

何という事だ!トレーニングとレースが結びつかないなんて事があるのか!?
今回の乗鞍がトレーニングチャンピオンなのか?ただのバッドデイだったのか?
正直言って今でも解らないが。

トレーニングと競技を結び付ける重要性を改めて知った。
しかしこれで終わらないのが2022年の私であった。
そう……あの栄光のSDA王滝が待っていたのであった。

王滝こそ……トレーニングと競技が見事に結びついたレースであった。

次回 あれ?翼が生えた?王滝編へと続く。

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